ファーウェイのモバイル向け独自OSは「Androidのフォーク」という海外報道

文●末岡洋子 編集● ASCII

2021年02月10日 12時00分

 米中対立から始まり、スマートフォン事業で窮地に立たされているファーウェイ。活路を見出すべく開発したのが「HarmonyOS」という独自OSだ。これからスマホ向けとして開発者にアピールするという段階で、このOSが「Androidのフォークに過ぎない」という記事をArsTechnicaが掲載し、大きな話題になっている(https://arstechnica.com/gadgets/2021/02/harmonyos-hands-on-huaweis-android-killer-is-just-android/)。

SDKの入手段階から課題多し?
IDやクレジットカード情報の登録が必要

 ArsTechnicが2月3日付けで掲載した記事、「Huawei's HarmonyOS: "Fake it till you make it" meets OS development」は、Ron Amadeo記者が実際にファーウェイに申請して、Harmony OSのSDKを入手してエミュレーターで動かすなどして、レポートしたものだhttps://arstechnica.com/gadgets/2021/02/harmonyos-hands-on-huaweis-android-killer-is-just-android/)。

 すでに本連載でも紹介したが(「ファーウェイがいよいよ独自OS「HarmonyOS」をスマートフォンへ モバイル版ベータを公開」)、ファーウェイは昨年12月に発表した「HarmonyOS 2」で、スマートフォン向けのベータ版を公開している。HarmonyOSは「Hongmeng(鴻蒙)」とも呼ばれ、2019年の「Huawei Developer Conference」で公開された。当初はスマートTVなどで採用されている。だが米国の厳しい措置により「Google Mobile Services」を採用できなくなったことから、急いでスマートフォン向けとして位置付けを拡大させた。

 さて、前述のArsTechnicaのAmadeo氏のレポート、結論を先に明かすと、「(モバイル端末向けの)HarmonyOSは、基本的にAndroidのフォーク」という内容だ。

 Amadeo氏はHarmonyOS 2を実際に試すべく、ファーウェイのサイトでアカウントを作り、開発者としてサインアップをするというプロセスからレポートしている。これは、Amadeo氏が中国外からアクセスするからだ。その過程で、名前や住所などの情報に加えて、身分証明書やクレジットカードの写真を送る必要があったという。ファーウェイはこれらの内容をマニュアルでレビューしており、許可を終えるのに1~2営業日を要するそうだ。

 AndroidやiOSのSDKを入手するのは、実質的にダウンロードボタンをクリックするだけであるのと比較しながら、「なぜファーウェイは自分のすべてを知りたがるのか? なぜ2日を要するのか?」と記している。なお、このプロセスを回避してどこか別のところからSDKを入手したとしても、ファーウェイのレビューを経て承認されたアカウント無しには、エミュレーターを動かすことができないとも付記している。

エミュレーターで見る限り、Androidとの違いは見つけられず

 Amadeo氏がフォークとする所以は、エミュレーター(おそらくは中国にあるリモートエミュレーター)を動かした結果、遭遇したいくつかの事象からだという。

 まずは、ファーウェイ端末で採用されている「EMUI」と同じ画面が出てきたという。単にEMUIをHarmonyOSにポーティング(移植)しただけでなく、「端末情報」に行くとHarmonyOSと表示されてはいるものの、アプリ一覧にはAndroid Service Library、Android Shared Libraryなどが並んでいたとのこと。それをスクリーンショット付きで伝えている。

 そして、HarmonyOS Systemパッケージのアプリ情報には、Androidが使う緑のシステムアイコンとともに「Version 10」の文字が。「ふむ。。HarmonyOSはバージョン2ではなかったのか?」と指摘。そして”バージョン10”とはAndroid 10と見て、HarmonyOSはAndroid 10をベースとしていると推測している。根拠の1つが、アプリストアのApp Galleryにたくさんのアプリがあり、システム情報アプリを利用すると、動作中のOSは「Android 10 Q」と表示するという。

 合わせて、まだ開発中のOSであるはずなのに機能や設定などの充実ぶりについても、「もし、HarmonyOSが本当に”新しい”OSなら、ファーウェイのエンジニアの仕事ぶりは信じられないレベル」「HarmonyOSを数時間あれこれ試してみたが、Androidと比較した時に大きな違いを1つたりとも見つけられなかった」とAmadeo氏は記している。

 「OpenHarmony」と呼ばれるオープンソース版についても、現時点でのコードはバージョン1.0となっているという。OpenHarmonyのリポジトリはファーウェイのIoT向けリルタイムOS「LiteOS」を使っており、そこにあるアプリはAndroidアプリではないとのこと。HarmonyOS 2.0のエミュレーターとはまったく別物のようだとしている。

ファーウェイ幹部は1月にAndroidとは違うと主張

 ArsTechnicaの記事のタイトルは「成功するまで、成功しているふりをせよ」(Fake it till you make it)というもので、このフレーズは通常は実現までのモチベーションを高めるのに用いられるが、「OS開発でこの考えを応用した例を知らない」とAmadeo氏は皮肉っている。

 ここで付け加えるなら、Androidのフォークであること自体が問題というわけではない。記事でも触れているように、Androidのフォークは可能だし、たとえばAmazonもAndroidのフォークである「Fire OS」を自社のタブレット製品に用いている。

 しかし、AmazonはFire OSがフォークであることを明示しているのに対し、ファーウェイはそうではない(ドキュメントで「Android」を検索したところ、FireOSでは67件ヒットしたのに対し、HarmonyOSは0件だったそうだ)。ただ、ファーウェイのコンシューマーソフトウェア事業プレジデントのWang Chenglu氏は1月に、ファーウェイは「2016年5月からOSの開発を進めている」「IoT時代に幅広い機会をもたらす(点が異なる)」などと語っているという。

 GizChinaが、ファーウェイが示したという3つのOSの違いを中国語で説明したチャートを掲載しているが、ハードウェアプラットフォーム、成長分野、長所、短所、アプリ開発の5つで位置付けを比較しているに過ぎない(https://www.gizchina.com/2021/01/13/huawei-here-are-the-main-differences-between-harmonyos-ios-and-android/)。

 なお、HarmonyOSの公式サイト(英語版)では、「HarmonyOS 2.0(ベータ)は新しく、分散型OSの改善バージョン」と銘打ち、すべてが繋がった世界で”スーパーデバイス”体験をもたらすとしている(https://www.harmonyos.com/en/version-harmonyos2/)。

 Wang氏は、HarmonyOSを2021年中に2億台以上のファーウェイデバイスに実装することを目指していると語っている。また、サードパーティーデバイスでも、1億台以上の実装を目指すそうだ。中国外でのデバイスのシェアが落ちる中、ArsTechnicaの記事によりHarmony OSは出鼻をくじかれた格好だ。

筆者紹介──末岡洋子

フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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