自作キーボード用パーツをそろえて、お手軽自作に挑戦

文●加藤勝明 編集●北村/ASCII編集部

2018年03月13日 12時00分

自分にとっての“Endgame(究極の)キーボード”を、どこかのメーカーが作ってくれるまで待つのはもう止めだ。Endgameは自作してしまえ! というのが最近のキーボードマニア、即ち“キーボー道”のムーブメント。

前回は、キーボードのキースイッチの違いや配列など、キーボードを語るにあたっての基本要素を解説したが、そろそろ実践に移りたい。

だが自作キーボードもピンキリだ。自作キーボードの難度といってもいいし、沼の深さと言い換えてもよい。どんな段階があるのかを浅いものから順に以下に簡単に紹介しよう。

今回は実際にキーボードを作っていく

(1)キーキャップのカスタマイズだけ

既存のキーボードのキーキャップだけ交換するというのも、オリジナルなものを作り出すという意味では自作キーボードに入る(かもしれない)。

前回解説した通り、Cherry MXに対応したキーキャップなら、多くのキーボードに装着できる(静電容量無接点式のキーボードでも、Cherry MX互換のキーキャップを装着できるものであればOK)。

交換用キーキャップは主に海外で多く発売されている関係で、英語配列のキーボードと非常に相性が良い。キーセット一式を入れ替えれば、気分もガラリと変わるだろう。

だがJIS配列のキーボードの場合は、右ShiftやBackspaceなどのキーが入らないことが多い。そのためWASDキーやFキーなど、ピンポイントでのカスタマイズにとどまる。キーキャップのフルカスタマイズを考えるのであれば、英語配列が圧倒的に有利だと覚えておこう。

JIS配列のキーボード(Sharkoon「Skiller SGK」)に上海問屋で販売されていたCherry MX交換用キーキャップ組み合わせようとすると、スペースバーなど大型キーの長さが合わないため、完全な入れ替えはできない

(2)キーボード自作キット

キーボードの世界にもある程度決まったパターンのパーツがある。60% TKLかつPoker配列の“GH60”と呼ばれる自作キーボードのクローンが多数存在し、海外通販サイトを中心に安価く流通している。

この手のキットは購入者が自分の好きなキースイッチを使うことができるため、メーカー製キーボードが採用しないような組み合わせが追求できる。

GH60クローンの作例。いわゆる英語&Poker配列のキーボードが完成する

ケースやキーキャップにもこだわれば、まさに世界に1つだけのキーボードになるだろう。だが組み立て時にはんだ付け作業やが必要になるので、そこを乗り越える必要がある。

しかし次のレベルのオープンソース系キーボードに比べると、圧倒的に作業の難度は低いうえに、手間も省ける。ファームウェアもあらかじめ書き込み済みなので、完成させれば機能すると考えていい。キーボード自作に初めて挑むなら、こうしたキットから入るのも手だ。

(3)オープンソース系自作キーボード

キーボードの基板またはケースがオープンソースで公開されているタイプのもの。上の自作キット同様に業者がパーツを売っていることもあるが、基板に抵抗やダイオードなどの細かいパーツをはんだ付けする必要があるとか、パーツの高さや取り付けの順番を考えつつ作業する必要があるなど、自作キーボードキットに比べると難度はずっと高い。

オープンソース系自作キーボードの代表例が「Let's Split」。基板もケースもGithubで公開されており、そこから自分で業者に発注することもできるし、業者が製造したものを買うこともできる

基板やケースが公開されているものに関しては、そのデータを元に自分で業者に発注してパーツを手に入れたり、データを改変してキーを追加したり、足りない部分を補うなど、さまざまなアプローチでオリジナリティーを追求できる。

ただこのレベルになると、ファームウェアを自前でコンパイルできる環境整備も必要になってくる。柔軟性があるぶん、難度も急上昇するのだ。

(3)完全オリジナルキーボード

自分の理想、自分の体格に合わせたオリジナルキーボードを作ってしまうのがキーボー道のひとつの到達点と言えるだろう。オープンソース系キーボードの改変から進むもいいし、まるっきり新しい配列に挑むのもいい。

回路設計はもちろんだが、それを形にするためにCADや3DCGアプリを使いこなす必要がある。険しい道だが、少しずつ進むしかない。

完全オリジナルと言うにはレベルがかなり低いが、筆者が長尾製作所の「Cherry MXキースイッチテスター」を、実際に3x3のキーパッドとして機能させるために作った基板を紹介しよう。キースイッチ9個のほかに、ダイオードやコントローラー(Arduino Pro Micro)などをはんだ付けし、所定のファームウェアを書き込むことで動作する

3つの方法それぞれに共通しているのは、日本国内で自作キーボード系のパーツをすべて網羅している業者は(今のところ)ないため、すべて、あるいは一部パーツは海外通販頼みとなる。

Aliexpressだと送料無料のところが多いが、発注から到着まで13日〜20日、トラブったりすると数ヵ月待たされることもある。じっくり計画を練り、腰を据えて楽しむものなのだ。

手軽さ重視のキットで自作する

自作キーボードという沼に入るのに、いきなり難度の深い所に飛び込むのはリスクが高い。オープンソース系キーボードは魅力だが、難度の低い自作キーボードキットにも注目しよう。はんだ付け道具一式と作業する手間はかかるが、オープンソース系キーボードよりはずっと手軽かつ洗練されている。

前述のGH60クローンだと標準で61キーあるため、はんだすべき箇所はその2倍の122ヵ所。この数値を見てちょっとしんどい、はんだ付けをやり遂げる自信がないというのなら、キー数の少ないマクロパッド、あるいはテンキーの自作キットもいいだろう。

MAX Keyboards「MAX Falon-8」の自作キットはキースイッチが8つのみの小さなマクロパッドだ。はんだ付け点数が少ないうえに、最小構成(選択するキースイッチにより変化する)は39.95ドル(送料別)。入門用としては最適だ

筆者のMAX Falon-8。キースイッチをOutemu Ice Light Purpleに変更し、LEDの光が前面にも回り込みやすくしたほか、キーキャップも変えて遊んだ感じにした。マクロの設定ツールが少々使いづらいのが欠点だが、完成まで1時間もかからないのは◎

「MAX Falcon-20」は、今風のRGB LEDバックライトにUnderglow LEDまで備えたテンキーあるいはマクロパッドだ。世代が新しい製品なので設定ツールもMAX Falon-8よりも洗練されている

だがキーボー道を極めんとするなら、マクロパッドではなく普通のキーボードに挑戦したい。

キーボードの自作キットも各社から出ているが、前述のGH60クローンは規格がほぼ共通化されているので、組み合わせられるパーツも豊富。これに合わせる英語Poker配列仕様のキーキャップもそれなりに入手性が高く、複雑なことを考えなくていいのだ。

GH60クローンを構成するパーツ達。まずはこれらをそろえることから始めよう

上の図はGH60クローンを構成するパーツだ。まずは各パーツがどんな役割を担っているのか、どういったものを選べばよいのかをまとめてみたい。

手始めに自作キーボード関係の販売業者をあたり、情報収集を行なおう。一番手っ取り早いのはAliexpressにショップを構えている業者だ。妙ちきりんな和訳、あるいは英語のページを突破する必要があるが、そう難解ではない。不良品や出荷遅延事故が発生した時はある程度のコミュニケーションが必要なことだけは覚悟しておこう。

自作キーボードキットの種類が豊富なのがAliexpress内にショップを構える「KPrepubic」。自作系キットでは珍しいOrtholinear配列の大型キーボード「XD75」にも注目

同じくAliexpress内にショップを構える「KBDfans」は個性的なボトムケースやキーをそろえる。ただ本家(https://kbdfans.myshopify.com)は、Aliexpressよりも尖った品ぞろえなのでこちらも注目

パーツ探しなら「Shenzhen YMD Tech Co.,LTD」もチェックしておこう

「Massdrop」では、ショップに並ばないレア度の高いキーボードキットの共同購入(GB、Group Buy)を募っていることがある。ただ受注生産品となれば発注から到着まで半年以上待つことも珍しくないため、気の短い人にはオススメしない

キーキャップはそれだけ扱う専門のショップもある。その代表例が“PMK”こと「Pimp My Keyboard」。価格はそれなりにするが、質の良いキーキャップセットが売っているほか、さまざまな色や大きさのキーを数個〜10個単位で発注できるのが大きなメリット

パーツはどうやって選ぶ?

今回の記事執筆にあたり、筆者はGH60クローン用パーツ一式を買い集め、実際に作ってみた。筆者がどういった順番で物事を決め、何をそろえたか見ていくことにしよう。

1 キーキャップ(実売価格:2000円〜1万円台)

前回キーボードを構成する大きな要素としてキースイッチの方式やタイプを解説したが、キーボードとして運用するには、キーキャップが必要不可欠。

Cherry MX互換のキースイッチを使うため適当なキーキャップで仮運用することもできるが、バシッと収まるべき所に収まった方が良い。そのため筆者はここから先に決めていく。

GH60クローン、つまり英語&Poker配列の60% TKLキーボード対応のキーキャップはユーザー数も多いため選択肢も豊富。さまざまなサイトを見回り、今回はキートップが階段状にならない「DSA」と呼ばれる形状(プロファイル)のキーキャップを選択。

2色成形(doubleshot)なので価格は張るが、白がキレイに出ること&絶対に印字がかすれない点が決め手となった。ちなみに、昇華印刷(印字がかすれる可能性はある)でよければ、Aliexpressのキーキャップセットを買う方がお得。だが筆者は少々高くても2色成形にこだわった。

PMKで販売されているDSA“Dolch”キーセットを選択。いくつか選択肢があるが、このセットの場合「Main Set」を買っておけばPoker配列+αのキーキャップがすべて手に入る。価格は100ドルに加えアメリカからの送料がかかるが、2色成形なので見栄えはとても良い

KBDfans(Aliexpress)で売られている“Dolch”は昇華印刷なので文字の色の発色や耐久性はPMKのDolchより劣る。だが英語配列108キー+ISO Enterのフルセットでも送料込みで5000円しないのは大きな魅力だ

ISO Enterや後述する最下段キーの変則配置を考えているなら、こちらのセットの方が柔軟に対応できる

2 基板(実売価格:3000円台〜)

キースイッチを選んでイメージを膨らませたところで、キーボードのコアともいえる基板の選定に入る。GH60クローン用基板はAliexpressで「keyboard PCB」で検索すれば山ほど出てくるが、基本この手の基板はキースイッチ以外のパーツはすべて実装済み、さらにデフォルトのファームウェアも書き込み済みで売られている。

Aliexpressで「Keyboard PCB」あるいは「GH60 PCB」で検索すれば、自作キーボードキット向けの基板が次々と出てくる。この手の基板はキースイッチをはんだ付けするだけで良いので楽なのだ

GH60クローン基板のひとつであるKBDfans「DZ60」。基板裏側(下)にコントローラーから必要な細かいパーツ、さらにUnderglow LEDまですべてはんだ付け済み。Underglow LEDがないGH60クローンクローンもあり、そちらはわずかに安い

GH60クローン基板を選ぶポイントは「選択できるキー配列の種類」と「ファームウェアのカスタマイズ方法」の2つだ。

選択できるキー配列とは、Enterを横長のANSI Enterか縦長のISO Enterを選べるとか、最下段のキーをPoker準拠かFilco「Minila」のようにカーソルキーを配置するか……などといった要素だ。さらに細かく見ると左右のShiftキーのサイズや最下段のキーのサイズにより、数種類の配列が選択できるものが多い。

DZ60のマニュアルより抜粋。色のついたキーは、同じ色のキーのブロックに置換できることを示す。例えば水色で色づけされたブロックは[|]キーとISO Enterに置換でき、緑色の最下段のキーは大きさとキー数の違う6通りの配置が選択できる

ただこうしたキー配列を実際にそれを形にできるかは、後述するプレート形状の制約を強く受ける。スペースバーを分割した配列が良い場合は、それに対応したプレートが必須になる。このあたりがなんともややこしいが、分からなければデフォルトのPoker配列にしておけば一番無難だ。

2番目の選択ポイントとなるのが使用するファームウェアだ。筆者の知る限り「QMK firmware」、「TMK firmware」、「ps2RGB」のどれかが使われている製品が多いようだ。

QMK/TMK(この2つは兄弟関係にある)はややとっつきが悪いが設定ファイルを自分でコンパイルできる環境がそろっている。一方ps2RGBはQMKほど細かいチューニングはできないが、GUIベースの設定ツールが使える。伸びしろという点からは、筆者はQMKベースの基板(DZ60もQMK)をオススメしたい。

ファームウェアのカスタマイズ方法がどういう方式かは、商品説明のリンクに答えがある。明言してない基板は避けた方が、後で慌てることもない。写真はKBDfans「DZ60」のもの。説明書のリンクを開くとQMKを使っているPDFにたどり着く。この辺のアバウトさはさすが中国といったところ

さて、キーボード基板は関連するパーツの「セット売り」になっていることも珍しくない。今回選択した「DZ60」の場合、「kit1」から「kit8」まであり、一番安いkit1は基板のみ、kit2ならスタビライザー付き、kit3はプレート付き、kit4以降は必要なキースイッチまでセットになる。

楽をしたいならこうしたセット売りのものを買ってしまうのが一番いい。キースイッチをセット品以外のものにしたいとか、プレートを色付きにしたい……といった場合はkit1〜kit3を選択しよう。

DZ60の場合kit1から8まで選べるようになっているが、その理由は製品説明の部分に書かれている。やや日本語が変だが、kit4以降を買っておけば、あとはボトムケース(後述)を買うだけで必要なものは全部そろうのだ。ただ筆者は全部バラで集めてしまった

3 プレート(2000〜4000円程度)

自作キーボードではキースイッチは「プレート」あるいは「位置決めプレート(Positioning Plate)」と呼ばれる金属板に固定し、これを基板に合体させる。

キースイッチの荷重を支えグラ付きを防止するとともに基板を保護する重要なパーツだ。プレートがなくてもキーボードにはなるが、使い心地は悪いのでオススメしない。

ここで大事な点が1つある。一般的なRow-Staggeredな配列のキーボードにおいてプレートの設計がキー配列に制約を与えるのだ。

前述の通りGH60クローンの基板ではキーの配列をある程度ユーザーが選べるが、プレート側の穴の空き方によってはキースイッチを配置できなくなる部分が出るからだ。とはいえ、Pokerクローンを目指すなら特に迷う必要はない。

プレートはアルミやステンレスをそのまま使ったのものが多いが、図のように赤や青といった着色されたアルミ素材、あるいは真鍮製のものもある。キースイッチの間から見える色にもこだわりたい人向け

この写真はKBDfansのDZ60のkit2以降に付属するプレート。上の着色済みプレートとは最下段の穴の空き方が違う。AとBでは左Shiftの大きさが違うが、DZ60とセットのプレートは(指定しない限り)Bがデフォルト

HHKB配列は左下と右下にスペースが空くので、それ専用のプレート(とHHKB配列対応基板)が必要になる。図はShenzhen YMD TechのHHKB配列用のケース兼プレート。GH60クローンの中でも、特にHHKB配列対応と明記された基板とペアで使おう

4 キースイッチ(3000円〜7000円)

キースイッチは前述の通り基板とセットになっていれば、特に改めて考える必要はない。自分の使いたいメーカーと軸の組み合わせで選ぶといいだろう。しかし基板とのセットに自分の目的のスイッチが入っていなければ、バラ売りのスイッチを必要個数だけ購入しよう。

Poker配列の場合最低61個必要だ。ショップによっては「3 pin」あるいは「5 pin」、あるいは「Plate Mount」あるいは「PCB Mount」という区別をしているところがあるが、多くの自作キーボードの場合「3 pin」あるいは「Plate Mount」(両者は同じ意味)のスイッチを選べばよい。

キースイッチは数個まとまったセット売りになっている。GH60クローンなら3pinまたはPlate Mountタイプの65個入りを買えばよい。うっかり5 pinまたはPBC Mountタイプを買ってしまっても、ニッパーや爪切りで図中丸のついたプラスチックのピンを切り取ってしまえば問題なく使える

だがPCゲーム好きな筆者としてはSpeedタイプのキースイッチが使いたかった。Aliexpressでも売られているが割高だったので、Novelkeys(https://www.novelkeys.xyz/)というサイトで購入した

5 スタビライザー(数百円程度)

スタビライザーは2U(文字キー1つの幅を1Uとした時、1Uが2つ分の大きさのキーのこと)以上の大型キーの動きを滑らかにするアシストパーツだ。基板やボトムケースとセットになっていることも多いので、特別買う必要はないだろう。

ただ、付属のものは滑りが悪かったり、色が黒で味気ないので、あえてスタビライザーを追加購入するのもいいだろう。特に質の悪いスタビライザーだと押した時にザリザリ言うので、後悔したくなければ保険として買っておこう。購入する場合は「Costar」タイプではなく「Cherry」タイプのスタビライザーを選ぶことがポイントだ。

スタビライザーの出来が大型キー押下時のフィーリングの善し悪しを決める。Poker配列の場合、6.25Uのものが1組、2Uのものが4組必要だ。キーバックライトの光を妨げない透明なタイプもある

6 ボトムケース(2000円〜)

GH60クローンの自作キーボードでは、プレートや基板といった上物パーツを格納するボトムケースが必要だ。プラスチックから木材、金属の削り出しに至るまでさまざまな素材やデザインのものが出回っているため、自分のイメージと予算に合致するものを選びだそう。

DZ60のように基板の裏側にUnderglow LEDが装着されている場合は、透明なアクリル系のボトムケースの方が効果的だし、キーボードに安定感を求める場合は重量のある金属製ケース(当然Underglow LEDの光は見えない)が向いている。

GH60のボトムケースは素材やデザインのバリエーションが豊富でカスタマイズのしがいがある。おそろいのパームレストがセットになっているものもある

KBDfansの「5°」に一目惚れ。アルミ削り出しなので安定感も十分。何よりエッジの効いたデザインが最高だ! 結構いい価格だが、endgameキーボードには妥協はできない

7 オプション:バックライト用LED(1000円程度)

キースイッチにバックライト用LEDを仕込むことも可能だ。直径3mmの砲弾型、あるいは2x3x4mmの角形LEDを仕込むことができる。このLEDは完成してからでも後付けできるので、キーボードとして動いたのを確認してからでも遅くない。

ただキースイッチの構造によっては後付けのLEDが付かないものもある。キースイッチのトップケースの形状をよく観察してからLEDを購入しよう。LEDは秋葉原や日本橋などの電子パーツ店でそろえられるので、慌てないことが肝要だ。

キーバックライトは付けてもいいし、付けなくてもいい。付ける場合は小型のものに限られる。回路の構成上単色LEDしか光らせることはできないので、色が決まったら後付け、でもいいだろう

Cherry MX互換のキースイッチにはLEDが固定できるよう、スイッチ底部から貫通する穴が空いているものだが、KailhのBoxタイプのスイッチ(右)はトップカバーに穴がない。こういったキースイッチは、基板上にチップ型のLEDを実装して光らせる

いよいよ組み立て

パーツが一通りそろったら組み立てに入ろう。今回はキースイッチに入手性がレアなKailh Speedの銀軸を利用して組んでみた。

作業する上で大事なのは“慎重さ”と“注意力”だ。最終的にキースイッチをすべて基板にはんだ付けする作業を行なうが、一度はんだ付けすると取り外すには手間とテクニック(もしくは高価な機材)が必要だ。

キースイッチを取り付け時や基板との合体時など、間違えるとえらく遠回りさせられるポイントがいくつかある。そうしたポイントでは先を急がず、ゆっくりと確認しつつ進めよう。

Step 1 スタビライザーを取り付ける

まず最初にすべきはスタビライザーの固定だ。Poker配列の場合スペースバー、左右Shift、Enter、そしてBackspaceキーの5つにスタビライザーを組み込む。スタビライザーは2つの土台を金属のバーで連結した構成になっているが、土台から出ている突起を基板の穴に差し込むことで固定できる。

ここで最初のポイントとなるが、左右のShiftキーおよびスペースバーのスタビライザーは取り付け用の穴が複数用意されている。配列をある程度選べるためにこういう設計になっているのだが、正解の穴を一発で探し当てるのは難しい。

わからない場合はStep 2に進み、プレートと基板を合体させた状態にしてから、キーキャップなどを当てて探などの試行錯誤が必要になる。

スタビライザーは基本組まれた状態で出荷されるが、バラバラで来ることも考えられる。バラバラの場合、軸と土台はこの向きで合体させてから、連動させるためのワイヤーを差し込む

基板の穴は大小2つあるが、まず大きい穴に土台のL字型のツメを引っかけるようにして入れ、小さい穴にひづめ型のツメを押し込む。キーによってワイヤーの出る位置(上か下か)が違うので、十分注意力を働かせよう

スペースバーの穴は非常に分かりづらい。DZ60のUSBコネクターが左手奥側に来るように置き(これが正位置)、その上からプレートを優しく載せてみよう(L字型の穴がある方が右側にくるように載せる)。右の穴(青矢印)を使う場合、対応するスタビライザー穴は緑矢印部分の穴になる

スタビライザーを付け終えた状態

Step 2 キースイッチをプレートに固定する

いよいよここからが本番だ。まず基板を表側(DZ60の場合、LEDやコントローラーなどが実装されていない方)からキースイッチの穴を見る。スイッチの方向を確かめたら、その向きのままキースイッチをプレートにはめ込んでいこう。

スタビライザーを取り付けたキーや最下段のキーについてはここでミスをするとキーキャップが取り付けられなくなるため、まずは間違えようのない1Uのキーだけを先に埋めていこう。

DZ60の基板を表側(コントローラーなどが実装されていない側)からキースイッチの尾部が入る穴と、その上にあるメッキされたスルーホール端子を眺める。中央の大きな穴にスイッチ中央の突起が入り、2つあるメッキの穴にキースイッチのピンが入る

プレートを正位置(L字型の穴が右手に来るように置く)で置き、1Uの穴にスイッチを押し込む。キースイッチが中途半端に浮いた部分が出ないように、しっかり奥まで入れることを心がけよう

1Uのキースイッチを入れたらプレートを裏返し、ピンが全部直立しているか確認する。この確認を忘れて基板と合体させる時にピンを曲げてしまうと、修正がとにかく面倒なので、絶対に複数回チェックしよう

スイッチを付けたプレートを裏返し、裏面を上にした基板をそっと上から載せる。キースイッチ中央の突起が穴に入るように載せれば、2本のピンがスルーホールから顔を出すはずだ。全キースイッチがこうなっていることをチェックすべし

1Uのキースイッチがあらかた埋まったら、プレートと基板を合体させる。合体させる前に装着済みのキースイッチのピンを全て確認し、直立していないものがあったら必ず直しておこう。この確認を怠るものは確実に後で地獄を見る。ダブル、いやトリプルチェックする位の用心深さが必要になるだろう。

こうして合体させたら、取り付け場所がわからなかったShiftや最下段のキースイッチの位置を確定させていく。キーキャップを仮置きするなどしてポジションを詰めるといい。

Caps Lockキーやスペースバーなど、穴が複数あって迷うキーは、キーキャップを実際に当ててみるといい。Caps Lockキーの場合はキーの左端をプレートの左端に合わせると、中心の軸が対応する穴が見えてくる。スペースバーもスタビライザーに合わせれば、使える穴が見えてくる

最下段のキースイッチは配置をしくじるとキーキャップが付けられなくなる。キーキャップを軽くキースイッチに固定し、互いが干渉せず置ける位置を割り出そう

Step 3 いよいよはんだ付け

キースイッチをプレートに取り付け、基板と合体させたらいよいよはんだ付けだ。キースイッチのはんだ付けは特に難しくないが、不安を覚えるなら市販の安い電子工作キットではんだ付けの練習をしてから挑むといいだろう(今回は特に解説しない)。はんだごてはピンキリだが、少々高くても温度調整機能付きのものを選んでおいた方が最終的な失敗は少なくできる。

なお、はんだごてのこて先は細い針のようなタイプではなく、円柱をナナメに切ったような“C型”のものを、はんだは直径0.6〜0.8mm程度の“鉛”タイプのものを選ぶといい。

はんだは環境に優しい鉛フリーが主流だが、鉛フリーは溶けにくいため扱いづらい。環境的にはいまひとつだが、初心者を自認するなら見栄をはらずに鉛入りを選ぶべきだ。

全キースイッチを入れ終わった状態。ここで再度すべてのピンがスルーホールから頭を出しているか再々チェック。この段階のチェックは特別に時間をかけ入念に行なうこと

はんだこては温度調整機能付き(写真は白光「FX600」)、はんだは電子工作用の鉛入り(直径0.6〜0.8mm程度のもの)がオススメ。こて台にうっかり落としても机が焦げないよう作業用シリコンマットもあった方がいい

C型こて先の平たい部分をキースイッチのピンに、先端をスルーホールのメッキ部分(ランド)に同時に当ててからハンダを近づけることを心がければ、そう難しい作業ではない。スピードよりはんだ忘れをしないことに重点に置こう

はんだをした部分の周辺には、はんだに含まれるフラックス成分(透明〜黄色)がこびり付いている。これが将来的に腐食を引き起こす可能性もあるので、無水エタノール(あるいはフラックスクリーナー)と綿棒などで徹底的に掃除しておこう

Step 4 完成!

すべてのキースイッチをはんだ付けしたら完成だ。ボトムケースと合体させた後ネジで固定、その後キーキャップをはめ込もう。ボトムケースやキーキャップを変えるだけで、ガラリと印象や使い心地が変化する。この摺り合わせを繰り返し、自分のendgameキーボード像に近づけていくのだ。

キーキャップのない状態ではんだ付けの終わった基板&プレートとボトムケースを合体させ、付属のネジで固定する

あとはキーキャップを所定の位置にはめ込むだけ。最下段のキーはファームのカスタマイズで順序を入れ替えできる。ボトムケースを入れ替えてバリエーションを楽しむのもいいだろう
今回チョイスしたDSA“Dolch”はキーの高さが一定だが、キーの高さを変えて階段状になるDCS/OEMプロファイルや円柱状になるSAプロファイルを採用したキーキャップに交換すると、打鍵時のフィーリングも変わってくる。写真はSAプロファイルのキーセット“Dasher”をベースにしたもの

配列をカスタマイズする

DZ60にはファームウェアが書き込み済みで出荷されるため、完成したキーボードにUSBケーブルを差し込めばすぐに使い始められる。

だが今回のようにテンキーやFキーを切り詰めた小型キーボードの場合、何らかの工夫をしなければ使いやすくならない。例えばPrintScreenキーが使いたくなったら? F3キー打鍵が必要になったら? こういう状況を考えつつ、必要なキーを登録するのが最後の仕上げとなる。

このキーマップを熟成させる作業は「自分がどのようにPCを操作したいか表現したもの」と言える。ホームポジションから近い所に常用するアプリのショートカットを集め省力化するとか、前回解説したColemakなどの特殊なキー配列にして高速入力を狙うといったことがこれに相当する。

これは即ち“私の考えた最強のキーマップ”を探求する旅でもあるが、同時に“キーマップ沼”とも言える新しい沼への入り口でもある。

前述の通り今回使った基板(DZ60)は、自作キーボードでもよく使われる「QML Firmware」が組み込まれている。これはC言語ライクな表記でかなり細かく作り込める反面難しいが、幸いなことにDZ60用にはGUIベースでカスタムファームウェアを作ってくれるウェブサービスがある。QMKのビルド環境を作るのは少々手間がかかるので、最初はこのサービスを利用してカスタマイズを始めるといいだろう。

まずはDZ60用のファームウェア作成サービスのある「QMK Firmware Builder(http://qmkeyboard.cn)」にアクセスする。下に自作キーボード用基板の型番がズラッと並んでいるが、今回のようにPoker配列なら「DZ60标准(標準)」をクリック

するとDZ60デフォルトレイヤー(レイヤー0)のキーマップが表示される。一部キー数が合わないが、青枠で囲んだキーはPoker配列で無視、3つあるスペースも1つになる。また、「MO(1)」はレイヤー1へアクセスするためのキー。いわばFnキーといったところ

画面下部中央の「Select a layer to modify」の数値を「1」にするとレイヤー1の設定に切り替わる。これは「MO(1)」キーを押しながら打鍵すると発動するキー。数字キーはF1〜F10、Q〜IはUnderglow LEDの発光制御、Enterの上の「\」キーはファームウェアを書き換える時に押す「Reset」となる

レイヤー2は数字キーが登録したマクロの発動に使われる。「TRNS」キーは“透過”、この場合はレイヤー0のキーと同じ文字や機能が発動することを示す

筆者の中では世界で一番使わないキーと言うべき「Caps Lock」がAの横にあるのが気に入らないし、レイヤー2へアクセスするキーがPoker配列だと使えないのが難点。

そこで、デフォルトのレイヤー0でCaps LockキーをAの左へ、左Ctrl(LCTRL)キーをレイヤー2へのアクセス用、つまり「MO(2)」として登録する。

さらに英語配列でIMEのオン・オフに使われる「Alt+`」をアクセスしやすい場所に置くほか、カーソルキー等のナビゲーションキー類を右手のホームポジション付近に移動させる。さらにスクショを撮るキーや音量調整など、多用する機能についてはレイヤー1か2に登録してみた。

レイヤー0のキーマップを変更するには「KEYMAP键位」をクリックしてから「Select a layer to modify」を「0」に合わせる。変更したいキー(写真はCaps Lockキーを示す)をクリックし、下部に表示される「KC_CAPS」の文字をクリックすると割り当てられるキー一覧が表示される。「LCTRL」をクリックして左Ctrlキーを割り当てよう
左下のLCTRLにレイヤー2へのアクセスを割り当てるには、割り当てるキーの所で「FN(図中赤丸)」をクリックし、「MO()」即ち“押している間のみ指定レイヤーへ”を選択する。最後に移動するレイヤーの番号を「2」に合わせればレイヤー2へのアクセスが可能になる

キーの割り当てを変更したい場合

あるキーを別のキーとして割り当てる際の表記は、QMKの表記方法に準じている。詳細はいずれ解説するが、今回はポイントだけ解説しておこう。

基本的なキーは「PRIMARY」タブに集められている。「LGUI」「RGUI」はWinキーもしくはMacのcommandキーを示す。「NO」はそのキーをソフト的に無効化する際に使う

「SECONDARY」タブにはファンクションキー、ナビゲーションキーなどが入っている。最下段を見るとボリューム制御やメディアプレイヤーの再生制御系の機能も利用できることがわかる

「KEYPAD」はテンキー部分のキーのこと。「P1」はテンキーの1、「PENT」はテンキーのEnterキーを示す。これらのキーはNumLockがオンになっていないと機能しない点に注意

「LIGHTING」はバックライト用LEDやUnderglow LEDの発光制御。「RGB_TOG」は発光のオン・オフ、「RGB_MOD」は発光パターン、「RGB_HUI(Hue Increase)」「RGB_HUD(Hue Decrease)」はそれぞれ発光色の彩度の上下(他も同様)となる

修飾キー+文字のようなショートカットを登録したい場合は「FN」タブを利用する。「LCTL()」を使えば“Ctrlを押しながら”になる。中段はレイヤー切り替え系だがとりあえず押した時だけレイヤーに移動する「MO()」だけ覚えておこう。最下段の「M()」は登録したマクロの番号を呼び出すためのもの

「MACROS 宏」はマクロ登録。「录制宏 Record Macro」をクリック後、任意のキーストロークを押せば、それがそのままマクロになる。中央の「Select a macro to modify」の番号が呼び出し時に使う番号だ。キーストロークを登録するので日本語は使えない

筆者のとりあえずのカスタマイズ例。右下と左下のキーをそれぞれレイヤー1とレイヤー2へアクセスするキーとしたほか、Aキーの左にCtrlキーを移動した

レイヤー2は右手のHJKLにカーソルキー移動、その上下にHome/END/PGUP/PGDNキーを配置。さらに左下のキー+左Winを押すとIMEがオン・オフできるように英語配列キーボードにおけるIMEオン・オフのショートカット(Alt+`)を登録した

一通り設定が終わったら設定をjson形式で書き出し、さらにファームウェアも出力させておこう。ファームウェアは「QMK Toolbox」を使うことでキーボードに書き込める。

このウェブサービスそのものにキーマップを保存する機能がない。「SETTINGS 设置」タブにある「Save Configuration」ボタンで現在の設定をjson形式のファイルに書き出す。これを読み込ませることで設定が再びブラウザー上で編集できるようになるのだ

キーボードに書き込むファームウェアを出力するには「COMPILE 下载固件」タブで「Download .hex」ボタンをクリックする。「Download .zip」はそのファームを出力するためのソースが落とせる。詳細なカスタマイズをするためには、ソースを直接編集した方がいいが、ビルド環境が必要になる

出力した.hexファイルを「QMK Toolbox(https://github.com/qmk/qmk_toolbox/releases)」で開き、キーボードの「RESET」キー(デフォルトではMO1(最下段、右から2番目)&「\」キー)を押してから「Flash」ボタンを押すと、新ファームに書き換わる

次はオープンソース系キーボードに挑む

初めて自作キーボードに挑む人でもなんとか形になるよう、細かく書いたためかなり長くなってしまった。

だが自作キーボード沼はこの程度ではまだ浅瀬もいいところ。次回はもっと深い“オープンソース系キーボード”に挑戦することにしよう。

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