名古屋大学 大学院情報科学研究科
附属組込みシステム研究センター長
情報システム学専攻 教授 博士(理学)高田広章
テレビや携帯電話、デジカメから自動車まで、多くの製品にコンピュータが内蔵されるようになり、これを使って複雑な制御を行なうことが当たり前となりつつある。これに伴い、組み込みエンジニアの市場価値はますます高まる一方だという。組み込み業界で求められる人材と、現在名古屋大学における組み込みエンジニア育成の取り組みについて、名古屋大学院教授の高田広章氏に話を聞いた。
組み込み業界の人材不足
だいぶ前から言われていることですが、組み込み業界の人材不足の状況は深刻です。このような状況の中、現在産業としても発展している自動車、情報家電などは、今後人材獲得へ向けますますヒートアップしていくのではないでしょうか。また、他業種からの人材の流入、つまりIT系エンジニアからの転身による人材獲得の傾向も強まっていくと思います。
組み込み業界で今求められている人材とは
IT業界で働いているSEの視点でみると、組み込みエンジニアには相当高いスキルが求められるのではないかというイメージがあるかもしれません。しかし、今“組み込み"と一口に言ってもさまざまな領域があり、携帯電話やカーナビといったアプリケーションはかなりITに近い側面もあります。もちろん言語の知識は何をするにしても必要ですが、プラットフォームもたとえばUNIX、Linux、Windowsと、IT系エンジニアにとって特殊ではないと思います。
一方、IT系エンジニアにとって技術の違いがあるために、転職後に適応に時間がかかるケースもあります。たとえば制御系ソフトウェア技術の場合、ハードウェアの知識がないと辛いということはあるでしょう。また、ネットワーク技術などでいうと、IT業界ならインターネット技術がメインですが、組み込みだと車のように専用の車載ネットワークを使っている分野もありますし、同じネットワークの考えにしても設計の背景がそもそも違うということもあります。つまり、組み込み業界のどの分野に転職するのかによって、技術の“ハードルの高さ”は変わってくると言えます。
ではこれらのことを踏まえ、雇用する側にとって「採用したい人材」とはどのような人物なのでしょうか。
採用のポイントとして、やはり前述のようなIT業界と組み込み業界の技術的違いに“適応する能力があるか”ということは大きいと思います。また、ITと組み込みの違いだけでなく、組み込み業界の中でも分野ごと、メーカーごとにかなり細分化された技術や開発環境の違いがあります。各メーカーは言葉の使い方からして違いますので、転職後にこれらの“環境の違い”に適応できなければ始まらない世界と認識して下さい。
そして当たり前のようですが、転職して“長く働いてくれる人”ということも採用の際の評価となります。最近の企業の中には「最初は、最低限の開発言語などが分かればいい」という場合もでてきました。つまり分からなくても“育成する”という人材観を持つ会社が増えてきたのです。ですから、企業側からすれば、せっかく教育しても早くに辞められてしまっては、いわゆる“教え損”になってしまうと考えるのです。
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