気分はもうボトムズ! 2018年、網膜投影型がVRブームを革命する

文●アスキー編集部

2018年07月20日 18時00分

サイエンスライターの鹿野司さん(右)、ITジャーナリストの西田宗千佳さん(左)に網膜投影型デバイス「RETISSA Display」を語っていただいた

ほぼSFな網膜投影型デバイスがついに発売
私たちの生活はどう変わる?

 何度目かのAR/MR/VRブームに沸く昨今だが、いま最も驚きを与えてくれるアイウエアデバイスはQDレーザの「RETISSA Display」で間違いないだろう。VRのヘッドマウントディスプレーをはじめ世に出回るものはたいてい「数センチ先に表示された画面を見る」仕掛けだが、RETISSA Displayは映像をレーザーで直接網膜に投影するという方法で、私たちの視界に映像を「上書き」してくれる。

 しかも、ここまで未来感たっぷりなガジェットにもかかわらず、「研究所レベルの試作品」ではなく、近々購入可能になるというから驚きだ。なお、RETISSA Display自体の概要は「夢の「網膜投影」にギークはもちろんAVマニアも注目すべき理由」、そしてQDレーザに関しては「視力がなくても見える!網膜にビジョンを映すQDレ-ザ」を参照してほしい。

 そこで今回は、サイエンスライターの鹿野司さん、ITジャーナリストの西田宗千佳さんにRETISSA Displayを体験いただきつつ、QDレーザの手嶋さんを交えた3人で、少し突っ込んだ技術話から網膜投影の可能性・社会的意義、そしてフィクションでの取り上げられ方などまで広く語っていただいた。

RETISSA Displayの予約開始日が7月31日(火)に決定

※販売や予約方法の詳細は後日、ASCII.jpおよびアスキーストアで告知いたします。

個人で買える網膜投影型の製品はRETISSA Displayが世界初!

鹿野司……サイエンスライター。『宇宙戦艦ヤマト2119』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』をはじめSF作品の科学考証を多数手掛ける。著書に、SFマガジンでの同名連載をまとめた星雲賞受賞作『サはサイエンスのサ』(早川書房)ほか

西田宗千佳……フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。最新刊に『ミライのつくり方2020―2045 僕がVRに賭けるわけ』(構成)

鹿野 貴社は量子ドットレーザーを企画・研究開発されていますが、RETISSA Displayは可視光レーザーを使っているようですね?

手嶋 はい。当社はあらゆる波長域のレーザー光アプリケーションを取り扱っています。

西田 ヘッドマウントディスプレーとの違いは?

手嶋 最も大きな違いは(ディスプレーではなく)プロジェクターだということ。そして投影するスクリーンはどこかといえば――みなさんの網膜です。

 どのように描いているかといいますと、3色のレーザー光源が、パワーを変えながら色を作り、それらを1本のレーザー光にまとめています。その1本のレーザー光を、網膜上で細かく動かし、ラスタースキャンすることで昔のテレビさながらに、画を描いているわけです。

鹿野 網膜全体で見ているわけではない?

手嶋 はい。一番視力が出る中心窩の部分ですね。大きさでいうと網膜の中心数ミリ角の小さなエリアに映像を投影しています。グラスを掛けると、水平視野角25度くらいに感じると思います。

 絞りを絞ったカメラのような状態なので、焦点深度が深く、どこに焦点を合わせてもレンズの厚さによらずピントが合うフリーフォーカスという特徴があります。逆にネガティブな要素としては目の動きに少し弱いこと。目が動くと瞳孔も動いて光をケってしまうので、途端に見えなくなってしまいます。

 従来のヘッドマウントディスプレーと何が違うかいうと、網膜に直接映像を投げかけるので、視力を使わなくていいということと、しかも上書きされた映像は、網膜投影の特性ゆえにどこを見ていてもピントが合うので、非常に自然に視界に溶け込むという特徴もあります。

網膜投影ならば、近視乱視関係なくピントが合う!

西田 あえて網膜に映す理由ってあるのでしょうか?

手嶋 我々は、「ロービジョン」と呼ばれるメガネなどをかけても矯正視力が0.3以下というような方々への支援デバイスとしても開発を進めています。医療機器の扱いになるのですが、具体的には、メガネの眉間の部分に実装したカメラで視線に近い映像を撮り、網膜にダイレクトに映すという方法です。人工水晶体と言いますか、人間の眼の代わりにピントを合わせてくれるものですね。また、ハンズフリーも特徴の1つです。

鹿野 じつは僕、これ使えないかもしれません。網膜症で右目の視野が一部欠けているんです。

手嶋 なるほど……残念ながら鹿野さんが仰るように、網膜症の方には技術の特性が出にくいのです。前眼部、つまりレンズの部分に疾患がある方々へは視力の向上も期待できるのですが。

西田 搭載カメラはどのくらいの視野をどんな風に撮っているんですか? というのは、もともと目に入る視野の広さは決まっているじゃないですか。それに対して、入ってくる映像をどうマップするかという問題なんですけど。

手嶋 ピクチャ・イン・ピクチャのように、視野角25度の範囲に16:9の映像が投影されます。カメラの位置と倍率を調整し、視界の一部にほぼ重なるよう、カメラを実装しています。

西田 基本、ワン・バイ・ワンのイメージということですね。

手嶋 そうですね。

鹿野 中心暗点(視野の中心部分が見えない)の場合、字が読めなくなりますが、このRETISSA Displayで補助できますか?

手嶋 やはり難しいですね。眼科医ではないのであまり突っ込んだお話はできないのですが、周辺視野ですと「何かある」と感じることはできますが、大きく拡大しないと字が読めるまでには至らないようです。視野の中心だと、現在、カメラが付いた医療用モデルでの見え方は視力に例えると0.4~0.5程度ですが、1.0を目指して研究・開発を進めています。

 一方で、今回発売するRETISSA Displayはカメラが付いていない民生用です。要は、「HDMIのコネクタから映像を受け取って網膜投影で見るだけの機械」と割り切った製品です。これは、医療に限らず広く使ってもらうことで、このデバイスの可能性を市場に問いかけたいという想いを込めています。今回アスキーストアで販売する理由もそこにあります。大学やメーカーが購入して検証や研究に使うのもアリですが、ぜひギークな方々に遊んでもらいたいですね。

視力はあるが見えにくい「ロービジョン」。高齢化によって将来は200万人を超えると予想されている

レーザーの天敵は睫毛!?

鹿野 網膜に対するダメージはどのような。

手嶋 まずオフィスなどの照明が目に入ってくる強さと、RETISSA Displayから入ってくる光の強さを比較すると、同等かRETISSA Display出力のほうが弱いです。また、レーザービームは網膜上をラスタースキャンしますので、単位時間あたりのレーザーの照射量はさらに下がります。

西田 なるほど。数ミリ角の面積に対して、レーザーが往復スキャンすると。

鹿野 (RETISSA Displayを掛けながら)亀の写真が見えますね。

手嶋 よかった! 見えているようですね。

鹿野 (網膜症で)左下がダメなんですよ。中心が欠損していなければ見られるようですね。

RETISSA Displayは、中心部の網膜が使えれば使用可能。また、モジュールは左右どちらにも取り付けられる

手嶋 はい。そしてRETISSA Displayの特徴をわかりやすく体験していただくために、「普通の視力の方が覗くと、強度近視と同じぐらいの焦点距離になるレンズ」を持ってきました。これをRETISSA Displayに取り付けて……もう一度掛けてみてください。

鹿野 ああ、レンズを付けると周りの風景は(近視のように)ボケるのに、RETISSA Displayから投影された映像はピントが合ってますね。

手嶋 これがフリーフォーカスという特徴です。視力の影響を受けにくいということがおわかりになられると思います。

西田 若干気になっているのが睫毛の影響なんです。瞳孔の上に睫毛がかかっていても、普通の視野だと人間は睫毛を無意識にキャンセルするじゃないですか。ところがRETISSA Displayは……。

手嶋 睫毛には問題が2つあります。まず部品に睫毛が引っかかって物理的に痛くなる可能性。そして細いビームを使っているので睫毛の影が映りやすいことです。我々はこの問題を解決すべき問題と真剣に捉えていまして、睫毛に接触しかねないリフレクターを薄くする研究を進めています。もう1つは睫毛が引っかかりにくくなるような形状に変更することです。

西田 右目だと結構睫毛が邪魔するのですが、左で見てみたら、生え方が違うからなんでしょうね、断然きれいに見えました。

手嶋 人間の顔は上から見ると、鼻を中心に左右対称ではなく、平行四辺形だったり、台形だったりとわずかに歪んでいたりするんです、そういったことも原因の一つかもしれませんね。ちなみにRETISSA Displayでは片目にモジュールを搭載していますが、両眼モデルも簡単にできます。2台買っていただいて、2つ組み合わせると両眼用になります(笑)

鹿野 先ほど視野角25度ぐらいの空間と仰いましたが、これを拡げることはできますか? あまり映像が大きいと瞳孔が動いて見えなくなってしまうとは思いますが。

手嶋 多少は可能ですが、限界があります。可能性としてはアイトラッキングを実装して、かつ目の移動量に合わせて投影画像も変えるという、結構ハードなシステムを作ればさらに広げられると思います。

RETISSA Displayの予約開始日が7月31日(火)に決定

※販売や予約方法の詳細は後日、ASCII.jpおよびアスキーストアで告知いたします。

モジュール部のアップ。じつはメガネから取り外して、ヘルメットなどに取り付けることも可能。改造が捗るぞ!

これはまず「ヤバい奴ら」に響く!

西田 僕はVRをはじめ、さまざまなディスプレーを取材・体験しています。現在のVR界隈で起きていることって、ある意味、チープ革命なんですよね。1990年代は機材が1個1万ドルで100人の研究者しか触れなかった。ところがスマホのパーツをうまく使うことによって1個300ドルにまで価格が下がった結果、100万人の技術者が試せるようになったので、一気に色々なことができるようになったと。

 ただ、ディスプレーとして今のVRやARで使っている「目の前にスクリーンを持ってくる方式」が理想的かというと、たぶん違うなという気がしていて。どうしても、スクリーンにピントを合わせるのか、それとも実景にピントを合わせるのかという問題が出てしまって、どこまでいっても不自然感がぬぐえません。

 仮に、無限に必ずピントが合っている映像が目の中に自然に入ってくる状態になるとすれば、それはVRはともかく、ARにとっては極めて大きな変化になり得るでしょう。ただ、フォーカスが高くて見やすいディスプレーは、掛けるときのセンシティビティーが問題になります。つまり、ぴっちりかけなくちゃならない。

 そこをカバーできるならば、自分の視野の中に映像を入れるという意味においてはかなり理想的なディスプレーの1つになると思います。そういった研究はいくつもありますし、僕もデモを見てはいるのですが、相当難しいらしく、デモで終わっているものが多いのです。

 翻ってRETISSA Displayは、技術者が「何かやってみたい!」と思ったら1本買ってテストできることがポイントだと思います。理想に1歩でも2歩でも近づいたディスプレーが手に届くところにあるというのは、業界全体の流れからすると大きいなと。

 しかも1万ドルではなく約60万円で手に入る。口が裂けてもチープ革命とは言えないけれど、その代わり「網膜投影」という言葉の響きに惹かれてポチる人たちは案外少なくないのでは。趣味で数十万円の暗視ゴーグルを輸入する愛好家も存在するほどで。

鹿野 暗視ゴーグルには「暗いところが見える」という、誰でもわかる素晴らしい性能がある。RETISSA Displayも「これを見ることができる!」と言える何かがあると良いよね。たとえば僕の場合、左下の視野が欠けているので、文字を右上のほうに出せたりすると都合が良い……そういう細かい調整ってできますか?

手嶋 技術的には可能です。そういったことも想定して我々は研究を進めています。

鹿野 網膜を損傷している人は全体が見えないわけではなく、まだらになっていることが多いので、そこをうまく避けて出せると、見えなかったものが見えるようになるはずです。解決策はやはりアプリケーションでしょうか?

手嶋 そうですね。映し出す映像をデジタル処理することになります。それが第2世代ぐらいのアプローチなのかなと。

RETISSA Displayの応用範囲は驚くほど広い。拡大・望遠・外部入力までできる、やたらと多機能な「3つめの眼」として活躍する日も来るだろう

西田 (RETISSA Displayを掛けながら)あっ! 文字の間が抜けているってあまりない体験ですね。文字だけが純粋に浮かび上がるって、CGやアニメではおなじみのシーンですが、じつはスマートグラスだとなかなか実装できないんですよ。

 2018年にこれを買って何をするか。いま文字を見て驚きましたが、見たことがない「絵」が見えるぜっていうのは、じつは非常に大きなポイントだと思っているんです。

 VRを買っても一瞬面白いだけなんです。たとえば『(これを買うと)Xウィングに乗れるのか。すごい!』と思って買って被るんだけど、だいたい15分で『わかった!』ってなる。エンタメって15分に5万払う世界もあって、そこには強い満足感もある。でも皆15分に5万払うかと言えばそうでもない。

 一方で、エンジニアに近い人だと『SF作品でよく見るような空中に図像が浮かぶアレをやってみたい』と思ったときに、それを実現する機械が1000万だと断念せざるを得ませんが、RETISSA Displayはそうじゃない。

 ……まあ、それでも相当キマってるというか、ヤバいところに足を突っ込んでいるような人たちが購入対象者だとは思いますが、わりとそういう人はいなくはない。たとえばホロレンズだって40万円するわけですから。でも、見たことがないものに対する興味って、そういうヤバい人には響くと思うんです。

RETISSA Displayの予約開始日が7月31日(火)に決定

※販売や予約方法の詳細は後日、ASCII.jpおよびアスキーストアで告知いたします。

ボトムズ直撃世代は問答無用に体験したくなるハズ!

AT(アーマードトルーパー)の搭乗者は、頭部カメラで撮った映像を網膜投影ゴーグル(OPでキリコが投げ捨てるアレ)で見ている、という設定だ。写真はマックスファクトリー製ライトスコープドッグ

西田 そもそも網膜に当てると聞いただけで、サンライズで育った40代はみんなイッちゃうわけですよ。心が惹かれる。

手嶋 ボトムズに登場した、AT操縦用の「網膜に投影するゴーグル」ですか(笑)

西田 必ず思い出しますよ、この世代は。だからVR系の人でも、究極は網膜投影でしょみたいな話をしている方はいます。

 でも、目ってセンシティブなパーツである一方、すごくいい加減じゃないですか。脳の中でいろいろな処理をして、その結果、欠損があったり前に障害物があってもそれをキャンセルして見ていたりするので。それをディスプレーのデバイスの一部として使うって結構めんどくさいことだなとは思うんですよね。

 ちょっと気になったのは、水晶体白濁、いわゆる白内障ですよね。透過度が下がっちゃった方の場合ってどうなるんですか?

手嶋 全体的に混濁していると見えにくいと思います。ただ、混濁は部分的に起きていたりしますので、投影するスポットさえ確保できれば。。

西田 なるほど。

鹿野 そして白内障は手術できますからね。

西田 ちょっと実験してみませんか。HDMIにカメラを挿して映像を見れば、とりあえず視界の中にカメラの映像を上書きできますよね。

手嶋 iPadのカメラを使ってみましょう。

鹿野 (iPadとRETISSA Displayを接続して装着)四角い枠の中に見えているのでビデオチャット感はあるんですけど、おもしろい。iPadを動かして自分と向かい合っている状況にすると……なるほど、鏡像じゃないのか。

 これなら運転手が目線を動かさずに死角を確認できるかも。

西田 バイクのフルカウルヘルメットにカメラを付けて、内部の液晶でバックミラーの代わりをさせたりするソリューションを、今年のCESで見た記憶があります。そう考えると、視界に違和感なく映像を流し込めるRETISSA Displayは、このような用途でもアリじゃないかな。

開発中の医療用には、眉間の部分にカメラが取り付けられている。装着者の視界の一部を切り取った映像を網膜に映し出すことで視野を補う仕組みだ。同一方向に各種センサーカメラを取り付けて、その映像を任意に切り替えられたりすると、まさにボトムズ気分を味わえるのでは!?

西田 放送中のルパン三世Part5では、たまにルパン三世がモノクルを付けるんですけど、あれも網膜ディスプレーっぽい描写ですよね。

一同 あー!

手嶋 ここぞ、というときにしか使っていないので、バッテリーも小さいでしょうし。最終的にはあれぐらいまでコンパクトになると便利かもしれません。

西田 ワーキングディスタンスっていう言い方でいいのかわからないのですが、ミラーから水晶体までの距離ってどのくらいまで近づけられるのですか? ルパンのモノクルみたいなレベルにしようと思うと、ディスタンスは狭い(距離が近い)ほうが当然、作りやすいと思うので。

鹿野 瞳孔にケられないためにも狭いほうがいいのかな。

手嶋 狭いほうが作りやすいかどうかは一概に言えないのですが、光学系の設計でいかようにも変えられます。瞳孔に近いと画角をもっと広げられるかもしれません。

西田 画角を変えられるなら、今度は入力する画像を歪ませて調整……なんてことをしたくなりますね。

モノクルはPVの26秒あたりに登場する。将来はRETISSA Displayもこのサイズになる?

RETISSA Displayの予約開始日が7月31日(火)に決定

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意外と深刻な16:9の呪縛

手嶋 ……お聞きしていて、やはり発想の転換は必要だなと思いました。というのも、RETISSA Displayを含めQDレーザ社の製品では投影される画像が16:9に統一されているのです。網膜に映すのだから円や正方形でもいいのではと。

一同 ああ!

西田 現在のVR系って全部16:9なんですよ。ホロレンズを使っているとわかるのですが、16:9だと高さが足りないらしく、首がものすごく動くんです。もっと上下視野を広くしてあげないと、自然な感じにはならないのかもしれません。

鹿野 液晶ディスプレーにもピポット機能がありますよね。縦長のほうが文章の読み書きには便利なんですよ。

西田 たぶんここはゼロベースで、デバイス依存ではなく原理依存で考えていくと面白いことができるはず。

手嶋 MEMSミラーの向きを90度ローテーションさせて、スキャニングの方向が変わればいいだけの話なので、可能ですね。

西田 まあ、人間の解像感は縦と横で全然違いますからね。テレビは横1920×縦1080ですが、横1920で撮られている映像って意外に少なくて、地上波含めほとんどのコンテンツは横1440ドット。見方がわかっていないと、差がわかる人は意外と少ない。データ量で25%ぐらい違うにもかかわらずね。

いまのところRETISSA Displayは16:9で投影されているが、AR技術が社会に浸透するにしたがって求められる比率は変わっていくだろう

まずはアイデアソンから始めたい

鹿野 レーザーをはじめ主要部品は、銀色のコントロールボックスに入っているんですね。

手嶋 メガネ側は、ほぼマイクロミラースキャナー(MEMSミラー)のみです。スキャンしたものが目の前の湾曲したミラーに反射して、瞳孔の中に飛び込んでくる形状になっています。

 ですから重いものは全部「文鎮」の中です。RETISSA Displayは携帯電話で言うところのショルダーフォンぐらいの世代ですので、これから設計を突き詰めていくことで、どんどん小さく軽くなっていくでしょう。

 一般論の話になりますが、スマホサイズにするのはそんなに難しい話ではありません。レーザーは液晶よりも消費電力が少ないので、バッテリーも小さくできます。レーザーモジュールを小さくしてメガネに移すことも可能です。ケーブルも信号線+電源線ですから、バッテリーをメガネに移すことができれば、残るは信号線のみになります。

西田 現状で2時間駆動という話ですが、いまでもそんなにバッテリーを積んでいませんよね。要はどれだけの面積をぴかぴか光らせたいのかと考えればいいわけで、それが数ミリ角ですから、消費電力はLCDより遥かに小さいハズ。

手嶋 そのアナロジーは大正解です。

西田 ということは10年、15年後にはメガネから信号線が出ているだけのバージョンが発売されてもおかしくないと。

鹿野 これ、民生用でもカメラ付けたほうが売れるかも。というのも、医療目的ではなくて、模型を作ったり、新聞を見る際の単純な拡大鏡のニーズがあるんじゃないのかな。

メガネ状の拡大鏡も存在するが、RETISSA Displayは通常の視野内に手元の映像を上書き(視線を意図的にずらして消去も)できるのがメリットだ

西田 細かい字が読めないときにスマホで撮って、ピッと拡大して、ああなるほど……っていうのは、たぶん、ちょっと年齢が上の人には、あるある話だと思います。それをメガネの中で実現できれば便利ですよね。「ARでなんかすごいエンタメを!」じゃなくて、老眼鏡代わりをしてくれるだけでいい。

鹿野 プラモデルのマニュアル出しながら作るのはいいかもね。あとボーイングがやっているような感じで、パーツを見ると画像認識でパーツ番号が出てくるとか。

西田 そうなるとCMキャラクターは石坂浩二さんですね。模型を作りながら使い方を紹介してくれる(笑)

鹿野 そういった個人でのハックが許される範囲の仕様が公開されていると良いかもしれませんね。特にインターフェースの公開は結構重要なポイントかもしれないな。

西田 映像入力インターフェースをHDMIにしたというのは、たぶん、そういう思惑があるんだろうなと思いました。あとはバラしたときのセッティングがどうのとか、その辺の情報公開も。

手嶋 何らかの形でユーザーのみなさんと共有できたらと思っています。ただ、これを触って一晩二晩で何かモノを作るとなるとハードルが高くなってしまいますので、まずはフレームやホルダーなどのデザイン、あるいは「こんな風に身体に取り付けると便利です」というかたちのアイデアソンもしくはハッカソンから始めたいなと。

RETISSA Displayの予約開始日が7月31日(火)に決定

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