MACWORLD/NY開催2日目に、米マイクロソフト社Macintosh Business Unit(通称、Mac BU)のジェネラル・マネージャー、ケビン・ブラウン氏による特別講演が行なわれ、同氏は1時間に渡って過去、現在、そして未来におけるアップル-マイクロソフト両社の関係について語った。いくつかの新製品発表も行われ、ジョブズ氏の講演に負けないくらい盛りだくさんの内容であった。
1時間以上にわたって熱弁を振るったマイクロソフト社Macintosh Business Unitのジェネラルマネージャー、ケビン・ブラウン氏 |
すべてMac OS 9とMac OS Xの両方に対応
ブラウン氏は、生産性、ビジネスコミュニケーション、パーソナルコミュニケーション、デジタルメディア、ウェブブラウザーがMac BUの製品戦略の5本の柱であるとした上で、Mac OS 9とMac OS Xに、それぞれどういった製品を提供するかを説明する形で講演は進んだ。
Mac BUのMacintoshに対する取り組みは5つで、それぞれMac OS 9用とMac OS X用の両方に製品を提供していく |
このうち『MSN Messanger 2.0』とMac OS X版の『Windows Media Player』、『Internet Explorer 5.1』はこの講演が初披露の舞台となった。
Carbon技術を使うことでMac OS 9とMac OS Xに両対応したMSN Messanger 2.0。米国マイクロソフトのサイトからダウンロードが可能だが、まだ日本語には完全対応していない |
MSN Messangerは、Windows OSにも組み込まれ広く使われているインスタントメッセージングソフトだ(ICQに代表される、インターネットに接続している他のユーザーと文字メッセージをリアルタイムで交換できるソフト)。ブラウン氏によればマイクロソフトは公には宣伝していないが、すでに同社のウェブサイトでMac版『MSN Messanger 1.0』を公開していた。Mac用ソフトとしての出来があまりにも悪いため、一切宣伝をしていなかったにもかかわらず、毎日延べ48万6000人が使っていたと、ブラウン氏は同製品の潜在需要の高さを強調した。
ライバル、REAL社よりも一足早くMac OS X対応を果たしそうなWindows Media Player |
Mac OS X版Windows Media Playerの特徴 |
Windows Media Playerは、高画質かつ高音質なストリーミング放送が強みの技術で、Mac OS 9用にはすでに『Windows Media Player 7』が公開されていて人気を呼んでいる。今回披露されたMac OS X版は機能的にはMac OS 9版とほぼ同じようだ。なお、リリース時期などについてはまだ決まっていない。
Intenet Explorerと最新のインターネット標準を使えば高度なWebページの表現ができる。この米パニック社のサイトでは人気MP3プレーヤーのスキンをダウンロードする前にウェブブラウザー上で試すことができる |
Internet Explorer 5.1は、実は前日のスティーブ・ジョブズ氏の講演でも起動時間の速さだけが紹介されている。あまりこれといった目立った新機能はないが、インターネット標準を使ってつくられたウェブページを正確に再現する“Tasman”エンジンが魅力の1つで、DHTMLやカスケードスタイルシートといった今日のインターネット標準技術を使えば、きわめて高度な表現ができることがデモで紹介された。
なお、現在のMac OS XにもInternet Explorer 5.1が付属しているが、これはあくまでもプレビュー版で、一部のウェブページが正しく表示できないほか、Javaもちゃんと実行できないが、今回発表された正式版ではこれらの問題がなくなる。
Internet Explorer 5.1正式版はMac OS X v10.1の一部として9月頃にリリースされる。なお、マイクロソフトでは秋頃に、Mac OS 9用にもInternet Explorer 5.1の提供を行なう予定だ。
全面的に作り直されたMac Office
マイクロソフトの講演の目玉はなんといってもMac OS Xの流儀に沿ってつくりなおされたという『Microsoft Office 10 for Mac OS X』だ。ブラウン氏は同ソフトの精神は「Mac OS Xの約束を、ユーザーに届ける」という言葉で表した。
MS Word 10の画面。アップルのガイドラインに沿ってウィンドウ枠にまで、さまざまな機能を組み込むことで視覚的でわかりやすいインターフェースを実現しているという |
アップルコンピュータは、Mac OS Xについて、動作が安定しているとか、グラフィックの表現力が優れているなどいくつかの宣伝を行なってきたが、これらの中にはユーザーとして実感しにくいものも多い。ブラウン氏はつまり、Office 10でアップルの約束を体現しようというのだ。
今回、ブラウン氏は“AQUA化”するということと、Mac OS Xの基盤機能を活用するという2つの側面からOffice 10を紹介した。
「AQUAの本質はユーザーを引き込むような楽しさを演出することだ」とするブラウン氏は、ツールバーにジニーアクションのようなアニメーションで吸い込まれるパレット類や、ウインドーの枠に視覚的に埋め込まれた各種機能(ウインドー分割ツールなど)、一目で見てどういう効果があるのかわかるグラフィカルなダイアログなどを紹介した。
Quartzの半透明表示機能を使うことでExcelを使ったグラフもグンと表現力を増すことになりそうだ |
もう1つのMac OS Xの基盤機能の活用では、“Quartz”と呼ばれるMac OS Xのグラフィックエンジンを活用したことで、Excelのグラフなどが、これまでとは別次元の表現力を身につけたことを紹介した。比較対照として、現行の『Excel 2001』のグラフを見せて「これでは縁取りの線がギザギザで商業印刷に使えないが、Office 10のグラフなら商業印刷に使っても問題ない」とその美しさを強調した。
これが現在のExcel 2001による円グラフ。拡大してみると縁取りがギザギザしていて商業印刷に使えるクオリティーではないことがわかる |
一方、MS Excel 10の円グラフはアンチエイリアスや影がついた非常に見栄えのするものになっている。これなら商業印刷にそのまま使っても問題がなさそうだ |
Quartzを使うことで、Office 10ではグラフの一部の要素を半透明にすることもできる。ブラウン氏が、この半透明化した立体グラフを披露すると会場はその美しさに息をのんだ。「今度のExcelはおそらくこれまでどのプラットフォーム用に出されたExcelと比べても最高の出来だと思う」とブラウン氏も自信満々だ。
米ウォールストリートジャーナル紙に毎日掲載される退屈な株価のグラフも…… |
MS Excel 10を使えばこの通り |
ブラウン氏は、さらにこれまでのMac版Internet ExplorerやOfficeでWindows版にない独自の革新的な機能が搭載されてきたことを紹介し、マイクロソフト社内でWindows版開発チームとの間に健全な競争関係があることも強調した。
マイクロソフトの未来はMicrosoft.NETだ。ブラウン氏はMacもこの.NET構想の重要な一員であることを強くアピールした |
続いてブラウン氏は、Mac BUの未来と称して、“Microsoft.NET”構想への取り組みを紹介した。Microsoft.NETはマイクロソフトが社運をかけている取り組みで、パソコンやPDA、携帯型情報機器などで同じ情報を無駄なく共有できるようなインフラをつくることを目標としている。ブラウン氏は、1枚1枚のスライドの中心にMacの写真を映し出し、MacもMicrosoft.NET構想の重要な一員であることをアピールした。
Mac BUのMicrosoft.netへの取り組み |
最後にブラウン氏は、'97年、アップルとマイクロソフトとの間でかわされた契約についても語った。マイクロソフトがアップルに大量の投資を行なった折りに交わされた契約の条項の中には、マイクロソフトが最低5年間はMacにOfficeとInternet Explorerを提供し続けるという項目があった。来年の8月には期限を迎える。しかし、ブラウン氏は「契約の期限切れによる影響はまったくない。マイクロソフトにとって、Mac BUは非常にいいビジネスになっている。マイクロソフト社はお金が好きだから今後もこのおいしいビジネスをあえて逃そうとはしない」とジョーク混じりに聴衆の不安を払拭し、マイクロソフトとアップルとの間には明るい未来が広がっていることを強調した。
ブラウン氏は、アップルとマイクロソフトの未来は明るいと講演を締めくくった |