見た目はまるでExcel、でも動いているのはWebブラウザ上、提供形態はSaaS――。昨年10月に始まったオンライン表計算サービス「OnSheet」は、OfficeソフトのSaaS化の可能性を強く印象付けるサービスだ。提供するのは、データ連携ソフトを手がけるインフォテリアの子会社「インフォテリア・オンライン」。SaaS事業のために設立されたという新会社で代表取締役社長に就任した藤縄智春氏に、OnSheet提供の狙いと今後の戦略を聞いた。
伸びる中小企業の利用、
工場と営業を結ぶ掲示板として活用
――「OnSheet」の開始から3カ月あまりが経過しました。現在の状況について教えてください。
藤縄氏:当初想定していたよりも早いペースでユーザー数は伸びています。ただ、無償版のユーザーや試用期間中の方も多く、現時点ではいくつかの企業が課金に移行し始めたばかりです。
課金ユーザーの傾向としては、圧倒的に中小企業が多いですね。大企業のお客様も問い合わせはいただいていますが、セキュリティ要件への対応や既存システムとの連携などの条件から、導入に比較的時間がかかっている状況です。
――ユーザーはOnSheetをどのような用途に使っているのですか。
藤縄氏:個人の場合、家計簿などの表計算ソフト代わりに、あるいはブログに貼り付けて使うケースが多いようです。OnSheetでは作成したシートに直接リンクを貼ったり、グラフをブログに埋め込むことができます。こうした点が受けているのでしょう。
一方、中小企業で目立つのが、「掲示板」として使うケースです。ある企業では、工場と営業拠点との情報伝達に利用しています。OnSheet上でテンプレートを作って、納品の時期や発注量、稼働率などの共有すべき情報をそこに書き込んでいく。いままではホワイトボードに書き出したり、ファクスでやりとりしていたものを置き換えているのですね。
大企業では、Excelで作った書類をOnSheetにアップロードして一元化を図ったり、シートをベースにした共同作業の目的で利用されています。
「Excelへのこだわり」は若者に引き継がれていない
――「Google Apps」をはじめ、OfficeソフトをSaaSで提供するサービスはいくつかありますが、成功例はまだ聞きません。表計算としてすでにExcelがあるのに、OnSheetをあえて使うメリットは何でしょうか。
藤縄氏:1つは、「つながっている」ということです。OnSheetは、インターネットをプラットフォームとしたアプリケーションとして、「リアルタイムな共有ができる」「バージョン管理・履歴管理がしやすい」「分散・改ざんがおきにくい」といったメリットがあります。
もう1つ、大きな付加価値があります。それがオプション機能の「OnSheet パイプライン」を使ったデータ連携です。150種類ほどの事前定義されたアクションをパズル感覚で組み合わせ、他のシステムとの連携ができます。OnSheetのデータをバッチで基幹系に流し込むといった、シンプルな処理なら簡単に実現可能です。
――日本の企業にはExcelを高度に使いこなす方が多く、こだわりも強いと思います。その置き換えを狙えるのですか。
藤縄氏:むしろ、そうした状況こそが、OnSheetの需要に繋がるのではないかと期待しています。
確かに日本の企業におけるExcelへの「こだわり」は強い。ところがそれが、今の若い世代にはあまり受け継がれていないのです。過去にExcelで作った社内システムが、使われているマクロや関数が分からずメンテナンス不能に陥っていると聞きます。こうした問題は、OnSheetとパイプライン機能を使うことで防げます。
そもそも、Excelが持つリッチな機能をすべて必要としている人は、5%もいないでしょう。ほとんどのユーザーは、ごく簡単なことにしか使っていない。たとえば申請書の入力ならOnSheetで十分でしょうし、先ほど紹介したようにExcelにはないメリットもあります。
もちろん、OnSheetにもまだ弱い部分はありますし、これだけ普及しているExcelの置き換えは現実的に不可能です。いかに共存させるかを考えるべきで、そのための金額が「月額500円」「年間6000円」という価格設定なのです。