高速化が進んだ「BlueStacks 5」はスマホゲームがPCで最も快適に動作するかを比較して検証
文●ジサトラハッチ 編集●ASCII
2021年05月12日 11時00分
4月21日、Androidアプリプレイヤーの「BlueStacks 5 ベータ版」(以下、BlueStacks 5)の配信が開始された。BlueStacksは以前も紹介したが、Androidの挙動を模倣するソフトウェアで、広義ではAndroidエミュレーターと呼ばれるソフトウェアの一種だ。
BlueStacksを使えば、WindowsやMacといったOS(オペレーションシステム)の異なるパソコン(PC)にて、Android対応のアプリが利用できるようになる。スマホ用ゲームをPCで遊びたいという人は、スマホのバッテリーを気にせず遊びたい、PCからディスプレーやテレビに出力して、大画面&高リフレッシュレートでゲームをプレイしたいと考えていることが多い。
新型コロナウイルスの影響で外出自粛せざる得ない昨今、とても重宝するアプリだろう。さて、そんなBlueStacksだが、BlueStacks 5では“高速化”が主な特長となっている。公式サイトで公開されている現行バージョンBlueStacks 4からの進化ポイントは以下のとおり。
・RAM使用率が最大50%減
・起動時間が最大40%速く
・高FPSとスムーズなグラフィックスのため最適化されたエンジン
・長時間プレイの更なる安定化
・アプリ起動時間の改善
・新機能:エコモード使用時にCPU使用率を最大87%減、 GPU使用率を最大97%減
・新機能:ワンクリックのメモリ解放機能によりパフォーマンスを最適化
・シンプルになったUI
・更に強固となったセキュリティー
BlueStacks 5は、機能の追加ではなく、メモリー使用量の削減、起動時間の高速化など、軽量化&高速化が主なアップデートになっている。そのため、現在のBlueStacks 5は、非常にシンプルな見た目になっており、BlueStacks 4にあった人気ゲームやジャンルごとにゲームが見られる「ゲームセンター」などが、今のところ実装されていない。また、同社の公開情報では、RAM(メモリー)とCPUの使用率が、競合アプリや現行のBlueStacks 4よりも少ないことをアピールしている。
また、新たにフレームレートなどを制限してCPU使用率を下げる「エコモード」という機能を実装している。本機能を使うと、CPUとGPUの使用率をさらに大幅に削減できるという。
これらの機能はどういった環境での比較によるものか分からないが、この軽量化や高速化は気になるところ。特に外出自粛して暇を持て余しているが、持っているPCの性能が低くてエミュレーターで遊ぶにはちょっとパワー不足と、感じている人への朗報になるかもしれない。そこで、実際に筆者の自宅環境で、いろいろ試してみた。ちなみに、検証時に使用したバージョンは5.0.50.1030なので、それ以降のバージョンが登場した場合、動作や画面設定に違いがあるかもしれない点はご承知願いたい。
従来使えた一部機能は今後実装予定
新たに“メモリ解放”と“エコモード”を追加
BlueStacks 5のホーム画面は、以前あった検索窓、リロードやヘルプ、Twitterアイコンがなくなり、右端の項目もやや減っている。たとえば、正式実装ではないベータ版だった画面の録画、位置情報設定、シェイク機能が見当たらない。こうした機能については、同社によると「ゲームセンター」同様に追加していくという。
そうした従来の機能はいくつか利用できないが、キーマッピングや音量調整など、ゲームを快適に遊ぶための必要最低限の機能は残っており、さらに“メモリ解放”、“エコモード”が新たに追加されている。
複数の仮想マシン(インスタンス)を同時に起動する「マルチインスタンス」機能は、従来と同じ動作だがエコモードのオン/オフ機能が追加されている。また、従来ではAndroid 32bitとAndroid 64bitで別々にショートカットが作られていたが、BlueStacks 5ではAndroid 64bitでインスタンスを作成してもショートカットが作られず、マルチインスタンスマネージャーで管理するように変わったようだ。
環境設定の項目もやや変更されている。ほぼ変わらないが、通知やゲーム設定、ユーザーデータの機能がなく、“ディスプレイ”設定では、ウルトラワイドの項目がなくなっていた。BlueStacks 5はあくまでベータ版なので、他機能と同じように今後追加されるかもしれない。
“ディスプレイ”の画面解像度設定には、ウルトラワイドのプリセットが用意されていなかったが、カスタムにして画面解像度を21:9の比率で入力すれば、一部ゲームはウルトラワイドで表示できる。ウルトラワイドで表示できるゲームは、3D空間で表現されているレースゲームやオープンワールドのMMORPG、リズムゲームのダンスシーンなどが対応する。
その他、21:9のシネマスコープサイズで作られたAmazonプライムなどで配信されている映画は、フルサイズでぴったりと表示される。逆に16:9で作られた1枚絵の背景を使った2Dアドベンチャーやタワーディフェンスなどは、左右に枠が表示されたりする。
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しかし、BlueStacks 4の時と異なり横2560ピクセルまでしか入力できず、その状態で横3440ピクセル以上の高解像度なウルトラワイドディスプレーでフルスクリーン表示にすると画面が真っ暗になった。ディスプレーの相性の問題もあるかもしれないが、ベータ版をウルトラワイドディスプレーで使うことを考えている人は留意しておこう。
また、BlueStacksでは、ゲームパッドの操作は一部のゲームのみ対応し、そのほとんどがマウスやキーボードでの操作になる。キーマッピングにより、操作性は快適化できるが、リズムゲームなどはどうしてもタッチ操作を前提に作られているところもあり、キーボードでのキー操作では操作し辛い。
そういった人にはタッチ対応のモバイルディスプレーを併用することをオススメしたい。タッチ対応のモバイルディスプレーを使えば、PCの高い性能を活かした動作、かつスマートフォンよりも大画面でタッチ操作ができ、ゲームによってはより快適に楽しめる。
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CPU使用率やRAM使用率は大幅に削減
起動速度も最も高速に!
さて、そんなBlueStacks 5だが、実際のところどの程度性能向上を果たしたのだろうか。実際に少し古くはなったが筆者の自宅の自作PC環境で試してみた。検証環境は以下のとおり。
【検証環境】 | |
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CPU | AMD「Ryzen 7 3800X」 (8コア/16スレッド、3.9~4.5Hz) |
CPUクーラー | AMD「Wraith Prism」 |
ビデオカード | ASUS「ROG-STRIX-RX5700XT-O8G-GAMING」 (Radeon RX 5700 XT、8GB GDDR6) |
マザーボード | MSI「MPG B550I GAMING EDGE WIFI」(AMD B550) |
メモリー | G.Skill「Trident Z Royal Gold F4-3200C14D-32GTRG」 (DDR4-3200 16GB×2) |
ストレージ | Seagate「FireCuda 520 ZP2000GM30002」 (2TB SSD、NVMe対応/M.2規格/PCI Express Gen4×4接続)+ ウエスタンデジタル「WD80EFZX-68UW8N0」(8TB HDD) |
電源 | コルセア「SF750 Platinum」 (750W、80 PLUS PLATINUM) |
OS | Windows 10 Pro(64ビット) |
まずは、競合のAndroidアプリプレイヤーとの起動時間を比較。いずれも検証した2021年5月3日においての最新バージョンを使用した。バージョンはNoxPlayerが7.0.1.0123、LDPlayerが4.0.55、MEmu Playが7.5.0、BlueStacks 4が4.280.1022。
いずれもCPUの使用コアは4コア、RAMは4GB、解像度は1920×1080ドット(ピクセル)、フレームレートは高フレームレートを有効にし、垂直同期はオフ、端末はSamsung Galaxy S10、グラフィックレンダラーはOpenGLで統一した。
ただし、ディスプレーのDPIは、解像度に紐づいているプレイヤーもあって統一できなかったが、BlueStacksに関しては240DPIにして計測した。また、BlueStacksのグラフィックエンジンモードは「互換性」にし、ASTCは無効にしている。
各プレイヤーのショートカットをクリックし、ホーム画面のアイコンが全て表示された時までの時間をストップウォッチで3回計測し、平均値を算出している。
プレイヤーの起動時間は、公式で示されたとおり、BlueStacks 4よりもBlueStacks 5は、実際に40%ほど早く、他のプレイヤーよりも明らかに速いと体感できる。
一方、いくつかゲームの起動時間をあらゆる方法で試してみたが、ゲームによって早さは異なり、BlueStacks 5が最も速い場合もあれば、BlueStacks 4よりも遅い場合もあった。アプリ起動に関しては、DPIの違いや細かなグラフィック設定、ビデオカードとの相性にもよるのかもしれない。
AMDやNVIDIAがドライバーにてPCゲームの最適化を常に行なっているのと同じく、Androidプレイヤーごとの最適化状況にも左右するかと思うので、機会があれば最適化したゲームの情報も聞いてみたいところだ。
ではRAM使用率に関してはどうだろうか。まずは各プレイヤーを起動し、その際のCPU使用率、RAM使用率、GPU使用率をチェックしてみたい。いずれもPCの起動後、ある程度の常駐ソフトを止め、セキュリティーソフトの支援機能もオフにした状態で計測した。3回計測し、明らかにおかしい結果以外に最も良い結果のものを採用した。
どのプレイヤーも起動するまでの間は、瞬間的にCPU使用率が跳ね上がり、使用率の変動が激しいので、上の画像は起動が完了して使用率が下がった際の各アプリの使用率だ。赤で囲った部分が、各プレイヤーで使われているプロセスと思われる。
このほかに、ネットワークの使用によりサーバーとのやり取りのプロセスが起動する場合もある。数値は毎回一定ではなく、かなり揺れ幅があるので参考程度として欲しい。
起動完了後も数値の変動は行なわれるし、ネットワークなどの環境によっても異なるため相対評価はし辛いが、たとえばBlueStacks 4を使用している時は、「BlueStacks Android Host」や「BlueStacks Agent」などが動くこともあり、メモリー使用量が350MBを超えることもあった。
しかしながら、BlueStacks 5は70~130MB以下に収まり、「メモリ解放」をすれば、さらにメモリー使用量が下がる。
また、参考までにYostarの「ブルーアーカイブ」をプレイした際の使用率もチェックしてみた。「特別依頼」の「クレジット回収」ステージ01「スランピア広場」での戦闘時の状態をタスクマネージャーで確認。こちらも3回計測し、最も良い結果を採用している。
©2020 Yostar, Inc. All Rights Reserved.
BlueStacks 5ではメモリー使用率が300MB前後、GPU使用率が4%付近だったところ、BlueStacks 4ではメモリー使用率の合計が1000MB前後で、GPU使用率が16%ほどだった。メモリー使用率に関しては、公式が公開している最大50%減に近い結果となった。
競合はNoxPlayerが最も軽くメモリー使用量は400MB前後、LDPlayerとMEmu Playが600MB前後ほどとなっていた。ゲームによって結果は変わるが、BlueStacks 5はおおむねメモリー使用量は少なく、かつ“メモリ解放”機能を使うと使用量は都度減らせるため、メモリー容量の少ないPCで使いたい人には重宝するだろう。
たとえば、スマホ用のRPG「黒い砂漠MOBILE」をBlueStacks 5でプレイしたところメモリー使用量が550MB以上だったが、「メモリ解放」機能を使用したら70MB以下まで下がった。
さらにもうひとつの新機能であるエコモードを使ったところ、よりCPU使用量とメモリー使用量が抑えられた。エコモードでは任意にフレームレートを指定&サウンドをオフにして、より動作を軽量化する。デフォルト設定では5fpsが指定されているが「黒い砂漠MOBILE」では、あまりにも動作がカク付いてまともに操作できなかったので、10fpsで最低限の動作を確保して使用した。
もちろん、これはアクション性の高いゲームを自分で操作する際に使用するには向いていない。フルオートで長時間ゲームを動かす際や、マルチインスタンスで複数のゲームを同時にプレイする時に、動作が重くなり止まってしまうのを避けたい時などに効果を発揮しそうだ。
低スペックのPCではエコモードの恩恵は大きい
さて、今までは20万円相当の構成のPCでの動作だったが、やはり気になるのはどれぐらい低スペックのPCでも動作するかということ。最近では、GIGAスクール向けの4~5万円台と安価なPCを多種多様なメーカーが販売して話題となっている。
そうしたPCは、インテルのCore i3どころかAMDのAシリーズ、インテルCeleronシリーズを搭載し、メモリーは4GB、ストレージはHDDどころかeMMCだったりする製品もあり、クラウドや外付けストレージを駆使しなければ厳しい場合も。
そこで、今回は某生活用品を販売するメーカーがPCに採用していたインテル「Celeron N4100」を搭載したUMPC「GPD MicroPC」でも動作を確認してみた。
Celeron N4100は、4コア/4スレッド、1.1~2.4GHzと前述の検証で使った自作PCに搭載しているRyzen 7 3800Xとはコア数も動作クロックも圧倒的に低い。CPUの性能を計測するCINEBENCH R23のマルチコアのスコアーは、Celeron N4100が5515ptsのところ、Ryzen 7 3800Xが10409ptsと約1.9倍と、ほぼ倍に近いスコアー差がある。
GPD MicroPCは、それだけ性能が低いため、BlueStacks 5をインストールすると、環境設定の“パフォーマンス”でCPUの割り当てが“中(2コア)”、メモリーの割り当ては“カスタム”の1800MBになっていた。
その状態でBlueStacks 5を起動したのみでは、上記のようにCPU使用率はあまり上がらず、特に問題なく起動できた。ただし、ストレージの速度が遅いことも相まって起動速度は約22秒と、前述した自作PCの約7.62秒よりも倍以上の時間はかかっていた。
また、前述と同じくブルーアーカイブのプレイ中のCPU使用率はというとこちらはかなり高く、CPU使用率が80%台を推移し、大分余裕がないように思えたが、目に見えてキャラクターがスローで動くことも少なく、ギリギリ遊べるといったところ。
ちなみに10fps設定でエコモードを使用すると、以下のようにCPU使用率が30%以下、メモリー使用量も200MBを下回り、大分余裕が生まれた。オートモードで安定してプレイを続けたいなら、エコモードは非常に有効そうだ。
©2020 Yostar, Inc. All Rights Reserved.
BlueStacks 5は持ってるPCの性能が低い
という人にも試して欲しいアプリだ
以上でBlueStacks 5の検証と紹介を終えたい。BlueStacks 5は、PCでAndroid用アプリが使える従来からの汎用性の高さに加え、軽量化や最適化が進み、より性能の低いPCでの安定動作が期待できる。
ただし、今回は触れなかったが、フレームレートを計測するアプリでフレームレートの推移を見ると、スタッタリング(カクツキ)が多く、スムーズに動作していないことが多いという結果も。
BlueStacks 4では、そのようなことがないのでベータ版であるBlueStacks 5は、まだゲームによっては、映像の出力がスムーズに行なえない場合もありそうだ。正式版までに、今の高速化のままゲームの動作の最適化が進み、快適にゲームが遊べるようになることに期待したい。
BlueStacksは、巣籠需要で自宅でゲームをプレイすることが増えた昨今、スマホの電池を気にせず、かつ複数のゲームを同時に進めたいという人には重宝するアプリだ。
外出自粛したものの、自宅のPCが古い、もしくは低スペックで安価なPCで性能が低く、他のAndroidアプリプレイヤーの動作が重い、フリーズするといった人は、より高速化して“メモリ解放”や“エコモード”といった機能も備えた、軽量化を追求したBlueStacks 5を試してみるのも一興だろう。
(提供:BlueStacks)
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