パソコン業界でしばしば口にされる「User Experience」というフレーズ。米マイクロソフトでWindowsの開発に関わり、現在ではトップブロガーとしても有名な中島聡氏は、これを「おもてなし」という言葉で表現する。
「iPhone」は、従来のケータイで当たり前だった店頭での面倒な「開通作業」を不要にした。こうしたユーザーの快適さを第一に考えるスタンスが「おもてなし」であり、それが好調なアップルの原動力になっているというのが、中島氏の考えだ。
「パラダイス鎖国」という言葉もある。これは、ほどほどに大きい日本市場に安住して「囲い込み競争」を続けているうちに、世界市場から取り残されつつある日本の状況を示す造語だ。本田技研工業や米国の通信会社を経て、現在は通信/携帯ビジネスのコンサルタントとして活躍する海部美知氏が生み出した。
ネットで著名なふたりの著書「おもてなしの経営学」(著者:中島聡)、「パラダイス鎖国」(著者:海部美知)が、アスキー新書から発売される。日本が抱える閉塞感の理由、IT業界で成功をつかんでいくには? 出版を記念したトークショーで交わされたふたりの意見をまとめた。
「プチ変人」と「ぬるま湯」のススメ
中島 成功している人は変わっていることが多いです。エジソンしかり、スティーブ・ジョブズしかり。彼らが許されているのは成功しているからですが、成功しているのは変人だからです。でも、それは「世の中には0.1%の変人と99.9%の普通の人がいる」ということではありません。僕も含めて、プチ変人はたくさんいると思うのです。
海部 日本には、そういうプチ変人をつぶすところがありますね。ジョブズぐらい変だったらいいけれど、プチくらいだったら風当たりがきつくて変人でいることを辞めてしまいがちだと思うんです。でも、本当はそういう人をおだてて変なことをやらせるくらいじゃないといけないんじゃないかな。
中島 最近やっと分かったのですが、僕は普通のことをしろと言われるのがすごく嫌なんです。
日本にマイクロソフト(株)ができたとき、採用してくれるかどうか分からないけれどとにかく入りたいと思って、当時勤めていたNTTに辞表を出したんですよ。ところが上司には、「それはおかしい。そういうことはまず上司に話をしておくべきだし、その次には推薦状を書いてくれた学校の先生に相談すべきだ」と言われてしまいました。
でも僕はそんなことしない。そしたら、辞表を1ヵ月間止められてしまったということがあります。
そのように、日本では、変人の部分を出すと「普通そういうことしないよ」と言われるんですよね。でも、それは暴力だと思う。これが日本の一番嫌なところです。プチ変人たちは、自分がプチ変人であることをもっと誇りに思ってほしいですね。逆に「普通じゃないよ」と言う人がおかしいと思ってほしいです。
海部 日本にもシリコンバレーのような「厳しいぬるま湯」(結果が求められるが、失敗しても許される環境)があったらいいのかなと思います。
例えば、シリコンバレーは(厳しい競争がある一方で)巨大なぬるま湯なんですよね。日本にも、「それでいいよ」と言って受け止めてくれるくれるお母さんのような環境があったらいいなと思うんです。変人だと言われても大丈夫な場所。