性能は2000万台のスマホに相当! 写真で見る「富岳」の内部、3つの特徴に注目!

文●大河原克行 編集●ASCII

2021年03月10日 19時30分

 理化学研究所(理研)のスーパーコンピユータ「富岳」が、2021年3月9日から、共用開始がスタートしたことにあわせて、理化学研究所 計算科学研究センターの松岡聡センター長が、富岳の概要などについて説明。実際に、ラックの扉を開けて、稼働している様子を公開した。

 これは、富岳の共用開始を記念して、オンラインで開催された「HPCIフォーラム ~スーパーコンピュータ『富岳』への期待~」のなかで行われたものだ。

 松岡センター長は、「富岳ビギンズ」と題した約20分の講演を、富岳の前で行い、前半は富岳の特徴などについて説明。後半は、実際に富岳に近づき、説明を行った。

 まずは写真で、その様子をお伝えする。

理化学研究所計算科学研究センターの松岡聡センター長

身長177cmの松岡センター長よりも高い富岳。約2メートルの高さがある

パネルには富岳のロゴが入っている。富岳の高さと広さを示したものだ

12枚のパネルがあり、全系による横の広がりも富岳をイメージしているという

廊下のようにラックの列がある。奥行きの方が横幅よりも多少長いという

全部で432ラックあり、15万8976ノードで構成され、高性能ネットワークで接続されている

富岳の一番端にあるラック群の様子

富岳のCPUパッケージとCPUメモリユニット

富岳に搭載されているCPUは、「A64FX」と呼ばれるチップ

ひとつのCPUメモリユニットにはCPUが2個ずつ搭載されている

パイプがつながり、銅板で覆われ、フィンがない

CPUメモリユニットの前面中央に、光モジュールのコネクタを搭載している

HBM2メモリを中央のLSIに隣接する形で実装している

2つのラックずつに分かれて構成されている

ラックを開ける松岡センター長

ラックの片側に96個のCPUメモリユニットが搭載されている

裏面にも96個のCPUメモリユニットが搭載されており、ひとつのラックに192枚のCPUメモリユニット、384個のCPUで構成される

10万本以上の光ネットワークケーブルで富岳の隅々まで400Gbpsで結ばれる。人間の血管のように張り巡らされ、富岳の性能が達成される

富岳のラック10台で、京の性能以上を実現するという

A64FXを搭載、富岳が2~3台あれば、日本のITのすべてをカバーできる

 富岳は、高い計算性能を実現するだけではない。従来のスパコン向けアプリを利用に留まらず、広い応用分野への対応を両立することを目標に開発しており、Armのv8-A命令セットをスパコン向けに拡張した「SVE」を使用し、マイクロアーキテクチャを富士通と理研が共同で独自開発した「A64FX」と呼ばれるチップを採用している

 「Society 5.0で掲げているサイバーフィジカルなどの幅広い分野に対応するために、汎用的なアーキテクチャーに基づいて開発した。アプリケーションファーストのコンセプトを実現するムーンショットマシンを開発するために、日本のHPCに関わるコミュニティが集結して完成させたものである。A64FXは世界一の性能であり、これにより、富岳が支えられている。そして、ネットワークコネクションだけでなく、ネットワークスイッチまでを内蔵した新世代のCPUである。高性能汎用CPUに比べて3倍の性能と、3分の1の消費電力を実現している。それでいて、あらゆるソフトウェアを利用でき、AIの強化機能も搭載している。富岳は、ひとつの分野だけでなく、あらゆるアプリケーション分野において、2位に比べて数倍の圧倒的性能を発揮し、世界一になっている。他国は研究開発が遅れている状況にあり、日本がさらに差を広げている。日本の計算の科学と、計算による科学が組み合わさって完成したものであり、日本のITの優秀さを示した」と胸を張る。

 富岳を構成する15万8976ノードによって発揮される性能は、スマホに換算すると2000万台の規模となり、これは国内で年間に販売されるスマホの数に匹敵するという。「富岳が2~3台あれば、日本のITのすべてをカバーできる性能を持つ」という。

 そして、「富岳が完成したときには、すぐにアプリケーションが利用できるように準備ができている。社会課題の解決にすぐに生かすことができる」とした。

パソコンとは異なる3つの違いとは?

 富岳のCPUユニットには、パソコンの基板と比べて、3つの違いがあるという。

 第1に水冷であること。松岡センター長は、富岳のような大型マシンで密度が高い場合には水冷が適していると説明。「一般的なデータセンターのコンピュータでは空冷が使われているが、富岳は一般的なコンピュータの5倍の密度があり、空気では冷やせず、冷やしたとしても効率が悪い。高密度のコンピュータを動かすために水冷を採用した」と述べた。

 富岳の消費電力は、通常でも20MW、最大では30MWに達するが、それを20度弱の水温の水で、15万8976ノードのすべてのコンピュータを冷やしており、そのための冷却設備を備えているという。

 第2にCPUメモリユニットの前面に光モジュールのコネクターを搭載している点だ。

 松岡センター長は、「富岳はひとつひとつのノードも高速だが、ノードの間も高速ネットワークでつながっている。基板に直接、搭載された光モジュールコネクタを通じて、光ネットワークに接続。400Gbpsの速度が実現でき、一般的な家庭で利用されている光ネットワークに比べて、約400倍の速度を発揮する」と説明した。

 第3に基板上にメモリーを搭載していないことだ。メモリーは、CPUパッケージに搭載されており、中央にLSIを配置し、その周辺に最先端積層メモリのHBM2を実装。シリコンインターポーザーにより、高速に接合されており、パソコンの10~20倍の性能を実現しているという。

 「富岳は、最先端のITの産物であり、最先端のアプリケーションを活用することができる。今後は、様々な課題を解決するSociety 5.0を実現するためのツールとして、実用性を高めていくことになる」と述べた。

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