同じプラットフォームのアウディ「e-tron GT」とポルシェ「タイカン」はどう違う?

文●栗原祥光(@yosh_kurihara) 編集●ASCII

2022年06月11日 15時00分

アウディ/e-tron GT

 長距離を快適に移動できるクルマに与えられる「グランドツーリング」(略すとGT)の名。その名が与えられたクルマは、圧倒的なパフォーマンスと永遠に乗り続けたくなるような快適性能を与えられることから、メーカーの威信をかけて技術の粋を結集させたフラグシップモデルである場合がほとんどです。今回ご紹介するアウディの「e-tron GT」は、まさに同社の威信をかけたGTカーであり、未来のGTカーのあるべき姿であると確信させるクルマです。

長年培ったガソリン車のフィーリングを
電気自動車にもフィードバック

アウディ/e-tron

 2026年以降に発売する新型車をすべてEVにすると宣言するなど、アウディがEVに力を入れているのはご存じのとおり。その力の入れようは、既に発売されている2台のe-tronの高い完成度にも現れています。というのも、長年ガソリンエンジン車で築き上げたアウディらしいフィーリングを、BEV(Battery EV)の1作目にも受け継がれていたから。そしてそのフィーリングにEVらしさをプラスしてきたから。

 ですが、良くも悪くも同社フラグシップSUVと変わらないボディーサイズとパッケージングゆえ、ドライビングプレジャーよりも同乗者の快適性に方向性を振ったのも事実。運転を楽しみたい人(=自分)は「これにアウディクーペの走りの良さが加わったら……」と、ない物ねだりをしたものです。そんなない物ねだりが叶ったe-tron GTを目の前にし、乗る前から期待値は相当高いものに。

ポルシェ・タイカンと同じプラットフォーム

ポルシェ/タイカン(写真はタイカン・ターボ)

 アウディはフォルクスワーゲンAGグループの一企業です。同グループは、企業の垣根を越えてプラットフォームをはじめ、さまざまなコンポーネントの共用化を進めています。今回のe-tron GTも、その例に漏れず、ポルシェ初のBEV「タイカン」と同じ「J1」プラットフォームを採用しています。全長は約5mとタイカンよりわずかに長いですが、2900mmのホイールベースはタイカンと同じ。さらに言えば駆動用リチウムイオンバッテリーや800Vシステムなど、基本コンポーネントは共用化が図られています。

 ではタイカンとの差別化はどこでしょう? まずは「見た目」「内装」。それは見ればわかります。それに付随してインフォテインメントなどのUI周りも違います。これに関しては後述します。当然「足回りのセッティング」もアウディ流に仕上げられています。そしてパワートレインといえる「バッテリーの蓄電量」「搭載するモーターの数と出力」の2点が大きく異なります。

 まずバッテリーの蓄電量ですが、タイカンの標準仕様79.2kWhに対し、e-tron GTは93.4kWh。これによりe-tron GTの公称航続距離は534km(WLTCモード)を達成しています。「93.4kWhなら、タイカンのパフォーマンスバッテリープラスと同じ」という意見もありますが、あちらの航続距離は500kmをわずかに下回ります。この航続距離の長さがGTの名を冠するゆえんのひとつでしょう。

 モーターは、出力云々以前に搭載する個数が異なります。タイカンは前後各1基のモーターを備えた4WDの4S、GTS、ターボ、そしてターボSのほか、後輪駆動のスタンダードモデルをラインナップ。一方、e-tron GTと高性能版であるRS e-tron GTは、どちらも前後2基のモーターによる4WDの「クワトロ」設定のみ。出力はモデルによって異なり、トップエンドモデルではタイカンが上回りますが、e-tron GTと、ポルシェ側の近しいグレードと思われるタイカン GTSを比較してみると、e-tron GTが定格出力200kW/最高出力390kWであるのに対し、タイカンGTSは定格出力175kW/最高出量380kW。これはほぼ同じといえそう。ですがタイカンには、ローンチコントロールを使用した際のオーバーブースト440kW出力が可能です。

 「kW表記だとピンとこないから、出力はPSで書いてよ」という方に弁明すると、アウディの資料に馬力表記はないのです。当方が勝手に1kW=約1.36馬力で計算してもよいのですが、不肖の算数で間違えるのはよくないので、ここではkW表記で。そして1992年の新軽量法により「クルマの出力は馬力ではなくkWで表記すべし」と、仕事率の国際単位にならっていたりもします。ですが法が施工されて今年で満30年経ちますが、いまだクルマの出力は「馬〇頭分」が一般的。クルマの力を馬の頭数で表すメートル法は18世紀末に誕生し、日本で1891年に施行され120年以上の歴史がありますから、30年そこそこではなじまないのでしょう。ちなみに筆者の計算によるとe-tron GTの定格出力200kWは約272PS。実はGRヤリスと同値だったりします。

全長約5m、全幅約2mの大きさで
室内空間も余裕あり

 アウディらしい美しいクーペフォルムは、全長4990×全幅1965×全高1395~1415mmというボディーサイズ。これはアウディA7とほぼ同じです。A7と異なるのはフロントグリル(シングルフレームグリル)に、冷却用の穴を開けていないところ。

 一方、穴が空いているのはフロントタイヤのフェンダーまわり。これらはタイヤハウス内で発生する乱流をスムーズに排出することでハンドリングに寄与するというもので、レーシングカーではおなじみのエアロ処理ですが、市販車ではあまり見かけないような。ちなみにタイヤはピレリのP7。

 充電ポートが運転席側が家庭用コンセント用、助手席側が急速充電用と別れているのはタイカンと同じ。異なるのはプッシュすれば開くという点でしょう。ポルシェ側は手を添えると自動で開き、降雨時に充電する際、手が濡れなくてよいという利点がありますが、電動ゆえに万が一扉部分が壊れたらどうするの? とも。このあたりは一長一短でしょう。

 ラゲッジはフロント側の開け方がわからなかったので撮影できなかったのですが、リアは底は浅いものの十分な容積が確保。リアもあるのにフロントもある。これがEV車の魅力だったりします。

 後席をチェックしてみましょう。座面は明るいグレーのファブリック。ホールド感もしっかりとしたもので、カジュアルリビングの雰囲気。ドアの内張はかなり肉厚で、こちらはレザーとヌバックの組み合わせです。アームレストはドリンクホルダーと小物入れを兼ねています。エアコンの送風口もきちんと用意されています。さすがにSUVのe-tronほどではないものの、足元も広く文句の1つもありません。ただ、USB端子が用意されていないのが残念なところ。

 驚いたのは天井がグラスルーフであること。この解放感はすごくて素晴らしいの一言! 取材時期は桜が満開で、車内からお花見を楽しむことができました。夏は暑そうと思いましたが、アウディのことですからキチンと遮熱対策がなされていることでしょう。

 運転席はウッドパネルによる水平基調のデザイン。インフォテイメントディスプレイの位置がメーターパネルよりも低く、センターのエアコンダクトが相当低い場所にあるのは、ほかのクルマでは見かけない手法、と言いたいところですが、これはタイカンと同様です。

 個人的に最近のクルマはインフォテイメントディスプレイを上に置く傾向があり、その結果「後付け」感を抱くことがありますので、この方法は実に美しいと思います。ナビを見続けながら運転するわけではありませんからね。アクセルペダルはオルガン式なのが、ちょっとスポーティーです。

バーチャルコックピットも進化

 ではここで、ASCII.jpらしくインフォテインメント系について詳しくご紹介しましょう。アウディは2015年に登場した3代目アウディ TTから、メーターパネル内にナビを含めた様々な情報を表示する「バーチャルコクピット」を採用しています。今ではVWグループの中には似た画面のシステムを搭載しているモデルもありますし、他社も似たような表示をするものが存在しますから、別に目新しさはないかもしれません。ですが見やすさと使いやすさの面で、7年が経過した今でもアウディを超える使い勝手のシステムはないと断言できます。おそらくパテントで守られているゆえなのでしょうけれど、このバーチャルコクピットのためだけにアウディを選択するのはアリな話です。

 続いてセンターディスプレイのナビ画面表示。タッチパネルディスプレイでタップすると軽く指に振動が伝わります。このナビ画面が実に見やすいうえに、コンビニのほか、充電スポットも表示。しかも時間のかかるACと急速のDCの表示のほか、24時間対応まで掲出。これが他社BEVのナビによっては、すべて同じ充電マークだったり、そもそも充電スポットを表示しなかったり……。

 その充電スポットをタップすると、充電スポット名のほか給電出力も表示する新設設計。これもまた他社BEVのナビでは表示しないものがあるのです。BEVに急速充電する際、この出力がとても重要なのです。というのも特殊なものを除き、利用料金は充電量ではなく充電時間で課金されるから。つまり初期型の20kWでも、現代の主流である50kWでも料金は一緒なのです。となると、ちょっと遠くても50kWで入れたいのが人情というものです。

 ナビを使って「これはイイ」と思ったのが、案内終了のアイコンが常に表示されているところ。場所が近くなったり、途中で行先を変更したいときに利用しますが、多くのナビはメニュー画面を開いて……という作業になりがち。ですが、それは停止中に操作しなければならず、クルマによってはサイドブレーキを引かないとナビ操作ができない車種だと相当煩雑。意外と高い頻度で利用するので、常に表示し信号待ちの間にポチっと押せるのは大変便利だと感じました。

 走行モードの設定はEfficiency、Comfort、Dynamic、Individualの4種類。ユーザー設定可能なIndividualが用意されているのが欧州車らしいところです。Individualを見ると、スロットルコントロール、サスペンション、サウンドプロファイルという3項目が個別設定できます。面白いのがサウンドプロファイルで、アクセルの踏み加減によってスピーカーから出す疑似的なモーター音を変更するというもの。これはタイカンにもe-SPORT SOUNDというモードで用意されていた機能なのですが、タイカンは映画のタイムワープシーンのようなド派手な音であったのに対し、アウディはダイナミックを選んでも、ちょっと音が大きくなったな、という程度。ここら辺にもメーカーの違い、車種グレードの違いを感じさせました。不肖は静かなクルマなら静かなまま楽しみたいので、Quietを主に利用していました。

 静粛性の話が出たので、e-tron GTのガラスについて説明を。このクルマでは二重ガラスが採用されています。モータードライブと二重ガラスの効果によって、走行中の車内は実に静寂。音の大きなクルマはちょっと走るときは楽しいのですが、長距離ドライブすると疲れてくる傾向があるような。長距離ドライブを快適に走ることを目的とするGTカーにはうれしい装備です。

 今や1人1台は持っているといっても過言ではないスマートフォン。クルマに乗ったら、まず充電が当たり前となりました。ですがe-tronGTは一見、車内にスマホを置くスペースがないばかりか、USB端子が見当たりません。実はUSB Type-Cコネクターとともに差し込み式のQi充電ホルダーがあるのですが、7インチ近い画面サイズを有するモデル、具体的にはiPhoneのPro Max系端末をQi充電ホルダーに差し込むとアームレストが閉まりません。Qi充電を諦めてケーブルを指して斜めに入れれば、やや無理やりな感じで閉まります。センターコンソールに置く場所はないかと探したのですが、ドリンクホルダーに横置きするしかない模様。そうなると、今度は飲み物を置く場所がドアポケット側になって、ちょっと面倒。ちなみに後席にもUSB端子の姿を見かけることはなく……。このモデルに乗るなら、とりあえず大型スマホではなく、コンパクトスマホに機種変することをオススメします。

 そんなe-tronGTですが、お値段は1399万円。試乗車はこれにオプションとして158万円が加わります。アウディA7の価格は855万円から1179万円ですので、ちょっと割高に見えてしまうのは仕方のないところ。ちなみに、タイカンは最も廉価なグレードで1203万円から始まるのですが、4輪駆動のモデルは1448万1000円。実は似たようなプライスだったりします。そのことも頭に入れて、期待が高まる試乗を開始しました。

圧倒的な走行性能と静粛性
ロングドライブも疲れにくい

 走り始めて気づくのは圧倒的な静粛性と微振動の少なさ。BEVは総じて静かで、走りも滑らかなのですが、e-tron GTはGTの名を冠するだけあって一頭地抜けている印象。実に快適な室内空間。いつまでも走り続けていたい、ステアリングを握っていたい、という気分です。車体重量が重く、そして床面にバッテリーを敷きつめているため、すごい安定感! 2280kgという車重ゆえか足はやや硬めのセッティング。街乗りよりワインディングに適しているという印象で、このあたりもGTカーらしいなとも。街中では段差でコツコツとした感触が伝わりますが、タイカンほど硬質ではないので不快さは少なめ。

 タイカンの上位モデルと比べるとマイルドなのですが、それでも踏めば背中がシートバックに張り付くかのような強烈な加速体験が味わえます。しかもほぼ無音で! 「もうこれで十分です」という気持ちになること間違いありません。

 タイカンとの違いは? というと、緊張を強いないという一言に尽きる印象。タイカンは精密機械を扱っているというような運転フィーリングで、ドライバーの操作に対して俊敏かつクイックな挙動をみせます。一方のアウディはゆったりとした雰囲気。スポーツカーメーカーのクルマの作り方と、高級サルーン作りに長けたメーカーの味付けの違い。同じシャーシなのに、ここまで味付けの違いを体験すると、「BEVはバッテリーとモーターがあれば、どれも同じようなクルマができる」という論客の底の浅さを感じずにはいられません。

 アウディの新フラグシップといえるe-tron GTに触れ、そしてポルシェのタイカンに触れて思うのは、クルマの未来は明るいということ。メーカーの個性はしっかりと残り、そして今まで体験したことのない走りの楽しさ、快適さが味わえる。もちろんガソリン車も捨てがたい魅力があります。望みうるなら、ガソリン車とBEVの2台所有したい! そんなことを改めて思ったのでした

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