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【レポート】日本が世界に誇るマンガやアニメ、メディアアートの祭典――第11回文化庁メディア芸術祭

2008年02月12日 19時49分更新

文● 千葉英寿

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<マンガ部門>

 マンガ部門は実は最も展示に適さない作品かもしれない。ほとんどの作品が1冊だけでは終わらないストーリーマンガだし、展示されているマンガも1冊ずつなので、作品のエッセンスを原画などから得るだけで終わってしまう来場者がほとんどだろう。今年も漫画閲覧コーナーは設置されているのだが、限られた時間の中で鑑賞に来ている来場者にとっては、ここに時間を割くのは難しく、作品を充分に堪能できないのがなんとも残念だ。ぜひ、それぞれのタイトルを手に取ってみて、気になる作品は後日にでも書店で実際に購入していただきたいものだ。

【大賞】
モリのアサガオ[ストーリーマンガ]/郷田マモラ


モリのアサガオ

(C) 郷田マモラ / 双葉社 モリのアサガオ[ストーリーマンガ]/郷田マモラ

モリのアサガオの表紙

 新人刑務官・及川直樹が死刑囚たちと向き合い、葛藤する姿を通して、死刑制度の「今」を浮き彫りにした社会派の作品。難しいテーマに対して正面から取り組み、非常に綿密な取材を行なっているようで、作者の郷田マモラ氏の誠実な制作姿勢がそのまま作風に表われていることを強く感じる。人が死神の手を借りて、一方的に人を裁く狂気を描いた「DEATH NOTE」は現実とは乖離した物語だったが、本作は裁判員制度を間近に控えた私たちにとって、人が人を裁くということはどのような現実なのか、裁かれた人はその後どのような人生を送らねばならないのかを、改めて考える機会を提示している。ズシリと重いテーマだが、すべての日本人が読まなければならない作品と言えるだろう。

「モリのアサガオ」の原画

「モリのアサガオ」の原画


【優秀賞】
海街diary[ストーリーマンガ]/吉田秋生


(C) 吉田秋生 / 小学館 海街diary[ストーリーマンガ]/吉田秋生

 「吉祥天女」「YASHA-夜叉-」といった名作を生み出してきた吉田秋生さんによる、家族の喪失と再生をテーマとした作品。古都・鎌倉を舞台に、三姉妹に突然訪れた父の死。そして、それまで会ったこともなかった“母親の違う妹”を引き取って4人で暮らすことになる。再構築される家族を描くことで、家族の絆とは何かを描き出している。物語の本質を一言の絶妙なセリフで言い表してしまう作者の力量には、「ベテランだから」というだけでは片付けられない底深さを感じ、思わず唸らずにはいられない。こうしたヒューマンドラマが生み出される場には、少女マンガの奥深さを感じる。

「海街diary」の原画

「海街diary」の原画


【優秀賞】
鈴木先生[ストーリーマンガ]/武富健治


(C) 武富健治 / 双葉社 鈴木先生[ストーリーマンガ]/武富健治

 作者の武富健治氏にとって、これが初連載となる作品だ。教育現場を描いたマンガは数多くあるが、生徒が引き起こす問題に対して、ひたすら苦悩する中学校教師・鈴木先生の姿は、若干過剰な演出を感じさせるきらいもあるが、リアルな教師の苦悩を描き出すことには成功していると言えるだろう。生徒も教師も脆く、悩み、戸惑っていて、これこそ現実と思わせるリアリティーがあり、金○先生のような、茶の間で見ていて安心の“予定調和な世界”はここにはない。子どもを学校に行かせる不安を感じながらも、思わず引き込まれてしまう作品だ。

「鈴木先生」の原画

「鈴木先生」の原画


【優秀賞】
竹光侍[ストーリーマンガ]/松本大洋/永福一成(作)


(C) 松本大洋 / 永福一成 / 小学館 竹光侍[ストーリーマンガ]/松本大洋/永福一成(作)

 「ピンポン」「鉄コン筋クリート」の松本大洋氏が作画を手がけ、僧侶と漫画家の“二足の草鞋”を履く永福一成氏が初の漫画原作に挑戦した作品。この2人のコンビネーションが生み出すマンガ世界は、審査委員評をして「マンガをよく知った作者が、マンガをよく知った読者のために描いた作品」と言わしめている。江戸の長屋に現れた竹光を腰に差した謎の浪人・瀬能宗一郎。彼の剣と素性が魔を呼び込む……。藤沢周平の時代小説の世界を思わせる設定とストーリーに、普遍性を感じさせる。

「竹光侍」の原画

「竹光侍」の原画


【優秀賞】
プライド[ストーリーマンガ]/一条ゆかり


(C) 一条ゆかり / 集英社 プライド[ストーリーマンガ]/一条ゆかり

 女性を描くマンガなら、一条ゆかり氏の名前を挙げる人は多いだろう。2007年にテレビドラマ化でも話題になった「有閑倶楽部」をはじめ、まさにこの分野の第一人者のひとりとして、人気を保ち続けているヒットメーカーだ。本作はこれまでの制作スタイルとは異なり、オペラの世界という、作者がまったく知らない世界を描き出すために、世界中を丹念に取材し、腱鞘炎に耐えながら描いているという、作者のマンガ家としての“プライド”をかけた入魂の一作だ。一切の無駄な線がないクオリティーの高い筆致、ドラマチックなストーリー展開など、女性マンガに興味のない人にもぜひ、一度手にとってみてほしい読み応えのある実力派の作品と言えるだろう。

「プライド」の原画

「プライド」の原画


【奨励賞】
天顕祭[自主制作マンガ]/白井弓子


(C) 白井弓子 天顕祭[自主制作マンガ]/白井弓子

 ストーリーマンガを自費出版し、自身のウェブサイト「弓工房」(http://www.ne.jp/asahi/yumi/koubou/)で発表している白井弓子さんの自主制作作品。10年前、夜神楽に着想を得たという本作は、昔から伝わる祭りの主役であり、生け贄でもある「クシナダヒメ」に選ばれた少女と、それを守ろうとする鳶の若頭の淡く激しい恋物語を描いている。ヤマタノオロチが登場する演出をはじめ、キャラクター表現や構図など、才能を感じさせる作品。ぜひ、プロの編集者の目を通した作品を見てみたい。

「天顕祭」の原画

「天顕祭」の原画

漫画閲覧コーナー

マンガ部門のエリアの奥には裏庭の明るい自然光を取り入れた漫画閲覧コーナーがある。ここでじっくり受賞作品を読むことができる


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