Apple Watch新機能「睡眠」こだわりをアップルのテクノロジーVPに聞いた

文●山本 敦 編集●飯島恵里子/ASCII

2020年06月29日 22時00分

米アップルのテクノロジー担当バイスプレジデントであるケビン・リンチ氏に、watchOS 7から搭載される「睡眠」機能の特徴を聞いた

 アップルがこの秋に、無料のソフトウェアアップデートとして提供するApple Watch向けのOS「watchOS 7」に、新しく「Sleep=睡眠記録」機能が加わることが、世界開発者会議「WWDC20」で発表された。Apple Watchのユーザーにとって楽しみなばかりでなく、これから初めてApple Watchを手にする人を多く惹きつける機能になりそうだ。

 睡眠記録のテーマはシンプルに「質の高い眠り」を追求すること。その機能がどのようにして私たちの眠りの質を高めてくれるのか、米アップルのテクノロジー担当バイスプレジデントであるケビン・リンチ氏に話を聞く機会を得た。

アップルは長い時間をかけて「睡眠」を開発してきた

 watchOS 7は、同じく今秋のリリースを予定するiOS 14以降をインストールしたiPhone 6s以降のiPhoneと、ペアリングされているApple Watch Series 5、Series 4、Series 3の機種で利用できる。watchOS 7の動作環境はすわなち、睡眠記録機能が利用できる環境ということになる。

睡眠は既に多彩な機能を揃える「ヘルスケア」に新しく加わる

 睡眠記録は「ヘルスケア」アプリの新機能として加わる。後述する就寝準備の設定を済ませて、Apple Watchを装着してベッドに入る。

 眠っている間は、Apple Watchに内蔵する加速度センサーで、ユーザーの動作を計測する。アップルが独自に開発した機械学習モデルにより、寝息の強弱など細かな動作まで正確な判別ができるという。

睡眠の記録はApple Watch、またはiPhoneのヘルスケアアプリの画面で詳細を確認できる

 睡眠の記録はApple Watchの画面上で見られるだけでなく、iPhoneのヘルスケアアプリから過去2週間の睡眠記録を振り返ることも可能だ。

 アップルのリンチ氏は、Sleep機能の開発には長い時間をかけて、丁寧に取り組んできたと打ち明ける。「もう何年も睡眠記録については取り組んできました。健康の最も重要な要素のひとつと考えたからです。ところが、睡眠の科学についてはまだ完全に解明されていないことがわかりました。そこで多くの専門家とチームを組んで研究調査を積み重ねながら、アップルが睡眠の分野でどんな貢献ができるか、また社内で数千人の研究参加者を募り、どのように睡眠のコーチングができるかを学んできました」。

ヘルスケアアプリから「眠りたい時間」をセットする

良質な睡眠を得るために不可欠な「就寝準備」

 睡眠記録は筆者も含め、多くのApple Watchユーザーが期待を寄せてきた機能だ。今からもう秋にwatchOS 7の提供が始まる日が待ち遠しい。

 Apple Watchで利用できる睡眠記録は、単純にユーザーが眠った時間の長さがわかるというものではなく、「良い眠りを得ること」をゴールに定めたところがとても興味深い。ヘルスケアアプリの使い方がどのようになるのか、もう少し掘り下げてみよう。

 ユーザーは最初にヘルスケアアプリで就寝時間と起床時間を決める。つまり「眠りたい時間」の目標を設定する。

 今年はすべてのプログラムがオンラインで開催されたWWDCの基調講演で、睡眠記録の説明を担当した米アップルのHealth Software Engineering担当マネージャーであるヴェラ・カー氏は「眠りたい時間を目標として決めるのは簡単。でも実践することが難しい」のだと強調している。

 カー氏は基調講演のプレゼンテーションの中で、The Yale School of Medicineの教授であるMeir Kryger医学博士の研究成果を紹介しながら「眠る前にルーティンを実践することによって寝付きが向上する」ことがわかったと述べている。そこでアップルは「Wind Down=就寝準備」と名付けた、質の高い眠りを得るために欠かせない就寝前のルーティン(習慣動作)を実践する機能を睡眠記録の一環として追加した。

就寝時間が迫ると、iPhoneの画面が就寝準備のモードに切り替わる

 就寝準備は、ヘルスケアアプリで設定した就寝時刻の少し前にスタートする。起動するとiPhoneのロック画面が穏やかな明るさに変わり、ユーザーに就寝準備に入るように促す。

就寝前にリラックスできるように様々なルーティンをセットできる

 就寝準備のためのアクティビティも設定できる。例えば「ホーム」アプリを起動して、室内に設置したスマート照明の明るさを絞ったり、穏やかなベッドタイムミュージックを楽しんだり。お気に入りの書籍アプリや瞑想アプリに移動して、眠りに入る前に気持ちをリラックスさせる手段にもiPhoneの画面にショートカットに並ぶショートカットが導いてくれる。

就寝中はApple Watchの画面が暗転。目覚めたときにタップすると明るさを抑えた画面に現在時刻と、タイマーをセットした起床時間がシンプルに表示される

サウンドと触覚フィードバックで心地よく目を覚ませる

 ベッドに入り、設定した就寝時間を迎えるとApple Watchの画面が完全に暗転する。Apple Watch Series 5の場合は画面の「常にオン」を設定していても、眠っている間は睡眠機能が優先的に画面をオフにする。暗転した画面をタップする、時刻とカレンダー、アラームの設定時刻だけが表示されるシンプルな文字盤が立ち上がる。

起床時間には穏やかなサウンドと触覚フィードバックによる目覚まし機能が起動する

 起床時間を迎えると。Apple Watchから目覚ましとして穏やかな音楽が流れはじめる。側に眠る人を起こしてしまわないよう、音楽の代わりにApple Watchの触覚フィードバックを振動させて目覚ましにすることもできる。

 目覚めの直後は、Apple Watchの画面におはようのメッセージや今日の天気、そしてバッテリーの残量が表示される。なお、睡眠スケジュールの設定と就寝準備、おやすみモードへの切り換え、音楽による目覚ましアラームだけであれば、Apple Watchを持っていなくてもiOS 14を搭載するiPhoneで睡眠機能の一部が使える。

WatchOS 7に新しく追加される「自動手洗い検出」にも、正しく手を洗うためのアドバイスなどが表示される

毎日シンプルに使える機能を目指した

 睡眠記録の機能名称は英語では「Sleep」となる。とても短く、シンプルだ。リンチ氏は「Sleepが十分な睡眠を得るための包括的な機能で、どんなことをしてくれるのかをもっともシンプルでわかりやすく伝えたかった」のだと、ネーミングの意図を語っている。

 アップルの睡眠記録には、多くのスリープトラッキングデバイスにありがちな機能、あるいはイベントと呼ぶべきなのかもしれない「採点=スコアリング」がない。眠りの質を数値化してしまうと、高い得点を得ること自体が目的化してしまう場合がある。時には余計な情報がユーザーの集中を妨げることになって、結果としてスコアは高くても良く眠れた実感が得られない、疲れが取れないということが起きる場合も十分にあり得る。

 また反対に、良いスコアが出せないことで、自分は良い睡眠を得られていないのだと思い込んでしまうと、これもまた健康的な生活に障りを来す場合がある。睡眠記録をなるべくシンプルな機能に仕立て上げたアップルの選択を筆者も支持したいと思う。

 眠りの質を高めるための「コーチング」は大事な要素だ。ほかのスリープトラッキングデバイスの中には、専門家によるアドバイスに基づいた詳しいレコメンデーションを投げかけてくるものもある。Apple Watchの場合は、コーチングを就寝準備としてシンプルにまとめあげて、「眠る」こと以外にユーザーが負担やプレッシャーを抱えないよう注意深く機能を設計した印象を受ける。

 リンチ氏は「Apple Watchのアクティビティやヘルスケア機能など、コーチングの要素を持つ機能については、もっとも効果的なコーチングの姿をかたちにすべく考えています。特に睡眠機能では“前向きな支援”というアプローチで、やさしく励ますようなコーチングの体験をデザインしました。すでに多くの方が睡眠不足を実感されており、シンプルな方法で日々穏やかに就寝し、睡眠時間を確保できるように手助けします」と語っている。

起床時のApple Watchの画面表示。メガネを外した状態でも見やすいように、バッテリーの残量などが大きく表示される

Apple Watchの充電は就寝時間の前後がおすすめ

 睡眠記録は筆者のような1日中、Apple Watchを身に着けて過ごしているヘービーユーザーにも楽しみな機能だが、ひとつ気になることはバッテリーを充電するタイミングだ。リンチ氏に助言を求めてみた。

 もちろん個人の充電パターンによるものの、リンチ氏は就寝前、あるいは朝、目覚めた直後にApple Watchを充電するのがよいと話している。いずれの場面でも、Apple Watchが画面にバッテリー残量を表示してくれるからだ。数値を確認して、残量が心許ない場合はどちらかの、あるいは両方のタイミングでApple Watchをチャージする習慣を身につけたい。

 筆者がこれまでにApple Watch Series 5を使い込んできた経験上、朝に満充電の状態から晩まで、途中にワークアウトもこなしながらApple Watchを使い続けると、バッテリー残量はだいたい30%〜40%になっていることが多い。そこから充電スタンドに装着して、1時間もかからずにほぼ100%まで素速くチャージができる。就寝前、あるいは朝の身支度の間に小一時間ほどの充電ができれば、また外出先でもバッテリー切れを心配することなく使えるはずだ。

睡眠記録を利用中はApple Watchの画面が完全に消灯して無駄なバッテリーの消耗を抑える

 リンチ氏の説明によると睡眠記録を実行中、Apple Watchは加速度センサーによる動作の解析や、バックグラウンドで心拍数のモニタリングもしているが、画面は完全に消灯することで駆動に必要な電力を最小限に抑える工夫を凝らしているのだという。睡眠記録の機能が加わることで、Apple Watchのバッテリーの減り方が大きく変わることはなさそうだ。

Apple Watchを中心にまた睡眠トラッキングがブレイクするのか?

 Apple Watchが取得したユーザーの睡眠記録はiPhoneのヘルスケアアプリに2週間分のデータが保存され、いつでも画面上で参照できる。

 アップルのデバイス向けに健康、フィットネス系アプリを開発するためのフレームワークであるHealthKitを使えば、ユーザーにデータへアクセスすることへの許可を得たうえで、デベロッパが睡眠記録と連動するアプリやサービスを作る道も拓けている。watchOS 6以降、Apple Watchからも、ダイレクトに利用できるようになったApp Storeにスリープケア関連のアプリが数多く並ぶ期待も膨らんでくる。

 現代に生きる人々は、毎日なにかしらのストレスや不安を抱えながら生活している。十分な眠りを得ることは健康を維持するために欠かせない。だからそ「必要な睡眠時間を得るための習慣と就寝前のルーティンを見つけられるように、睡眠記録アプリケーションを役立ててほしい」とリンチ氏は強く思いを込めながら語ってくれた。

 

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