人気AirPods Proは音ゲーで使いものになるのか

文●外村克也(タトラエディット) 編集●飯島恵里子/ASCII

2019年12月30日 12時00分

Appleストアオンラインでは、およそ1ヵ月待ちという人気のAirPods Pro。価格3万24円

 2019年12月時点でも、Appleストア オンラインではおよそ1ヵ月待ちという人気のAirPods Pro。もともと好調だったAirPods(第2世代)にノイズキャンセリング機能を備えた、フルワイヤレスイヤホンだ。今回は、このAirPods Proについてのレビューをお届けしたい。とはいえ、発売からゆうに1カ月以上が経過し、今さら感にもほどがある。と、そうした声が聞こえてきそうだが、どうしても注目していただきたいことがあったのだ。

 それは、音ゲーでどれくらい使いものになるのか、ということ。

 筆者は、昨年から『バンドリ! ガールズバンドパーティ(ガルパ)』というスマホゲーにドハマりしている。ASCII.jpの読者にとっては、『ラブライブ! スクールアイドル フェスティバル(スクフェス)』や『アイドルマスター シンデレラガールズ(デレステ)』といったタイトルが音ゲーのおなじみであろう。

 いずれも二次元のキャラクター群が登場するものだけど、ガルパはそうした二次元アイドル系音ゲーでは後発となる、2017年3月にリリースされたごく最近のゲームだ。スクフェスは6年前、デレステもアイドルマスターシリーズとして14年も経過していることにくらべ、ガルパはリリース後わずか2年半しか経過していない。

 しかし、この短期間ながら219曲をリリース(2019年12月2日現在)しており、スクフェス(約210曲)、デレステ(約230曲)に肩をならべる規模に成長している。11月にはApp Storeのトップセールスランキングで1位を獲得。12月にはユーザー数が1100万人を突破している。この数値が、ダウンロード数ではなはくアクティブユーザー数というのだから驚きだ。まさに、2019年のキング・オブ・音ゲーといえるだろう。

 このバンドリで、AirPods Proはどれくらい使い物になるのかをお伝えしたい。

音ゲーではケーブル付きで我慢するしかないのか?

 ガルパを日常的にプレイするにあたって、非常にわずらわしいと感じていたのが、イヤホンのケーブルだ。

 iPhoneでプレイする際、ホールドして親指でノーツ(リズムに合わせて登場するポインターのこと)をタップするというスタンダードなスタイルでプレイしているが、激しい連打の際にケーブルがぶらんぶらんと揺れまくって、めちゃくちゃ気になるのだ。

 また、ゲーム中は本体のバッテリー消費が激しい。さらに、スクリーンレコード機能を使って録画しようとなれば、iPhone 11 Proであってもみるみるバッテリーが減っていく。このとき、有線イヤホンがLightningコネクタを占有するので、充電しながらプレイすることができない。

 充電しながらイヤホンを挿せるタイプのアダプターが販売されているものの、接触が不安定であったり、位置どりが悪くプレイしにくかったりして、まだこれといった製品に出会えていないのが現状だ。

筆者が試した充電しながらイヤホンが使える製品のうちひとつ。たしかAmazonで購入したもの。ゲームプレイ時に横位置で持つと、力が入ったときに傾いてしまうのか、接触が安定せず使い物にはならなかった

 「じゃあワイヤレスイヤホン使えばいいじゃん」となるのだが、音ゲーの場合はそうもいかない。ワイヤレスはケーブル直結にくらべて情報の伝送量が格段に少ないので、本体で音声信号を圧縮(エンコード)し、イヤホン側で伸張(デコード)する。この間、わずかながら遅延が発生する。

 ほんとうにわずかな時間だが、音ゲーではこの遅延が痛い。

 ガルパでは180~200BPMの曲が大半を占めている。BPMとは、曲のテンポを示す単位で、数値が大きいほど速いテンポの曲ということになる。

 仮に180BPMの曲であったとすると、16分音符の間隔は83.3ミリ秒。つまり、83.3ミリ秒ずれると画面へのタップと音が合わず、リズムに違和感を覚えはじめる。166.7ミリ秒以上ずれるとなれば、相当な慣れが必要になるはずだ。

 ガルパでもっとも速い楽曲は『GO!GO!MANIAC』の250BPM。これだと60.0ミリ秒で16分音符ひとつ分ずれてしまうので、こうしたテンポの速い楽曲にとって音声の遅延は致命的。

 先頃、ゲームデバイスメーカーのRazerは、低遅延60ミリのワイヤレスゲーミングイヤホンを発表した。しかし、それでも遅いという、とてもシビアな環境を求められるのが音ゲーの世界だ。ちなみに、画面表示にたとえると、60.0ミリ秒は60fpsのうち3~4フレーム分に相当する。

 また、音ゲーではワイヤレスイヤホンの利用を想定して、音のずれをゲーム内で調整できる機能を持つものが多い。ガルパにも、もちろんこの機能が実装されている。しかしながら、調整で数値を大きく変えると、タップした際のリズム音と、実際の音楽のタイミングが大きくずれて、逆にプレイに集中できなくなってしまう。

 それゆえ、音ゲーは有線イヤホンでのプレイが基本。というのが、音ゲーマーの常識となっていた。

 こうした状況の中で、AirPods Proに注目していたのには理由があった。2019年1月に発売されていたAirPods 2は、H1チップを搭載することで前機種より遅延を30%ほど低減している。AirPods Proにも同様にH1チップが搭載されていることから、音ゲーのプレイにも耐えるのではないか、と予想していたのだ。

難易度HARDまでなら問題ないが……

 ガルパは、「EASY」~「EXPERT」まで4段階(楽曲によっては「SPECIAL」を加えた5段階)の難易度を選ぶことができる。

 さらに、ノーツ数が多かったり、スライドやフリックといったテクニックを多様するものなど、同じ難易度でも微妙に難しさが異なるため、楽曲ごとにさらに細かな指標が「楽曲レベル」として設定されている。

 楽曲レベルは数値が高くなるほど高難易度となっていて、最高値は5~29まである。 AirPods Proを購入して、実際にEXPARTの楽曲レベル24~25あたりの曲をプレイしてみると、遅延を感じながらも設定の変更なく普通に遊ぶことができた。

 著しい違和感を感じ始めたのは、EXPERTのレベル26の楽曲をプレイしてからだった。筆者はレベル26~27の一部の楽曲は、ミスなくフルコンボを取得できるほどの腕前。しかし、レベル26の多くの曲で、ノーツの取りこぼしが目立ちはじめた。

 有線の「EarPods with Lightning Connector」ととっかえひっかえしながら気づいたのだが、AirPods Proではわずかに遅延があるようだ。聴覚と視覚だけでは、具体的にどれくらいの遅延があるのかわからないので、実際に調べてみることにした。

iPhoneの内部音声とAirPods Proの出力音声の遅延を計測

 まずは、iPhone 11 Proのスクリーンレコード機能を利用して、プレイ動画を撮影。iPhone内部での動画エンコード処理時に音がずれている可能性は否めないが、現状はHDMI出力を録画する方法と比べても内部音声の遅延を最小にして録画するにはもっとも適した方法となる。

iPhone 11 Proでガルパを起動後、コントロールセンターからスクリーンレコードを開始する

 さらに、フレームレート60fps以上で動画撮影できる手持ちのソニー「RX100m3」のマイク部分にAirPods Proの片耳を固定。もう片方を聞きながらプレイしている様子をじかに撮影。

ソニー「RX100M5」のマイク部分にAirPods Proの片方をテープで固定し、iPhoneの画面を撮影

 この2つの動画の映像タイミングを動画編集ソフトであわせ、音声トラックのずれを見るという方法で検証している。AirPodsの設定は、ノイズキャンセリングをオンの状態で行った。

AirPods Proでは8フレーム分のずれがある

 動画を確認すると、音声にエコーがかかったように聞こえる。ずれがある証拠だ。動画のフレームレート60fpsのうち、8フレーム分。つまり、133.3ミリ秒ほどの遅延があることになる。ためしに、ノイズキャンセリングをオフにしたり、外部音取り込みにしたりと試したが、変化はなかった。

 聴覚上の違和感を覚え始めるのが10ミリ秒からで、低レイテンシのDTM環境でも16.8ミリ秒程度。133.3ミリ秒もの遅延があれば、プレイには相当な慣れが必要となる。

 ガルパは、4分音符や8分音符程度の間隔でノーツがまばらに登場する際は、タップ時のある程度のずれは許容範囲内として「PERFECT」または「GREAT」と判定してくれる。これならコンボが途切れることはない。しかし、楽曲レベル26以上ともなれば、16分音符や8分の3連符ノーツをさばく必要がある。BPM180の楽曲なら16分音符で41.7ミリ秒、8分の3連符でも55.6ミリ秒の間隔でタップしなければミスとなる。

 ちなみに、高橋名人でおなじみの16連射でも、せいぜい062.5ミリ秒間隔。いかに音ゲー高難易度の世界が厳しいかがわかるだろう。

 この中で、AirPods Proの133.3ミリ秒のずれは、かなりきついものがあるはずだ。

普段利用している動画編集ソフトBlackMagic Designの『Davinch Resolve』。下部の音声の波形を見ると、上段のRX100M3で撮影したAirPods Proの音声が、下段のiPhone 11 Proの内部音声よりも遅れて鳴りはじめていることがわかる。その間は8フレーム

 楽曲レベル25で大きな違和感を感じなかったのは、無意識に音と画面のずれを認識し、自然と指を動かしていたのかもしれない。1曲あたりのノーツ数も500~700程度と多くはなく、フルコンボも取ることができる曲が多かった。

 楽曲レベル26を超えると、もうAirPods Proのレイテンシでは指と音のずれがはっきりとわかり、プレイに集中できなくなってしまう。ノーツ数が1000を超えるような曲では、まともにコンボが続かず、曲中に容赦なく差し込まれる大量のノーツをさばききれずに、ミスをしてしまうことが頻繁にあった。

 せいぜい200コンボ続けばいいほうだった。

屋外で発生する音切れが音ゲーには致命的

 屋外でガルパをプレイしたところ、音がプツプツと切れる現象も確認できた。駅周辺などの人が集まりやすい場所や、Bluetooth対応の車種が増えてた影響か駐車場での停車中でも、頻繁に音切れが発生してしまう。

 Bluetoothイヤホンが出始めのころ、こうした音切れに悩まされたユーザーは少なくないだろう。

 以前、初代のAirPodsを利用しているときはこうした音切れを経験したことがなかったが、AirPods 2、Proに買い換えてからはゲームに限らず、音楽を聴くときも音切れに悩まされることがある。

 もしかすると、H1チップ搭載などのハードウェアの変化が、アンテナ部分に何らかの影響を与えているのかもしれない。

 いちど音切れが発生すると、復帰してもさらに遅延がひどくなったように感じたり、曲によっては耳から聞こえる音と画面が完全に異なるペースで進行したりと、まともに遊べなくなってしまった。

 ゲーム内のイベントをせっせとこなすため、屋外では効率の良い高難易度曲をすき間時間にプレイしようともくろんでいたが、残念ながらAirPods Proの出番は少なかった。

 こうした場所でプレイするなら、有線のイヤホンのほうがいいだろう。筆者は、外出時にAirPods ProとEarPodsの両方を持って出かけるようにしている。

ノイズキャンセリングは没入感が半端ない

 AirPods Proを購入して驚いたのが、ノイズキャンセリングの性能だ。以前愛用していたBoseの「Bose QuietComfort 20」と比較すると、多少外音が聞こえてしまうものの、ゲーム用としてはじゅうぶんノイズを除去してくれる。

 ガルパを他のユーザーといっしょにマルチプレイする際、どの曲にするかなどのコミュニケーションは外部音取り込みモードで行い、いざプレイが始まればノイズキャンセリングで集中する。こうした切り替えが、AirPodsを少しの間つまむだけでできるのがとても便利だった。

 リビングでゲームをするとき、耳を塞いでいるようには見えるが、外部音取り込みモードならゲームの音を聞きながら会話の受け答えができる。おかげで、家族に嫌な顔をされなくなった気もしている。

AirPods Proの先っぽを数秒間つまむだけですぐに外部音取り込みモードに切り替えられる。アプリを切り替えずに機能を使えるのは便利

 筆者はほかにもMinecraft(マイクラ)をよくプレイするのだが、ここでもAirPods Proが役に立っている。ノイズキャンセリングをオンにすることで、敵対Mobの位置をある程度把握しやすくなった。マイクラでは、時折略奪者が村を襲撃するという嫌なイベントが発生する。イベントで湧いた敵対Mobをすべて倒せばイベントを終了できるのだが、これまではどこに敵対Mobがいるのかわからず地上や地下を延々と探し回っていた。イベント発生時にノイズキャンセリングをオンにすることで、比較的早く襲撃イベントを終了できるようになった。

 機敏な反応が必要ないマイクラでは、多少の音声遅延はまったく気になることがなく、むしろノイズキャンセリングの良い部分が役に立っている。

 以上、AirPods Proは音ゲーでどれくらい使い物になるのかを見てみた。結論としては、楽曲レベル25以下を狙っている初~中級者ならAirPods Proでもオーケー。カジュアルに楽しむのであれば、ノイズキャンセリングや外部音取り込みモードが重宝するはずだ。また、音ゲーを楽しむユーザーであれば、日頃から多くの音楽を聴いているに違いない。ノイズキャンセリングで、場所を問わず気軽にリスニングできる環境が整う上に、ゲームの没入感が増すのであれば、3万円以上する価格にもきっと納得できることだろう。


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