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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第74回

〈前編〉アニメの門DUO 福原慶匡×まつもとあつし対談

クリエイターとクライアントの不毛な争い回避術

2022年05月28日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●ASCII

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気になる「リアルでの対人能力」の低さ

まつもと そして先ほどおっしゃったように、すでにお客さんを持っているクリエイターは、平たく言うと会社勤めの経験がないことが多い。だから、『この担当者は上司の言うことを聞かないといけないから、こんなことを言っているんだな』という想像力を働かせることがちょっと難しいわけですよね。その結果、すれ違いが大きくなる。

 私もフリーランスのクリエイターとやり取りした経験がありますけど、昔は会社勤めを経てから独立している人が多かった。でも今は違います。

福原 確かにファーストキャリアでいきなりフリーランスになることもありますね。

まつもと そうなるとギャップが大きくなります。

福原 昔はnoteもCAMPFIREもYouTubeもなかったので、個人で稼ぐにしても、まずは会社に勤めながら信頼を得たうえでお得意さんを持って独立する、みたいなかたちでしたから、社会と接続したままずっとキャリアないしクライアントを引き継いでいたと思うんです。

 僕は今、20代のユーチューバーや漫画家、インフルエンサーの友達が多いのですが、彼らに共通しているのが、ネットを土台にしてやっているので、対人能力が低いんですよ。

まつもと 対人というのは、リアルな、ということですよね?

福原 リアルでの対人コミュ力。僕の感覚で言うと、ある程度人気がある人は、たとえば僕の世代ならロックミュージシャンであれば当然、ライブハウスの横のつながりの中でのし上がってきているし、MCだなんだでお客さんとも会話できるし、テレビでタレントとも喋れます。

 それができないとその立ち位置に行けないので、めちゃくちゃ対人能力があるわけですよ。一緒に居ても「すごいオーラだな!」と思います。だけど、ネットからバーンと上がってきた子にそういうオーラはまったくありません。かと言って、偉ぶらない。本当に「あるスキルだけ突き抜けている普通の人」みたいな感じ。だから、天真爛漫だなって思いました。

 僕の世代とかだと学校内ヒエラルキーが上の人間じゃないと発言力がなかったと思うし、そういうなかで縦社会の色々な世渡りの仕方を覚えていくじゃないですか。今はそれらをまったく経由していないから、逆にすごく素直で接していて面白いなと思うし、反面、旧態依然のコミュニティーに行っちゃうとすごくやりづらいんだろうなと。

まつもと 僕もネットで活躍されている方を取材しますが、おっしゃった通り、オンライン上では『そこまで考えて発信しているんだ』と感心する一方、対面で「あ、そこでそれ言っちゃいますか」とか「なんであの場面でそれを言わなかったんですか」みたいな、僕らの感覚からするといびつな感じがします。

福原 僕が定義する対人能力って、人と最初に会ったときに敬語を使うとか、遅刻しないとか、そういったコミュニケーション能力と言い換えても良いものだと思うんですけれど……この前結構ビックリしたのが、有名ユーチューバーと打ち合わせしたときに、相手がめちゃくちゃ遅刻してきたんです。

 で、クライアントもなんかすごく気を使って「お茶どうぞ」とか言ってくれたときに、「僕お茶の気分じゃないので、甘い飲み物何かないですか? 無いなら買ってきてもらっていいですか?」って。

まつもと 天真爛漫ですね(笑)

福原 マジか……と思いましたね(笑) そういうのが許されちゃうんだなと。

 

代理店が間に入る理由は「全責任を負う」から

まつもと 世代の違いでもあるし、福原さんがおっしゃった通り、ちょうど変わり目の時期なので、ギャップが大きくなっているというのはすごく感じますね。だからこそトラブルも非常に根深くなるというか、一旦起こってしまうと回復が難しくなる。

 では次に、実際に起こりがちなトラブルとその回避策について、本の中で書かれていることも交えつつ、うかがっていきたいと思います。

 ご著書の中では「仕事をする上での準備」「発注」「納品・チェックバック」「納品後」という4つの段階にまず分かれていて、かつそれらが「クライアント=発注をする人」と「クリエイター=それを受けて仕事をする人」両方の立場から、どこに気をつけるべきか書かれている、と。福原さんがプロデューサーの立場でいらっしゃるときは、これはクライアントという理解でよろしいですか?

福原 そうですね。

まつもと まず冒頭でも仰っていた「条件を明確にする」。最初から明確にしましょう、と。これは私も、「本を書いてください」と依頼が来ることがありますが、未だに原稿料と印税の話を最初にもらったことってないんですよね。出版業界って原稿を全部渡し終わった時点でようやく契約書が出てくるみたいな……。

福原 業界の慣習が強いから、ということもあるのかなと思いますけどね。だからよほど、後からイレギュラーな契約書を出してくるんだったら揉めるけど、想定通り、口約束通りのものが後から紙になって出てくるから一応、揉めないのかなあ……くらいではありますね。

まつもと まさに相場が決まっているので、あまりそこからブレないし。

福原 本って最初にできたメディアだと思うので、契約の前例や履歴も大量にあるから相場がガチガチですよね。だから逆に、すごく変なことをやるときには(事前に)言わなきゃとか、電子書籍の経験がない作家もまだ多いから(条件を)喋るとかはあるかも。

まつもと そういえば、本を書くにあたって見積書を出したことってないですね。

福原 本はあんまりないですね。もちろんアニメなど映像はあります。

まつもと 個人クリエイターからも見積もりをもらいますか?

福原 先に補足しておくと、クライアントとクリエイターは頼む側と頼まれる側というかたちで分けているので、たとえば僕がアニメプロデューサーをする場合、テレビ局から頼まれたらテレビ局がクライアントで、僕がクリエイターの立場になります。基本は頼む側と頼まれる側くらいに思ってもらえればと。

 だからそういう意味で言うと、「イラスト5点で1点5万円」レベルの話であれば、見積書ではなくメールのやり取りの中に「この金額で……」と履歴を残すかたちになると思います。

まつもと あとは下請法で法律の適用になるかならないかは主に規模で決まるので、なかなか個人のクリエイターさんとの仕事において見積書を出してもらって発注書を戻して……みたいなことはあまりないのかなというふうに僕も理解をしています。

福原 あと、僕の場合は――本に付録として付けていますが――発注シートみたいなものをクリエイターに送って「この条件で受けられますか?」と聞き、「受けられます」と回答してくれた人と初めて喋る感じです。

まつもと 最後の最後でちゃぶ台をひっくり返すというか、「ここまでの話し合いは何だったんだ!?」ということにならないように、という意味もありますよね。

福原 そうですね。そして「中抜き」に関して聞かれることもありますが、中抜きという言い方は、両者の間に入ったにもかかわらず本当に何もやらないで下に振るだけなら中抜きと言われるでしょう。けれども、たとえば広告代理店が間に入ったときは「クライアント→広告代理店→制作会社」という関係になりますが、もし制作会社がトラブルを起こした場合の全責任は広告代理店が負うんです。それを「仕事してない」と言いたいんだったら、世間知らずだと僕は思いますけどね。

まつもと 私も学生の頃はわからなかったと思います。中間に居て、両方の要求を満たしていくという仕事って、第三者の目からは見えにくいのですが……。

福原 制作会社に何かあったときは、代理店が責任を持って別の制作会社を連れてこなきゃいけないとか、そういう契約を握らされているはずですし。『トラブルがなければ何するの?』と思う人がいるかもしれませんが、トラブルがないようにコントロールしたという価値があるんですよ。

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