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EPYC 7003搭載サーバー「ThinkSystem」や「ThinkAgile」でHPC以外のワークロードも狙う

「第3世代EPYC」投入をきっかけに幅広い市場開拓を、レノボとAMD

2021年06月01日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 AMDは2021年3月16日、サーバー向け第3世代EPYCプロセッサとなる「AMD EPYC 7003」シリーズを発表した。またその直後の3月19日には、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(以下、レノボ)が同プロセッサを搭載した新世代の「ThinkSystem」サーバーと、ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)アプライアンスの「ThinkAgile」シリーズを発表している。

 これまでのEPYCプロセッサは、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)領域を中心に注目を集めてきた。第3世代EPYCのリリースを通じて、両社ではより幅広い領域での採用を狙っているようだ。日本AMD、レノボの両社に、第3世代EPYCの特徴から両社共同での市場戦略まで話を聞いた。

今年3月に発表されたサーバー向けの第3世代EPYCプロセッサ「AMD EPYC 7003」シリーズ(画像はAMDサイトより)

日本AMD ジェネラルマネージャー コマーシャル営業本部 日本担当 本部長の大月剛氏、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長 ジョン・ロボトム氏

第3世代AMD EPYCプロセッサの特徴

――まずはAMD EPYC 7003シリーズの特徴を教えてください。第2世代EPYCからの強化点はどこにあるのでしょうか。

AMD 大月氏:EPYC 7003シリーズの特徴、機能強化点は、大きく「パフォーマンス」「セキュリティ」「互換性(後方互換性)」の3つにまとめられます。

 パフォーマンスの面ではまず、コアあたりのL3キャッシュメモリ容量が、第2世代の最大16MBから最大32MBへと拡大しました。メモリ性能も強化されており(ファブリックとメモリー間の同期クロックを備えるため)DDR4-3200のメモリで内部バスを合わせることができます。IPC(クロックあたりの命令実行数)も19%向上しています。

EPYC 7003プロセッサの基本構造。8つのコンピュートダイと1つのI/Oダイを「Infinity Fabric」で接続する点は第2世代EPYCと同じだ(画像はAMDサイトより)

 セキュリティでは、これまでも仮想化環境向けに「仮想マシン単位の暗号化」や「CPUレジスタの暗号化」といった保護機能(SEV:Secure Encrypted Virtualization)を提供してきましたが、第3世代EPYCではここに「Secure Nested Paging(SEV-SNP)」が追加されました。これはハイパーバイザを隔離して、ハイパーバイザに対する攻撃からシステムを保護する機能です。

 もうひとつが互換性です。7003シリーズ(開発コード名:Milan」は7002シリーズ(Rome)と互換性を持つため、CPUを差し替えてファームウェアをアップデートするだけで、そのままアップグレードできます。顧客やパートナーのシステム投資や開発投資を保護し、継続性を提供します。

――第2世代と比べて、第3世代ではモデルのラインアップも増えましたか。

大月氏:トータルでは増えています。たとえば、8コアから64コアまでラインアップしている点は第2世代と同じなのですが、16/24/32コアだけでなく28コア、56コアというモデルもあります。さらに、顧客からの注目が大きいメモリ周辺については、メモリインターリーブがこれまでの4チャネル、8チャネルだけでなく6チャネルにも対応しました。これらの特徴によって、よりワークロードに沿ったコア数やメモリ構成を選べるようになっています。

 さらに、第2世代EPYCでは後から追加されたエンタープライズワークロード向けの高周波数コアモデルも、第3世代では最初からラインアップしています(75F3など「F」を含むモデル)。こちらもニーズの高さ、市場の要求に応じてラインアップしたものです。

EPYC 7003シリーズのモデル(SKU)一覧(AMDデータシートより)

EPYC搭載サーバーの適用ワークロードの広がり

――それでは、レノボ側から見たAMDはどうでしょうか。EPYCプロセッサの魅力とは。

レノボ ロボトム氏:われわれから見ても、AMDが“パフォーマンスオリエンテッド(性能指向)”の領域に注力していることは強く感じており、その方向性はレノボと共通しているとも考えています。

 われわれの顧客もEPYC搭載サーバーには興味を持っており、「性能をテストしてみたい」という要望が多く上がってきています。高いパフォーマンスが出せる、実際にはアプリケーションにもよりますが、少なくともそのポテンシャルがあることへの理解は進んでいます。

 レノボでは第3世代EPYCを搭載したThinkSystem、ThinkAgileを提供していますが、チューニングやベンチマークを行ってそのポテンシャルを計測し、個々の顧客ワークロードにマッチするかどうか(の判断材料を提供するの)もわれわれの仕事です。ここはAMDと協力しながら進めていきます。多くの顧客は「実際のポテンシャルを知りたい」というステージにいるのだととらえています。

EPYC搭載サーバーの「ThinkSystem SR645」(上)と「ThinkSystem SR665」(下)

――EPYCプロセッサが登場した際、まずはHPC分野のユーザーが興味を持ったと理解していますが、現在は変化しているでしょうか。「より高いパフォーマンス」を求める層は拡大していますか。

ロボトム氏:膨大なデータ処理が必要なデータセントリックな(データ中心の)領域、たとえばレノボも注力しているAIやIoTといった分野のワークロードは、HPCと近しいものと言えますし、そうしたワークロードニーズは増えています。

 一般企業の一般的なワークロードにおいても、ビッグデータ解析やAIインテリジェンスの活用ニーズが高まっていますし、その流れは今後も続くでしょう。もはや“ifではなくwhen”、“そうなるかどうか”ではなく“いつそうなるか”を考える段階だと思います。

――レノボではこれまでもEPYC搭載サーバーを提供してきましたが、その売れ行きや反応はどうでしょうか。

ロボトム氏:第2世代EPYC搭載サーバーの採用事例として、デジタルマーケティング領域で活用いただいているSupershipの事例を公開しています(50台/約1500コアの物理サーバーで動作していた約500台の仮想サーバーを、16台/2300コアのThinkSystem SR635に移行、集約した事例)。EPYC搭載ThinkSystemの導入で、管理面を含むコスト削減、サーバー台数とフットプリント削減につなげることができ、高く評価いただいています。

 ほかにも、社名は出せませんがプライベートクラウドワークロードでの採用もありました。構成のフレキシブルさとパフォーマンスが必要で、なおかつコストも気にして構築しなければならないという案件で、ここでも(EPYC搭載サーバーが)フィットしました。

 最近ではHPCからエッジトゥクラウド(エッジからクラウドまでの汎用ワークロード)、クラウドセントリックなワークロードと、幅広い領域で問い合わせが増えています。第1世代、第2世代EPYCで興味を持ち、PoCを実施していた顧客が、第3世代の登場をきっかけに案件を具体化させていくのではないかと期待しています。

 われわれとしても、顧客のやりたいこと、顧客のワークロードにEPYCがフィットするかどうかを考え、AMDとも相談しながら進めています。そもそもパフォーマンスと信頼性の高いサーバーであればどんなワークロードにもフィットするはずと言えますが、現実にはワークロードやデータの種類によってうまくいくかどうかを慎重に見なければなりません。特に日本の顧客は「パフォーマンスの高さ」だけを求めるわけではないので、(信頼性やセキュリティなど)バランスの良いシステムを提供できるよう心がけています。

第3世代EPYCをきっかけに幅広い市場を開拓していく

――今後の日本市場への期待はどうでしょうか。両社共同での取り組みなども進める方針ですか。

大月氏:まず、レノボには第3世代EPYCが発表されてすぐに製品(搭載サーバー)を出していただけたので、非常にありがたいなと思っています。EPYCは第4世代、第5世代と開発が続くこともアナウンスしていますが、まずはこの第3世代EPYCで一緒に市場を作っていきたいですね。

 日本の顧客は(同じプラットフォームが)将来的にも継続して使えることを重視されます。市場を作るためには、たとえばHCIやVDIなどさまざまな領域に拡大して、EPYCが継続的に使えるものだということをご理解いただければと考えています。

ロボトム氏:日本の顧客は(製品に対する)期待値が高いので、レノボ、AMDの両社とも、日本の市場からのフィードバックをしっかりと聞いて、市場から学んでいかなければならないと思います。

DXについては多くの企業で課題となっていますが、これからは「早く、迅速に」DXを進めなければならないという意識が強まると思います。市場から学びつつ、対象とするワークロードを拡大して、DXの加速にどう貢献するかを考えていきます。

 またレノボは100%チャネルビジネスなので、チャネルを拡大していくことも大切だと考えています。今後もそこに投資をしていきますし、どうやってチャネルビジネスを拡大していくかをAMDと一緒に検討しているところです。

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