b8taとシチズンRiiiver、ニューノーマル時代に「新しい常識」を作る力

文●山本 敦 編集●飯島恵里子/ASCII

2020年09月03日 08時00分

左からシチズン時計でRiiiverの総責任者としてプロジェクトを統括する大石正樹氏、ベータ・ジャパンのカントリーマネージャーである北川卓司氏

 2015年に米国サンフランシスコに誕生した「b8ta(ベータ)」は、さまざまなカテゴリーやメーカーの垣根を越えてひとつの場所に集まる製品を来客が自由に体験・購入できるユニークな体験型店舗だ。

シチズンのIoTスマートウォッチ「Eco-Drive Riiiver」は、b8ta 有楽町店、新宿店の双方で展示されている

 このほど米国以外ではドバイに続いて、8月1日に日本初上陸。東京 有楽町、新宿に同時オープンした2つの店舗には、シチズン時計が2019年に発表した独自のIoTプラットフォームサービス「Riiiver(リィイバー)」に対応するスマートウォッチ「Eco-Drive Riiiver(エコ・ドライブ リィイバー)」が展示されている。

 「ショップ」と「ウォッチ」、それぞれに異なる領域で常識破りなサービスに挑む両社の出会いが前向きなシナジーを生むのだろうか。今回はベータ・ジャパンのカントリーマネージャーである北川卓司氏と、シチズン時計(以下、シチズン)でRiiiverの総責任者としてプロジェクトを統括する大石正樹氏の二人にそれぞれのユニークなサービスを語ってもらった。

JR山手線・有楽町駅から徒歩約3分の有楽町電気ビル1階に位置する「b8ta Tokyo – Yurakucho」

b8taで話題の製品が心ゆくまで体験できる

 b8taの有楽町店「b8ta Tokyo – Yurakucho」はJR山手線・有楽町駅から徒歩約3分の有楽町電気ビル1階にある。営業時間は午前11時から午後19時半まで。

 店舗に足を踏み入れると、デジタルガジェットからライフスタイルグッズ、コーヒーにコスメティクスまで多彩な製品が広々としたスペースに並んでいる。北川氏はオンラインの場合、ストアの製品やニュースのトピックスはユーザーの行動履歴をAIが学習した結果をレコメンデーションしてしまうため、興味の範囲外にある面白そうなものにユーザーが出会える機会を遠ざけてしまうと指摘する。そのためb8taではあえてワンフロアにカテゴリーの異なるアイテムを雑多に集めて、来客が面白いものと出会いやすいようにレイアウトに工夫を凝らしているそうだ。

 店内には製品を丁寧にガイドしてくれる「ベータテスター」と呼ばれるスタッフが常駐する。触れたり、体験できるアイテムについては、ベータテスターがデモンストレーションも交えながら魅力と使い方を紹介する。

 一部アイテムについてはb8taの店舗で購入してすぐに持ち帰ることもできるが、一方ではシチズンのEco-Drive Riiiverのように展示だけを行う製品もある。展示限定の製品についてはオフライン・オンラインの購入先へ誘導する。

 b8taの接客は「販売を主目的としていない」ことが、ショップの大切なポリシーのひとつなのだと北川氏が強調する。b8taに足を運ぶとスタッフが強く製品の購入を勧めてくることがないので、展示製品を納得できるまで体験しながら深く知ることができる。だから結果的に購買欲を一段とそそられて、財布のひもが緩んでしまうこともあり得るかもしれない。

b8taの来客の店内での行動はストアごとにデータ化され、店舗の体験価値や売り場の品質向上を目的に活用されるほか、出品企業にもマーケティングデータとして共有される

 b8taの店内には来客の年齢・性別など属性を計測するためのデモグラフィックカメラと、行動を可視化したヒートマップの作成を目的としたAIカメラが設置されている。来客のプロフィールやトラフィックはストアごとにデータ化され、店舗の体験価値や売り場の品質向上を目的に活用されるほか、出品企業にもマーケティングデータとして共有される。

b8taの店舗では製品のすぐ横に、製品を紹介する多言語で利用できるタブレットが置かれている

シチズンのスマートウォッチ「Eco-Drive Riiiver」がb8taに出品する理由

 シチズンのEco-Drive Riiiverは米国にある5つのb8taの店舗で先に展示が始まり、大いに好評を得たことから日本のふたつの店舗にもオープニング当初から置かれることになった。

 シチズン独自のIoTプラットフォームサービスであるRiiiverのコンセプトが、革新的であるからこそなのだろう。IoTプラットフォームという実体のないものを立ち上げてから、その魅力を広く伝えることの難しさを感じていたと大石氏が打ち明ける。そしてb8taの店舗にさまざまなカテゴリーの製品と一緒にEco-Drive Riiiverが並ぶことで「従来と違うプラットフォームサービスの魅力の一端が見せられるのでは」と、大石氏は期待を寄せている。

 東京のb8taはオープンしてまだ間もないが、来客がシチズンのEco-Drive Riiiverに向ける関心は高いという。「今後は新型コロナウィルス感染症の対策を十分に立てたうえで、店内にはイベントスペースなどを活用してシチズンの皆様と一緒に、来客向けの体験会やセミナーも企画したい」と北川氏は話す。オンラインでの実施も含めてさまざまな可能性が検討されているそうだ。

体験から得た声が製品の開発・改良の種に

 北川氏は「b8taに出品いただく企業の皆様には、コンシューマーとのタッチポイントとしてこの場所をテストマーケティングにも役立ててほしい」と呼びかける。オフラインのショップだからこそ、“体験すること”の先にデジタルガジェットの真の魅力や正しい使いこなし方が伝えられる。質の高い体験から生まれるユーザーの声や意見は、製品を企画開発するための貴重な財産なのだと、シチズンの大石氏が北川氏のメッセージに答える。

 企業の側は以前からオンラインとリアル店舗を融合させたマーケティング・販売戦略の必要性を認識してはいるものの、これを実践・成功させることの難しさに直面して頓挫するケースも多いのだと大石氏は指摘する。b8taのようにオフライン出店とオンラインのマーケティングツールの両方を提供するビジネスモデルが、これからの「新しい常識」になる可能性を感じたこともb8taへの出品を決めた理由のひとつなのだと話す。

新宿三丁目駅が最寄りとなるの新宿マルイ 本館1階に位置する「b8ta Tokyo – Shinjuku Marui」。Apple 新宿は同じフロアーだ

b8taは訪れるすべての人と人をつなぐ場所になる

 シチズンがクラウドファンディング サイト「GREEN FUNDING」に、Eco-Drive Riiiverを出品・先行販売してから1年が経った。独自のIoTプラットフォームサービスにはスマートリモコン「Nature Remo」やコミュニケーションロボット「BOCCO」に代表される、サードパーティのデバイスや機能もつながった。「時間をクリエイティブな体験に導き、ライフスタイルをアップデートするデバイス」という、時計の「新しい常識」をコンセプトに掲げるEco-Drive Riiiverの提案に、賛同するパートナーの輪は着実に広がっている。

 大石氏は時計から端を発して、パートナーの製品にフィードバックを返すような機器連携を今後もさらに充実させていきたいと意気込む。そのためにもb8taへの出品を、企業やスタートアップどうしがオフラインの場所を通じて自然発生的につながりを持ち、サービス連携や共同開発などさまざまな形のコラボレーションを育てる契機にしたいと語っている。

 北川氏もb8taの出品企業による、コミュニティをつくる構想を練っているそうだ。「店舗をオープンする際に出品企業をつなぐイベントの実施も計画していたが、また適切な頃合いを判断してぜひ実現したい」と北川氏は力を込めて語った。

 大石氏はこれまでBtoBとBtoC、それぞれの展開を切り分けて優先順位を決めることが多かったが、今はBtoBの出会いが生む新しいアイデアがコンシューマーに届くサービスにも直結していることを意識しながら、より大きな視野でアンテナを張りながら新しいことにも挑戦していると話している。b8taへの出品も糧にしながら、Riiiverが今後どのような成長を遂げていくのかコンシューマーの目線から注目したい。

 b8taの北川氏は、新しいモノやサービス、そしてカテゴリを作っていくという開拓精神を共有するシチズンは「よく似たものどうし」だと親しみを込めて語っている。進化するショップはそのシステムも含めて、いつも新しい物事に挑もうとしている。

 「国内のb8taはまだオープンしたばかりだが、頻繁に外出することもままならない中でb8taに足を運び、貴重な時間を慈しむように過ごしてくれるお客様の様子を目の当たりにすることが、スタッフの励みになる」と北川氏は言葉をかみしめる。だからこそ、ほかのショップでは得られないような新鮮で深い体験価値を出品企業と一緒に作っていくことに、こだわりを持ち続けたいのだと話してくれた。

 

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