人工知能(AI)とは、コンピュータが人間のように考え、学習し、判断できる能力を備えることをいう。映画に登場するようなアンドロイドにはまだまだ及ばないものの、その研究は進み、さまざまなサービスに生かされている。今回紹介するのは人工知能とインターネットを組み合わせたオンライン自動翻訳サービス「熟考Ver2.0」だ。翻訳結果の精度という面で大きな課題を抱え続けてきた翻訳ソフト業界で、飛躍的な進歩を遂げた理由について(株)ロゼッタのレミさんに聞いた。
人間のように文脈を判断して適切に訳す! 人工知能技術を利用した新発想のロジック
英和辞書で「operation」を引くと、「手術」「取引」「操作」「施行」「作戦」など多くの意味が登場する。1つの単語が持つ意味はいくつもあることから、人間が翻訳する際には、文脈から何の分野の文章かを判断して、適切な訳をしている。実はここに、これまでの自動翻訳の「精度の壁」があったという。
「極論を言えば、従来の自動翻訳が『この単語にはこの訳語』という単なる置き換えでした。これに対して、『熟考Ver2.0』は人工知能技術を利用することで、文脈から自動で適切な訳を判断でるようにしたのです。例えば、『operation』であれば、翻訳エンジンが、前後の文脈から戦争関連だと判断すれば『作戦』、医療関連だと考えると『手術』という意味で翻訳します」
前後の文脈から翻訳すべき単語の意味を判断するという人工知能。では、この知能とは具体的にはどのようなロジックを持つものなのだろうか。
「人間は『このようなセンテンスの場合、この単語は○○という意味である』ということをコンテキストや既知の情報・経験などを考慮しながら瞬時に判断していますよね。『熟考Ver2.0』も同様に、これまでの文法や統計に依存することなく、さまざまな要素を考慮するようなロジックを設計しています」
このように日々翻訳の精度を高めてきた『熟考Ver2.0』サービスだが、しかしそもそもユーザーが作成するセンテンスが、必ずしも100%正しい日本語を使っているわけではない。それからも分かるように言葉を正確に表わすのは非常に難しく、翻訳の精度とは自動翻訳に常に付きまとう大きな課題であるのだ。
「我々の目標は、もちろん訳語を100%正確に表わすことですが、それは非常に難しいことと言えます。翻訳は“正確で当たり前”という意識で使われるので、ユーザーにとって翻訳結果のセンテンスの間違いは非常に目立つものでしょう。そこで、私たちは訳文の中にひとつの単語でも間違えていたら、その文の翻訳は全体的に失敗したと考えています。その厳しい評価で、『熟考Ver2.0』の精度は、センテンスを100%正確に訳せるのは7割だと測定しています。まだ3割ができないと思われるかもしれませんが、自動翻訳の世界では(7割正確というのは)画期的なことです」
また、『熟考Ver2.0』の強みは、プロの翻訳者の手によって生成されたという約1700万語以上もの辞書データベースだという。これに加え、ユーザー側のアップロードが不要というオンラインサービスの利点もあり、月に何度も単語数を増加したり、改良を加えたりたりしているそうだ。これらの土台があってこそ、人工知能技術を使った精度の高い翻訳が可能というわけだ。
この連載の記事
-
第68回
ビジネス
『オバマ現象のからくり』(田中慎一) -
第67回
ビジネス
AMN新社長“ブロガー”徳力氏に聞く -
第66回
ビジネス
「完璧な上司なんて、いませんよ」 -
第65回
ビジネス
フランソワ・デュボワ 『デュボワ思考法』 -
第62回
ビジネス
こんなに差が出た! 30代給料の現実 -
第59回
ビジネス
地下巨大施設! プロジェクトは成功した -
第56回
ビジネス
エンジニアの秘められた家族生活 -
第55回
ビジネス
IT業界で10年泥のように働いてませんよ -
第54回
ビジネス
カシオG'zOneのデザインが変わったワケ -
第52回
ビジネス
“変わり種商品”に隠れたビジネス戦略 -
第52回
ビジネス
日本の家電ベンチャー、異例の存在 - この連載の一覧へ