iPhoneを忘れても気づかなかったことで見えた、スマートフォンの役割が分断されていく未来

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2019年08月31日 10時00分

間もなく発表の新iPhoneでは
どんな価値や凄みを作り出してくれるのだろうか

いよいよ9月ということで、スマートフォンの代表格の1つであるiPhoneの発表が近づいてきました。今年のiPhoneの目玉は、文字どおりに「目玉」となりそうで、これまで2つのカメラを搭載してきた上位モデルに、3つ目のカメラが用意されるとの予測が大勢を占めています。

もちろんAndroid陣営は、機械学習を活かして1つのセンサーで十分というGoogleのPixelという例外を除いて、とっくに3眼スマホカメラになっており、iPhoneはまたしても、それに追いつく形になりそう。

これもいつもの展開ではありますが、3眼カメラについても、スマートフォンのハードウェアとしての“信任”がAppleによって与えられることになりそうです。しかしソフトウェア実装がどうなるのかが、むしろ関心事。3つのカメラを使ってどんな新しい価値や「凄み」を作り出すのかは、少し楽しみな要素と言えます。

そうした盛り上がっているような、盛り上がっていないような状況で言うのもなんなのですが、先日「iPhoneは残るのか?」という議論になったときに、筆者は「iPhoneの重要度は下がる」という直感を掘り下げる機会がありました。

むしろ今後重要なのは、いくつかのサイズ展開がある、より大きなスクリーンを持つiPadなんじゃないかというアイディアです。ただし、そこには世界の大半を占めるAndroidの話がついてきていないので、“まだ”現実味のない話かもしれません。

iPhoneを忘れたが、音楽を聞いて、電車に乗って、通話もした
しばらく気づかなかったという事実でわかったこと

筆者は比較的よく忘れ物をするタチです。カバンを変えると、大抵何かを入れ忘れます。最近早起き気味なので寝坊とは無縁になりつつありますが、それでも「一仕事終えてから出かけよう」の一仕事が長引いたりすると、慌てて出かけることになり、忘れ物が少なからず発生してしまいます。

最近忘れがちなのがスマートフォン。玄関を出るときに気づけば取りに戻りますが、焦っているとそれすら気にせず出かけてしまいます。

ところが、先日忘れたことを気づかない経験がありました。iPhoneを持たずに出かけて、AirPodsを耳に装着し、小声で「Hey Siri, 音楽をかけて」と指示して、音楽を聴きながら歩き始めました。駅までの道のりで電話がかかってきて、そのままAirPodsで応答、手首のApple WatchのSuicaで改札を通って電車に乗り、イスに座ってカバンをゴソゴソしたときに、ようやくiPhoneが無いことに気づきました。

CellularモデルのApple Watchでは電話に出たり、ストリーミングでの音楽を楽しむことも可能です

何が起きていたかというと、Apple Watchが単体で電波を拾って通信をしており、AirPodsで音楽を再生し、また電話の着信にも応答できたというわけです。あちゃーと思って、カバンの中のiPadとAirPodsを繋ぎ直して音楽再生を続けながら、メッセージのやり取りをし、結局その外出はiPhoneなしで戻ってきて、不便になることはありませんでした。

AirPodsをApple WatchからiPadにつなぎ変えたのは、Apple Watchの電池を心配してのことで、iPhoneのように1日の外出を充電なしで乗り切れないための措置ではあります。ただ、iPhoneを忘れても電話ができコミュニケーションが取れた経験は、将来的にiPhoneがなくても良い世界があり得るという気づきになったというわけです。

忘れたことで気づきを得たものの、なるべく忘れ物をしないようにする、というのは小学校の頃からの目標でありまして、今度から気をつけるようにしたいと思います。

スマートフォンと画面の分離がこれから進みそう

Appleは、特に米国において、iPhoneやiPad、Apple Watchなどで、米国の携帯電話会社に対して新しいサービスやその提供方法をともに開拓してきた経緯があります。

データ定額で利用できるスマートフォンをAT&Tに独占的に提供させたり、2年契約を前提に端末価格を割引かせる販売施策を作ったり、Apple Watchのペア回線やeSIM対応などを見ても、iPhoneなどの販売台数と影響力を背景にした影響力を発揮してきました。

5Gについては、2019年モデルでのiPhone対応が見送りとなる公算が高い一方で、やはり米国でも4割近いシェアを維持するiPhoneとユーザーが望む形でのプランの設定などが行なわれるのではないか、と想像できます。

確かに通信速度が速くなることも魅力ですが、多接続と低遅延を生かしたデバイス連携を5Gに持ち込むなら、Appleの強みが活かせるかもしれません。つまり、現在のiPhoneとApple Watchに加えて、AirPodsやiPadも、まとめて1つの契約で通信が利用できるようなプランを登場させるということも考えられそうです。

たとえば、AirPodsだけ耳に着けていれば、音声通話やSiriを通じたメッセージのやり取り、情報取得、音楽リスニングなどができるようになる。バッテリーがかなり大きなネックになりそうですが、Apple Watchとの組み合わせで実現する、というステップを踏むなら実現も早いかもしれません。

スマートフォンの機能がスマートウォッチとスマートワイヤレスイヤホンに分離すると、ディスプレイを介さない情報活用が進み、スマートフォンの音と映像の分離が起きるかもしれません。ならば映像側は、折りたたみ型も含め、現在のスマートフォンより大きな画面をテンポラリに活用するというスタイルが想像できます。

シンプルにスマートフォンで完結させたい、というニーズは残るでしょうし、スマートフォンはすぐに無くならないでしょう。しかし年間2億台規模で製造するメーカーがいくつもある現在のスマートフォンの「次」のデバイスはすぐには想像しにくく、その役割が解体され、それぞれの要素が徹底的に強化される、そんな過渡期を迎えるのではないかと思いました。

もちろん、音声アシスタントの進化や、現在はスマートフォンを根城にしているアプリのクラウド化など、現在のモデルが大きく変化することにもなると思いますが、少なくともスマートフォンが作り上げた現在の生態系から変化していくという道筋が続くことは間違い無いでしょう。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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