煙幕でPCケース内のエアフローを可視化した

文●林 佑樹(@necamax) 編集●北村

2016年08月23日 12時00分

PCケース内のエアフローは、フロントに吸気ファン、リアに排気ファンが基本だ。筆者、および編集部員は、はじめての自作の際に「そういうものだ」と認識しており、具体的になぜなかのかは、あまり考えたことがなかった。

なんとなーく、各パーツの温度で判断しているエアフローを可視化してみようというわけだ

ちゃんと吸気するファンがあって、排気ファンが動いていれば、ケース内の空気はスムーズに抜けていき、ちゃんと熱が奪われていく。とはいえ、エントツ排気もあれば、CPUクーラーにはサイドフローとトップフローがある。

そこで今回の特集では、おさらいも兼ねてエアフローを可視化してみよう。基本を見直すことで冷却へのアプローチが変化するかもしれないし、発見があるかもしれないからだ。逆に可視化しても主立った発見がなくても、それはそれでこれまでの方法が正解だったわけなので、いずれにせよ知見になる。

スモークで可視化

まず、お手軽な可視化方法を考えた際に、スモークマシンが真っ先に浮かんだ。しかし、ライブなどで使用されるスモークマシンを編集部で使用すると、報知器が反応しそうなので、編集・北村が電子タバコの発展系のガジェットを開発。当人いわく、簡易煙幕装置(人力)とのことだ。

また蒸気であるため、空気よりも重い問題はあるのだが、テストの結果、エアフローを確認できたため、今回は、簡易煙幕装置(人力)を採用した。

簡易煙幕装置(人力)。編集・北村が動力源で、とてもエコなシステム。ただし、一定サイクルでの休憩が必要になる

さて、ケースはCoolerMaster「Silencio 352」を採用した。可視化の関係上、側面にはアクリルパネルを置いて側面カバーを取り付けた状態を再現し、あとはそのままにして、フロントファンやリアファンを停止させるなどして、エアフローの変化を見ていく。またビデオカードの有り無しでの変化もチェックすることにした。

側板パネルの代わりにアクリル板を使用した

録画はiPhone 6s Plusのスロー撮影

テスト環境
CPU Intel「Core i5-6500」(3.2GHz)
CPUクーラー CoolerMaster「Hyper 212 EVO」
マザーボード ASUS「H170M PLUS」(Intel H170 Express)
メモリー Panram「W4U2133PS-8G」 (DDR4-2133 8GB×2)
ビデオカード GeForce GTX 960 リファレンスカード
システムSSD Kingston「HyperX Savage SSD」(480GB)
電源ユニット 玄人志向「KRPW-L5-500W/80+」(500W)
PCケース CoolerMaster「Silencio 352」

CPUはIntel「Core i5-6500」

CPUクーラーはサイドフロー型のCoolerMaster「Hyper 212 EVO」を採用した

PCケースはCoolerMasterのMicro ATXケース「Silencio 352」で検証した

ASUS製Micro ATXマザー「H170M PLUS」を使用

メモリーはPanram製DDR4-2133 8GB×2の「W4U2133PS-8G」

電源は玄人志向の80PLUS 500Wの「KRPW-L5-500W/80+」

システムSSDとしてKingstonの480GB「HyperX Savage SSD」を搭載した

まずはサイドフロー型のクーラーをセットした状態で、フロントとリアにファンを1基ずつ設置した状態を見てみよう。フロントから吸気された空気は、サイドフロークーラーに吸い込まれていき、また一部はPCI Expressスロットのライン上を進んでいく。よくある脳内イメージと一致している。なお起動状況は動画を見てもわかるように、UEFIが起動している状態だ。

フロント、リア、CPUクーラーが動作している状態のもの

天板のフタを外した状態


いわゆるエントツ効果を得られるものだが、蒸気の動きに大きな変化はない。ただ温度の高い空気は上昇するため、より発熱の激しい構成だと変化が起きると思われる

以上が基本的な状態の計測結果になる。次にビデオカードを接続した場合が、よりエアフローを気にする層が多いだろうということで、GeForce GTX 960をセットした。オリジナルファンではなく、リファレンスデザインのものだ。

GeForce GTX 960

ビデオカードを加えた状態


UEFIでの起動レベルだと、GPUファンの影響は皆無なのだが、CPU側とGPU側に空気が流れる構造が確保されている。

天板のフタを外して、ファンを追加した状態のもの


この場合はちゃんと天板からも排気されているとわかる。編集とふたりで、天板のファンってないほうがやっぱりエアフローは安定するよねと話し込むイベントも起きた。

フロントファンを止めてみた場合は、空気は確かに動いているが、3.5インチシャドウベイ付近に長く停滞し、冷却性能が損なわれていると判断できた。

その逆の場合はサイドフロークーラーが引っぱる形で空気が動いているのを確認できたが、蒸気が拡散してしまう関係で、その後の挙動は目視できず。自然排気されていたとすると、CPUソケット周辺のコンデンサ部分に熱が溜まりがちだろうと想像できる。

そのため、最低でもリアとフロントにはファンが必要と、これまで通りの方法が正解と判断していい。

フロントと天板のファンを停止させた状態


思いっきり、3.5インチシャドウベイで煙が停滞しているだけでなく、PCI Expressスロット側にも空気が送られていない。

天板とリアのファンを止めた状態


今度は5インチベイ周辺に煙が溜まるところを確認できた。

では、CPUファンを止めた場合はどうなるのだろうか。TDPの低いCPUを使用する場合、ファンレスにしたくなるものなので、それもテストしてみた。

フロントとリアのファンを動かしている場合と大差がなかったため、TDPによっては、やはりCPUクーラーはなくてもOKといった判断になる。ただしっかりと吸排気が実現するように密閉性を高めていることが前提になるだろう。

CPUファンを停止させた状態


スモークの動きは緩やかだが、エアフローはCPUファンを動作させているときと変わりはない。

トップフローの場合も同じ

冷却重点のCPUクーラーの多くはサイドフローだが、トップフローはCPUソケット周辺も冷やせるため、気になる人もいるだろう。

傾向としては、サイドフロー時と大きな変化は見つからなかった。リテールクーラーを使用しているが、大型のトップフロークーラーの場合でも同様と思われる。ただ高速回転時になるとまた状況はかわりそうなので、今後の課題としておきたい。

リファレンスのクーラーをセットした状態


基本的なエアフローになっている。

ビデオカードを追加した状態


少し変化が見られ、サイドフロー型クーラー時よりも、下側に空気が流れやすくなっている。トップフロー型クーラーを選び、かつビデオカードを使用する場合は、側面パネルにCPUクーラー用の吸気スリットのあるケースが最適と再確認できた。

フロントファンを停止させた状態


やはり空気が溜まる。サイドフロー型クーラーのときよりも盛大に溜まってしまった。

エアフローの考え方はこれまで通りでOK

ローコストで可視化してみたところ、エアフローへの取り組みは、いままで通りでOKと再確認できるものばかりだった。静音路線にしても、爆音冷却路線にしても、これまでの経験から得た脳内エアフローと大きな差はないという人が多いのではないだろうか。

予想外だったのは、フロントファンを停止させている場合の空気の溜まりっぷりになる。SSDのみであれば問題ない可能性もあるが、HDDの場合では温度のキープが難しくなるため、低速タイプのものでもいいので、フロントファンを用意すべきだろう。

さて、次回は第1回での再確認をもとに、ファンはどのタイプがいいのかを検証してみよう。

【機材協力】

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