23年前のソニーのフロッピーディスクカメラ「マビカ」を衝動買い

文●T教授、撮影●T教授、編集●ASCII

2020年01月09日 12時00分

マビカ(MVC-FD7)は1997年夏に発売開始された、ソニーのデジタルカメラの10倍ズーム機能付きモデルだ。当時、パソコン間のビジネスデータの共有に、もっとも使われた3.5インチ1.44MBのフロッピーディスクを写真の記録メディアとして使用した。安価なフロッピーディスクを利用することで、小容量ではあるが記録の共有に効果を発揮した。筆者は23年前の発売日に衝動買いし、3年ほど愛用していた。今回、同じモデルをメルカリで発見し、懐かしさとその着想の素晴らしさに再び心惹かれ2度目のリスペクト衝動買いをしてしまった

 今回は、令和が約3分の2だった昨年と違い、令和100%の年になって最初の衝動買いコラムだ。筆者の大好きな言葉に極めてありふれた「温故知新」というのがある。また同じように「巨人の肩の上に立つ」という言葉も大好きだ。

こんなに大きな箱に入っていたとは思っていなかった。昨今はすべてが無駄のない超コンパクトなパッケージなので驚いた。しかしバッテリー込み720gのマビカはほとんどデジタル一眼レフカメラに迫る重さなので大きすぎることはなさそうだ

 そして筆者が勝手に作った「たいていのモノは昔からある」という持論を再認識するために、今回は今から23年前の1997年に発売されたフロッピーディスクに画像を記録する、ソニーのデジタルスチルカメラMavica(マビカ)Model MVC-FD7を衝動買いしてしまった。

本体と付属品はほぼ完璧な状態のお買い得商品だった。内蔵のボタン型リチウム電池以外は問題なかった

 衝動買いといっても、もちろん23年前に発売されたデジタルカメラが、いまだ新製品で売られている訳ではない。筆者はいつものようにネットを徘徊していて、偶然にもメルカリで極めてリーズナブルな価格で販売されていたほぼ完璧なマビカのキットを衝動買いしたのだ。

大きく分厚い本体だが、グリップもしっかりしていて持った時のバランスも良い。10倍のズームレンズを搭載
両手で持って操作時にすべてのスイッチ類に指先が無理なく届く。現在のデジカメと比較してもまったく遜色はない。液晶ファイダーは2.5インチTFT 61380ドット
フロッピードライブとビデオ用のかまぼこ型リチウムイオン電池を搭載しているので厚みは62.5㎜ある。全体サイズは126.5×110.5×62.5mm

 実は、マビカは1997年の発売された日に、まったく同じモデルを衝動買いしていたので、今回で人生2度目の衝動買いとなる。1997年に購入した時には、その後すぐに海外出張となり、機内で取説を読んで試していた記憶が鮮明にある。

フロッピーディスクは3.5インチ1.44MBを使用。標準画素モードで30枚〜40枚、高画素モードで15枚〜20枚の撮影が可能だ

 シリコンバレーのオフィスで開催されたWorkPad商品企画ミーティングの席で、ホワイトボードに描かれた議事録をその場でマビカで撮影して、Palm Computingの創設者であるジェフホーキンスにそのフロッピーディスクを手渡して驚かせたことがあった。

 今ならホワイトボードに描かれた内容をスマホで撮影して共有することは極めて当たり前のことだが、23年前はまだまだ誰もができる芸当ではなかった。もちろんマビカに先立つこと3年前には、カシオ計算機のデジカメであるQV-10が発売されていたので、ホワイトボードをデジカメで撮影することは誰にでもできた。

2000年頃まではデータ共有メディアとしてもっとも使用されたフロッピーディスク(開発企業のIBMではディスケットと呼ぶ)中央のグレーカラーのモノが3.5インチ1.44MBのフロッピーディスクだ

その場で画像を共有できる驚きのあるデジタルカメラ

 しかし、内蔵メモリーに記録された画像を即座に会議の出席者が共有する方法はなかったのだ。当時ミーティングの同席者に、その場でフロッピーディスクを手渡して即座に今撮影したばかりの議事録を共有できることは、画期的なことだった。筆者にとってマビカは、そんな楽しい驚きのあるデジタルカメラだった。

操作系の配置や組み込みアプリのインターフェースなども、現代のデジカメと比較して変わりない。基本は1990年代後半には完成していたと考えるのが妥当だろう

 さて今回、2度目の衝動買いをしたマビカは23年を経過しているにも関わらず、なんと取説から付属品までそのすべてが揃っていたベストバイ商品だった。

 10倍ズーム付きのマビカは、バッテリー込みで720g。大人の男性なら片手でも持てるが、女性なら両手で持ちたくなる大きさと重さだ。操作系のほとんどは昨今のデジカメと変わらず、ファインダーとなる2.5インチTFT液晶画面の周囲に、使い勝手を考えて的確に配置されている。

 そしてマビカの最大の特徴は、当時のビジネスデータの受け渡し標準記録メディアであった3.5インチ、容量1.44MBのフロッピーディスクであったことだ。当時はほぼ100%のパソコンに内蔵されていたフロッピーディスクドライブは、正面からみたマビカの右側面にある。

 開閉ボタンをスライドすることでドライブの蓋が開き、一般的なフロッピーディスクの取り出しに使用する小さな突起を指先で押せばフロッピーディスクが飛び出してくる仕組みだ。

駆動電池としてNP-F530(ビデオ用リチウムイオンバッテリー7.2V 1350mAh)を採用。約500枚の撮影が可能なスタミナ仕様

 そしてマビカのもうひとつの特徴は電源に当時、松下電器産業(現パナソニック)と競争していたかまぼこ型のビデオ用リチウムイオンバッテリー(7.2V 1350mAh)を採用し、マビカで約500枚の写真撮影ができるというスタミナだった。

 フロッピーディスクは1967年にIBMによって開発され、商用モデルとして8インチサイズのものが1972年に発売された。IBMでは「ディスケット」と呼ばれ、長く大型コンピューターの操作コンソールの周辺や超レガシーなパンチカードデータ入力の次世代メディアとして使われていた。

 ICT世界では当時から次機種は容量が2倍以上、価格は半額以下……というのが通例で、フロッピーディスクも例外ではなかった。8インチの後にマビカ(FD7)でも使われている3.5インチ1.44MBサイズが登場、その2倍の2.88MBサイズで終焉となった。

 その後は、デジタルカメラ自体の可搬性能の追求や、画素数の急激な拡大によって、フロッピーディスクではサイズ、要求容量に応えられず、PCMCIAカード、SDカード、microSDカードと、どんどん小さなスタティックメディアに移行するとともに、その容量は急拡大を余儀なくされた。

 2000年以降になると、ネットワーク経由以外のビジネスデータのオフラインのやり取りはUSBメモリーが引き継ぐことになる。筆者宅にはUSBメモリーは数えきれないほどあるが、あいにくフロッピーディスクはここ10年ほど見たことがなかった。

 しかし家中を探し回った結果、過去何十回という断捨離を逃れて奇跡的に自室に残っていたたった2枚のフロッピーディスクを発見した。そして有頂天になり、23年ぶりに再び手に入れたマビカと遊んでしまった。

間が抜けたことに、フロッピーディスクドライブを断捨離して持っていなかったのでウェブ通販で即購入。意外といまだに需要はあるらしく、数種類以上のUSBインターフェースのフロッピーディスクドライブが1500円前後から売られていた

重要なアイテムが断捨離の犠牲になっていた……

 散々遊んだ挙句、突然、この撮影データの入ったフロッピーディスクをパソコンに読み込むための「フロッピーディスクドライブ」なるモノを持っていないことに気が付いた。最悪の場合、マビカ背面の2.5インチTFT液晶で見ることになってしまいそうだった。

 実は、去年まで、USBケーブル付きのIBMディスケットドライブを持っていたのだが、もう何年も使うことがなかったため誰かにあげてしまった。フロッピーディスクは断捨離を逃れた2枚がコンピュータの歴史を説明するためのモニュメントとして生き残ったが、フロッピーディスクドライブは不要に思えたので始末してしまっていたのだ。

何十年振りかに筆者の机の上にフロッピーディスクドライブが鎮座した。これで思う存分マビカで撮影したレガシーでホットなデジタル写真を簡単にパソコンに取り込める

 令和2年になっては、もはやどこにもUSB接続のフロッピーディスクドライブなんて売っていないと思いつつダメ元でネットを見て見たら、これが意外とたくさん売られているのだ。おまけに1500円前後という低価格。迷わず速攻で購入してセットしてみた。

Windows 10ではフロッピーディスクドライブをUSBポートに接続するだけで自動認識してくれる

 早速、マビカで撮影したフロッピーディスクを入れてパソコンと接続して見た。なんとWindows 10では設定も不要でフロッピーディスクを認識してくれる。画面に表示されたフロッピーディスクドライブをマウスカーソルでクリックすると、懐かしい「ジーコジーコ」という音と共にサムネイル画像がパラパラと順番に表示された。

フロッピーディスクドライブ アイコンをクリックすると、懐かしいフロッピーディスクを読む音が「ジーコジーコ」と聞こえてサムネイル写真がパソコンの画面にぱらぱらと表示される

 マビカの撮影画質にはJPEGの「標準画質」(Standard)と「高画質」(Fine)の2種類が用意されている。標準画質なら1.44MBのフロッピーディスク1枚におおよそ30枚〜40枚、高画質なら15枚〜20枚が記録できる。

マビカの高画素モード(左)と標準画素モード(右)記録データサイズで2倍ほどの差があるが見た目はそれほどの差は感じない。ちなみに高画素モードでも昨今のスマホカメラの撮影画像と比較すると1枚のJPEG写真サイズは45KB 〜60KB と超々小さい

 実際に筆者が高画質と標準を切り替えて同じ被写体を撮影してみたところ、それほど顕著な差は感じなかった。実際の画像(高画素)のオートフォーカスやマニュアルフォーカス、ズームや接写などでマビカで撮影した数枚のサムネイル画像のように小さなVGAサイズ(640×480ドット)の写真を参考までに掲載しておく。

高画素モードで比較的くらい我が家の廊下で愛犬のボビーをオートで撮影
リビングで寝ているボビーをオートズームで撮影
デスクトップに飾っているフィギュアをF値+1.5でマニュアル撮影
同じフィギュアをマニュアルズームで撮影
腕時計をマニュアルで接写

 奇跡的に残っていたフロッピーディスク2枚、なんとか再購入できたUSBフロッピーディスクドライブ、これでやっとマビカで撮影した画像をパソコンまでもってくることはできた。しかしここまでくればフロッピーディスクを直接スマホに繋いで、マビカでの撮影画像をスマホに読み込んでみたくなった。

3台のスマホの最初のモデルにフロッピーディスクドライブを接続すると給電のみのモードで認識
指先でタップしてファイルを転送を選択しても給電のみに戻ってしまう。2台目はフロッピーディスクドライブを接続してもなんら変化なし

スマホにマビカで撮影した画像を読み込んでみた

 気分的にはOTGをサポートしているスマホなら、USBタイプの周辺機器を接続できそうな気配だ。筆者のスマホでも実際にハードディスクやSSD、USBメモリーなどは読み込むことができているモノがほとんどだ。

最後のスマホはフロッピーディスクドライブを完璧に認識したのでファイルマネージャーアプリを起動した

 ちょうど、我が家にはOTGをサポートしている同じ世代のスマホが3台ほどあるので、順番にテストしてみた。最初のスマホは、フロッピーディスクドライブに給電しようとするが、ファイル転送を選んでもすぐに自動的に給電のみに変わってしまって接続不可。

ファイルマネージャーでは、フロッピーディスクドライブは「MY_PHOTO」というフォルダとして認識された
MY_PHOTOフォルダの中を覗いてみるとマビカで撮影された写真本体とサムネイルらしきファイルが見つかった

 2台目のスマホは、まったく反応なし。最後のスマホは無事接続できて、ファイルマネージャーを起動すると、メインストレージ(スマホの本体メモリー)やSDカードと並んで「MY_PHOTO」というメディアとして認識された。

 MY_PHOTOアイコンをタップすると、パソコンの時と同じく、フロッピーディスクドライブがジーコジーコと音を立てて、実際にマビカで撮影した画像が順に表示された。どうも画像部分が空白で末尾が「411」で表示されているファイルはサムネイルのようだ。

これでマビカで撮影したフロッピーディスクに記録された写真をフリッピーディスクドライブ経由でスマホに読み込むことができるようになった。早速、ボビーの写真などをSNSへアップロードしてみた。チョット手間はかかるがスマホのOTGポートにUSBフロッピーディスクドライブが直接接続できたのは驚きだ

 なんと23年前のマビカで撮影したフロッピーディスクを、23年後の最新のスマホで読み込めていることはなかなかの感動だ。23年の時を超えた記念に撮影した何枚かの写真を、スマホからFacebookにアップして見た。SNSにアップして多くの人に見てもらうだけなら、VGA解像度(640×480ドット)でも十分だ。

SNS上に表示されたマビカのVGAサイズの画像をスマホで見て2度驚いた。一般的なSNSではこの20年以上昔のデジカメ画像でもほとんど問題なさそうだ

 しかし筆者も含め、人間はより速いモノ、密度の高いモノ、小さなモノに憧れるのが一般的だ。そんな人間がスマホのカメラを1億画素を超えるまでに押し上げた。しかし、23年前の38万画素と現代の1億画素を比べてみてももそこに大した意味はない。

古きを知って新しい未来を創る。23年前のマビカは十分そんな素材と成り得る素晴らしい商品だ

 このコラムでも毎週過去12年近く毎回新しいモノをご紹介してきたが、令和100%になった今後は、ジャンルを問わずどこかで衝動買いできるモノなら、発売されたばかりの新製品ばかりではなく、過去の素晴らしい製品も積極的に紹介していこうと考えている。未来を考え創る一番の近道は、巨人の肩の上に立ち、過去を知ることだと確信しているからだ。


今回の衝動買い

アイテム:ソニー デジタルスチルカメラ「Mavica(MVC-FD7)」
・購入:メルカリ
・価格:8万8000円(1997年夏当時)


T教授

 日本IBM社でThinkPadのブランド戦略や製品企画を担当。国立大芸術文化学部教授に転職するも1年で迷走。現在はパートタイマーで、熱中小学校 用務員。「他力創発」をエンジンとする「Thinking Power Project」の商品企画員であり、衝動買いの達人。

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