秋のアップル新製品、現地ハンズオンで感じた「押さえるべきポイント」(本田雅一)
文●本田雅一 編集●飯島恵里子/ASCII
2022年09月09日 10時00分
毎年9月初旬はアップルが最も力を入れる発表イベントを開催するタイミングだが、過去2回は新型コロナウィルスの流行でオンラインでの開催、本社敷地内のスティーブ・ジョブズシアターに集まっての発表会は、実に3年ぶりのことだ。
発表内容はiPhoneシリーズの刷新、第2世代AirPods Pro、そして第7世代となったApple Watchと本格的なスポーツウォッチとして再設計されたApple Watch Ultraの追加である。
それぞれについて、すでにAscii.jpでは発表内容を詳報しているが、現地ハンズオンで感じたことや現地取材で見えてきた情報などを中心に「ファーストインプレッション」をお届けしたい。
Proの「プレミアム性」はどこにある?
最も多くの読者が注目しているだろうiPhone 14とiPhone 14 Proシリーズ。噂通りにiPhone 14には6.7インチディスプレイを搭載する「Plus」が追加されたが、全体を俯瞰すると従来との違いはProモデルと通常モデル(無印モデル)の間の差が、開いたように見えるかもしれない。
両シリーズが搭載するSoCは、iPhone 14がiPhone 13 Proが搭載していたA15 Bionic(5GPU版)と同じなのに対して、iPhone 14 Pro(及びiPhone 14 Pro Max)は「A16 Bionic」に更新されている。
このA16 Bionicは4nmの新しい製造プロセスで生産される最新チップだが、大きく進歩しているかといえば、実際には大きな違いはないようだ。むしろ、iPhone 13とiPhone 13 Proの間でGPUコア数が異なったことに比べれば、その差は小さいとも言えるだろう。
この2つのSoCは、トランジスタ数が150億個から160億個へと増加している程度。元々のA15 Bionicが高性能、高機能だったこともあるが、大きな進化というよりも、搭載する端末に合わせて再設計したという意味合いの方が大きいのではないかと推察される。
SoCを構成する回路ブロックも、それぞれが進化していることが考えられる。ARMコアは独自設計だが、特に強く主張しているのが高効率コアの電力あたり性能だ。他社の最新スマートフォン向けSoCに比べ、高効率コアは性能あたりの電力が1/3で済むという。
実はアップルの高効率コアは以前から(高効率コアとしては)性能が高く、スマートフォンのほとんどのアプリ処理は高効率コアで十分。この部分を磨き込んているのではないだろうか。Neural Engineの処理能力は16兆回で、これはA15 Bionicの15.8兆回とほぼ同じ。おそらくはクロック周波数の若干の向上がもたらしているのだろう。
一方でメモリ帯域は50%拡大しているようだ。
設計リソースは1Hzまで画面リフレッシュを落とせるディスプレイコントローラ、小さな領域に情報を表示するダイナミックアイランドを美しく表現するためのアンチエリアンシング表示処理に手が入ったほか、イメージ処理プロセッサ(ISP)に手が入っているようだ。ISPは4兆回の演算としているが、こちらがどの程度変化しているかは現時点では不明だ。
いずれにしてもA15 BionicとA16 Bionicの違いは大きくはなく、性能面で大きくiPhone 14と14 Proが異なることはなさそうだ。ではProと無印の違いはどこにあるのか。円安でProの価格が高く感じる昨今、この点が気になる方はいるだろう。
両者の違いは本体素材、カメラ、ディスプレイ、GPS精度の主に四つだ。
iPhoneの使い方を大きく変えるディスプレイ周り
素材がアルミとステンレスと異なるのは従来通りだが、ディスプレイに関しては14 Proがダイナミックアイランドに対応し、輝度スペックも向上したことが大きな違いだ。
無印のiPhone 14は大型のiPhone Plusも含めて、昨年のiPhone 13 Proシリーズとほぼ同じスペックのもののようだ。一方、iPhone 14 ProはTrueDepthカメラの領域を40%も削減し、さらに黒くなるその部分を使って(削減して浮いた領域に)アプリのさまざまな通知を表示するダイナミックアイランドを採用した。
ダイナミックアイランドは、例えば音楽アプリで音楽を再生中、上方向にスワイプすることでダイナミックアイランドにジャケット写真や曲名が表示されるなどの使い方になり、最大2つのアプリケーションからの通知が表示される。なおダイナミックアイランドへの表示は、(難易度は高くはないが)アプリ側の対応が必要となる。
またiPhone 14 Pro向けのディスプレイは1600nitsまでのHDR表示が可能で、これはiPhone 13 Proの1200nitsを超えてmini LEDを採用するiPad Pro並みということになる。また屋外の明るい場所での視認性を高めるため最大2000nitsまでブーストすることも可能だ。
ただ、こうした輝度スペックよりも明確に利点があるのは、常時点灯モードである。常時点灯モードはApple Watchで使われているものと技術的な基礎は同じで、低消費電力のOLEDと1Hzまで画面更新を遅くできる新しいディスプレイコントローラ(A16 Bionicに内蔵されている)により実現している。
そして、14 Proが体験としてもっとも大きく進歩させているのが、ダイナミックアイランドと常時点灯モードの2つだ。
小さな違いと感じるだろうが、ダイナミックアイランドは情報の視認性や操作性を高め、常時点灯モードも状況に応じて素早く情報をチェックする意味で、iPhoneの使い勝手を大きく変えるものになっている。
6月に開催されたアップルの開発者向け会議WWDCで、ロック画面のカスタマイズと利用シーンに合わせた切替、情報表示全体の仕組み(コンプリケーションの導入)変更などが紹介されたが、そうした(Apple Watchにも通じる)機能の追加があった。
そうしたことを踏まえると、iPhone 14 Proの新ディスプレイが、あの時のアナウンスと関連していることが想像できるだろう。Apple Watchでの知見を、iPhoneの進化に反映させたというわけだ。
「現像前にFusion」させるPhotonic Engineと新型センサー
ところでiPhone 14シリーズのカメラスペックを見ていると、センサーサイズ拡大やレンズの明るさの違いなど、iPhone 13 Proシリーズのカメラから望遠カメラを取り除いただけのように思えるかもしれない。
しかしiPhone 14、iPhone 14 Pro双方ともにイメージセンサーから最終的なデジタル写真を生成するプロセスが見直されている。複数フレームの画像から被写体のディテールをより多く取り出すDeep Fusionという処理がiPhone内蔵カメラの画質向上において要になっている。
この考え方をさらに進め、RGB画像へと現像した上で「フュージョン(融合)」させるのではなく、カメラセンサーが捉えたRAWデータのレベルで情報を融合させ、現像以降のプロセスの精度を高めるプロセスに変えられている。アップルはこれをPhotonic Engineと呼んでいる。
新しい現像プロセスはハードウェア構成が近いiPhone 13 Proシリーズでも使えそうなものだが、実際にはカメラの信号処理をする上で、何らかの違いがあってサポートされない。
こうした違いが何を生み出すのかは、実機にて試す必要があるが、iPhone 14とiPhone 14 Proの比較で言うならば、その違いは明確だ。iPhone 14 Proシリーズには24ミリ相当の画角を持つメインカメラ(以前は広角カメラと言われていたが名称が変更されている)に、対角サイズ1/2インチの4800万画素CMOSセンサーが採用され、それに伴いレンズも更新されている。
このセンサーはソニーが2018年に発表していた「Quad Bayer配列」採用センサーの流れを汲むもののようだ。実際、4つの隣接する画素が同じカラーフィルターになっており、それこそがQuad Bayer配列の特徴だからだ。このセンサーを用いることで、解像度の向上を実現しつつも実効感度を落とさない。好感度と低照度性能の両立ができるとされている。
詳細は実機での撮影後にお伝えしたいが、実画素が増加したことで中央部をクロップ(切り抜き)することで精細度を失わない2倍ズームも可能になる。iPhone 14 Proに2倍ズームの固定ボタンが復活したのはこのためだ。
いずれにしろ、カメラ性能は実機評価となるが、ハンズオンコーナーで見せられたサンプル画像は、いずれも明所でのディテールと色解像度向上、暗所での低ノイズなどが顕著。特に暗所性能はiPhone 13 Proに比べ、超広角、望遠、イン側が2倍、メインカメラで3倍の性能とアナウンスされており、特にメインカメラはナイトモードが活躍する場面を大幅に減らしてくれるだろう。
ただしカメラレンズは従来よりも少しだけ出っ張りが大きくなっている。傍目にはわからない程度で、公式なスペックとしても公表されていない。個人的にはさほど気にする必要はなさそうだと感じたが、気になる人は実機で確認すべきだろう。
旧モデルとの性能接近で、かつてない幅広い選択肢
ではどちらがオススメなのか? というシンプルな質問もあるだろうが、iPhoneは毎年買い替える製品ではなくなっていると考えるなら、最上位のiPhone 14 Proを選択するのもひとつの考えだろう。また中古市場が活発になっていることに加え、アップルが古い製品にもOSアップデートを可能な限り続けていることで、上位モデルの方が手持ち端末を処分して買い替えやすいという事情もある。とはいえ絶対的な価格が高いことは間違いない。iPhone 14 Proは孤高の存在だ。基調講演では語られていない要素もあり、まさに最高ランクの製品に相応しい作り込みがされている。
例えばGPS。後述するApple Watch Ultraが対応するGPS衛星の信号周波数L1に加えL5にも対応。日本では「みちびきがL5を用いており(L1も同時に対応)、位置精度が向上し、ビルに囲まれた都市部での位置確認速度を早める。
円安の影響で日本での端末価格が上がってしまったことを考慮すると、ラインナップに残るiPhone 13の存在が気になるところだ。GPUコア数が異なるとはいえ同じSoCを採用している一方で価格は低く抑えられている。また、14世代ではなくなった「mini」も、現役モデルに残った。iPhone 13 miniが、それぞれ価格を引き下げた上で併売される。
iPhone 13 Proに関してはiPhone 14と14 Plusがその役割を代替するだろうが、iPhone 13は引き続き人気モデルとなるかもしれない。ただし、こうした位置付けにしているのは、あるいは両者のカメラ性能に相応の違いがあるからかもしれない。そこは単なるハンズオンではなく、実機での撮影比較によって探ってみることにしよう。
想像以上だった「タフネス版Apple Watch」と第2世代AirPods Pro
ところでハンズオンコーナーで「想像以上」だったのは、iPhone 14 Proのディスプレイ周りに絡むアップデートだけではない。
登山家やダイバー、サーファー、トレイルランナーなどに向けたApple Watch Ultraは、前述した2つの周波数に対応した高精度GPSも搭載されるほか、新たにアクションボタンを搭載することで、手袋などをはめた状態でも素早くよく使う機能を呼び出せるようになる。
デジタルクラウンをはじめとする操作部も大きくなり、フラットなサファイアグラスと軽量なチタンケースは岩などに当たった際にもガラスへのダメージを軽減できるだろう。
コンパスも再設計されており、従来よりはるかに高精度となっている。この改良とGPSの改良により、雪山でピバーグする地点を正確に登録したり、分岐路を記録したりといったことを素早く行えるほか、トライアスロンでは競技の切替を競技者の負担なくできるようになる。
大きくなったスピーカーは特徴的な大きな音を発することができ、見通しならば180メートル離れた場所からでも、使用者の位置を伝えることができるため、遭難時に発見してもらえる可能性が高まる。個人的にはダイビングコンピュータ機能が気になる存在だ。
エントリーとエキジットの正確な位置、ダイビング中の潜行深度などが記録されるため、ダイビング記録の管理が楽になるはずだ。純正アプリで対応しているわけではないが、iPhoneに水中ハウジングを装着して写真撮影し、後から撮影写真を突き合わせてログブック管理をするアプリなども登場するかもしれない。
かつてダイビングにハマっていた筆者としては、デザイン面での納得感もあって大いに気になるところ。また落ち着いて試聴はしていないものの、第2世代AirPods Proは低域再生能力とノイズキャンセリング性能が明らかに向上しており、音質面での進化も感じらた。ケース位置を知るためにスピーカーを内蔵した充電ケース、空間オーディオ再現性の向上などのトピックもある。
第2世代AirPods ProはApple Watchの騒音測定アプリと組み合わせ、実際に測定されているノイズと低減後の騒音レベルを数値化して見せる点も興味深かった。その数字を信じるならば、デモ会場では24dB前後の騒音を低減していた。周辺騒音に合わせてノイズを引き下げてくれる適応型ノイズ低減機能も、実は地味に気になる機能である。
この適応型機能を使えば、周囲の音の状況を把握できるトランスペアレントモードにしておきつつ、本当にうるさい場所を通った時には適切なレベル(およそ80dB程度)まで騒音を緩和してくれるからだ。
かなり盛りだくさんの発表内容だったが、いずれの製品も近く実機でのレビューが可能になる見込みだ。最終的な評価はそこで下したいが、大きく変わっていないように見えても、実は極めて深いレベルで作り込まれていた。
筆者紹介――本田雅一
ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。
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