一目惚れしたTrackPoint付きキーボード「Shinobi」を衝動買い
文●T教授 撮影●T教授 編集●ASCII
2020年11月05日 12時00分
毎年、台北で開催されるICT系イベントであるCOMPUTEX TAIPEIには、この10年近くほとんど参加している。しかし残念なことに今年はコロナ禍で大会の開催そのものが流れてしまった。ICT業界にとっても今年はそんな悲しい残念な時代ではあるが、幸いにも年初に以前から目を付けていた台湾のキーボード会社であるTEXのShinobi(忍)と名付けられた、TrackPoint付きのスペースセーバーキーボードを手に入れた。
Shinobiとの出会いは、一昨年のCOMPUTEX会場でデモ展示されていた、プロトモデルに触れたのが最初だった。見るからにThinkPadのキーボードレイアウトをベースに、チェリーのメカニカルキースイッチを採用し、純正のTrackPointをGとHとBの中間に収めた商品だった。
Shinobiを触っていると、どこから見ても某社関係者のアドバイスやサジェスチョンの反映されたイメージを感じてしまう。ブースの中にあった何台かのShinobiのプロトモデルの1台には、パームレストに某研究所のよく知るエンジニアのサイン入りモデルが1台展示されていた。
初めて買ったShinobiは、今年の年初に届いた英語キーボードモデルだった。筆者はThinkPad 25というモデルの液晶フタを閉めて大型曲面ディスプレイの裏側に立てかけて、普段は外付けのThinkPadキーボードでデスクトップPCのような形態で使っている。
ThinkPad 25も、現在使っている外付けのThinkPadキーボードも日本語JISキーボードなのだが、ついつい英語キーボードのShinobiのスッキリしたレイアウトに惹かれて衝動ポチをしでかしてしまった。しかし慣れないキーボードではやはり入力はたどたどしく、結局のところ日本語JISキー配列のShinobiを再び購入することにした。
英語キーボードモデルではチェリーの青軸モデルだったが、新しくオーダーする日本語JISキーボードモデルは青軸よりキータッチが多少重くて打鍵音も少しデッドな響かないサウンドの一番値段の高い緑軸にした。
実は、Shinobiを初めて見た年の夏に、数人の遊び仲間達とジョークで「KACHA」というニックネームの手遊びガジェットを企画してクラウドファンディングでバッカー募集をした。目標は早々にクリアしたのだが、何より楽しかったのは製品の企画段階だった。
製品はチェリー青軸のメカニカルスイッチを3個だけ使い、Ctrl-Alt-Delの3種類のキーキャップを取り付け、IBM PC-ATのシリコン外装に収め"何時でも人生は再起動できる"の意味を込めて"Reboot Anytime"といういい加減な商品名を付けた。実はその時の限定モデルや青軸の交換オプションとして提供したのが、当時はまだ数少なかった緑軸のメカニカルキースイッチだった。
キースイッチの決定時には、キーボード製造メーカーさんにうかがい、いろいろなキースイッチを試した結果、緑軸は一番タッチやタクタイル感の気に入ったキースイッチだったが、当時は限定数提供のキースイッチであり、コストも一番高かったのでKACHAに使用するキースイッチは2番目に気に入った青軸となったのだった。
そんな憧れの緑軸をいっぱい使った日本語JISキーボードが台湾からやっと届いた。今回送られてきたShinobiは最初送られてきたクラウドファンディング版の英語キーボードとパッケージも異なっていた。ブランドロゴがないだけのどこかのモバイルPCのような段ボールパッケージに入って届いた。
既視感のあるタイトルが物々しいパッケージが到着
パッケージを開けると、最初に目につくのは"超機密 鍵盤補完計画 第7次完整報告書"と書かれた分かるようでよく分からないタグライン。キーボードの付属品は、専用USB Type-Cケーブルと、TEXロゴ付きのケーブルタグ、交換用キーキャップ(Mac対応のCmdキーもある)、コンパクトなキーキャップの引き抜きツール、TrackPointキャップ、キースイッチの消音リングだ。
世界的に有名なチェリーのキースイッチには、その重さや打鍵時の音、タクタイル感などによって10種類以上のスイッチが発売されている。日本人の多くはそのおとなしい国民性から赤や茶、白、グレー、透明などの静音系のキースイッチを好む人が多いようだ。
しかし学校を卒業して外資系コンピュータメーカーに入社し、大型機の端末で仕事を始めた筆者は、それまでの腑抜けたパコパコと鳴るパソコンのキーボードから一転して、リズミカルでメカニカル、タイトでタフなカチャカチャ音に魅了されてしまった。
今でもキーボードとそのキータッチは1981年の発売以来大きく変化していない、小さいけど重そうなIBM PCのスペースセーバーキーボードがすべてのリファレンスになっている。ちなみに今回購入したハードでタフな"Shinobi 日本語JIS配列・緑軸メカニカルキースイッチ搭載キーボード"を実測して見たらなんと1152gもあった。
夢中でキーボードを打鍵している最中に、少しでも本体がズレたり動いてしまうなんてのは、セロハンテープを引っ張ると本体が付いてくるようなテープディスペンサー以下だと思っている。
計測ついでに、筆者の長年のリファレンスキーボードであるテンキーなしのIBM PCスペースセーバーキーボードの重量を測ってみたらなんと1776gもあった。パソコン創成期から持ち歩きが目的のキーボード以外では、重量はキーボードの安定性や打鍵音、確実性などを示す重要な要素なのだ。
7段キーボードはもとよりどの角度から見ても美しい
そしてShinobiのキーはThinkPadユーザの多くが憧れる7段キーボード、エンター(改行)キーやバックスペース、ページアップ・ダウン、の各キーの右側には一切の余分なキーがないこと。十分な数のキートップがあるので、目障りなキーキャップ前面にAltキーとのコンビネーションで機能する得体のしれない機能表示印刷がないこと……など、コンピュータのキーボードとしての最低限の約束とエチケットをわきまえ、スッキリと割り切ったところが素晴らしい。
トラックポイントの赤いポッチ部分と、マウスの左右、中央のスイッチに該当する3個のキーの配列も従来のThinkPadや純正の外付けキーボードと同じくきれいな正三角形を描き、長年TrackPointの操作に慣れた人も何の違和感もなく即座に扱えるものだ。
コンパクトさの追求とパームレストのサイズは相容れない問題だが、1kgを軽く超えたShinobiはコンパクトさや屋外での持ち運びより操作性を重視し、大きなパームレストを採用している。これはIBM及びレノボの一世代前のThinkPadキーボードと同様のコンセプトだ。いずれにせよ両手でキーノードを打つ場合には、このパームレストにあたる部分はほかの目的では使えないデッドスペースになるので、持ち歩きを前提としないのであれば、Shinobiのパームレスト拡張は理にかなった発想だ。
また普段は目立つことのないShinobiの底面は、遊び心が一杯だ。出荷時期かモデルの違いか2台しか購入していない筆者にはよく分からないが、機種番号やシリアルを記載する底面中央に貼ってあるラベルが能面だったり、花魁だったりとなかなか楽しい。
底面にあるキーボード全体の傾きを変えるリトラクタブルスタンドは昔のThinkPadキーボードのように2段階調整ではなく、昨今のThinkPadキーボード同様の一段だ。そして専用インターフェースケーブルはありがたいUSB Type-CケーブルのL字プラグだ。往年のThinkPadのようなエンターキーのキーキャップだけが、IBMブルーなのもセンスを感じさせる仕様だ。
Shinobiは、理由のある重さ、デッドニングされたボディと全体バランスや快適な打鍵感を保証するチェリー緑軸の素晴らしさだけではなく、ユーザニーズやユーザエクスペリエンスをも継承し、コミットする姿勢が貫かれている。
キーの変更や置き換え、マクロ設定も可能
昨今では多くのキーボードも搭載しているFnキーやCtrlキーの場所の変更、AltキーとWinキーの置き換え、マウスの3つのボタン(キー)の機能の切り替え設定などの多くを、Shinobiも付属のオプションキーキャップの交換と背面のDIPスイッチで簡単に変更管理できる。
加えてTEXのウェブサービスである"TEX Shinobi Web Configurator"にブラウザでアクセスし、あったら良いな感覚のキーボードマクロをその場で作成し、任意でどのキートップにも割り振り設定することも可能だ。
筆者のようにThinkPadをフタを閉めてデスクトップPCのように使って、キーボード以外のすべてをディスプレイの裏側に追いやって隠してしまっていると、毎回行う儀式のようなスリープ操作も、TrackPointでやるなら3ステップ、ショートカットキーでやるにもカーソル移動をカウントせずに3ステップ必要だ。
ショートカットをアイコンとして登録してマウスカーソルでクリックすることもできるが、デスクトップにはゴミ箱以外は表示したくない。そんな時でも、ShinobiのTEX Shinobi Web Configuratorなら、ガイドに従ってマクロを簡単入力作成、そして任意のあまり使っていないキーにリマップすればすぐにスリープ専用キーになってしまう。
あとは、サーバ側で自動的に生成されたリマップ情報の入ったTEXファイルをダウンロードしてShinobi内部のメモリーに展開格納してリスタートすれば完了だ。
Shinobiは、1981年のIBM Space Saver Keyboardの時代にクラフトマンが培ったアナログ的な良さと、2020年のネットとアプリの仕組みの良さをハイブリッドし、チェリーの緑軸という世界最高のキースイッチに載せた今日現在で最高のキーボードだ。もちろんすぐにでもバックアップ機を追加で発注するつもりだ。
今回の衝動買い
アイテム:TEX「Shinobi-JAPANESE/Green(日本語JIS配列キーボード:チェリー緑軸)」
・購入:TEX
・価格:199.00 USドル(約2万1000円)(送料別)
T教授
日本IBM社でThinkPadのブランド戦略や製品企画を担当。国立大芸術文化学部教授に転職するも1年で迷走。現在はパートタイマーで、熱中小学校 用務員。「他力創発」をエンジンとする「Thinking Power Project」の商品企画員であり、衝動買いの達人。
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