近日国内発売予定と噂の12スレッドCPU、Ryzen 5 1600AFの実力はほぼ2600と同等の性能!

文●加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラハッチ

2020年05月02日 11時00分

「Ryzen 5 1600AF」の発売で
AMDのインテル包囲網はまた一歩完成に近づく

 近日、新たな低価格CPU「Ryzen 5 1600AF」の国内販売が開始されると、AMDの関係者から情報が寄せられお借りすることができた。Ryzen 5 1600といえば2017年春に登場した「Zen」ベースの製品なのになぜ今更……? と思うだろう。

 だが本稿で扱う製品は、プロセスルールをオリジナルの14nmプロセスではなく、1世代進んだ12nmプロセスで製造されたもので、“旧モデルのリニューアル版”という印象なのだが、実際のところはRyzen 5 2600のリブートというべき製品だ。

 この新Ryzen 5 1600の外箱やCPU表面には「Ryzen 5 1600」としか打刻されていないが、OPNの末尾2文字が「〜AF」となっていることで見分ける事ができる。以降新モデルのことを「Ryzen 5 1600AF」と表記することとしよう。

Ryzen 5 1600AFの外箱に打刻されている型番は「Ryzen 5 1600」

バーコードの近くに打刻されているOPNをよく見ると、末尾2文字が「AF」になっている。ここで見分けよう

新旧Ryzen 5 1600の比較。OPNの末尾(赤カコミ部分)で見分ける事ができる。一番上のロゴのフォントが違っていることに気がついただろうか?

 このRyzen 5 1600AFは既に海外では販売もレビューも解禁済みだったが、今回国内販売が解禁になるとのことなのでレビューしてみたい。ただ、本稿の執筆時点では発売日や価格はCOVID-19の影響により明らかにされていない。担当編集がとある筋から聞いたところ1万円をやや切るのではとのことだったが、未確定情報のままでは価格に関しては論じ得ない。よって今回は純粋な性能だけを論じる事とする。

画像は公式のRyzen 5 1600のもの。パッケージはお馴染みのキューブ型。CPUクーラーはWraith Stealthが同梱される。国内販売時期および価格は現行執筆時点では明らかにされていなかった

Zen+相当なので付属クーラーも変更される

 ではRyzen 5 1600AFのスペックから確認してみよう。コア数は6コア(C)/12スレッド(T)で内蔵GPUは持たない。Zen世代のRyzen 5 1600よりもL3のキャッシュ搭載量が増加したのに加え、メモリーコントローラーもDDR4-2666から2933にグレードアップしている。

 ただ、既存のRyzen 5 3500よりも安く出すためにクロックが微妙に下げられている。

Ryzen 5 1600AFと、その近傍の製品のスペック

お詫びと訂正:掲載当初、CPUクーラーの表記に誤りがありました、訂正してお詫び申し上げます。(2020年5月2日20時25分)

 価格帯的に競合すると思われるのが今年3月に発売されたRyzen 5 3500だ。Ryzen 5 3500はSMTが無効にされた6C6Tなのに対しRyzen 5 1600AFはSMTありの6C12Tであるため、マルチスレッド性能においては1600AFが有利な一方、シングルスレッド性能や処理効率といった面ではZen2世代の3500の方が優越する。

 そしてRyzen 5 3500はZen2世代のためGen4対応の超高速なNVMe SSDの速度を活かしたシステムになり得るが、Zen+世代の1600AFはGen4対応SSDを組み込んでもGen3相当の性能しか出せない、等の違いがある。Gen4対応はなくても良いから安くPCを組みたい、という人向けの製品といえる。

「CPU-Z」で情報を拾ってみた。まだCPU-Z自身がRyzen 5 1600AFに完全対応していないため、Name欄はRyzen 5としか表示されていない

Zen世代、つまり最初のRyzen 5 1600の場合。中盤のModelとExt.Modelが異なる表記になっている

Zen+世代のRyzen 5 2600ではこうなる。ModelとExt.Modelの値はRyzen 5 1600AFと同じ「8」になっている

Ryzen 5 1600AFを使っていても、Ryzen 5 1600とのみ表示される。この点はCPU-Zと共通だ。1600AFはあくまで我々が勝手にそう呼んでいるだけで、Windowsからは1600なのだ

低予算システムでのパフォーマンスをみる

 今回Ryzen 5 1600AFの性能を見るためにAPUを除く近傍のRyzenを総動員した。即ちZen世代のRyzen 5 1600、Zen+世代で1600AFと入れ替わりになったRyzen 5 2600、そして現行のRyzen 5 3600と価格的に近い3500の4モデルだ。

 CPU以外のパーツについてはRyzen 5 3500レビュー時と同様にB450マザーにSATA SSD、メモリーは8GB×2という比較的低予算で準備できるものを中心で構成しているが、ビデオカードの選択だけパーツ調達の都合から変更している。メモリーはXMPを有効にし、各CPUの定格で運用、さらにCPUは冷却条件を揃えるためENERMAX製の低価格小型空冷クーラーを使用している。

【検証環境:AMD】
CPU AMD「Ryzen 5 3600」
(6コア/12スレッド、3.6~4.2GHz)
AMD「Ryzen 5 3500」
(6コア/6スレッド、3.6~4.1GHz)
AMD「Ryzen 5 2600」
(6コア/12スレッド、3.4~3.9GHz)
AMD「Ryzen 5 1600AF」
(6コア/12スレッド、3.2~3.6GHz)
AMD「Ryzen 5 1600」
(6コア/12スレッド、3.2~3.6GHz)
マザーボード ASRock「B450 Steel Legend」
(BIOS P3.20)
メモリー G.Skill「F4-3200C16D-16GTZRX」
(DDR4-3200、8GB×2)
ビデオカード ASRock「Radeon RX 5500 XT Challenger D 4G OC」
(Radeon RX 5500 XT)
ストレージ Crucial「CT1050MX300SSD4/JP」
(M.2 SATA SSD、1.05TB)
電源ユニット Super Flower「Leadex Platinum 2000W」
(2000W、80Plus Platinum)
CPUクーラー ENERMAX「ETS-N31」
OS Windows10 Pro 64bit版
(November 2019 Update)

Ryzen 5 2600を微妙に上回ることもある

 ではいつも通り「CINEBENCH R20」のスコアー比べから始めよう。Ryzen 5 2600と1600AFのスコアーに差はつくのか、Ryzen 5 3500と1600AFの性能の序列はどうなのか? に注目しよう。

「CINEBENCH R20」のスコアー

 Ryzen 5 1600AFのパフォーマンスは、マルチ/シングルスレッド問わず2600をやや下回る程度。製品ラインナップでは上位に位置づけられるRyzen 5 3500に対しては、1600AFの方が論理コアが多いぶんマルチスレッドのスコアーは高いが、シングルスレッドのスコアーは大きく引き離されている。ベースクロックの差やZen+とZen2の格差がここに現れているといえる。

 ではPCの総合性能をみる「PCMark10」でRyzen 6 1600AFの得意とする分野はどこか探ってみよう。今回は“Standard”テストを実施し、総合スコアーのほかに各テストグループ別でもスコアーを比較する。

「PCMark10」Standardテストのスコアー

「PCMark10」Standardテスト、Essentialsテストグループのスコアー

「PCMark10」Standardテスト、Productivityテストグループのスコアー

「PCMark10」Standardテスト、DCC(Digital Contents Creation)テストグループのスコアー

 総合スコアー(Standard)を見るとほぼCPUの序列通り。Webブラウジングなど軽い負荷で構成されているEssentialsテストグループの結果が一番分かりやすい。Ryzen 5 1600AFは2600よりやや下なのも同じだ。

 このベンチマークではEssentialsがWebブラウジングなどの軽めの作業、ProductivityがLibreOfficeを使った作業だが、どちらもシングルスレッド勝負の側面が強いため、Ryzegn 5 1600AFは論理コア数が多くてもシングルスレッド性能の高い3500には勝てないのだ。

 続いては軽めのゲーム系ベンチを回してみよう。まずは「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」の公式ベンチを使う。画質は“最高品質”、解像度はフルHDで固定とした。スコアーに加えてレポートに記録されている最低と平均fpsもチェックしてみよう。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」ベンチマーク、1920×1080ドット時のスコアー

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」ベンチマーク、1920×1080ドット時のフレームレート

 6C12TのCPUに絞って眺めると、Ryzen 5 3600と2600がほぼ同じ性能を示しているが、1600AFはそこから少し下に位置している。6C6TのRyzen 5 3500はL3キャッシュの少ないぶん、3600や2600番台よりも微妙に下がった位置につけているが、辛うじて1600AFよりは上、といったところだ。

 続いては「Rainbow Six Siege」でも試してみよう。APIはVulkanとし、画質はプリセットの“最高(レンダースケールは50%)”、フルHD時のフレームレートを内蔵ベンチマーク機能を利用して計測した。

「Rainbow Six Siege」Vulkan、1920×1080ドット時のフレームレート

 最高fpsだけ見るとRyzen 5 3600が頭一つ高い見えるが、平均fpsではRyzen 5 3600〜1600AFまでほぼ誤差レベルの違いでしかない。最低fpsはどのCPUでも誤差レベルの差でしかない。

 負荷が軽いゲームだけあってこのクラスのCPUでは力の差が出にくい。CPU負荷の高いゲームはさておくとして、Rainbow Six Siegeで遊ぶならRyzen 5 1600AFは悪くないチョイスといえる。

クリエイティブ系アプリでのパフォーマンスは?

 6C12TのRyzen 5は写真編集や動画編集を始めるユーザーにとって安くてそこそこ並列度が高く、動画エンコードでも無駄になるコアが少ないという点で非常にバランスの良いCPUだ。そこでここでは「Lightroom Classic」と「Handbrake」におけるパフォーマンスもチェックしてみよう。

 まずLightroom Classicだが、100枚のDNG形式のRAW画像(24メガピクセル)を最高画質のJPEGに書き出す時間を比較する。書き出し時にシャープネス(スクリーン用、適用量“標準”)を付与しているためCPU負荷が非常に高い。

「Lightroom Classic」DNG→JPEG書き出し時間

 同じ6C12TであってもRyzen 5 3600は頭一つ抜けた性能を発揮している。6C6TのRyzen 5 3500が次点なのでコア数もさることながらZen2の処理効率の高さが効いている。Ryzen 5 3500と2600/1600AFのL3キャッシュはいずれも16MBであるため、第3世代Ryzenの速さはZen2の処理効率の高さにあると考えてよい。

 肝心のRyzen 5 1600AFはというと、2600と1600の中間に着地。実に順当な結果といえるだろう。

 最後に動画エンコードツール「Handbrake」の処理速度を見てみよう。再生時間約5分の4K動画(H.264)を「Super HQ 1080p30 Surround」設定でフルHDのMPEG4にエンコードする。

「Handbrake」による4K MP4→フルHD MP4(ともにH.264)変換時間

 6C6TのRyzen 5 3500が最も遅いのは当然の帰結として、その後にZen世代のRyzen 5 1600、Zen+の1600AF/2600と来て、最速は3600となった。Ryzen 5 1600〜2600までの結果は、これまで見てきたベンチ結果を裏付けるものだ。

消費電力やクロックの推移

 大まかな性能の傾向が分かったところで、消費電力を見てみよう。ラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を利用し、アイドル時(システム起動10分後の安定値)および高負荷時(Handbrakeによるエンコード中の安定値)をそれぞれ計測した。

システム全体の消費電力

 プロセスルールが14nmと粗いZen世代のRyzen 5 1600が最も消費電力が高かったが、12nm世代のRyzen 5 1600AFもピーク時の消費電力では大差ない。ただアイドル時の消費電力は大きく下がっており、プロセスルール微細化や設計の洗練度の進歩を感じさせる。

 今回準備したCPUの規模だと、Handbrakeでエンコード処理をすると全コアフル稼働状態になるが、その際CPUの実効クロックや電力消費はどの程度違う/同じなのだろうか?

「HWiNFO」を利用し全コアの平均実効クロック(Average Effective Clock)やダイ温度(Tctl/Tdie)、電力関係のパラメーター(PPTおよびTDC)の推移を追跡してみよう。ここではRyzen 5 1600AFを中心にその前後のCPU、即ち1600と2600の挙動と対比させてみたい。

エンコード処理時の平均実効クロック(Average Effective Clock)の推移

 Ryzen 5 1600AFはおおよそ3.5GHz前後なのに対し、旧世代の1600では3.4GHz前後、同じZen+の2600は3.7GHz前後で安定する。同じZen+でも2600とは約300MHzのクロック差が効いているから2600の方が速くなる。逆にZen世代の1600とはクロックは100MHzしか違わないがプロセスルールの差で勝つといったところか。

エンコード処理時のTctl/Tdieの推移

 CPUダイ温度に関しては、14nmプロセスのRyzen 5 1600が最も低い値を示し、続いてZen+の2600、最も高い値を示したのは1600AFだった。今回CPUクーラーはENERMAX 「ETS-N31」で統一しているので冷却条件は同一だ。

エンコード処理時のPPT(Package Power Tracking)の推移

 CPU全体のパワーリミットを示すPPTはクロックやダイ温度とは逆の傾向を示した。即ち一番遅かったRyzen 5 1600が最も高く(約82W)、続いて1600AF(約76W)、一番高速な2600が最も低いPPT(約66W)を示した。

エンコード処理時のTDC(Thermal Design Current)の推移

 CPUが使用する電力のピークを示すTDCでも、一番遅いRyzen 5 1600が約53Wと高い値を示したが、Zen+世代の1600AFと2600はどちらも47W前後を示した。ほんのわずかだが1600AFの方が高い感じもするが、ほぼ誤差といってよいだろう。

まとめ:性能は極めて良好

 以上でRyzen 5 1600AFのレビューは終了だ。価格が武器の製品なのに価格情報が、不明のままであるため断定的な事は言いづらいが、北米における85ドルという価格(今では値が上がっているが)に少し中間マージンを載せた国内価格だとすれば、Ryzen 5 3500よりやや下に位置すると筆者は想像している。

 Core i3-9100FとCore i5-9400F(Ryzen 5 3500の仮想敵)の中間に着地すれば、完全にインテルのエントリー帯CPUは性能で手玉にとれる。本当に担当編集が小耳に挟んだ1万円を切りそう、という価格で登場すれば、ビデオカードが必須ではあるが、低予算で論理12コアのパワーが使えるのは大きな魅力だ。

 しかし、Ryzen 5 1600というモデルに新旧という一見して分からない情報を追加した点には苦言を呈したい。安いし性能的にあまり違わないし問題ないでしょ……というAMDの声が聞こえてきそうだが、OPNの末尾を確認しなければ分からない程度の違いでここまで性能が違うCPUを存在させていいものなのだろうか。

 ちゃんとOPNを表示して販売してくれる店舗なら問題ないが、そうした知識に乏しい量販店系や中古販売店での販売は大丈夫なのかが、やや心配だ。

【おまけ】Ryzen 5 2600を装着したあとに1600AFを装着して動かすと、Windows上からは1600AFは2600として認識され、性能もほぼ2600相当になる。ただしBIOSをOptimized DefaultにすればRyzen 5 1600として表記される

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