KDDI、防災の日を前に災害・イベント対策を公開、5G対応基地局車も披露
文●佐野正弘 編集●ASCII
2020年08月28日 09時00分
KDDIは、メディア向けに大規模イベントで安定した通信を実現したり、災害発生時にネットワークをいち早く復旧したりする取り組みについて説明するとともに、5G移動基地局車など最新のイベント・災害対策向け機器も披露された。
説明会ではまず、KDDIの運用本部 運用管理部 副部長の土生由希子氏が運用本部での取り組みについて解説。同社の根幹となる通信を守っているのが運用本部になるという。
実際KDDIでは安定した通信環境を実現するため、国内では全国3つの基幹ケーブル網を用いて冗長化を図っているほか、基幹となる東京・新宿のKDDIビルを中心として全国11ヵ所にネットワークセンターを設けてネットワークの監視に当たっている。
また海外との通信に関しても、海底ケーブルや衛星通信などを活用して世界各国と安定した通信ができる環境を整えているほか、新宿やイギリス・ロンドン、ベトナム・ホーチミンを中心として世界各国に保守運用の拠点を設けているそうだ。
大ゾーン基地局など災害への“備え”を公開
続いて技術統括本部 運用本部 運用管理部 ネットワーク強靭推進室長の尾方淳一氏は、KDDIの災害対策について説明。尾方氏によると、災害で基地局などの通信設備が停止してしまう要因の80%は停電による電源の枯渇、18%が光回線が切断されてしまうなどの回線障害によるものだそうで、この2つの要因をいかに解消できるかが早期復旧する上で重要になってくるという。
前者の停電に関して、KDDIでは基地局に最低でも3時間、重要拠点にある基地局ならば24時間稼働するバッテリーを用意しているという。だが停電が長期化してしまうとそれだけでは対応できないことから、ポータブル発電機や、発電機を積んだ電源車を現地に持ち込んで復旧させている。
また後者の回線障害に関しては、車に基地局を搭載した車載型基地局や、可搬型の基地局などを活用して復旧するとのこと。断線などによって光回線などが利用できないことから、これらの基地局では光回線の代わりに衛星通信を活用して復旧を進めているという。
実際、2020年7月に熊本県を中心に九州の広域で発生した豪雨災害では、最大で103の基地局が停波するなど大きな被害が出たというが、3100人を投入してこれらの取り組みをフルに生かし、復旧作業を進めた。その結果、他社に先駆けて早期復旧を実現できたそうだ。
なお現地への陸路でのアクセスが難しく、これらの手段では復旧が難しい場合に備えて、KDDIでは船に基地局を搭載した船舶型基地局も用意してある。2019年の台風15号などで大きな被害が出た千葉県館山市や、東京都の大東町などを船舶型基地局で活用された実績があるという。
この他にもKDDIでは、災害時に無料で利用できるWi-Fiの「00000JAPAN」や、自治体などへの通信機器の貸し出し、自衛隊や自治体と協力しての訓練なども実施しているとのこと。特に自衛隊との連携では、エリア復旧のため孤立した地域への機材運搬だけでなく、作業員も同時にヘリで運ぶオペレーションを実施している。
そしてもう1つ、災害対策として報道陣に公開されたのが「災害用大ゾーン基地局」である。これは災害時に多数の基地局が停波してしまった時に、半径7kmの広い範囲をカバーする大型の基地局だ。
今回公開されたのは東京・新宿のKDDIビル屋上にある大ゾーン基地局。光回線が断線することを想定して無線のエントランス回線を活用する仕組みで、栃木県小山市にある通信センターから、複数の無線中継局を経て通信する形をとっているという。
KDDIではこの大ゾーン基地局を、首都圏直下型地震に備えたバックアップ用として2014年に導入を始めており、現在では東京湾沿岸部に10ヵ所設置しているとのこと。いずれも深度7の自信に耐える100mクラスの建物に設置し、24時間稼働できる蓄電池を備えるとのことだが、最も重要な拠点となるKDDIビルは非常用の自家発電設備も備えていることから、より長時間の稼働が可能なようだ。
イベント対策用に5G対応車載型基地局も開発
さらに建設本部 エリア品質管理部 計画推進G 課長補佐の赤松諒介氏は、イベントでの通信品質向上に向けた取り組みについて説明した。
赤松氏が所属するエリア品質管理部では基地局の状況や利用者からの申告、現地調査などを基にネットワークの品質向上を進め、ネットワークの不満解消に取り組んでいるとのこと。中でも花火大会や音楽フェスなどの大規模イベント開催時は、一時的に多数の人が集まりトラフィックが急増することから、電波の一時的な増強が必要になるという。
そこで同社ではイベント対策に特化した車載型基地局車を用意している。災害用の車載型基地局は素早く最小限のエリア復旧を重視して作られているため、バックボーンに衛星回線を用い、射出する電波の周波数帯も広域をカバーできる低い周波数帯に限定されているが、イベント用のものは多数のトラフィックに対処するためバックボーンは光回線の活用を前提としており、KDDIや傘下企業が保有する周波数帯をフル活用して大容量通信ができる設計になっている。
さらにKDDIでは、これをベースとして5G対応の車載型基地局を新たに開発した。こちらは4Gの全周波数帯に加え、KDDIが免許を持つサブ6、ミリ波の双方に対応し、5Gでの通信が可能なことからさらなる大容量通信に応えられる。
赤松氏は「今はイベントを開催できないが、チャンスを見て積極的に展開していきたい」と話している。コロナ禍が収束し再び大規模イベントが開催できるようになり、「au 5G」ロゴの入った車載型基地局が多くの場所で活躍する日が来ることを期待したいところだ。
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