20万超えのイスとデスク「Cruise & Atlas」がお得に思えた

文●四本淑三

2018年05月05日 12時00分

パソコンの売り上げは減り続けているし、スマホやタブレットがあれば、立ったままでも仕事はできる。もはやスタバでドヤるまでもない。椅子に座り、机に向かって仕事をする人は、いまどき少数派なのかもしれない。

気がつけば「座って仕事をするのは身体に悪い」「立った方が効率良い」などと言われはじめ、スタンディングデスクなんてものも見かけるようになった。あんまり立て立て言われたせいで「立ち仕事はかえって身体に悪い」という説も見られるようになり、去年の暮れには、座って仕事しながら運動できる椅子が評判を集めた。なんだそれ、である。

立ったままでは疲れる、座りっぱなしでは運動不足になる。当たり前の話ではないか。大体、どっちも身体に悪かったら、人間どうすればいいのだ。そもそも立とうが座ろうが、仕事ばっかりしていたら身体がおかしくなるのは当たり前。適当に遊んで好きなことをする。それでみんな幸せになれる。それが許されない世の中こそが問題なんじゃないのか。え?

と、余計な遠吠えまでしたところで「椅子と机と大画面はやっぱり快適なのだ」という説を私は展開したい。年度替りのタイミングで、前から欲しかったオカムラの「Cruise(クルーズ)&Atlas(アトラス)」を買ったのだ。これはいいぞ。

机がクルーズ、椅子がアトラス。合わせて「クルーズ&アトラス」。後傾した座面の低い椅子に座らせ、傾斜角のついた低い机との組み合わせ。これで「リラックスした新しいワークポジションで長時間のコンピュータ作業をサポート」するとメーカーは言っている。発売は2005年。立つも座るもない、パソコン作業用の定番である。

コクピットorバスタブ感覚

座ってみた感想は人によるとは思うが、手足を投げ出すように座らせるスタイルは、スポーツカーのポジションに近い。シートを合わせると、手を伸ばした位置に自然とハンドルが来る、あの感じ。いっちょうやったるでー、という気になる。

バスタブ感覚と表現してもいい。座面と身体が接する箇所の面圧がうまく分散し、腕も足もゆるい角度で平面に着地する。おかげで、どこにも余計な力が入らず、浮遊感があり、ただボーッと座っているだけで気持ちいい。うっかりすると、そのままぐっすり。

総じて言うなら、リラックスしつつもコンセントレーションを高められるという、なかなか得難い「自分の巣」が完成する。

ところで後傾ボジション専用と思われているが、前傾姿勢も取れる程度にセッティング幅は広い。座面の高さ調整は377mmから435mmまで。座面も前後に50mmスライドする。机天板の高さ調整は600mmから720mmまで。上の写真は全部上げたパターンで、座面を後ろに下げ、背もたれを立てた。下の写真は座面、天板ともに一番下げたパターン。座面を前に出し、背もたれも最大傾斜角の23度まで寝かせ、天板に10度の最大傾斜をつけている。

20万円はするけど高くないと思う理由

クルーズは2013年にマイナーチェンジを受け、その際にコンパクトで安価な「Cタイプ」が加わった。私が買ったのは、そのCタイプ。机、椅子ともにさまざまなオプションが存在するが、机は10万3550円、椅子は9万3052円が税込スタート価格。昔に比べれば安くなったとはいえ、まだまだお高い。

そこで最初は安く上げる方法はないかと、あれこれ考えてみた。クルーズ&アトラスのキモは、後傾した低いメッシュシートと、傾斜した天板にある。これが座面にかかる荷重を分散させ、腰や肩の疲労を軽減するのだ。

であれば、傾斜した板を机に置き、その上にキーボードを載せ、後傾型の椅子を高めにセットし、適当な高さのオットマンに足を置けば同じではないか、と。ところが、適切な高さや角度を考えながら、モノを選んで調整するのは大変。クルーズとアトラスをコンビで買ってくれば、その労力と時間はいらない。

加えて言うなら、同じコンセプトの製品に、ハーマンミラーの「エンベロップデスク」と「エンボディチェアー」がある。こちらの公式通販価格は、机が20万6064円、椅子18万5760円からスタート。でも国産のオカムラなら、半額。そう考えると、お得な気すらしてくる。

リクライニング機構がかっこいい

椅子のアトラスは、見た目もカッコいい。デザインはジウジアーロとのコラボによる同社の代表機種「バロン」そのもの。違いは、メッシュ座面なら45mm低くできることと、合わせて設計された肘掛けくらい。

調整機構もまたカッコいい。両側面に座面の高さ、スライド、リクライニングフリー/ロックを切り替えるレバー、背もたれの反力設定のダイアルが並んでいる。下を覗くと、リクライニング用の大きなダンパーが付いていて、これもカッコいい。

座面はメッシュとクッション、背もたれはハイバックと、より長いエクストラハイバック、そしてランバーサポートの有無が選べる。エクストラハイバックなら、ヘッドレストを可動式にするか固定式にするかの選択肢もある。このうち座面のメッシュとクッションの違いは、通気性だけでなく座り心地も大きく違う。

私は座面はメッシュ、背もたれはエクストラハイバックのヘッドレスト固定式にした。メッシュの座面はハンモックっぽさがあって心地よく、ヘッドレストは固定式のポジションでちょうど良かった。ランバーサポートは特に必要を感じなかった。

残りの選択肢は座面、ボディー、フレームのカラーの組み合わせ。フレームはシルバーとポリッシュが選べるが、シルバーの方が3000円ほど安い。性能と関係がないので、安い方にすると、公式通販の税込み価格にして12万9902円となる。

ところでアトラスに標準で付いてくる肘掛けは、位置が低くアームレストとしては機能しない。何のためかといえば、立ち上がる際に手をかけるため。いわば補助ハンドルだ。低座面タイプならではの配慮だが、私の場合はまだこれがなくても立ち上がれる。もし不要と思えば6mmの六角レンチで外せる。ギターを弾こうとすると、右の肘掛けに当たるので、私は外してしまった。

コーヒーによる事故を未然に防ぐ天板

一方、机のクルーズの見た目は、いかにもオカムラの事務機感が漂うが、機能十分。天板の高さ、角度を調整するレバーは、天板裏の左右両脇にあり、右で高さ、左で角度を変える。椅子と同様、ダンパーが効いていて、調整の際にガクッと落ちたりすることはない。

ただ、天板を傾斜させて使うのなら、サイドテーブルのようなものは必須。コーヒーカップの置き場がない。見方を変えると、コーヒーをこぼしてキーボードが水浸しになるリスクが低いとも言える。自然と入力装置以外のものは置かなくなるから、いつも机の上はすっきり。問題なのは、10度も傾けるとキーボードがズルズル滑り始めること。場合によっては底に滑り止めのゴムを貼る必要があるかも。

クルーズCタイプの基本ユニットは、棚板の高さ調整あり版(MY10XG)と、なし版(MY10XE)が選べる。調整ありの場合は、680-780mmの範囲で、20mmピッチで6段階。調整なしの場合は650mmで固定。私は高さのあるiMacを置くつもりなので、30mm低い調整なし版にした。

あとは本体と天板のカラーも選べるが、価格は変わらない。これで公式通販の税込価格で10万3550円なり。椅子と合わせて、計23万3452円だった。

ここからどれくらい安くなるのかという話だが、もし購入を検討しているなら、まず最寄りの取り扱い店で見積もりを取った方がいいかもしれない。クルーズの設置にはオカムラの作業員の出張が必要で、地域によっては施工費が請求される。私は普段お世話になっている事務機屋さんにお願いしたが、施工費の必要な地域だと思っていたら請求はなく、結果的に値引き販売のネット通販より安かった。

想定外の効果もあり素晴らしい

発注してからの納期は1ヵ月程度。設置を終えて下調べが足りなかったと思ったのは、クルーズの棚板の最大積載質量が「10kg(等分布質量)」だったこと。9.54kgのiMacなら問題ないということだったが、取説を見るまでこのスペックとは知らなかった。

棚板はスチール製本棚のようなコの字型の鋼板で、確かに小さな面で荷重がかかると弱い。さすがに曲がったり凹んだりすることはないが、もともと不安定なiMacのスタンドと相まって、ちょっと触った程度で揺れてしまうのだ。これは棚板の上にもう一枚板を渡せば解決するが、いっそディスプレーアームとVESAマウントのような、ほかの支持方法を考えた方が良さそうだ。高いところに置いたiMacは地震が怖い。

ほかに気になるのは、黒いメッシュは繊維の付着が目立つのでほかの色にした方が良かったかなとか、可動部や座面の経年変化がどれくらいかくらいのことで、今のところ満足感はとても高い。

最初は、大した仕事をするわけでもないのに、自分に対してオーバースペックな気もしたが、椅子と机の機能は、人の能力に依らず平等にもたらされる。腰は痛くならない、肩は凝らない、おまけに目も疲れにくい。やはり遠くに置いた大画面は年寄りに優しいのである。買って良かったと心の底から思っている。

ただし、集中力は上がるのかもしれないが、持続時間はいつものとおり。うっかりすると、午後をぐっすりすっ飛ばし、気がついたら美しい夕焼け空が展開していることもあるので気をつけたい。

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四本 淑三(よつもと としみ)

北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。

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