来年のiPhoneがワイヤレス充電だけになりそうなワケ

文●松村太郎 @taromatsumura 編集● ASCII

2020年02月13日 09時00分

 EUは1月30日、全てのモバイル機器の充電端子を共通化する規制案を可決しました。賛成582:反対40。ガイドラインは2020年7月までに策定される見込みです。そして、おそらくはUSB-Cポートが採用されることになる、と考えてよさそうです。

●アップルは反対してきた

 アップルは1月24日、声明でこの規制案に対して反対を唱えてきました。その理由は、技術革新を抑制し、大量の電子機器廃棄物を作り出すことだとしています。

 アップルはこれまで、独自規格も含めて、より良いポートを素早く採用するメーカーとして知られてきました。そのドラスティックな移行はしばしばユーザーに戸惑いを与えてきましたが、現在のiPadラインアップのように、中途半端にLightningとUSB-Cの2つの規格を残しているよりは、Macのように一気に移行した方がユーザーの将来的なメリットと、サードパーティのアクセサリメーカーにとって有益だといえます。加えて、一時的ですが、アップル純正しか存在しない充電器などのアクセサリの収益も見込めるのですが。

 コネクタの規格統一は、より良い技術が出てきた際、規制によってその技術の採用が制限される可能性が高いと考えられます。加えて、アップル製品のようにデバイスの形状と端子の位置関係に合わせたアクセサリが作られている場合、規格統一はこれらのアクセサリを使用不能にしてしまうことから、むしろ大量のゴミを発生させ、環境に悪いと言う主張です。

 しかし、そのアップルの主張は通らず、結果として賛成多数で端子規格統一の規制は実施されることになりました。

●なんとなくUSB-C、でいいのか?

 筆者の手元のデバイスを見てみると、実に様々な充電規格が混在していますが、「なんとなくUSB-Cが増えてきた」という現状です。

 原稿を書いている2018年モデルのiPad ProはUSB-Cに対応しており、2016年のMacBook Pro 13インチの充電器をそのまま利用できます。メインマシンの充電器とケーブルが統一されたことは、個人的なカバン事情として、2010年代で最もうれしかったことでした。

 持ち出すのはほぼiPad Proに絞られつつありますが、持ち出すマシンによって充電器とケーブルが入っているポーチも入れ替えるなんて高度なこと、筆者には到底ミスなしではこなせないからです。

 加えて、GoProやDJI OSMO Pokcet、Insta360 ONE Rは本体にUSB-Cポートがあって直接充電できますし、AirPods Proに付属するケーブルはUSB-C - Lightningという代物でした。このケーブル、買うと2000円以上するのですが、これがあるとiPhoneを、前述のMacBook Proの充電器で充電できます。

 しかしそのiPhoneはLightningだし、AirPodsもLightning、さらに富士フイルムのミラーレスデジカメ、いくつか持っているノイズキャンセリングヘッドフォン、モバイルバッテリーはマイクロUSBポート。結局必要なのは、USB-A - マイクロUSBケーブルと、マイクロUSB - Lightning変換コネクタの組み合わせ。

 さすがにこれでは、スマートとは言えません。

●USB-C充電器・ケーブル不足

 その一方で、USB-Cへの移行が果たして正しいのかを考える上で、今一度手元のデバイスやケーブルを見ていると、圧倒的にUSB-C充電器とケーブル、バッテリーは不足していることに気づかされます。

 手元にあるUSB-C充電器はMacBook ProとiPad、iPhoneに付属していたものだけ。いずれもUSB-PDという規格を通じてデバイスの急速充電ができますが、iPadやiPhoneに付属する18Wの充電器でMacを使いながら充電するのは厳しいです。

 またケーブルも、両端がUSB-Cのケーブルは2本だけで、あと手元にある2本はUSB-C - Lightning。そして前述のカメラに付属してくるケーブルはUSB-A - USB-Cというケーブルであるため、結局USB-C充電器にはつながりません。

 またUSB-CポートやUSB-PDに対応するサードパーティの充電器やバッテリーは持っていないので、新たに買わなければなりません。

 今後出てくるUSB-Cポートしか持たないデバイスのために、充電環境やケーブルなどを買い直さなければならず、それは出費となります。また使えなくなったアクセサリは捨てるしかありません。確かにこれはアップルが言うとおり、資源の無駄になってしまいます。

●やっぱりワイヤレスへ行きそう?

 だったら、ケーブルをなくせばいいじゃないか、という斜め上の解を出しそうなのもまたアップルです。実際、2021年モデルのiPhoneからはLightning端子が廃止されそうで、ワイヤレス充電だけの対応になりそう。であれば、EUに規制されようが、端子がないのだから問題ありません。

 ただ、現在アップル製品が対応している標準規格Qiの「急速」充電は7.5Wまで。iPhone 8以降は18Wで充電できるため、ワイヤレス充電の上限を大きく採らなければ、端子をなくして充電速度が大幅に低下する、という事態が起きます。

 アップルが性能を極力デチューンしない企業であることを考えれば、2020年の新モデルも含めて、ワイヤレス充電性能を高めてくる可能性は高いのではないか、と考えられます。

 ただしEUはケーブルだけでなくワイヤレス充電規格についてもガイドラインに盛りこみ、規格の分断化を避ける模様。とはいえ、実際Qiが優勢な規格であり、独自規格が多いアップルも採用しているため、余り心配しなくても良さそうです。

 

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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