リアル化する
「麦わらの一味」
「ゲーミフィケーション」(Gamification)という言葉があるのをご存じだろうか? ここ1年ほどの間に、少しずつ耳にするようになってきた言葉だが、これの最もシンプルな定義は、「ゲームで培われてきた手法を、非ゲーム系のアプリケーションやサービスに活用する」という意味になる。
「ゲームの手法を活用するだって?」と、ゲーム産業を盛り上げてきた日本のゲームクリエイターは言うかもしれない。実は、わたしも「ゲーム」で釣って子供に勉強させるようなカラクリだったら興味ないなと思っていた。ところが、これがちょっと違うのだ。ゲーミフィケーションとは何かと聞かれたら、わたしは「TED」(“ideas worth spreading”を掲げて開催される、学術・エンターテインメントなど幅広い分野にわたるカンファレンス)で行われた2つのプレゼンを比較して見るのがよいと答えている。
セス・プリーバッチという人は「世界を覆うゲームレイヤを作る」というプレゼンで、「ソーシャルメディア」の次にさまざまなサービスを動かすメカニズムになるのが「ゲーミフィケーション」だと主張している。
ソーシャルメディアはいま、写真やストリーミングの共有でも、ニュースやビジネス上のコンタクトについても、非常に効果的なしくみとして機能してきている。
彼の言葉を借りれば、「レイヤー」としてサービス設計の中で機能していくことが重要だという。ちょうど、ソーシャルメディアなら「フォロー」とか「タイムライン」とか「メッセージ」などの機能にあたるものだろう。プリーバッチは、「アポイントメント」(決まった時間に決まった場所に行くといったルール)、「ステータス」(Forsquareのバッチのような、その人がやったことの成果を示すこと)、「共同発見」(文字どおり仲間と一緒に何かを見つけるしくみ)などを挙げている。
もう1つ、より興味深く思えるのが、ジェーン・マクゴニガルという女性ゲームクリエイターによるプレゼン「ゲームはよりよい世界を作ることができる」だ。人類が次の100年を生き長らえるには、途方もない努力が必要になる。ところが、人々は全世界で、ゲームをプレイするために膨大なエネルギーを費やしている。ゲーム文化の強い国において、平均的な若者は、21歳までにオンライゲームを1万時間もプレイするそうだ。だったら、そのゲームパワーというヤツを使いましょうというものだ。
なんとなく、ジョークっぽいところもあるのだが、あくまでポジティブかつシリアスに考えている。マクゴニガルの主張は、実装方法に関する議論もさることながら、いかにゲームという魔法が、人々のモチベーションや能力や協調性までをも向上させられるかといったことに力点が置かれていると思う。
面白いのは、プリーバッチもマクゴニガルも、ゲームの強力さを示す例として「World of Warcraft」というオンラインゲームをあげていることだ。世界中でみんなが作っている百科事典「ウィキペディア」に次ぐ大きさの「ウィキ」(オンライン上の知識を共有する文書形態)は、このゲームに関してのウィキ(WoW Wiki)なのだそうだ。つまり、それだけ大きい“もう1つの世界”が、ゲームの中に事実として存在している。
World of Warcraftというゲームの中では、プレイヤーは、バーチャルなもう1人の自分として活動する。このゲームの中では、人々はあらゆる労力も時間も惜しまず、活き活きと自分のミッションをこなしている! ちょっとした労働と遊びの理想社会が、そこにあるわけなのだ。
この種のMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)といわれるゲームの特徴として、ゲーム上で結成して一緒に活動する「ギルド」という集団の存在がある。認め合った仲間と協力して同じ目的のために戦う時間は、さぞ充実していることだろう。『ONE PIECE』という作品のことを考えていたら、どうしてもこの「ギルド」のことを連想してしまったのだ。人々は、大きな目的のために、協力して戦いたいという欲求をいま抱いているのだと思う。
目の前には大きな問題がいくらでも横たわっているし、世界中では戦争や紛争も絶え間なく起きている。それらに対して、適切な取り組み方をつかめていないからだとも思えるが。
ゲーミフィケーションを実現する手法には、いろいろなパターンがある。最近のニュースでは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)様ウイルスの酵素の構造を解析が、「Foldit」(フォールドイット)というオンラインゲームとそのプレイヤーによって行われた(AFPBB News「ゲーム愛好者らが酵素の構造を解析、米研究」)。長年にわたって科学者たちをなやませ、コンピュータープログラムでは解けなかった問題が、ゲーマーたちによって解かれてしまったのだ。
2011年10月20~22日に開催される「デジタルコンテンツ・エキスポ 2011」の主催者プログラム「ConTEX」で、このゲーミフィケーションやパーソナル・ファブリケーションに関するシンポジウムが行われる。私は、モデレーターをつとめさせてもらうのだが、チームラボの猪子寿之氏、IAMAS准教授の小林茂氏、慶應義塾大学准教授の田中浩也氏という強力な面々が登壇。詳しくは、『「ソーシャルコンテンツ」大爆発 ~パーソナル・ファブリケーションからゲーミフィケーションまで~』をご覧いただきたい。
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