東芝は違和感、シャープが社名をDynabookにした理由
文●大河原克行、編集●ASCII
2018年12月26日 09時00分
今回のことば
「東芝のノートPCの歴史をたどり、議論をした結果、dynabookという言葉を前面に出したいと考えた。dynabookという言葉の意味も進化させたいと考えている」(東芝クライアントソリューションの石田佳久会長)
売り上げは2年で倍に、3年で上場へ
シャープが買収した東芝クライアントソリューションが、2019年1月1日付けで、Dynabook株式会社に社名を変更する。さらに、3年後に上場する方針を発表した。
シャープの副社長であり、東芝クライアントソリューションの会長を兼務する石田佳久氏は「これまではPC事業を縮小均衡させるなかで、国内を対象にしたハードウェアを中心に、BtoB事業を展開してきた。しかし今後は、シャープの8KとAIoTの技術を融合させること、コンピューティングとサービスを掛け合わせることにより、事業を成長させ、ブランド価値を極大化させることができる」と意気込む。
シャープの戴正呉会長兼社長も「今後はSHARPとDynabookのシナジーの最大化が鍵になる。商材や販路の相互活用、経営ノウハウの共有といった『足し算』のシナジーに加えて、コンピューティングやAIoTをはじめとした両社の技術、アイデアを掛け合わせて、まったく新しいものを創出する『掛け算』のシナジーを、次々と生み出していくことが重要である。『SHARP×Dynabook』は、両社の持続的成長のキーワードである」と語る。
打ち出した中期経営計画は意欲的だ。
2018年度見通しは売上高が1600億円、営業利益は上期の赤字が影響して通期でも46億円の赤字となるが、「2018年10月からの下期は、黒字になる計画」(東芝クライアントソリューション・覚道清文社長兼CEO)と、早くも黒字経営に転換。さらに、2019年度には売上高2400億円、営業利益20億円と通期黒字化を計画。2020年度には売上高3400億円、営業利益70億円を目指す。わずか2年で、売上高を2倍にするという強気の計画だ。
さらに現在、2400人の従業員数も拡大させることも明らかにする。まさに拡大均衡への転換だ。
石田会長は「東芝ブランドのPCが持っているシェアは全世界でわずか1%。この市場において、シェアや出荷台数を増やすことは難しくない」と言い切る。
ハードとソフト両方を強化
発表した計画によると2019年以降には、これまで絞り込んできた製品ラインアップを拡大。ノートPCでは欧米、アジアへの再展開を見越した「プレミアム機」や「アジア攻略機」を投入。さらにデスクトップPC、ワークステーション、サーバー、エッジデバイスにも製品領域を拡大する。
またソフトウェアサービスでは、シャープが持つクラウドサービス「COCORO+」との連携や、東芝クライアントソリューションが取り組んできたPC暗号化ツール「Smart DE」、クラウドサービス「dynaCloud」を充実。運用全般もカバーする「ライフサイクルマネジメントサービス」も強化する。
さらに2021年以降は、イマーシブコンピューティングやオールウェイズコネクトといった次世代技術を活用。センシング技術と解析技術を組み合わせた故障予兆サービスや、8Kの高精細画像解析技術をベースとした警備監視システムなどのソリューション展開も進める考えだ。
今後5年~10年後という観点でも方向性を示し、5Gによって実現するクラウドとエッジを組み合わせた分散処理や、シームレスなデータ連携によって、時間と場所の制約から解放するゼロクライアントを提供。
遠隔医療や遠隔操作といった領域でもサービスを強化し、「ホームやオフィスにとらわれず、工場、流通、小売りといった現場で利用される製品、サービスを提供する。商品企画、開発・設計、調達、生産・製造、販売サービスの事業バリューチェーン全体で、シャープのインフラを活用した協業を進め、事業成長と効率化、構造改革を進める」(東芝クライアントソリューション・覚道社長兼CEO)と語る。
BtoBソリューションも、成長戦略の重要な柱のひとつに位置づけているというわけだ。
もうひとつ成長の柱となるのが、海外ビジネスだ。
東芝の名前に違和感があった
北米市場においては、2020年までに年平均成長率131%増という意欲的な目標を掲げ、欧州市場でも93%増という高い成長率を打ち出す。これによって、現在22%の海外売上げ比率を42%にまで高める考えだ。
「ここ数年の構造改革の影響で、海外ビジネスのダウンサイジングが続いてきた。だが、商品の充実、シャープグループとの連携、リソースの再投入によって、欧米市場におけるビジネスの再強化、アジア市場での展開を進める。アジアでは、主要国におけるシャープの基盤を生かす。北米や欧州では、複合機やPOSなどを扱うシャープのビジネスソリューション部門とも融合して、PCの販売を伸ばしたい」という。
なんといっても注目されるのが、Dynabook株式会社という社名への変更だ。
石田会長は「シャープが80.1%の株式を取得している状況において、事業の継続や上場を目指す上で、東芝という名前を残すことには違和感がある。また、独立性を高めるということも考慮した」とし、社名に東芝もシャープも使わなかった理由を説明。「東芝のノートPCの歴史をたどり、議論をした結果、Dynabookという言葉を前面に出したいと考えた」と、社名決定の理由を示してみせた。
dynabookのブランドは、パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイ氏が、1970年代に提唱した「人に寄り添い、人を支える、真のパーソナルなコンピューター」というビジョンにちなんで、東芝が1989年に発売した世界初のノートパソコンにつけたのが最初だ。
その後dynabookは、約30年間に渡って進化。世界初のVGAカラー液晶搭載モデルや世界最薄/最軽量モデルなどを投入してきた。
だが石田会長は「dynabookは、ハードウェアに対する期待を込めた言葉であった。しかし、時代とともに環境が変化し、技術が進化し、dynabookという言葉に込められた意味や言葉自体も進化させる必要があると考えた。それは、アラン・ケイ氏も望んでいるのではないか」と語る。
アラン・ケイが提唱したPCを超える
シャープの戴会長兼社長は「これからのdynabookは、2つの方向に進化していく」と表現する。
ひとつは「dynabook as a Computing」だ。これは東芝のPC事業で、これまで培ってきた強みをさらに強化し、人や社会を支える真のコンピューティングを追求していくことだと位置づける。いわばハードウェアを中心としたこれまでの延長線上で進化だ。
もうひとつが「dynabook as a Service」である。ユーザーを起点に考えた新たなサービスを創出し、さまざまな分野に展開していくことを示すという。
戴会長兼社長は「この2つを融合させ、より快適な社会や生活を実現する。これが、Dynabookが目指す事業の方向性であり、この実現を通じてdynabookブランドをさらに磨き上げる」と語る。
Dynabook株式会社では「コンピューティングとサービスを通じて、世界を変える」というビジョンを新たに掲げた。
石田会長は「PCのプラットフォームは、オープンなサービスを取り込むことができ、AIoTに関連した新たなサービスも創出できる。そのプラットフォームをシャープが持てたことは大きい。新たなサービスをいち早く取り込み、dynabookブランドが提供する製品全体の価値を高めたい」とする。PCの枠を超えたコンピューティングとサービスを提供するのが、新たなdynabookというわけだ。
アラン・ケイ氏が提唱したdynabookを超える、新たなdynabookの実現を目指すのが、Dynabook株式会社ということになる。
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