北海道は課題先進地、でもデジタルで課題解決すれば「ハンデが強み」に変わる

文●大河原克行 編集●ASCII

2021年11月29日 09時00分

今回のひとこと

「北海道は課題先進地。だが、これとデジタルを掛けあわせれば、ハンデとされていたものが、新たな強みに転換し、活力ある北海道の未来社会につなげることができる。北海道はデジタル活用で先進地になるポテンシャルを持っている」

(北海道の鈴木直道知事)

素晴らしい素材と潜在能力がある課題先進地

 ヴイエムウェアが開催した年次イベント「VMworld 2021 Japan」の基調講演に、北海道の鈴木直道知事が登場した。

 VMwareと北海道庁は、2021年3月に連携協定を締結。最新デジタルテクノロジーの提供や、情報セキュリティ対策の強化、デジタル人材の育成において、VMwareが支援することを発表している。VMwareは、国内の自治体や行政機関に向けたセキュリティおよびデジタル人材育成を支援する専任チームを発足。その第1弾の提携が、北海道庁だった。

 VMware Workspace ONEなどを活用し、最新のテレワーク環境の実現を支援したり、VMware Carbon Blackの提案を通じて、「北海道情報セキュリティ対策基準」や「システム的な情報セキュリティ対策」の実現に向けた助言を行ったり、北海道庁が今後の新たな技術に対応した計画をいち早く策定し、整備できるようにデジタル人材を育成することを支援する。

 ヴイエムウェアの山中直社長は、「行政のデジタル化への取り組みは、民間に比べて遅れていると言われるが、北海道は道庁自らが率先して変革をしている。そこには鈴木知事のリーダシップが発揮されている」と評価する。

山中社長

 北海道の鈴木直道知事は、「北海道は、素晴らしい素材やポテンシャルを持ちながらも、課題先進地という側面も持っている」と指摘する。

 北海道は、日本の国土全体の22%を占めるほどの広い面積があり、広大で豊かな自然に恵まれ、農林水産業に強く、世界に通用する優れた食、観光資源もある。だが、200万人が住む札幌市から、人口が1000人以下の小さな村まで、179の市町村があり、自治体数では全国の1割に相当するなど広域分散となっていること、積雪寒冷という状況にあること、広い土地において医療や教育、地域交通や物流をいかに維持するかといった課題があること、そして、人口減少や過疎化、少子高齢化が、全国よりも早いスピードで進み、主力の農林水産業の担い手が減少している課題などがある。

 鈴木知事は、「北海道は課題先進地。だが、これをデジタルと掛けあわせれば、ハンデとされていたものが、新たな強みに転換し、活力ある北海道の未来社会につなげることができる」と述べ、「北海道はデジタル活用で先進地になるポテンシャルを持っている」と語る。

スマート農業は課題解決の糸口のひとつ

 実際、IoTを活用して、課題解決につなげる実証事業が、道内をフィールドとして、数多く行われている。

 そのひとつがスマート農業だ。北海道は、農家1戸あたりの耕地面積が、都府県平均の14倍と広く、約30haに達している。さらに、1戸あたりの耕地面積は年々増加傾向にあるという。

 鈴木知事は、「こうした広大な農地での作業を効率化したり、生産性を高めたりするには、デジタル技術の活用が重要な鍵になる」とし、5Gを活用した遠隔地からの運転制御などによる無人トラクタや、ドローンによる農薬や肥料の散布、データを活用した農作業の最適化などの実証事業が、北海道をフィールドにして、幅広く実施されていることを示す。

 「無人トラクタは、下町ロケットのモデルにもなっている。冬場の除雪作業や、灯油の配送効率化、ドローンを活用したヒグマやエゾシカなどの害獣対策など、北海道ならではの課題解決にもデジタルが活用できる」とし、コロナ前には、日本国内だけでなく、海外からも視察が相次いでいたことを示す。

次世代データセンターにも注目

 注目される取り組みのひとつが、次世代データセンターだ。

 次世代データセンターは政府が打ち出した「グリーン成長戦略」のなかにも盛り込まれ、グリーン電力調達を行うデータセンターの立地を補助したり、国内での再エネ導入を支援し、脱炭素電力の購入円滑化に向けた制度整備を検討したりしているところだ。

 鈴木知事は、次世代データセンターの北海道への誘致に取り組んでいることに触れながら、「冷涼な気候、雪冷熱などによる省エネルギー化のほか、風力や太陽光といった再生可能エネルギーでは、随一のポテンシャルを持っていることに加えて、大都市圏から見たリスク分散、安価で広大な土地を確保するという点でも、北海道は極めて優位性がある。データセンターは、ある意味、心臓を預けるようなものになる。石狩市に多くのデータセンターが立地しており、実績もある。北海道の特性を生かし、官民連携で、次世代データセンターの誘致に取り組んでおり、雪氷冷熱などを活用したデータセンターの建設も計画されている。この取り組みを一層加速したい」と語った。

 実は北海道では、政府に先行する形で、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す「ゼロカーボン北海道」を策定。政府の「骨太の方針」のなかにも、「ゼロカーボン北海道」が明記されるなど、その取り組みが注目されている。

 「デジタルを推進するとともに、グリーンへの取り組みは大切な観点であり、オール北海道により、ゼロカーボン北海道の推進体制を構築してきた。北海道には、再生可能エネルギーでは随一のポテンシャルがあること、そして、日本のカーボンニュートラルを実現するには、この北海道のポテンシャルを生かしていく必要がある。北海道のゼロカーボンの取り組みを先駆的なものにしていきたい。そのなかで、デジタルとグリーンを組み合わせた次世代データセンターは、象徴的な取り組みになる」とする。

 「データセンターの立地を検討している人は、その候補のひとつに北海道を検討してもらいたい。北海道は、それをしっかりとサポートすることをお約束する」とも述べた。

Smart道庁の実現に向けて

 一方、北海道庁におけるデジタル活用も進展しているという。

 住民サービスの向上と、業務の効率化を目的に、業務改革、働き方改革、組織風土改革という3つの改革によって実現する「スマート道庁」の取り組みをスタート。行政手続きのオンライン化、RPAやAIなどを活用した業務の自動化などに加えて、全職員がテレワークを行える環境を構築。「いろいろな場所から、場面からでも、継続して仕事が行えるネットワーク環境の整備に取り組んでおり、2022年度からは全職員が、いつでも、どこでも働くことができるようになる。市町村単位では、こうした事例はあっても、都道府県単位では初めての取り組みだ」と胸を張る。

 1万8000台のスマホを導入し、庁内では内線スマホとして利用。庁外でも、スマホを内線として利用するほか、テザリングでも活用し、PCなどのデバイスを接続して、自宅や出張先、現場など、どこでも使うことができる環境を実現するという。

 「在宅勤務やオンライン会議などが広がるなかで、北海道庁自らが率先して変わっていくことで、DXを推進し、実践していくことが重要だと考えている」とした。

 鈴木知事が指摘したのが、「テレワーク環境の整備において、重要なのは情報セキュリティである」という点だ。

 「この部分では、VMwareに技術的な助言や、ソリューションの提供を得てしてもらっている」とする。

 また、「地域や企業でデジタル技術を活用できる人材を確保することが重要になってくる。VMwareとの連携協定を発展させていく形で、地域のデジタル人材の育成、確保を行う新たな展開にも期待している」とした。

 北海道では、「北海道Society 5.0」の実現に取り組んでいる。

 「世界的な目標や国の目標を掛けあわせて、道民をはじめとしたあらゆる人が、便利になったとか、豊かになったと実感できることが大切である。それに向けては掛け算の考え方が大切になる。民間の方々と一層連携を強化することで、北海道Society 5.0を実現したい。北海道が世界のフロントランナーとして、Society 5.0を実現する上では、推進役となるデジタル人材の育成が大切であり、地域や企業でデジタル技術を活用できる人材を確保することが重要になる」と述べる。

 講演の最後に鈴木知事は、「北海道でチャレンジをしたい、北海道と連携して取り組んでみたいと思ったら、連絡がほしい」と呼びかけた。

 北海道が、デジタル活用の先進地になるポテンシャルを持っているのは明らかである。

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