2006年10月、「Oracle Siebel CRM On Demand」のサービス開始をもってSaaSビジネスを本格的に立ち上げた日本オラクル。立ち上げから1年を経て、エンタープライズ・パッケージソフトベンダーの雄は、SaaS市場の現状をどう見ているのか。同社執行役員アプリケーションビジネス推進本部長の藤本 寛氏に話を聞いた。
明らかになったSaaSとパッケージのニーズの違い
――「Oracle Siebel CRM On Demand」の日本でのサービス開始から1年が経過しました。手ごたえはいかがですか。
藤本氏:十分に感じています。とはいえ、もともと我々が掲げた目標は非常に高いものでしたので、それに比べるとやや不満ではありますが(笑)。
実はサービスを開始した当初は、いくつか課題を感じていました。1つは、「Siebel CRM」のよさがSaaSでは生かせないのではないか、という懸念です。Siebelの機能は非常にリッチなものですし、他社製品と比べて十分に勝てるだけの自信はありました。特に、予測分析機能や業界特化型のソリューションは市場でも高く評価されています。
ただ、SaaSのよさとして注目されるのは、導入までのスピードや手軽さ、コストの低減ですよね。そこでSiebelの強みが果たして打ち出せるか、半信半疑ではありました。しかし、いざ蓋を開けてみると、「モノの良さ」は正しく伝わることを確認できた。そのことが、自信へとつながっています。
もう1つは、SaaSとパッケージの切り分けでした。カスタマイズ可能な範囲や機能面の違いがあるとはいえ、ユーザーを獲得する上ではバッティングする可能性があるのではないかと考えていました。しかし、実際にユーザーの話を聞く中で、明らかなニーズの違い、双方の位置づけが明確になってきたのです。
――そのSaaSとパッケージに対するニーズの違いとはどこにあるのでしょうか。
藤本氏:そもそもCRM(顧客関係管理)とは、企業にとっての「革新」を実現するものであり、非常に大掛かりな仕組みです。たとえば、これまで訪問営業でビジネスをしてきた企業が、新たにインターネットを使ったビジネスを立ち上げる、ビジネスプロセスを劇的に変える、といった業務革新をサポートするものだったのです。
ところがSaaS提供を始めたことで、必ずしもそれだけではないことが分かりました。それは、「改善」というニーズの存在です。情報共有することで生産性を高めたり、マネジメントを強化する、といった身近な「業務改善」を進めるのには、SaaSモデルが適しています。
つまり、「革新」がしたいのか、「改善」がしたいのか。目的によってパッケージとSaaSのどちらかを選ぶかは変わり、その両方の選択肢があることが重要なのです。
SaaS時代に活きる、パッケージベンダーとしての強み
――オラクルではこれまでも「ユーザーに選択肢を提供する」と強調されていますね。
藤本氏:ええ。Siebelの場合、選択肢としては大きく3つ、用意しています。従来からのパッケージ・自社運用型である「On Premise」、月額課金のSaaSモデルで提供する「On Demand」、そしてOn Premiseで購入したライセンスの運用を請け負うホスティングも提供しています。
加えて、今年8月にはOn Demandに「プライベートエディション」という新たなプランも用意しました。データベースとミドルウェアを企業ごとに論理的に割り当てるもので、マルチテナントでありながらも、トランザクションに応じた最適化を図れるようになります。
マルチテナントという仕組みは、SaaS事業者からすれば、一定の利益を確保するために必要なものです。しかし、顧客にとっては必ずしもそうではありません。利用方法やトランザクションが違う企業が単一のシステムを共有するわけですから、どうしても最大公約数で最適化せざるをえないからです。プライベートオプションであれば、従来のマルチテナント型SaaSに比べて、柔軟性を高めることができます。
――SaaSの世界では、セールスフォース・ドットコムやネットスイートなどの専業ベンダーが台頭しています。「選択肢」以外に、オラクルの強みはどこにあるのでしょうか。
藤本氏:システム全体を含めたインテグレーションこそがオラクルの強みだと考えています。具体的には、他のパッケージや、手作りの社内システムとも連携ができるように、標準技術によるSOAをベースとしたAIA(Application Integration Architecture)のような仕組みも整えていきます。実際、バックオフィスのシステムと連携させるような案件では、商談ベースで競合他社に競い勝つ事例も出てきました。
また、我々はパッケージソフトベンダーですから、基本的にはSaaSでも自社開発のソフトを提供したいと考えています。現時点ではラインナップこそ揃っていませんが、SaaSであっても、ソフトウェアとしての優れた機能性や堅牢性が求められることに変わりはありません。ソフトウェアを作るベンダーが提供するからこそ、SaaSにはバリューがあると考えています。
とはいえ、SaaSは注目こそされているものの、まだまだ既存のシステムに取って代わるような雰囲気ではありませんよね。特に北米に比べて遅れている日本では、SaaSベンダーも我々も、まずは市場全体を大きくしていかなくてはいけないでしょう。