中国版YouTubeの動画サイト「YOUKU(優酷)」はなぜ衰退してしまったのか

文●山谷剛史 編集● ASCII

2019年12月08日 12時00分

10年ほど前は中国版YouTubeとも呼ばれ
飛ぶ鳥を落とす勢いだった「YOUKU」

インターネット歴が5年10年それ以上あれば、中国の動画サイト「YOUKU(優酷)」というサイトの名前くらいは聞いたことがあると思う。日本のIT系メディアでも、掲示板やSNS界隈でもしばしば話題になっていた。

一時は中国版YouTubeとも言われていたのに、すっかり勢いを失った「YOUKU」

当時の中国では、動画サイトが雨後の竹の子のように出てくる状態で、「中国版YouTube」とも呼ばれていたYOUKUは、中国動画市場でシェアを50%以上に伸ばした。また、日本のアニメに強い第2の動画サイト「TUDOU(土豆)」とは無数の人気コンテンツの版権を競って購入し生き残った。その後、真正面から戦っていた土豆と突然合併し、当時中国関係者を驚かせた。2010年には華々しくニューヨーク証券取引所に上場。さらにその後、ECの巨人「アリババ(阿里巴巴)」が、YOUKUを2015年に買収した。

だが最近、YOUKUの話題を聞いたことがある人は少ないと思う。同社は2013年第4四半期に黒字化を達成しているが、これが同社でたったq1度きりの黒字であり、他の四半期すべてにおいて赤字だった。翌2014年には市場から調達した資金が底をつく。そんなこともあって2015年のアリババの買収は助け舟だったと言える。

BATこと、バイドゥ(百度)・アリババ・テンセント(騰訊)の中国IT大手3社の三つ巴の戦いの中で、中国のNetflixとも言われたことがある、バイドゥ傘下のiQiyi(愛奇藝)、テンセントのテンセントビデオ(騰訊視頻)との新動画サイトの競争が勃発、その結果、アリババグループの傘下でありながら、中国でも存在感が忘れられるほどに凋落してしまったのだ。

ライバルでバイドゥ傘下のiQiyi

戦略の中途半端さは否めないが、
アリババ傘下に入ったことも厳しくなった要因!?

もちろんアリババはYOUKUに何の手も施さなかったわけではない。資金を注入し、ヒットコンテンツも配信した。しかし、iQiyiやテンセントビデオに比べれば、それは不十分だった。今年の中国IT業界のトレンドはいくつかあるが、1つトレンドをあげるとすれば「ライブコマース」が挙げられる(動画を生配信しながら、賞品を販売する)。

ライブコマースが盛り上がる前に、アリババはYOUKUを活用したビデオ販売を行なっている。つまりYOUKUで動画を見て商品を気に入ったら、そこからクリック1つでタオバオ(淘宝)の商品ページにたどり着くというものだ。それは成功せず、サービスは終了した。

なにより中途半端だった。YOUKUは日本のアニメの版権を特に力を入れていたTUDOUと合併したが、日本サブカルのファン向けに徹底的に最適化された「ビリビリ動画」が台頭していった。TUDOUやYOUKUは日本サブカルファンを呼び込むには中途半端だった。

日本でも名前が知られているビリビリ動画

商品の動画配信については、YOUKUを見る必要もなく、アリババのタオバオやTmall、さらにアリババのライバルのジンドン(京東、JD)の商品ページに機能が実装されている。ライブコマースはTikTokをはじめとしたショートムービーサービスが次々に出る中では、スマートフォン向けアプリのほうがいい。

そもそもYOUKUはアプリはあるものの、パソコン向けサービスからスタートした雰囲気は拭えない。スマートテレビ向けからスタートしてモバイル向けに転身したiQiyiや、モバイルからスタートしたテンセントビデオと比べて、どうしても古臭さがある。動画を投稿するならTikTokのようなショートムービーで投稿するほうが、よほど映える。

さらにネットの巨人アリババに買収されると、その後転落するという悪いジンクスがあると指摘するメディアもある。アリババは、かつてヤフー中国を買収したが、買収後に存在感がなくなって終了した。また当時の中国発ブラウザーの雄「UCブラウザー」も、トップシェアをテンセントの「QQブラウザー」に譲った。フードデリバリーの「口碑」も街中で見かけたが、アリババによる買収後、存在は消えた。

バイドゥが検索を握っている中国では他傘下は厳しい
GoogleがAndroidを出さなかった「if」のネット世界

中国のネット論壇でも、YOUKUがいつのまにか転落したのはなぜかという話題が見られる。iQiyiやテンセントビデオに比べ、使い勝手が旧世代的でお粗末だという厳しい意見があった。具体的には先に動画データをキャッシュしない、音声と映像がしばらくするとズレる、バイドゥで検索してもYOUKUが見つかりづらくなった、というものもある。それもそのはず。YOUKUはアリババ系のサイトであり、バイドゥはiQiyiを抱えている。パソコン向けからスタートしたサービスでありながら、中国において検索サービスはバイドゥが握っているため、YOUKUはあまりに不利なのだ。

阿里巴巴の展示会においてもYOUKUブースは隅においやられていた

世界での例でも、YouTubeはGoogle傘下であるがゆえに、Androidにデフォルトでアプリが入っているし、Googleで動画検索すればYouTubeが出てくる。だが中国版YouTubeであるはずのYOUKUは、検索でも不利なら、iPhoneにしろAndroidスマートフォンにしろデフォルトでアプリが入っているわけではない。

もしかすると、スマートフォンに特化されていない古臭いサイトという意味では、YOUKUだけではなく、YouTubeも実はそうなのかもしれない。しかし、パソコンでもスマートフォンでも身近であるがゆえに世界中の人がYouTubeに依存しているのではないだろうか?

となれば、Googleがスマートフォン向けOSを開発していなければ、今の動画サービスの環境やトレンドはもっと変わっていたのかもしれない。ショートムービーのMusical.ly(同種サービスのTikTokによって買収)やニコニコ動画(自らのサービス開発力は別の話として)のような地域限定の動画サイトも生き残ったのではないだろうか。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場」「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」(星海社新書)。

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