Chromeと同じエンジンのEdge、正式版の来年1月配信を前に開発版の機能を見る
文●塩田紳二 編集● ASCII
2019年11月10日 10時00分
マイクロソフトは、開発が進められてきたChromium版Edgeブラウザーの正式版を、来年1月15日から配布すると発表した。ベータ版は、現在Edge Insiderにおいて提供されている(https://www.microsoftedgeinsider.com/)。今回はこのChromium版Edgeについて解説する。
あらためてChromium版Edgeとは?
Chromeと同じエンジンを用いたEdge
Chromium版Edgeは、グーグルのChromeのオープンソース版を利用して作られたEdgeだ。簡単に言えば、Edgeの皮を被ったChromeである。
ウェブページを表示するHTMLレンダリングエンジンやJavaScriptの実行エンジンはChromeと同等で、Chromeの拡張機能もそのまま利用できる。さらにChromium版Edgeの独自機能と、旧Edgeが持っていた機能(Web Noteやイマーシブリーダーなど)も搭載されている。
現在のWindows 10に搭載されているEdgeのHTMLレンダリングエンジンである「EdgeHTML」は、IEで使われていたTraidentをベースにしたもので、JavaScript実行エンジンも同じくIE上のChakraから開発が進められたものだ(ただし、こちらもChakraと呼ばれている)。
これに対して、Chromium版EdgeのレンダリングエンジンはChromeと同じ「Blink」、JavaScript実行エンジンは「V8」を利用する。このため、HTMLの表示やJavaScriptの互換性に関しては、Chromeとほぼ同等(ChromeとChromiumは同一ソースコードからそれぞれ独自に実装されたものと考えられ、完全に同じではない)である。ただし、Chromium版Edgeは前述したようにMicrosoft独自機能や旧Edgeから引き継いだ機能などがあり、ウェブブラウザーというソフトウェアとしては、Chromeとは別ものである。
プログラムとしてのChromium版Edgeと旧Edgeの最大の違いは、旧EdgeがUWPであったのに対して、Chromium版Edgeは、デスクトップアプリ(Win32アプリケーション)に戻った点だ。UWPを普及させようとUWP化したのだろうが、UWPであるがゆえの制限もあり、Windows 10の登場当初は機能不足が目立ったが、その後も改善が続けられてきた。
性能面でも一部のベンチマーク項目では、ChromeやFireFoxを上回ることはあるものの、総合的には後塵を拝し、第3位のブラウザという位置付けだった。拡張機能でも先行したChromeやFireFoxに水を空けられている状態。また、ウェブサイト側の対応では、IEより優先順位が低く、積極的に対応をうたうのはマイクロソフトのサイトぐらいだ(その割には最近までIEでしか動かないSilverlightを利用したページもあったが)。このままでは先の見込みもないということで方向転換したのが、Chromium版Edgeと言える。
なお、実装されているプラットフォームはWindows 10だけでない。Windows 7/8.1にWindows Server 2016/2008R2~2012R2、さらにはmacOS向けバージョンもある。このほかにマイクロソフトは、AndroidとiOSにおいて、すでにEdgeブランドのブラウザーを公開している。
Windows/macOS版に関しては、現在「Canary」「Dev」「Beta」の3つのチャンネルがある。これは開発時期と安定度の違いである。Canaryは、いわゆる“できたて”であり、毎日更新される。これに対してDevは開発者向けで、社内テスト後の公開でCanaryより安定度があるが、更新は1週間に1度となる。Betaは、さらに安定度があり、更新は6週間に一度となっている。
とりあえず、使ってみるならBetaだろうが、まだ一部の機能が実装されていない。現時点のフル機能が搭載されており、さらに一定の安定感を求めるならDevチャンネルを選ぶべきだろう。なお、これらのチャンネルのEdgeは、Windows上では別アプリケーション扱いとなるため、従来のEdgeとは共存が可能だ。
Chromium版Edgeにしかない独自機能
企業内の旧ウェブアプリ向けの「IEモード」も
独自機能は細かなものを入れると結構あるのだが、大きなものだけ挙げると、以下の4つだ。
・コレクション
・追跡防止
・IEモード
・開発者支援機能の強化
「コレクション」は、ウェブから情報収集するためのツールで、ウェブページやページ内の画像などを短冊状のカードとして右側に表示されるペインに追加していくことができる。
このカードには、リンクになったページタイトルとページ内画像が表示される。このほか、書式指定の可能なメモも追加できる。簡単にいうとメモが追加できるサムネイル付きブックマークという感じだが、意外に便利だ。作成されたコレクションは、WordやExcelにエクスポートできる。Excelは単純なブックマークの表になってしまうが、Wordではメモも入り、うまく作ると調査項目の簡単なレポートになる。
「追跡防止」機能とは、閲覧中のページ以外からのサイトがユーザーを特定して広告表示することなどを防止する機能だ。
オンラインショッピングサイトをで化粧品を閲覧したあと、広告の多いページに行くと、ほとんどの広告が化粧品になっていることがある。これは、広告がブラウザーに残るユーザーの閲覧行動記録などから情報を得て、表示しているからだ。これをユーザー追跡と呼び、プライバシー上の懸念がある。Edgeは表示中のウェブサイト以外からのユーザー追跡を標準で禁止するようになっているという。
「IEモード」は、社内向けの古いウェブアプリなど、いまだにIEでなければ表示できないページ、たとえばActiveXプラグインが使われているページなどの表示するときに、IEと互換性のあるモードに切り替える機能だ。
ただし、企業向けの機能として、グループポリシーでの制御を想定している。利用するは、グループポリシーの設定やIEモードを許可するURLを記述したXMLファイルなどが必要で、インターネット閲覧中に「このサイトだけIEでみたい」といった使い方はできない仕様だ。
「開発者支援機能」では、Visual Studio CodeによるJavaScript開発やデバッグに対応するほか、ウェブページのアクセシビリティをチェックするためのWebhintを搭載するなど、開発者よりの姿勢も見せている。
今後登場するさまざまなクラウド系サービスへの対応や拡張機能(多くのクラウドサービスが使い勝手を向上させるために拡張機能の併用を行う)の拡充などを考えると、開発者寄りの姿勢は必須といえる。また、Windowsのローカルアプリケーションでも、HTMLレンダリングエンジンを使うことも多くなってきたため、従来のWindows開発者向けという面もある。
このほか、タブを新しく開いたページのカスタマイズが可能だ。マイクロソフトは、これを「New Tab Page(NTP)」と呼ぶ。
ここには、よく利用するURLを登録できるが、背景やニュースフィード有無などで3パターンがあるほか、「背景画像」「ニュースフィード」の有無と表示形式などを個別にオンオフすることなどが可能。ここには、Bing検索欄があるため、導入ページとして関心を持たせたいのだと思われる。なお、現時点では、設定で直接検索プロバイダーを指定することはできないが、拡張機能により、検索機能や新しいタブページ、ホームページなどを変更することは可能で、その機能を許可、禁止する設定項目がある。
Edgeならではの便利な機能は確かにあるものの
Chromeから乗り替えるだけの動機にまではならない!?
動かしてみた感じ、Devチャンネルではときどきクラッシュして落ちることがあるものの、ある程度安定して動き、Betaチャンネルはかなり安定していた。たしかにコレクション機能は便利な機能の1つで便利な機能だし、Windows Ink(ペン)を使っての注釈機能を持つPDFビューアーなど便利な機能はあるものの、あえて、Chromeから乗り換える理由としては弱い。
強いて言えば、IEから抜け出せない企業向けには、IEモードが大きな理由にはなりそうだ。また、マイナンバーカードとの併用が必要なe-Taxなどのページや各種のFeliCa連携サイト(ActiveXプラグインが必須)が利用できるようになるのであれば、日本だけでは多少需要は期待できるが、おそらくChromium版Edgeの全世界のシェアに影響が出ることはないだろう。とは言え、今までのようにEdgeとChromeを使い分ける必要がなく、Chromium版Edge1つで済ませること自体は可能にはなる。どうしてもEdgeやIEを使わなければならなかったユーザーには“朗報”なのかもしれない。
■関連記事