最新チップセットB550はX570/B450とどう違う? ASRockの人気マザーボード「Steel Legend」シリーズで違いを検証

文●加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラハッチ/ASCII

2020年07月03日 11時00分

「B550 Steel Legend」ならRyzen 9 3950Xのフルパワー運用も恐くない!

B550マザーボードの中で異様なまでの売れ行きを示していると話題の「B550 Steel Legend」。実売価格2万4000円弱で流通している

 Ryzen/Athlonに対応したSocket AM4向けチップセットは、ハイエンド向けの「X」系列、廉価版の「B」系列、さらに低価格帯向けの「A」系列の3種類に分かれている。最初に機能を満載したX系列が登場し、BやAはその後というのがこれまでの流れだ。第3世代Ryzenに合わせて投入された「X570」は、はじめてPCI Express Gen4に対応したチップセットだが、今回これをややダウンスケールした「B550」チップセットを搭載したマザーボードの発売が開始した。

 その中でもダントツの売れ行きを示していると評判なのが、ASRockの「B550 Steel Legend」。同社のB550マザーボードの中では中間的な存在であり、先代の「B450 Steel Legend」同様に、機能の豪華さよりもコンポーネントや回路設計のクオリティーを重視し、高耐久を売りにした製品。CPUは簡単に交換できてもマザーボードはそう簡単にできないため、より安心して使いたいという人にオススメの1枚だ。

 このB550 Steel Legendは、先代のB450 Steel Legend、そして上位版のX570 Steel Legendと比較してどう違うのか、試すチャンスに恵まれた。ハイパワーなCPUを全力で回した時、挙動に違いは生まれるのか否か、簡単ではあるがチェックしてみたい。

まずはB550についてのおさらい

 まずB550チップセットについて簡単に解説しておこう。B450やX570と比較すると、以下のような違いがある。

●第3世代Ryzen「以降」に対応
B550チップセットは第3世代Ryzen以降に対応する。これには当然、今年登場する予定の次世代Ryzenも含まれる。B450でも次世代Ryzenは対応可能になったが、対応BIOSが出るかはマザーボードメーカーの判断に委ねられるし、コア数の多いモデルの性能を引き出しきれるという保証はない。

●PCI Express Gen4に正式対応
第3世代Ryzenで採用されたPCI Express Gen4に正式に対応する。B450でもGen4接続のM.2 NVMe SSDがGen4で動作してしまうことがあったが、これは“たまたま動いた”だけであり、正式に動作を保証できるのはX570とB550のみになる(A520はGen3まで)。

●CPU直結x16レーンの分割(bifurcation)が可能に
B550はCPUに繋がるPCI Express x16バスのレーン分割に対応し、x8+x8としても運用できるようになる。この変更の目的はマルチGPU環境の改善だが、今マルチGPU環境にするメリットは薄いため、拡張カードの組み合わせを増やす改善として考えるのが良いだろう。

 ただし2本目のx16スロットもGen4でリンクさせるとなると、設計コストも増大する。ゆえに、2本目のx16スロットもCPU直結になるマザーボードは一部の高級モデルのみに限定される。

●チップセットから出るPCI ExpressはGen3へ
X570チップセットでは、チップセットから出るPCI ExpressレーンもGen4だったが、配線の取り回しが難しくコスト高を招いた。B450は安価だが、チップセットから出るPCI ExpressレーンはGen2だったため、速度の欲しいSSDを追加するには力不足だった。

 これに対しB550は、チップセットから出るレーンはPCI Express Gen3に引き上げられ、拡張カードやオンボードデバイスの性能が引き出しやすく改善された。

●設計の洗練度はX570よりも上がっている
X570マザーボードが出て約1年が経過したが、その間蓄積されたノウハウや新しい周辺デバイスを吸収しているため、洗練度は既存のX570マザーボードよりも優れていることが多い。特にOCメモリーの上限はX570マザーボードよりもB550マザーボードの方が高いこともある。

B550の見どころはココだ!

 B550 Steel Legendの特長は、先代B450 Steel Legendの路線を堅持しつつ、さらに完成度とポテンシャルを増大させた点にある。安定動作の要となるCPU周囲の電源回路は、B450 Steel Legendの6フェーズから14フェーズへ大幅に強化。さらにMOSFETを冷却するためのヒートシンクもより大きくなり、大電力を消費するコア数の多いRyzenをより安心して運用できるようになった。

電源回路に使われているコンポーネントは、X570マザーボードのハイエンドモデルにも使われている50A Dr.MOSやPremium 60A Power Chokeなを採用。電源効率は95%を誇る

CPUの補助電源は8+4ピン構成

 CPUの電源回路はハイパワーなCPUを全力で回す時には重要とはいえ、誰も彼もが極限OCに挑戦したり、物理16コアのCPUを使ったりする訳ではない。大多数のユーザーにとっては、CPUソケットより下の部分の変化の方が好ましいだろう。

 まず、B550チップセット一番の売りといえるM.2スロットは、CPUに近い側がPCI Express Gen4動作(第3世代Ryzen使用時)になった。チップセット側にももう1本、M.2スロットが存在するが、こちらはPCI Express Gen3 x2接続となっている。B550チップセットは、チップセットから生えるPCI ExpressはGen3になったからこその相違点だ。チップセットのファンがないので、可能なかぎりノイズを減らしたい人にはX570マザーボードより好ましい変更といえる。

B550 Steel Legendの拡張スロット周り。2本あるx16スロットはCPUに近い側がCPU直結のGen4 x16、遠い側はチップセット直結のGen3 x4となる。M.2スロットはアルミ製ヒートシンクの下に隠されている

CPU側のM.2スロットはPCI Express Gen4 x4接続に対応。x16スロット下のM.2スロットはWi-Fiモジュール用なのでSSDには使えない

2本目のM.2スロットはPCI Express Gen3 x2接続で、ヒートシンクはチップセット用と一体型になっている。性能の上限が出ないこちらのM.2スロットのヒートシンクを小さくして、CPU側のヒートシンクを大きくして欲しかったが、レイアウト制限が厳しいのだろう

 オンボードデバイスはLANの強化が目立つ。B450時代はGbEが定番だったが、2020年のマザーでは2.5GbEがトレンドだ。B550 Steel LegendではRealtek「Dragon RTL8125BG」が採用された。まだハブやNASの2.5GbE対応品は高価だが、RTL8125はネットワークゲームのレイテンシー低減に効果があるとされるので、ゲーマー向きといえるだろう。無線LANは非搭載だが、ネットワーク系ゲームで有線LANの方が絶対的安心感があることを考えれば、これで十分だ。

基板上にPOSTコードを表示するLEDが実装されたことで、万が一の時のトラブルシューティングも少し楽になった。オンボードのパワー/リセットスイッチ用パターンも見えるが、スイッチが実装されていないのは極めて残念

今のトレンドである組み込み済みIOパネルは、B550 Steel Legendでもしっかりキャッチアップ。B450 Steel Legendには存在しなかったので非常に嬉しい

 UEFI BIOSはASRockお馴染みのデザイン。既にASRock製マザーボードに触れているなら、戸惑うことはないだろう。B550やA520特有のオプションも存在するが、特筆すべき機能はないようだ。

B550 Steel LegendのBIOS。ASRock製マザーボードのBIOSは見やすさとレイアウトの理路整然性において他社を大きく引き離している(筆者の好みというだけだが)。OC系のメニュー構成は従来とあまり変わらない

B550やA520チップセット独特のオプションも存在するが……

基本的にUSB周りの挙動を制限することにしか使えない

例えばこの画面ではUSBをポート単位で有効/無効化できる。ビジネス向けのPro565チップセットを念頭においた仕様だろう

ファン回転制御もグラフィカル。ファン回転数の制御トリガーをCPU温度にするのか、マザー温度にするのかをファンごとに設定できるようだ

RTL8125専用のツール。アプリごとにネットワーク通信の優先度を設定することで、ゲームや動画視聴などの際の他アプリが影響を及ぼしにくくできる

B550 Steel Legendに組み込まれたRGB LEDや、ヘッダーピン経由のLEDの発光パターンを制御する「Polychrome Sync」。これに対応するメモリーモジュールやビデオカードなどに組み込まれたLEDも同時に制御可能だ

OCする人にはお馴染み「A-Tuning」

B550のストレージ性能をチェック

 ではB550 Steel Legendのパフォーマンスチェックだが、今回は2本のM.2スロットの挙動の違いを、X570 Steel LegendやB450 Steel Legendと対比させながら見ていこう。今回の検証環境は以下の通りとなる。メモリークロックをXMPでCPU定格に合わせた以外は、デフォルトの設定で検証した。

【検証環境】
CPU AMD「Ryzen 9 3950X」
(16コア/32スレッド、3.5GHz~4.7GHz)
マザーボード ASRock「B550 Steel Legend」(BIOS 1.10)
ASRock「X570 Steel Legend」(BIOS 2.60)
ASRock「B450 Steel Legend」(BIOS 3.20)
メモリー G.Skill「F4-3200C16D-16GTZRX」
(DDR4-3200、8GB×2)
ビデオカード ASRock「Radeon RX 5500 XT Challenger D 4G OC」
(Radeon RX 5500XT)
ストレージ Corsair「CSSD-F1000GBMP600」
(NVMe M.2 SSD、1TB)
電源ユニット Super Flower「Leadex Platinum 2000W」
(2000W、80Plus Platinum)
CPUクーラー Corsair「H115i Pro RGB」
(簡易水冷、280mm)
OS Windows10 Pro 64bit版(May 2020 Update)

 前述の通りB550 Steel LegendのM.2スロットは、CPU側がGen4 x4接続なのに対し、チップセット側はGen3 x2接続となる。このスロットに同じGen4 x4接続のSSDを装着した場合、読み書き速度にどの程度の違いが出るか見ていこう。比較用にX570 Steel LegendとB450 Steel LegendでもCPU側とチップセット側のM.2スロットで同様のテストを行なった。読み書き速度の測定は「CrystalDiskMark」を使用している。

B550 Steel Legend、CPU側のM.2スロットにGen4 x4接続のSSDを装着した時の読み書き速度

B550 Steel Legend、チップセット側のM.2スロットにGen4 x4接続のSSDを装着した時の読み書き速度

X570 Steel Legend、CPU側のM.2スロットにGen4 x4接続のSSDを装着した時の読み書き速度

X570 Steel Legend、チップセット側のM.2スロットにGen4 x4接続のSSDを装着した時の読み書き速度

B450 Steel Legend、CPU側のM.2スロットにGen4 x4接続のSSDを装着した時の読み書き速度

B450 Steel Legend、チップセット側のM.2スロットにGen4 x4接続のSSDを装着した時の読み書き速度

 これらの結果から分かる通り、B550 Steel LegendではGPU側ならGen4 x4の速度がキッチリ出せるが、チップセット側だとGen3 x2相当の性能に落ち込むことが分かった。一般に流通しているNVMe SSDはGen3 x4接続であるため、あと2レーン追加して欲しかったところだが、安価なQLCタイプのSSD専用にするなどで運用すれば問題ないだろう。どちらのM.2を使ってもGen4 x4の性能を出したければX570 Steel Legendを買えばいいだけの話だ。

Ryzen 9 3950Xのフルパワーを支えられるのか?

 前述の通りB550 Steel LegendではB450 Steel LegendよりもCPUの電源回路の設計が重厚になったが、それがどのような違いをもたらすかについても簡単に調べておきたい。

 テストは「Prime95」の“SmallFFT”テストを30分回し、その間のCPUの状態を「HWiNFO」で観察するというものだ。16コア/32スレッドのRyzen 9 3950Xを、定格とはいえフルパワーで回すのだから、電源回路には大きな負担がかかるのは必定。B450にRyzen 9 3950Xを装着してPrime95を回すなど、リアリティーにやや欠けるシチュエーションではあるが、Socket AM4用の一番強いCPUの本機を、どれだけ支えられるかという視点でご覧いただきたい。

 まず結論から先に言ってしまうと、今回の検証ではX570とB550 Steel Legendはほぼ同じ挙動を示した。全コアフルロードで平均実効クロックは3.05GHz〜3.25GHzで安定。だがB450 Steel Legendは途中からサーマルスロットリングが入り安定しないばかりか、ある特定コアのワーカーが常にエラーを発してしまった。B550 Steel LegendやX570 Steel Legendでは全く問題なく動作するので、B450 Steel Legend自体の制約、もしくは検証用にお借りした個体の問題、ということになる。

 さらに、B450 Steel Legendのみサーマルスロットリングが発生し、クロックが脈動する現象も観測できたが、これはCPU側の温度問題(PROCHOT CPU)ではなく、コア外のコンポーネントの温度問題(PROCHOT EXT)がトリガーになっていることがHWiNFOからわかった。この温度問題はB550 Steel LegendやX570 Steel Legendでは発現しないし、B450 Steel Legendで複数回システムを組み立て直しても、この傾向に改善はみられなかった。

Ryzen 9 3950X+SmallFFT実行時の平均実効クロック(Average Effective Clock)の推移。B450 Steel Legendは途中からサーマルスロットリングが入ってしまい、クロックが脈動する

Ryzen 9 3950X+SmallFFT実行時のTctl/Tdieの推移。PROCHOT CPUフラグが立ってないとはいえ、B450の方がCPU温度は高く観測された

Ryzen 9 3950X+SmallFFT実行時のCPU Package Powerの推移。同じRyzen 9 3950XでもX570 Steel Legendの方が低めの値(X570 Steel Legendは106W前後、B550 Steel Legendは115W前後)が出ている

B450 Steel LegendでSmallFFTを実行している時のCPU負荷。特定の1コア(左下付近)が常にエラーを出し、残りのコアもサーマルスロットリングでクロックが激しく上下した

Ryzen 9 3950Xも安心して全開運転できるマザー

 B550はX570よりも下の価格帯を狙ったチップセットだが、実際の製品はX570マザーの下位モデルと価格帯が被り、それほどお買い得感あるチップセットとは言えなくなっている。PCI Express Gen4対応のためのコスト高やコンポーネント価格の上昇などを考えれば仕方のない所があるが、B450に比べると高い印象は拭えない。

 B550 Steel Legendも実売2万4000円程度と決して安いとは言えない(B450 Steel Legendの初値は1万4000円前後)。この点は残念なところだが、それ以外に大きな欠点はない。Ryzen 9 3950XのフルパワーもX570 Steel Legend並にガッチリ支えてくれる。

 AMDはCPUコア数を徐々につり上げ、インテルを置き去りにする戦略をとっていることを考えれば、次世代Ryzenで再びコア数が増えてもおかしくない。今安価なB450マザーを買って次世代Ryzen対応BIOSを手に入れたとしても、コア数の多いCPUのパワーを引き出せない可能性もある。将来性を見るならB550、特にこのB550 Steel Legendを買うのは極めて理にかなった選択といえるだろう。

【おまけ】B550は第2世代Ryzenに対応しないとされているが、Ryzen 3 3200G(APUなのでZen+)をB550 Steel Legendに装着し、内蔵GPU出力で動作させることはできた。ただしメモリークロックは2133MHzから上に引き上げようとすると失敗するなど、安定性や性能は期待できないレベルだった。真似をすることは絶対にオススメしない

■関連サイト

■関連記事