なぜマキタのリチウムイオンバッテリーは災害時に最高なのか
文●四本淑三
2018年09月29日 12時00分
平成30年北海道胆振東部地震で約46時間の停電を経験して、私はいまマキタの製品を買いまくっている。どうせだったら工具以外の電気製品もマキタで揃え、あの青くて強そうなやつらに埋もれて暮らそうじゃないか。この原稿は、そう思い立った人間のお買い物記録である。
まず、なぜマキタなのか。
普段使いでなければ意味がない
長い停電でなにが困るかといえば、スマホに充電できなくなることだ。スマホは懐中電灯であり、状況証拠記録マシンであり、通信装置である。充電できないからといって、ただちに生命の危機に陥るわけではないが、取り逃がした情報によっては命に関わる場合もある。
ところが普段あまりスマホを使わず、モバイルバッテリーも1個しか持っていない上に、充電もしていない私の場合は、46時間続いた停電の間に電力が尽きてしまった。似たような人が多かったのか、停電時に設けられたケータイ充電コーナーには人だかりができていた。
だが、モバイルバッテリーが尽きた際にも、マキタのバッテリーはビンビンだった。なぜなら電動工具は毎日使う。だからバッテリーも常に充電している。ドリルドライバーのトリガーを引くと、作業中の手元を照らすLEDが点灯して、とても明るかった。だから「くそう」と思った。さっさとアレを買っておけば良かったのだ、と。
アレというのはコレ。マキタのリチウムイオンバッテリー「18V/14.4Vシリーズ」から、USBの5V出力に対応するアダプター「ADP05」だ。これがあればマキタのバッテリーでスマホを充電できる。停電が回復してソッコーでポチったのは言うまでもない。
工具用バッテリーは充電が速い
このUSBアダプターを使うにはバッテリーと充電器が必要だが、マキタのリチウムイオンバッテリーのシステムは広大だ。主流の14.4V、18Vシリーズには、それぞれ6Ah、5Ah、4Ah、3Ah、2Ah、1.5Ahの容量が存在する。これに「スライド式」の10.8V、「組込み式」の10.8Vと7.2V、「内蔵式」の10.8Vがあり、対応する充電器や機器類とあわせて、カメラのレンズシステムのような一大製品群を成している。
その中から、いま災害用電源として買うなら、最新型の充電器「DC18RF」と、18V/6000mAhのバッテリー「BL1860B」の組み合わせが最強である。電力量はマキタ最大、充電速度も実用充電(80%)約27分、フル充電約40分と速い。寒冷地の住人としては、マイナス10度で充電できるのも頼もしい。
ただし、この充電時間はDC18RFに最新のアスタリスク(雪?)マーク付きバッテリーを接続した場合に限られる。同じBL1860Bでも、このマークが付いていない古いものもあるので、買い物の際には要注意だ。とはいえアスタリスクマークなしのバッテリーでも、フル充電まで約55分。十分に速い。
充電中の音はうるさい
このバッテリーにADP05を装着するとモバイルバッテリーのできあがり。バッテリーがBL1860Bなら、iPhone 6(容量は1810mAhと言われている)なら12回充電できるとメーカーは言っている。
気になるのはお値段。充電器DC18RFが1万1900円、バッテリーBL1860Bが1万7900円、USBアダプターADP05が3190円で、計3万2990円(いずれもモノタロウの抜税価格)。モバイルバッテリーと比べれば結構なお値段だ。
充電器 DC18RF
バッテリー BF1850B
USBアダプター
「モバイルバッテリーだったら、もっと安くて容量大きいのあるだろ」と言われたら、そのとおり。BL1860Bの電力量は108Wh。3.7Vのモバイルバッテリーなら3万mAh程度の製品に相当する。このクラスでも最近は5000円を切る価格で売られているのだから安い。
だが、モバイルバッテリーは充電時間が長い。3万mAhクラスだと、フル充電まで15時間前後、製品によってはもっとかかる場合もある。容量が大きくても充電に時間がかかると、かったるくて使わなくなってしまうのだ(私の場合)。モバイルバッテリーと電動工具用バッテリーの価格差は、この充電時間の差だ。
弱点もある。電動工具用バッテリーは、充電時間が短いかわりに、充電中の音が結構うるさい。これは急速充電で発生するバッテリーの熱を冷やすために、充電器内でファンが回っているから。しかも、新しいDC18RFになって一段とラウドになった気がする。充電時間を短縮するため、余計にぶん回しているのだろう。自室で使っている限り気にならないが、居間で充電していたら家族から怒られるレベル。もし災害時に電源を借りて充電する際には、それなりの配慮がいるケースもあるだろう。
もうひとつの懸念材料は、機内持ち込みの制限。これはマキタの製品に限らないが、100Whを超えるリチウムイオンバッテリーは、航空会社や国によってなんらかの制限がかかる。もし飛行機移動が多いなら容量抑えめで選んだ方がいい。例えば同じ18Vシリーズでも5000mAhの「BL1850B」なら90Whでおさまる。
互換品には意味がない
あとはいかにして安く手に入れるかだが、安いからといって互換品はおすすめできない。純正のような性能が出ないばかりか、故障のリスクもあり、防災用として準備するには不安がある。ちなみにマキタのリチウムイオンバッテリーのセルは、シンガポールで製造されている。わかる人にはわかると思うが、セルの品質が出どころ不明の製品とは比べるべくもない。
ところが困ったことに、通販サイトで型番検索すると、純正品より先に互換品がヒットする。「純正」というワードを付け加えても互換品は完全にフィルタリングされないし、画像の見た目もそっくりで、初めて買う人は間違えやすい。などど言っている私も、うっかりカートに入れていたことがあった。これはどうにかならないのか。特にAmazonの諸君。
ダメ押ししておくと、万が一のトラブルが起きた際のサービスの厚さでも、マキタは評価が高い。サービス拠点の数で言っても、2位以下のメーカーを大きく引き離していて、これがマキタブランドの信頼を支えている。趣味でちょっと使う程度なら、なるべく安いもので済ませたいのも当然とは思うが、防災用品としてわざわざ互換品を買うメリットはなにもない。
マキタを選ぶ理由
最後に、先日の停電中に「災害時の電源にはマキタのバッテリーが最高である」という趣旨のツイートがバズっていたらしく、マキタ派の私としては大いに同意するものだが、ここでは公平を期するため、その結論にいたる前提を補足しておきたい。
まず、電動工具用バッテリーのオプションとして、USBアダプターを用意しているメーカーはマキタだけではない。ハイコーキ(=HiKOKI。2018年10月に日立工機から改称)には「BSL18UA」、ボッシュにも「GAA18V-24」、リョービにだって「BA-180」という製品がある。
バッテリーの性能や充電速度にも各社大きな差はなく、メーカーの主張するところでは、ハイコーキ(ってやっぱり言いづらくないですか?)の方が、マキタより充電は速い。だから、メーカーの電動工具を使っているなら、USBアダプターは用意しておいた方がいい。なくて悔しい思いをした私としては、強く言いたい。
そして、これも今回の震災での反省点だが、いかに高性能なバッテリーを用意していても、常用する環境がなければ、非常時にも役に立たない。まだ電動工具を持っていない人、つまり電動工具を常用してない人が、バッテリーだけ持っていても、おそらくダメなのだ。
さあ、マキタの出番だ。マキタには工具以外にも常用できる電気製品が揃っている。防災用品の基本であるラジオや照明をはじめ、掃除機は最近各所で人気だし、おまけにコーヒーメーカーのようなものまでラインナップしているのはマキタだけ。もちろん、ついでに工具も買って、自動車やバイクの整備やら、庭の手入れやらを始めるのも全然アリだ。
加えて、これは単なる私の感想だが、端的に言ってカッコいいのである。あのロゴと色を見ただけでもグッとくる。まだ電動工具を持っていなかった人はラッキーだ。なぜなら他メーカーの工具との兼ね合いなど気にせず、なんの躊躇もなくマキタを選べるのだから。おめでとう!
次回以降は各製品のディテールを眺めていきたい。なお私は決してマキタの回し者ではない。
四本 淑三(よつもと としみ)
北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。
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