純国産スマホ「arrows」シリーズの高品質のヒミツを探る

文●スピーディー末岡/ASCII編集部

2019年09月13日 10時00分

メイドインジャパンを背負う責任感と誇り

富士通コネクテッドテクノロジーズ(以下、FCNT)といえば現在は「arrows」シリーズや「らくらくスマホ」などを手がける、国内では数少なくなったスマホメーカーだ。最近では「割れない刑事(デカ)」のキャンペーンで高品質・高耐久、そして企画・研究・開発、製造まですべて国内で行なう「純国産」を打ち出している。

高品質・安心の国産と謳うその自信はどこからくるのか? スマホの研究開発と製造を担当する兵庫県の工場に行き、この目で確かめてきた。

工場見学の前に少しお話をうかがうと、実際「国産」という言葉は強く、同社のスマホを選ぶ要因にもなっているとのこと。国内のスマホメーカーは複数あるが、そのほとんどが海外の工場で製造している。日本産に抱くイメージというのは、世界共通で「高品質」「高性能」、そして「低価格」だろう。そしてそのことを一番気にするのは日本人だったりする。そういう意味でも純国産「メイドインジャパン」を謳っている以上は、すぐに故障した(割れた)、使えなくなったなどは許されない。ある意味「割れない刑事」は、富士通の決意表明とも言える。

会社の変遷
工場で製造してきた製品

最初に簡単にこの工場について説明すると、1984年に富士通全額出資により富士通周辺機として設立された。その後、CRTディスプレーやプリント板ユニット、プリンターなどを製造しつつ、1989年に第2棟竣工。1994年に液晶ディスプレーを製造するようになり、2007年に携帯端末の製造を請け負うようになる。2010年にはタブレットパソコンも製造し、2014年に富士通モバイルフォンプロダクツを吸収合併、2018年に富士通周辺機のユビキタス事業をジャパン・イーエム・ソリューションズ(以下、JEMS)が分割継承し、現在に至っている。

現在はFCNTが企画・設計するスマホの製造をJEMSが担っているという関係性だ。

JEMSは富士通周辺機として始まり、操業当初より開発部門と製造部門を併せ持ち、富士通グループ以外にもODM/EMSの業務受託をしている会社だ。事業の基盤は年間数百万台規模にも及ぶ携帯端末。現在は自社で自動化した生産技術力と熟練技術者の経験と勘を可視化・解析し、より実践的なスマートファクトリー化を進めている。

ハードな実験から安心感が生まれる

工場の話を聞いたあとは、JEMSの工場内にあるFCNTの「品質保証ライン」に向かった。ここでは水漏れ、落下、変形など、さまざまな実験を行なっており、これら厳しいテストをクリアすることで初めて商品として認められる。

最初はエアリーク試験。防水性能をチェックするテストだが、水を入れるわけではなく、気圧で端末が歪むか歪まないかを確認する。もし、空気が漏れていると端末が変形しない(端末内外に気圧差がないため)ので、NGとなる。

防水性能をテストするエアリーク試験

次は圧迫試験。試験機がスマホのディスプレーをグイグイ押していき、ここで割れたりしたらNGだ。その後、USB端子に上下左右のテンションを加える、通称「USBイヤホンコジリ試験」を実施。たとえば充電中に変な方向にケーブルを抜いてしまったとき、端子の部分が破損してしまうことがある。できるだけこの破損を抑えるためのテストだ。

ディスプレーに負荷をかける圧迫試験
USB端子の耐久力をチェックするUSBイヤホンコジリ試験

そして、テストの中でもインパクトが大きな「落下テスト」。1.5mの高さからコンクリートへ、6面、12稜、8角の合計26方向の落下をさせる。落下は、スマホの破損の中でもトップクラスの原因だけに、あらゆる角度から検証しているとのこと。「割れない刑事」をうたう以上は中途半端なテストはできない。

1.5mの高さからスマホを落として耐衝撃性をテストする

その後、端末を10cmの高さから何万回も落とすテスト、端末をねじるテスト、折りたたみケータイのフタを開けたり閉めたりするテスト、スマホのディスプレー側にテンションをかけ、どのくらい曲がっても壊れないかをテストする。多種多様な耐久試験を行ない、すべての試験をクリアする品質を確認できてはじめて製造に進めるのである。

フィーチャーフォンもここで試験をする
スマホ本体の耐久性をテスト。尻ポケットに入れて座っても、折れにくいのはこのおかげ
こんなに曲がってもエラーにならない

arrowsができるまで
ライン工程を見学

スマホはラインでパーツを組み立てられてできあがっていく。そして最後には人の手によってパッケージに収められ、全国の販売店に旅立っていくのだ。

まずは基板から。プラモデルのように1枚の中に数台分の基板があり、ロボットがさまざまな端子などをクリームハンダや接着剤で付けていく。工業用ロボットが見かけにそぐわないスピードでガンガン基板に載せていく姿は、人によっては「萌え」だろう。

そして、クリームハンダを固めるために、高温のラインを通る。その後、パーツがしっかり装着されているかをチェックし、角度が違ったり、場所が違ったりすると弾かれるのである。

次の工程はいよいよ1枚の基板から複数枚が切り離される。これもすべてオートメーションで、ロボットが淡々と作業をする。そして外観検査機を通ったら、電波を正常に送受信しているかのテストが待っている。

その後はスマホのカタチをどんどん作っていく工程だ。ディスプレーとバックパネルを取り付け、FeliCaのアンテナやカメラ、イヤホンジャックなどが組み込まれてどんどんわれわれの知っているスマホになっていく。バックパネルのカラーのチェック、パッケージへの梱包などは人の手で行なう。この工程はロボットでもできないことはないのだが、きめ細かい部分は人の手のほうが良いようだ。

工業用ロボットによるラインは、ほぼ正確に完成品が仕上がってくるが、ちょっとしたエラーが発生した場合や、感性が必要な部分など、人間が必要になる部分はまだ多い。

arrowsシリーズやらくらくスマートフォンは、どちらかというとデジタルデバイスを得意としていない人に寄り添う端末だ。そういう人は、購入するモノに対してなによりも安心感が必要になる。日本のメーカーが、日本の工場で作っているという絶対的安心感。スマホのことはよくわからないけど、これを買っておけば間違いないだろうと選ぶ人は多い。それが富士通が培ったブランド力だ。

「割れない刑事」と謳う自信と、愛されるメイドインジャパンのワケがこの工場にあった。

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