らき☆すたの聖地・鷲宮が10年経っても安泰な理由
文●まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII.jp
2017年01月15日 17時00分
コンテンツ/ファンと地域のギャップを埋める
〈前編〉では、アニメ作品の聖地として注目を浴びた鷲宮町の10年間について、イベント企画・運営を主導した久喜市商工会の坂田圧巳氏、久喜市商工会鷲宮支所の松本真治氏にお話を伺った。
この後編でも引き続き、ボランティアコミュニティーの受け入れ方、聖地としての今後の方向性などを語っていただいた。
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らき☆すた (1) (単行本コミックス)美水 かがみ(著)角川書店
―― ファンを受け入れるにあたって、地域での温度差もあると聞きます。はじめから、意識してファンをお迎えするという方針があったのでしょうか?
松本 わたしも商工会のメンバーもみなそうだと思うのですが、地域よりも、訪れた人がどれだけ楽しんでくれるかだと思いますので、経済効果を期待してグッズも少し利益が乗るよう高くしたりとかではなく、ファンが適正価格で買ってくれるものに極力近づけたい。利益を薄くしてでもなるべく手にとってもらえるように。
そしてイベントを開催するときも入場料は設定せず、とにかく参加は無料、気軽に来て楽しんでもらおうというのが、まず意識としてはあったかなと思いますね。
―― 人が沢山来ることで困るという部分も必ず出てくると思います。たとえば警備のコストとか。徳島のマチ★アソビですと、ボランティアの人たちがかなり支えてくれていたりしますが。地元の協力・理解をどのように取り付けたのか、関心があります。実際クレームがゼロということはないはずですよね?
久喜市商工会の坂田圧巳氏
久喜市商工会鷲宮支所の松本真治氏
坂田 ところがほとんどないのです。メールではありましたが、匿名なので返しようがなく、また、匿名の批判に一々答えていても……という。
―― いわゆるお祭り時の警備体制が流用できるということでしょうか。人が沢山来ることで地元の負担が逆に増えることはありませんか?
坂田 ありがたいことに、あまりないですね。
松本 (一番最初に開催した)2007年12月のイベント来場者が3500人で、神社の周辺はじめパンク状態でしたが、このとき地元警察が驚いていました。「すごい、整然と並んでくれている」って(笑)
―― オタクの人は行列に慣れてますよね。
松本 普通この人数だと大騒ぎになっちゃうはずなのに、警察も驚くくらい、指示通り動いてくださった。結果、混乱するかなと思ったら、意外とそうでもなかったのです。これは我々も驚いたところですね。「じゃあ、最前列の皆さん、こっちに移動してください」と言ったら、皆さんビシっと移動しますからね。
―― 様々なイベントで“訓練”されていますから(笑)
松本 イベントのときはファンの方々に手伝ってもらいました。オリジナルストラップを販売する際も、早い者勝ちにしないルールが作られているのですね、彼らのなかで。列がAからCまであって、このA・B・Cのトップがジャンケンするんです。で、たとえばCが勝つとCの行列の人たちが買えるという仕組みでした。ですから、早く並ぶ意味がなくなる。それがもう当たり前みたいな感じで動いていて。
―― その場で、並んでいる人たち同士でどうしようかって言って、じゃあジャンケンにしようとなるんですか。
松本 はい。そして「えー!?」みたいな反応がないんです。ああ、そういう感じだよねって皆が納得している。
ボランティアコミュニティーの力と新陳代謝
―― そういう人たちはボランティアでイベントでの運営も手伝ってくださるのでしょうか?
松本 おそらくどの聖地でも似たり寄ったりだと思うのですが、聖地となったところは、まず人が来ます。不特定多数が来るなかで、常連さんが生まれてきます。その常連さんたちの間で今度は派閥ができてくるわけです。
―― (笑)
松本 で、消えていく人がいて、入ってくる人がいて。
―― 新陳代謝がある。
松本 たとえばらき☆すた神輿は、30名ほどの組織で募集から当日の運営までやっています。
―― イベント運営となると、打ち合わせが必須だと思いますが、商工会として何か協力したりは?
坂田 会議は商工会の会議室でやりますね。
松本 運営がきちんとしていて、細かいですよねえ。
坂田 うん! 我々が作る資料よりも(笑)
松本 らき☆すた神輿の際、スタッフは無線機を所持しているんです。その無線のチャンネルに入って、「すみません、商工会の松本ですけれど、ちょっと相談がありまして」と言ったら、その後のやり取りが見事で。「こちら○○班、商工会の松本さんからこういう連絡あり、どうぞ!」みたいな感じで、すごく組織的なんです。
―― 同人誌即売会の運営などで手慣れた方々が参加しているのかもしれませんね。
坂田 そして現在のリーダーは元自衛隊の方です。
松本 テント設営は我々より早いです(笑) そして10年見てきましたが、必ずそういった組織ができて、人が集まり、やがて去る人もいる。しかし組織自体は維持されているのです。
―― 新陳代謝がスムーズに図られているおかげで、空中分解しなかったのですね。核は残しながら、去る者は追わず……。それってお二方がいつも見ている商工会とは違う、組織の力みたいなものがありますか?
松本 そうですね、全然違うと思います。自分たちはある程度ルールの縛りがありますが、集まっている人たちは来るも来ないも自由(なのに運営できている)。
―― らき☆すたがブームになるまで、こういったフラットなコミュニティーと一緒に何かをすることはありましたか?
坂田 ありませんでした。
―― 昔だと、たぶんお祭りの神輿を担ぐ青年団がそういった役割を担っていたと思うのですが。
松本 青年部という組織はありますが、雰囲気は違いますね。
―― その集団には地元の人がいないわけですよね。そしてそれを結びつけている、核になっているのが、らき☆すたという作品であると。
坂田 その集まってくる人たちの文法って面白いですよね。同じ一定の動きって必ずあるんだろうなって思います。
―― そのボランティアが結成されたきっかけはあるのでしょうか?
坂田 2007年12月に最初のイベントが決まり、グッズを作ろうという話になったのですが、自分たちはオタクじゃないのでわからないわけです。そこでたまたま鷲宮神社を訪れていた巡礼の人に、「ちょっといい? いまこういうの考えているんだけど、どうかなあ?」と直接聞いてみたのです。
そして意見交換しているうちに「手伝いますよ」となりまして。当時、mixiのらき☆すた関連コミュニティーから信頼がおけるメンバーを集めてくださって、当日は十数名が来てくれました。
―― そういった力を借りるにあたって、商工会の可否判断は割りとスムーズに?
松本 それはもう、「協力してくれる人はウェルカム!」という感じはありましたね。
これからの「聖地」鷲宮
―― 長年のらき☆すたをきっかけとした取り組みを振り返った全体の評価、そしてその評価を踏まえてこれから進むべき方向性は考えていらっしゃいますか? 市町村の合併に伴って、活動を牽引してきた坂田さんが異動になられたり、組織の論理のなかで変化もあるかと思うのですが。
坂田 そうですね……わたしは7月からこの関係からは離れてしまってますからね。
―― 今年の7月から本所に?
坂田 異動しました。いまはもうアニメのアの字もないような仕事です。ただ、本所の立場としましては、各支所の特色ある取り組みは支援していきますので(笑)
―― (笑)
松本 とてもこなた踊りをやった人とは思えない、事務的な回答だ(笑)
―― 先ほど宿泊の話が出ましたが、鷲宮に限定せず広く見ると、じつは1つの経済圏と見なせるかもしれませんね。「らき☆すた経済圏」。
坂田 いま久喜市は約半分が元の久喜市、残り半分が鷲宮・栗橋・菖蒲の3地域です。最高意思決定者は商工会の会長なのですが、昨年のお祭りを視察して、「鷲宮はこれで行くべきだ」ということで予算が降りて、今年は商店街にスピーカーが付きました。会長がお祭り好きなのもありますが、らき☆すたの力は十分認められています。
―― (電柱の)タペストリーも毎年変えていますよね。あれも枚数がありますし、おカネが掛かりますね。
松本 タペストリーは久喜市の行政のほうの管轄になります。らき☆すたの絵を使いたいなどの相談をよく受けますね。
―― 合併後の久喜市においても、引き続き聖地として取り組みを続けていくということですね。一方でまもなく放映から10年になろうとしていて、やはりコンテンツの力が永遠に発揮されるわけではない。そこで、脱らき☆すた的な方向性は考えていらっしゃるのでしょうか?
松本 個人的には、脱らき☆すたというのは考えにくいですね。
坂田 そこで白黒ハッキリさせることもないのが、ちょうど松本がやっている野球であり、芋掘りであり……別にらき☆すたを直接出していませんよね。ラジオもそうですし。オタ婚活はまさにそう。
―― 先ほど、鷲宮でのイベントは非日常を楽しむ場と申し上げましたが、オタクの人が週末訪れて、非日常を楽しめる、オタク同士の交流も楽しめるという、なにかそういう場所になってきているのかなという感じはします。
お話を伺っていると、作品の人気がなくなったから別の作品を……ではなく、らき☆すたのときに培った人脈やノウハウが時代にあわせて上手につながっているなあと感じます。このへんを理解していないと、『うちの地域に今度アニメが来るから、これで行けるぞ』みたいに思っている地域は、そのアニメの人気がなくなった時点で盛り上がりも消えてしまう、なんてことになりかねないのかあ、と。
坂田 10年間見ていて、収支としてプラスだったのかというのは疑問ですよね(笑) 経済効果は別にして。イベントの運営費用と、近辺含めた商店などの売上を比べたときに、おそらく商工会としてはマイナスだよねと。
―― (笑)
坂田 だから、収益を過度に期待してはいけないのではと思います。損しなければいいかな、くらいで。あとは各商店が、何もしなければゼロだったところを、5%でも10%でも増えたならばそれで商工会の立場としては良しなのかなと。
―― 地元産業とのシナジーはいかがでしょうか?
坂田 初期は一生懸命グッズを考えていましたが、なるべく久喜・鷲宮のみではなく、近隣の有名どころまで拡げて作っていました。藍染めの携帯袋とか、ストラップも春日部が桐箪笥で有名なので桐製に。なるべく関連づけていましたね。
―― それはいまも引き続き?
松本 県内・市内の企業さんが関わっているなど、どこかしら地域とつながっている感は意識しています。
“わかっている人間”が舵を握るべき
―― 商工会だけでなく、観光協会や市の関係者たちが定期的に集まって、情報交換やアイデアを出していくといったことは?
松本 それはしていませんね。
坂田 行政・観光協会とは並んでいません。並ぶとダメです。
―― お、なるほど。調整、調整になっちゃうと。
坂田 らき☆すたに関しては、一部のある程度知った人間が考えていかないと、版元のスピードに絶対ついていけません。意思決定の速さが違いますから。
―― もともと伝統的なお祭りがあって、その日程にあわせて動かなくてはいけないという〆切が明確に設定されていますし、やはりこれまでの実績を下回ると寂しいから、がんばらなきゃ……というのはありますよね?
松本 今年はこういうことをやったから、来年はそれ以上にと、たしかに思います。ちょっと意外なところを突きたいとか。そのぶん産みの苦しみもありますけれど、やり甲斐もあります。
―― いま様々な地域が聖地として名乗りを上げています。先ほど地元のお店でお話を伺ったときも、大洗に行ったというお客さんがおられたとのことでした。そこに競争はあるのでしょうか? 各地域が色んな取り組みを進めていますが、ライバル意識や危機感があるのか、あるいはそうではないのか? 老舗、レジェンドでもある鷲宮としてはいかがでしょう。
松本 わたしはアニメツーリズム協会が立ち上がって、聖地を88か所選定するというのは、とってもプラスだなあと思っています。そういった場所がいっぱいあるほうが、特に地方都市には良いのではと思っています。ぽつんと1つだけ在るよりも、いくつかまとまっていたほうが、『じゃあそっちにも行こうかな』となりますし、PRもしやすいですよね。
鷲宮は「何もなかった」から自由にできた
―― ずばり鷲宮の「我々はこうだ!」という特色があれば。
松本 特色……。何もないのが特色じゃないですかね(笑)
―― (笑)
坂田 大洗さんと比較すると、あちらは海があって観光施設もあります。鷲宮はそれがないなかで、それでも訪れる人たちがいるというのが特色。そこがマイナスであり、意外とプラスなのかなと。
―― なるほどですね。何もないからこそ、何でもできる、という感じですか。
松本 意識せず自由な発想でできるかなと。
坂田 各地に聖地が生まれていますが、ホントに2人とも他所と争うとか、負けてられないとか、まったくないんですよ。
―― 広域連携になれば、自分のところがターゲットになっていなくても、近くならば寄ってくれるかもしれませんからね。
松本 鷲宮に宿泊施設がないということは、隣の地域に良い影響を出せているのでは。ライバルにするよりも、手を組んだほうが良いでしょう。
坂田 いま埼玉県が秩父・川越・入間・鷲宮を対象としたスタンプラリーを開催しています(取材時)。その打ち合わせの際に提案したのが、鷲宮で何ヵ所か回ってらき☆すたグッズをもらうのではなく、地域をぐるっと一周してもらえるように、グッズと聖地を紐づけしないほうがいいのではと。そのほうが結果的に相互乗り入れになるので、各地域に興味を持ってもらえるきっかけになると思うので。
―― 最後に、「これからウチにもアニメ作品を呼んできて盛り上げるぞ!」と考えている地域があったとして、先進地域としてアドバイスはありますか?
坂田 偉い人は黙っていろ、ということじゃないでしょうか(笑)
松本 すごくわかりやすいひと言(笑)
坂田 たとえば商工会の場合、(アニメの聖地になったとしても)いままでの売上や地域イベントのみの経験から可否を判断されてしまうでしょう。ですから、その組織内でアニメに興味がある若い人の意見を尊重して、おカネだけ出してあげるというのが一番良いと思うんですよ。
我々が好きにやれたのは、当時の会長が「好きにやれ」と言ってくれたからなので。
―― 盛り上がり始めた頃の記事を読むと、当時の会長さんは“わからない”“らき☆すたは読んでない”けれども、“ファンが好きならそれで良い”と仰っています。この姿勢は良いなと思いました。
坂田 有り難いですね。
松本 担当者の目線で言いますと、仕事だと思ったら結構キツいです。たとえばイベント事は基本、土日開催ですよね。そのときに『これ休日出勤手当は出るのかな』と考え出した途端、企画自体を止めたり先延ばしにしたくなりますよね。まずは自分が楽しめる人じゃないと難しいとは思います。
もしくは担当者のやる気を起こさせるような環境ですね。もしかすると先ほどの「上司は口出すな」につながるのかもしれません。自由にやらせる部分も必要だと思います。
〈前編はこちら〉
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