M1搭載iMacの「電源コネクター」まったく新しい機構の秘密

文●柴田文彦 編集●飯島恵里子/ASCII

2021年05月25日 12時00分

iMac本体の背面に強力な磁力で吸着するDC電源コネクター

 以前のモデルと共通する雰囲気を残しつつも、近未来的な新しさが感じられるモダンなデザインに生まれ変わったiMacには、注目すべき点が数多い。ここでは、その中から通常は無視されてしまいがちだが、実はまったく新しい機構を採用した部分に注目する。それは電源コネクターだ。

有線LAN接続用コネクターを兼ねた電源コネクター

 以前のiMacは、家庭用のAC電源からDC電源を得るためのスイッチングレギュレーターを本体内に内蔵しており、本体の背面に直接AC電源コネクターを接続するようになっていた。それは長年慣れ親しんだものだったが、いったん新しいiMacを見てしまうと、なんだか無粋に感じられる。

 あたかもデスクトップ版iPadのように薄くなった新しいiMacでは、そもそもAC電源用のレギュレーターを内蔵することは難しく、ほぼ必然的に電源部は外付けとなる。Macのデスクトップモデルとしては、初期のMac miniと同様の措置だ。しかもiMacの場合には、本体が薄い分だけ、DC電源の入力コネクターにも工夫が必要となる。以前のように背面のスタンドの下からDC電源を供給するためには、本体側のコネクター自体も薄型にする必要がある。

 そこで新しいiMacが採用したのは、以前のMacBookシリーズが採用していたMagSafe電源コネクターを円筒形にしたような、磁力で吸着するタイプのDC電源コネクターだった。これについては、すでにこの春のアップルのイベントで発表されていた。

 実際に使ってみると、この磁力による吸着はなかなか強力で、いったん接合するとかなり強い力で引かないと外せない。少なくともケーブルをちょっとひっかけてしまった際に、簡単に抜けるようなものではない。いったん設置すれば、めったに抜き差ししないであろうコネクターにわざわざマグネット吸着機構を採用したのは、抜けにくくするという以外にも理由がありそうだ。それは「向きを揃える」ためだと思われるが、それについては後で改めて述べる。

電源アダプターに移動したEthernetポート

 このコネクターは薄いだけでなく、1つの重要なしかけを内蔵する。それは、コネクター内部にEthernetポートに相当する電気的な接点を設けていることだ。それによって、従来のiMacでは本体背面に取り付けられていたEthernetポートを、外部の電源アダプターに移動するためだ。このような構成についても、上で述べたオンラインイベントで、すでに発表されていた。ただし、それがどのような仕組みで実現されているのかについては、現物を手にするまで不明だった。

 そこで本稿では、iMacの背面のDC電源コネクターに的を絞って、その構造と仕組みをピンポイントで解説する。

コネクターが単にDC電源を供給するためのものだった場合の構造

単なるDC電源コネクターだとした場合の構造

 今回のiMacのDCコネクター内部は、これまでにないほど複雑なものとなっているので、それを単純化した仮想のコネクターから始めて、段階的に重要な機能を付け加えながら説明しよう。まずは、このコネクターが単に電源を供給するだけのDCコネクターだとした場合の構造を、円筒形の軸に並行な断面図で示す。

 外部電源からDC電源ケーブルを通して本体に接続するプラグ側は、中心部に直径4mmほどの円柱形の突起があり、その先端に電極(プラス15.9V)が付いている。さらにその周囲には、外径が11mm程度の円筒形のスリーブがあり、その外側がGNDの電極になっている。これだけでも珍しい形状だが、かなり以前のPowerBook時代のDC電源コネクターには、似たような形状のものがあったことを思い出す人もいるだろう。

 本体側は、大ざっぱに言ってその逆の形状となっている。まず全体は円柱形のくぼみとなっていて、その内側の壁の部分がGNDの電極となっている。さらにくぼみの中央部分には、プラグの円柱形の突起を収めるような、内径4mm程度のスリーブがある。そしてその底の部分に、プラス用の電極が配置されている。

 このような構造により、電源コネクターとしてブレることなく所定の位置に収まり、電極同士も確実に接合する。すでに述べたように、iMac本体と電源プラグの間には、強力な磁力が働いている。磁石は、iMac本体側と電源プラグ側の両方に仕込まれているはずだが、分解していないので、どのような配置になっているかは不明だ。ただし、それらが単純な磁石ではなく、iPad本体とApple Pencilを接合するのと同様の、マグネットアレイと呼ばれるような構造になっていることは間違いない。

DCコネクターの内側にLANポートと同等の接続を埋め込む手法

 次に、Ethernetポート用の信号が、コネクター内部でどのように接続されているのかを確認しよう。

DC電源に加えてEthernetポートを接続する電極を加えたコネクターの構造

 Ethernet用の信号を接続するために、上で示した電源だけのコネクターに、全部で12組の接点を追加している。プラグ側の接点は外側のスリーブの内壁に30度ずつずれて円周状に並んでいる。これは小さなボールのような接点で、プラグの開口部を、ちょっと斜めから見れば確認できる。

Ethernetポート用信号の接点は、プラグのスリーブの内側の円周に12個並ぶ

 それに対して、iMac本体側は、内側のスリーブの外壁の対応する位置に、線状の接点が配置されている。これは、スタンドの下で見にくい位置ということもあるが、本体側のコネクターを斜め方向から覗き込むようにしないと確認できない。

 上の図だけでは分かりにくいので、円筒形コネクターの軸方向から見た図を示しておこう。このように、おなじ軌道を30度ずつずれて回る衛星のように配置されている。

Ethernetポート用の接続は、DCコネクターのプラグ側の外のスリーブの内側と、本体側の内のスリーブの外側に12個ずつ並ぶ

プラグ側の中心の円柱の表面に掘られた溝と、本体側の内側のスリーブの内壁の突起によって、接続角度を制限する

180度単位で、コネクターの接続する向きを合わせる機構

 これで、コネクターとしての要素はすべて揃ったようにも思えるが、まだ重要な機構が足りない。それはコネクターを構成する本体に対して、プラグの回転方向をピッタリと合わせるための機構だ。DC電源だけの円筒形コネクターなら、本体に対してプラグをどんな角度で接続しても問題ない。ところが、Ethernetポート用のコネクターを加えたことで、接続可能な角度には制限ができる。その接点は30度ずつずれているから、回転の最小単位は30度ごとということになるが、残念ながら電気的には、そこまでフレキシブルな仕組みにはなっていない。

 この制限の角度は、実は180度だ。つまり、1周360度のうち、2ヵ所しか接続可能な位置がないということになる。考えてみれば、これはUSB-CやLightning コネクターのように、裏表なく接続できるコネクターと同じことだ。というわけで、12個あるEthernetポート用の接点は、6個ずつが1組となっている。言い方を変えれば、表に6個、裏に6個の接点が並んでいるのと同じことだ。

 コネクターの接続角度を180度ごとに制限するために、本体側の内側のスリーブの内壁には、180度離れて2本の突起がある。また、プラグ側の内側の円柱の外側には、砂時計の断面のような形の溝が彫ってある。本体側の突起が、その溝に入り、コネクターの接合が始まると、深く刺さるほど、突起が溝のカーブに沿って所定の角度に決まっていく。

 言葉で説明しても分かりにくいが、図に表すのもなかなか難しい。ここでは、DCプラグ側のスロープのある溝に、本体側の突起が回転しながら位置決めされていくということを、なんとなく想像していただければいいだろう。

本体側の内側のスリーブの内壁には、内側に向かって180度ずれた位置に突起がある

 こうした予備知識があれば、実際のiMacのコネクターを見たときに、細かな形状の意味が分かってくる。本体側コネクター写真を見ても、回転角度を決める突起が、はっきりと見える。

本体側のコネクターの内部には、180度毎に回転方向合わせる突起が見える

 また、上に示したプラグ側の写真を見ても、中央の円柱の周囲にカーブした溝が彫られていることに気付くだろう。おそらく、この回転方向の位置決めには、マグネットによる磁力線の配置も貢献しているものと思われる。目で見て角度を確認しなくても、プラグを本体側のコネクターに近付けるだけで、ほとんど自動的に正しい位置に接合されるようになっているのだ。

 なおEthernetポートとして使われている標準的なRJ-45コネクターのピン数は8となっている。このDC電源コネクターのEthernetポート用の電極数は12だが、上で述べたようにこれは表に6、裏に6と同じことなので、逆向きにつければ、接続が入れ替わる。そのため、12の電極をすべて別の用途に同時に使うことは難しいと思われる。実際には、DC電源コネクターの電極と、電源アダプターのRJ-45用ソケットのピンが1対1に電気的に接続されているわけではない。おそらく、コネクターの接続の向きによって、自動的に接続の割り振りを決められるような仕組みが内蔵されているものと考えられる。それについては、何も情報が公開されていないため、今のところ不明となっている。

 

筆者紹介――柴田文彦
自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。

 

■関連サイト

■関連記事