緒方恵美さん「逃げちゃダメだ」――コロナ禍によるライブエンタメ業界の危機を語る

文●渡辺由美子 編集●村山剛史/ASCII

2021年04月24日 17時00分

声優そしてアーティストとして長年音楽活動を続けている緒方恵美さん、そして緒方さんの音楽活動をサポートするランティスの吉江輝成プロデューサーに、コロナ禍におけるライブエンターテインメントの実情を伺った

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緒方恵美さんが語る、ライブ業界の現状

 緒方恵美さんは『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ役などで知られる人気声優だ。現在でも『ダンガンロンパ』『花子くん』等で主役を演じ、声優として最前線を走り続けるトップランナーでもある。

 一方で、音楽活動のキャリアも長い。2000年代からはランティスに在籍し、ロックを中心にオリジナル楽曲を制作、全国ツアーを回るアーティストの顔も持つ。

 近年では事務所を設立し、経営者となった緒方さん。新型コロナウイルス感染拡大防止策に端を発した音楽業界の危機に直面し、演じる側と支える側の苦境を両方一度に味わった。

 「このままではかなりの音楽関係者が仕事を辞めざるを得ない」。

 コロナ禍で最も打撃を受けているといわれるライブエンターテインメント業界でいま、何が起きているのか?

 今回は「ランティス」レーベルで、緒方さんの音楽担当を務めるプロデューサー吉江輝成さん(株式会社バンダイナムコアーツ 音楽 プロデュース本部 音楽プロデュース統括部チーフプロデューサー)にも同席いただき、無観客での配信ライブや、アーティストが置かれた現状などについて広く伺った。

「コロナをうつす気ですか」

―― 緒方さんは新型コロナウイルスによる自粛要請(2020年2月26日)が出た直後の2月29日に「無観客」の生ライブ配信を実施されました。これは国内アーティストとして先駆けとなるものでした。

緒方 そうですね。おそらく一番最初に無観客配信ライブを実施したアーティストの1人だと思います。

 2月26日に政府からイベントの自粛要請が出たのですが、私はちょうど「M's BAR2020」という全国5都市ツアーの真っ最中。3日後の2月29日には、福島県郡山市でライブを開催する予定だったので、どうするか決めかねていました。

 当時はまだ、私もスタッフも新型コロナに関する情報が乏しく、事態を把握できていませんでした。それは現地も同様で、お客さんからは「待っているから来てください」という言葉をいただいていました。

 それで、「大きなイベントは控えろということだけど、小規模であればいいのでは?」という話も出て、一旦は、このまま開催しようということで動いていたんです。

 けれども、1通ですが、私の公式Webサイトの問い合わせフォームに投稿が届いたのです。「東京からウイルスを持ち込んでコロナをうつす気ですか」と。あっ、と思いましたね。

―― 新型コロナウイルスは感染力が強い、という情報が全国で少しずつ広まり始めた頃ですね。

緒方 個人的には東日本大震災以降、福島だけは何らかの形で応援したいと思い、単体開催では赤字になるのはわかりつつも、ここ10年ほどツアーには郡山をできるだけ入れていました。だから自分としては地元の人に寄り添っていると勝手に思い込んでいたのですが、「うつす気ですか」という投稿が来てしまった。悲しいけれど自分の考えも甘かったし、ぬるかったです。

 それならツアーはやめたほうがいいだろうなと思い、見送りました。

―― それで代替として、無観客の配信ライブをされたわけですね。

緒方 赤字になるのはわかっているのですが、みんな元気を出していこうよというメッセージを出すためにやりました。それでスタジオから無観客で無料配信をしたのが最初です。

―― 無観客の上に、無料配信だったのですね。

緒方 はい。それでも出費は、メンバーが所有しているスタジオのレンタル代と、メンバーへのギャランティーだけだったので、赤字は赤字でも、このときはまだ、大したことはなかったんです。

 いま振り返ると、新型コロナによる音楽エンタメ業界への打撃は始まったばかりで、あれからさらにひどい状況になっていくとは思いもしませんでした。

「ライブ配信にお金を払う」を新しい習慣に

―― その後、6月6日にはクラウドファンディングという形で無観客の無料配信ライブを成立させています(緒方恵美LIVE「Hang In There, Dears!」無観客ライブ)。なぜチケット課金ではなく、クラウドファンディングにされたのでしょうか。

緒方 3月から5月までの間を見ていても、お客さんが「ライブの配信動画にお金を払う」という空気が醸成されていないと感じたからです。

 まだ配信でお金をいただくという時期ではないだろうと。それでも毎年6月6日に開催していた私のバースデーライブは、お客さんも楽しみにしてくれていました。

 だからスタジオから無観客で無料配信するというフォーマットは前回のままにして、代わりに“ライブのためにお金を出せる人は出していただけたらありがたい”ということで、グッズなどのリターン付きでクラウドファンディングに踏み込みました。

―― クラウドファンディングはわずか46分で目標金額の700万円を達成とニュース等で報じられました。最終的には支援総額1200万円以上になりました(【緒方恵美】「出演作アニソンカバー&エールロック」無観客ライブを、全世界無料配信

緒方 大変ありがたかったです。

 ところが、実際にライブをやってみたら、問題は金銭面に留まりませんでした。

1000人以上の支援者を得てクラウドファンディングは目標金額を達成した

初の無観客ライブに戸惑う「どこに目線を……」
「静まり返る現場でアップテンポの曲を演るのがキツい」

緒方 無観客配信ライブをやってみて「無観客」であることの難しさを痛感しました。

 金銭面は後で詳しくお伝えするとして、まずはメンタル的に『ダメだ』と思ってしまいました。

 最初の気付きは「感覚のズレ」です。私と活動しているメンバーは、ミュージシャンもPA(音響)チームもほぼ同じ。いつもはリハーサルに入れば毎日のように現場で会っていた人たちです。

 ところが3月に現場がなくなり、緊急事態宣言が出てからは3月、4月と丸々2ヵ月間メンバーと会えない時期を経て、6月ライブのリハーサルに入ったんですけど、入った途端に『あれ、おかしいな?』と違和感を覚えました。

 ベーシストが、「生ドラムに合わせてみたら、何か指が柔らかい気がする」みたいなことを言い出したり、PAチームが音を何度も確認しに来ては首を傾げたり。いつもと同じスタジオで演奏しているのに、ほんの0.1秒ほどですが、プロの職人が気づく感触の違いが出てしまう。ずっと続けていれば問題なかった。でも急に止まった「2ヵ月間」――ブランクの影響は確実にあると知った瞬間でした。

 感覚はリハーサルを進めるうちにもちろん戻ったのですが、当日、「無観客」には根本的な問題があることがわかったんです。

―― 無観客はどんなところが難しいのでしょうか?

緒方 ステージに上った途端に、『お客さんがいないのに、私はどこを見て歌えばよいのだろう……』と。目線がわからなくなってしまったんです。

―― 目線がわからない?

緒方 私はいつも、ライブコンセプトとして、「お客さんのために」歌ってきました。そうすることで私も逆に受け取れる。いわばお互いに相手を応援して自分も元気をもらうという“エール交換”になるのですが、会場にお客さんがいない。いつもはお客さんをガン見しながら歌っていたのに、客席のどこを見れば目線が合うのかわからなくなってしまったんです。

 無観客配信は、テレビ等の動画収録のようなものだというイメージがありました。でも全然違った。というのも、いわゆるテレビ番組の場合はカメラが複数あってスイッチングしています。そのなかで、今お客さんに見えている映像を撮っているカメラには赤いランプが点きます。だから“ランプが点いたカメラの向こうにお客さんがいる”とイメージできるので、そのカメラに向かって歌えばいい。

 でもライブ配信は、配信動画の演出の邪魔になるのでランプが点灯しません。なので、何台もあるカメラのどれを見ればお客さんと目が合うのかわからなくなってしまった、というわけです。

―― “配信はテレビ中継のネット版”という位置づけで考えていたのですが、実際は、まったく異なるものだったのですね。

緒方 はい。初めて無観客配信したアーティストがまずつまずくのが、そこだと思います。

 そして歌い始めてみたら、スタッフや関係者の方が50人ぐらい、客席とは違うエリアにいることがわかってほっとしたのですが、みんな、リアクションを抑えて静まりかえっているんです。

 なぜなら生配信中なので、自分たちの音が入っちゃいけないと思ってるから。

 そうすると、普段のライブなら、始まりとともにワーっと歓声が上がる歌が、バーンと音を鳴らした途端に、会場の声がシュッとなくなり、シーンと静まりかえってしまう。アップテンポの曲であればあるほどキツい。次はどう行こうかと、お客さんの反応を見ながらテンションを上げていくことができないんです。

 私は、ライブが進むほどテンションが高まって声が大きく出るタイプなのに、そのときはだんだん緊張で体が固くなり、声が出なくなってしまった。“観客が見えない”というのはこんなに怖いものなのかと思い知りました。

 だからアンコール1曲めのバラードを、目をつぶって歌ってみました。そうしたらようやく感覚が戻ってきて少し安心しました。

流れるコメントで「観客がいた」ことを実感

―― 無観客配信というのは、それほどまでにメンタルを削ってしまうものなのですね。

緒方 はい。それでも打ち上げでは少し復活できました。昨年6月の時点では、マスク+フェイスシールドをして少人数でささやかに打ち上げをすることができたんです。

 当時、アーティストがハコを使えないために稼働がほぼゼロになっていて、ライブハウスさんの経営が苦しくなり始めていたとき。だから少しでもライブハウスにお金を落とすという意味も込めて、ライブをしたハコよりずっと小さいライブハウスさんを、打ち上げ会場としてお借りしたんです。

 その場所で、配信したばかりのYouTube動画をスクリーンに投影したら、配信を見てくれていたお客さんのコメントがバーっと目に飛び込んできました。そこでようやく、お客さんの存在が実感を持って胸に飛び込んできた。バンドメンバーと一緒に喜び合い、やって良かったという実感が湧いてきました。

―― 配信の向こう側にお客さんがいるということを、ステージの後で感じたわけですね。その無観客ライブは私も見ていましたが、最大で6000人ぐらいが同時に視聴していました。

緒方 無料配信だったので、見てくださる方も多かったと思います。

 これが「配信でチケットを買ってもらう」となると、敷居がぐんと上がってしまうんです。

戸惑いを覚えつつも演りきった無観客ライブ。配信サービスで流れるコメントを見たことで、あらためて観客の存在を感じたという

意外!?「配信ライブを経験するとメンタルをやられる」

―― 他のコンテンツを見ても、「無料」と「課金」では、ユーザー数が大きく異なります。

緒方 まったく違いますよね。現地会場に入場できるわけではない、動画単体でもお金を払ってくれる人は、かなり限られているだろうなと、クラウドファンディングの最中から感じていました。

 6月の無料配信ライブはやって良かったけれども、「次」はどうしたら成立できるんだろうと悩みました。

―― やはりマネタイズが課題なのですね。それはどのように?

緒方 ……その前に、ひとりで鬱になっていました。夏の間ずっと。

 先駆けて配信を始めたぶん、他のアーティストよりもひと足早くメンタルにきたのかもしれません。

 音楽仲間が「これから配信ライブをやるんだ」と笑顔で言っているのに、「配信でメンタルを保つのは大変だから気を付けて」とは言いづらく、ひとりで抱えて沈んでいました。

 だけど落ち込んでいる間にも、あちこちのライブハウスさんから営業の電話がかかってくるんです。「うちでライブをやってもらえないか」「緒方さん、こないだライブをやっていたじゃないですか。うちでもお願いします」と切実な声で。どうしたらいいか、わからなくなってしまいました。

―― アーティストがライブを開催できない状態が続く……ということは、場所を提供するライブハウスの経営が厳しくなってくる。

緒方 はい。緊急事態宣言による自粛が明けても、ライブは規制が厳しくて、お客さんも足を運ばないという状態になりました。

 だからライブハウスに少しでも貢献したいと思い、まず7月にLOFT9 Shibuyaさんで、アニメスタッフやクリエイターさんたちと計3回ほどトークライブをやりました(【ロフトグループ応援企画トークライブ】「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」開催!)。

「チャージ方式」でライブ配信
視聴者がチケットを“追い買い”!?

―― Loft系というと、これまでも新宿ロフトプラスワンなどのトークライブには、会場に行けない人が「配信チケットを買ってお金を払う」というシステムと土壌がありました。そして、緒方さんが悩まれた「次」の配信ライブですが、早くも8月には実現されています。どのような形態を考えましたか?

緒方 8月は、「M's Bar」という、長年続けている洋楽のカバーライブをやりました(8月26日「M's BAR 2020“Delivery Home”」)。このときのM's Barでは、お客さんに「配信にお金を払う」という習慣を身に付けてもらえたら助かると思い、お客さんに心理的にも負担が少なく、楽しい形でチケットを買ってもらえる工夫をしました。

 このM's Barは、いつものロックのライブとは違い、飲食ができるライブハウスで生演奏を聴いていただく、という大人っぽいスタイルが特徴です。コンセプトとしては、ホテルのバーとかジャズバーの生演奏ですね。

 そこでマネタイズにおいても、バーでの生演奏と同様の「チャージ方式」を取り入れることにしました。アーティストが1日に2~3回演奏して、お客さんはその回ごとに会計するというスタイルです。

 そのときはM's Bar自体を3部構成にして1回1000円。そして、3回通しチケットを買ってくれた人にはメンバーのお礼動画付き、という形であれば気軽に参加してもらいやすいと思いました。

―― なるほど!

8月の配信ライブでは「1回20分前後の入れ替え制で3ステージ回す」という方法が採られた

緒方 「皆さんのお家がバーになります。ご飯を食べたりお酒を飲んだりしているときに、我らがハウスバンドとして演奏します」というコンセプトにして、企画も“お客さんのリクエストで歌います”と事前に募集をかけてリクエストで多かった曲を歌いました。

―― 当日、配信ライブを見ているお客さんたちのTwitter実況が流れてきたのですが、マイケル・ジャクソン「スリラー」のコーラスに感動して「第2部のチケットも急いで“追い買い”した」とのことでした。配信ライブでは、ネット実況によって飛び込みのお客さんも増えそうです。「配信にお金を払う習慣をつけてもらう」という課題はクリアしたとして、もう1つの課題である「無観客はモチベーションが保てない」という点は進展ありましたか?

緒方 じつはこのM's BARのDeliveryシリーズでは、お客さんを少しだけ入れてみたんです。140人キャパ(収容)の会場に30人だけ。

 でもお客さんがいると、モチベーションが全然違いました。

 配信を見ていたお客さんたちも、会場からのリアクションや、手を降っているシルエットが見えたりして、すごく良かったと喜んでくださったんです。『良かった、この形式はやれそうだ』と思いました。

 そうやって試行錯誤しながら段階を踏んで10月にもう1回、M's BAR(「M's BAR 2020“Delivery Home -Trick or Treat?-”」をやってみたんですが……ショックな出来事が起きました

わずか30席が埋まらない理由

緒方 30人限定の現地会場チケットが、10月になってもまだ残っていたんです。9月に販売開始したのに、10月になっても30人の枠が埋まらない。9月の販売開始直後に動いて以降、かなりギリギリまで埋まりませんでした。

―― 緒方さんのライブといえば、コロナ禍以前は数百人規模の会場があっという間に売り切れていた印象です。それが、わずか30枚にもかかわらずギリギリまで売れ残ってしまったと……。信じがたい話ですが、その理由はなんでしょう?

緒方 東京との温度差が激しく、地方の人は上京しづらいからです。東京の場合、夏にはイベント制限も緩和されてライブハウスに行ってみようという空気になってきていました。けれども地方では、東京に行きたいと思っても、家族や職場から「絶対に行かないで」と止められたりします。

 東京に住む私たちも、最初は電車に乗るのもちょっと怖いなと思ったけど、みんなマスクを着けて黙っているし、換気はしているし、大丈夫かなという空気になっていました。

 だけど地方の人はやっぱり怖いんだな、と気がついたんです。

 M's Barは、2つの使命で動いていました。

 まずは「配信にお金を払う習慣」を身に付けてもらうこと。もう1つは、我々が徹底的に感染対策をすることで、「ライブハウスは怖くない」というイメージを持ってもらうことです。

 来てくださった30人のお客さんは、ライブハウスは安全なところだと認識してくださったと思います。ただ、現地以外の大勢の方には伝える手段がなかなかないのが難しいところですね。

「配信にお金を払う習慣」をもってもらうため、積極的に配信ライブを実施する緒方さん。「配信エンタメ」のマネタイズ化は業界全体の課題といえるだろう

配信チケット特有の売れ方が
運営側のメンタルを追い込んでいく

緒方 さらに言えば、配信チケットがライブ直前まで売れないこともキツいです。

 配信ライブを経験したアーティストたちと情報を共有しているんですけど、どこもだいたい同じ状況で、本番の前々日にチケットが2~3割しか売れていない。そこから前日と当日で売れ行きが増していき、下手すると当日の開演時間以降にアーカイブ視聴用としてチケットが購入される、ということもあります。

 配信が始まったばかりの頃は、もっと早い段階でチケットが売れていたのですが、お客さんも配信に慣れてきたのか、『ギリギリでもいいか、どうせ先着順じゃないし……』という心理になっているのだろうなと想像しています。

―― チケットが直前まで売れないと、どういったことが問題になるのでしょうか?

緒方 アーティストやスタッフのメンタルを直撃します

 M's Barの配信ライブに関しては、最終的には若干黒字にはなっていますけど、やはりチケットがギリギリまで売れていないと、本人と制作スタッフがメンタルをやられるんですよ。

 『前々日なのにまだチケットがこれだけしか売れていない。どうしよう、相当やばいぞ』と関係者は思う。それはどこの現場でも聞く話で、普段は5000人を集めるようなアーティストでも、2日前で配信チケット数十枚しかはけなかったという話も聞きました。

―― それは言葉を失いますね……。

緒方 逆に、もしチケットが早い段階で完売していたら、「よし、演出でこれを一個プラスしましょう」とか、いろいろな企画が追加できるわけです。みんなも明るい気持ちで「完売しました、張り切って頑張りましょう!」とステージ前にモチベーションが上がる。

 だけど、前々日の段階で「チケットがこれだけしか売れていないんだ」とか、一緒にステージに立つサポートメンバーにはとても言えない。数字を聞いたアーティストやスタッフは、表立って言えない悩みをライブ中まで抱え込むことになるんです。

―― 緒方さんは事務所を経営されているということで、運営側に近い目線になるのでしょうか。

緒方 それもあると思いますが、プレイヤー側であるアーティストは、メンタルが落ちても笑顔でステージに立たなければならないのがキツいです。『大きな赤字になるかもしれない。どうしてだろう。何が悪かったんだろう……』という気持ちを抱えたままステージに上がらないといけない。これはどんなアーティストでも同じ気持ちになると思います。

すでに主催者も政府の支援・補助が必要な状況

―― ここでランティスさん側の視点も伺ってみたいと思います。緒方さんから、「地方のお客さんが来ない」「チケットが売れない」というお話がありましたが、現在のアニメ音楽業界の状況をお聞かせ下さい。

吉江 地方の方々が現地会場に来られないというのは、どこも似た状況ではあります。通常ならのべ4万人来場する大規模イベントでも、今年はトータルで4000人だったという話も聞いています。まだお客さんの抵抗感や心理的な壁は大きいなと思います。もう少し状況が変わってこないと難しいのかなというのが正直なところですね。

現在、さまざまな施策を打ち出しながら模索中だという。後編では吉江プロデューサーにその施策の一部をご紹介いただく

緒方 とあるライブでも、5000人キャパの会場で、1200~1300人入れる予定だったのに、現地チケットが600枚しか売れなかったという話も聞きました。マジか、とびっくりしました。配信でペイ(回収)できたのかもしれないけれども。

吉江 そういう話は枚挙にいとまがないというか……。僕らも、少しでもアーティストさんや音楽スタッフに還元したいので、配信や物販、感染対策など実施しつつ、模索中です。

 緒方さんには「模索している間にライブがなくなっちゃう」と言われてしまいそうですが、でも何もしないよりはよいので、トライ&エラーを繰り返しているところですね。

緒方 どこの会社も企業努力はし尽くしていると言ってよいほど努力しています。けれども、現状のままだと、もう限界ではないかなと思います。

 私も、11月には参議院議員の藤末健三さんに、ライブエンターテインメント業界の危機についてお話をさせていただきました(コロナ禍における音楽・エンタメ業界の状況を聴かせていただきました」2020-11-09)。

 これ以上はもう、政府の支援や補助がないと、音楽業界は潰れてしまう。お客さん向けの施策に留まらず、主催者側も支えていただかないと、本当に厳しいなと。

―― ありがとうございました。次回は配信のマネタイズなど具体的なお話を詳しくお伺いしたいと思います。

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