Bang & Olufsenの「E8 Sport」を聴く、ほぼ4万円の高級スポーツイヤホン

文●ASCII 編集●ASCII

2020年08月23日 12時00分

 Bang & Olufsenの完全ワイヤレス。2月に第3世代の「Beoplay E8」が登場したばかりだが、その姉妹機というべき「Beoplay E8 Sport」が7月に登場した。

 両製品のスペックはよく似ている。ただし、用途が異なることもあり、デザインを変更し、防水性にも配慮した内容になっている。価格はほぼ同じで、ともに4万円に近いほうの3万円台。後から出たE8 Sportのほうが1000円ほど高いが、大きく変わらない実売価格になっている。

 一方で、第3世代のE8にはブラック・ホワイトのほかにピンクやミントグリーンのカラバリも追加。また、ひとつ前の第2世代Beoplay E8もまだ購入できる(量販店では5000円ほど低い実売価格)。いまBeoplay E8を買いたい人は、どれを購入すればいいか、少々分かりにくい面があるかもしれない。第2世代と第3世代の違いは、大きくaptXへの対応、デザイン調整と軽量化、連蔵再生時間の延長、マイク性能の強化などだ。

 Bang & Olufsenは世代が変わっても、音質やデザインなどのコンセプトが共通化されており、同じアプリで操作できるので、予算に加え、質感やカラーなどを見ながら好みのものを選ぶのもアリではある。

 とはいえ、長く使うのであれば、新しく追加されたモデルのほうが機能面でも音質面でも洗練されており、第3世代のE8もしくはE8 Sportがオススメではある。

 ここでは、第3世代のBeoplay E8とBeoplay E8 Sportの違いを中心に紹介する。以下E8と書いた場合は、特に断り書きがなければ、第3世代のBeoplay E8を指す。

E8とE8 Sportの共通点は多い

 まず、E8とE8 Sportの共通点から。使用するドライバーの直径は5.7mm。Bluetooth 5.1対応でSBC/AAC/aptXコーデックの利用が可能。連続再生時間は本体のみで約7時間(充電ケース併用ではE8が約35時間、E8 Sportsが約30時間)。ケースはUSB Type-C経由に加え、Qiのワイヤレス充電にも対応する(別売)。

 ほかには、オフを含め、4段階の透過モード(外音取り込み機能)や、ビームフォーミング技術を使って通話時の背景ノイズを除去する機能を持つ。操作にはタッチセンサーを利用し、共通するスマホアプリで管理できる……といったところで、利用方法も共通化されている。

 Bluetoothチップ、ドライバーなどが同一かどうかは公表されていないようだが、発表時期も近く、同じE8シリーズなので、イヤホンづくりの核となる部分は共通化されていると考えるのが自然だろう。

 一方、外観についてはかなり異なる。E8は革張りで、高品位なデザインの充電ケースを採用。ナチュラル素材感と曲面や丸みを帯びた形状になっている。対するE8 Sportの充電ケースは、楕円柱のような割合直線的なデザインになっている。上面をマットな質感とし、側面に滑りにくい溝がある。ロゴもE8のエンボスに対して、E8 Sportはクロム調のメッキを施したものとなっている。

 イヤホン自体のサイズはE8 Sportのほうが大きいが、ノズルはE8より短くフィルター部分も異なる。こうした形状や部品の違いは、アコースティック(響きの物理的な特性)にも多少の影響を与えるはずだ。音色傾向は、Bang & Olusenらしく似通っているが、後述するようにテイストはわずかに異なっている。とはいえ、スポーツ向けだから低域を強く出す……といった明白な差を付けているほどではない。

 なお、機能面で最も大きな違いは、防水性についてはE8のIP54(防滴仕様)にたいしてE8 SportはIP57(防水仕様)になっているところだろう。水深1m/30分間までなら水没も可能となっている。また、E8 Sportは4サイズあるシリコンイヤーチップ(+Comply製フォームチップ)だけでなく、大中小のフィンを使って耳に固定する仕様とし、ジョギングやダンスなど、動きながらの使用にも配慮した仕様になっている。音については、本体形状の違いや防水化による影響と見た方がいいだろう。

ハッキリとした音が好きならE8 Sport

 E8とE8 Sportを聴き比べてみた。

 まず両者の音調や音圧感などはほぼ同じで、同じ思想のもとに管理された製品であるというのが分かる。比べると、E8は高域が刺激的でなく、ややウォームな印象。中音域を中心に上品に整ったまとめ方をしている。E8 Sportはこれより高域が少し強めに出て、E8よりもハッキリとした音に感じる。また、低音の量感も若干増していて、気持ちのいいドンシャリ風味のサウンドになっていると言ってもいいかもしれない。

 音数がシンプルな、女性ボーカル+ピアノ伴奏のみの曲で比較すると、E8は声をより直接聞いている感じが強い。女声は男声よりも高いが、その中でも低い音が安定し、ボディー感がある声となる。一方、E8 Sportはピアノの硬質なタッチがピンと張り、空間の広がり感を意識する。

 ただし、これらは「あくまで両者を比較すれば」という話でもある。他社製品と比べれば、意識するのは共通性のほうだろう。ぱっと聞きなら、かなり近い音に聞こえる人のほうが多いだろう。

 筆者が考える、Bang & Olufsenらしさは、全体に柔らかく聞き疲れしにくく、中高域が繊細かつキレイであること。低域はしっかりと分離しているが、量感は出し過ぎない。音離れや解像感は非常に良いが、その一方でよくある高解像度系イヤホンとは異なり、滑らかさやつながりのよさも兼ね備えている。ひとことで言えば、中高域の表現が美しい、品のいい音である。

 出すところは出し、滑らかにするところは滑らかで、楽器や声の質感の対比がしっかりしている。複数の楽器のハーモニーは一体となり、調和して聴こえ、逆に木琴や金管楽器などアタックやハリのある音色の楽器は前に浮き立つ。高域にとがりはないが、ワイドレンジな表現で、かつ低域から高域まで、違和感を感じさせず、特定の帯域に強調感がない。オーディオ機器では音楽を聴いているよりも音を聞いている感覚になる製品も存在するが、あくまでも自然に音楽の魅力をリスナーに届けるサウンドと言える。

 例えば、ソニーの「WF-1000XM3」と比較すれば、ナチュラル、しなやか、柔らかいといった印象を強く持つ。WF-1000XM3は低域が充実していて、高域も上まで再現し、全体にハッキリ・クッキリとした傾向だが、これよりはだいぶ優しい雰囲気だ。また、筆者の手元には、中高域の美しさを重視したNoble Audioの「FALCON」があるが、これですらE8/E8 Sportよりは低域に誇張感があり、ズンズンと出しいたのだと気付かされる。

 E8/E8 Sportの低域は量感が控えめだが、誤解してほしくないのは、決して低域が出ていないわけではないという点だ。例えば、オーケストラのグランカッサやティンパニー、ロック/ポップスのキックやウッドベースなど、必要な低域はしっかりと感じられる。オーケストラのトゥッティなど、スケール感が求められる際の迫力感も申し分なし。芯が合って安定した、重心の低い響きが得られる。

 ただし、狙いはあくまでも、ボーカルのある中音域の情報を的確に伝えることなのだろう。全体のバランスもこれに合わせて調整されている。

 低域の量感があると、ぱっと聴き、安定していい音に聞こえるが、その上の帯域がマスクされてこもり感や情報の欠落を感じることもある。こういった悪影響を嫌い、音楽の中心、例えばボーカルなどがより良く伝わる点を重視したバランスにしているのだろう。特定の帯域が強調されないよう調和をとり、音楽やそのハーモニーが一体感を持って伝わるサウンドに仕上げているのがE8シリーズなのだ。

高価だがそれに見合った高音質を提供する機種

 最近では1万円台でもなかなかいい音を聞かせる完全ワイヤレスが増えてきたが、E8/E8 Sportはその倍以上の価格の製品である。さらに3万円台の機種で搭載が主流になりつつあるノイズキャンセル機能なども持っていない。とはいえ、本体の質感、音の良さという点では魅力ある機種だ。E8/E8 Sportの細部まで配慮されたサウンドデザインに触れると、その価値が十分にあると思える。

 E8シリーズのサウンドは、単に透明化があってクリアというだけでなく、柔らかく優しい。高性能なチューナーと感度のいいアンテナを立てて、高音質なFM放送を聞いたときのような、アナログ的でホッとする感じがある。特に筆者がよく聞く、オーケストラ、ボーカル曲などアコースティックなソースとの相性がいい。このあたりの品のいいまとめ方は、歴史あるヨーロッパブランドならではと言えるだろう。

 使用時には、iPhoneとの組み合わせで、認識~接続までの時間が気持ち長い点が気になった。しかし、使い勝手の面では大きな不満はない。また、ケースに入れたら自動でスリープに入るといった機能は低価格機種では省略されている場合が多いが、本機はもちろん採用している(欲を言えば、人感センサーで装着したら一時停止する機能も欲しいところだが)。

 E8 Sportに関しては、E8よりも少しボディーの直径が大きくなる分、装着の安定性やイヤーチップのサイズの選択などには気を使いたいところ。しっかりと装着して音抜けを防げば、そのぶんだけ情報量や低域の再現性が向上し、高音質に聴けるので、シリコンタイプ・フォームタイプのどちらを選ぶかなど、試行錯誤しながら使い分けたい。

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