iPadアプリで可能性が広がる、筑波大学と附属桐が丘特別支援学校の共同プロジェクト

文●吉田ヒロ

2016年03月14日 15時30分

 Apple Store銀座で3月13日、「TEACHER'S NIGHT:iPadが変える学び『コラボレーションと問題解決』」というイベントが開催された。筑波大学附属桐が丘特別支援学校で学ぶ生徒向けのiPadアプリを、筑波大学の学生が開発するという取り組みだ。最初に登壇したのは、筑波大学附属桐が丘特別支援学校の教諭である白石利夫氏。

筑波大学附属桐が丘特別支援学校の白石利夫教諭

特別支援学校の生徒が授業を受ける際の問題点

 まず、特別支援学校の生徒が授業を受ける際に、難しさを感じているポイントについての解説があった。教科書などの書籍のページをめくるという動作では、ページが閉じてしまわないように、ページの一部を指で押さえながら、別の指でページをめくるという操作が困難とのこと。また、答案用紙の枠内に文字を書くことや、書いた文字を生徒自身があとから判別するのが難しいというケースもある。さらに、多くの教科書や副教材、プリント用紙などを一緒に持ち運べないという生徒もいる。

 白石氏によると、これらを解決するデバイスとしてiPadを導入したとのこと。iPadに教科書のデータを取り込めば本を押さえることなく指先のフリックだけでページめくりが可能になるほか、iPadが教科書になるので荷物も減るとのこと。iPadの導入により、スタイラスでiPadに文字を書き、それを縮小して答案用紙などの枠内に収める生徒もいるとのこと。また、iOSに「アクセシビリティ」と呼ばれる機能が備わっていることで、手の可動域が狭い生徒でもホームボタンを画面上の好きな場所におけるので、操作の難易度が下がるとのこと。

iOSにはアクセシビリティの機能が備わっており、「設定」アプリの「一般」→「アクセシビリティ」→「AssistiveTouch」をオンにすることで、iPhoneやiPadの画面上に常時表示されるホームボタンなどを配置できる

 ちなみに生徒が使っているiPadは、それぞれで異なるそうだ。iPad Proを使いこなしている生徒もいるが、画面が大きいと操作が難しい生徒もおり、各自の操作スタイルに合わせてiPad AirやiPad miniも活用されている。白石氏の解説のあと特別支援学校の生徒が登壇し、iPadを導入したことによる変化を解説した。

iPadの導入によって変わったポイントを生徒自らがプレゼン

筑波大学附属桐が丘特別支援学校の生徒から直接の発表があった Apple Store, Ginza (c) Kensuke Tomuro

 まずは教科書の扱い。iPadの導入によって教科書をめくりながらノートを取るという作業が簡単になったとのこと。また、iPadの画面をAirPlay機能によってApple TV経由で液晶ディスプレーに映し出し、iPad上のノートを見せながら発言できるように改善。言葉を話しにくい生徒でも積極的に発言できる環境が整った。さらに体を休めるために、一日数時間は横になった状態で授業を受ける必要があったが、iPadの導入によってこの状態でも教科書を見やすくなったそうだ。ちなみに、iPadは視野角の広いIPS液晶を搭載しているので、横になった状態で斜めから画面を見ても色の反転や階調のつぶれなどが起きにくい。

 iPadの導入で授業を受ける環境は改善されたものの、ネックだったのがiPad用アプリ。iPhoneよりも画面が広いiPadであっても、ソフトウェアキーボードや一般的なアプリはキー同士の配置が近いために押し間違いが発生するほか、文字の拡大はその文字を長押ししてルーペを表示する必要があり、操作が難しかったそうだ。この悩みを解決するために、筑波大学 情報学群 情報科学類の学生とのiPadアプリの共同開発が始まった。

筑波大学情報科学類と特別支援学校の共同プロジェクト

 次に、筑波大学情報科学類の教授である櫻井鉄也氏が登壇し、その取り組みを解説。

筑波大学 情報科学類の教授である櫻井鉄也氏

 櫻井氏は1980年代にMacintosh Plusでプログラミングをしていた古くからのMacユーザー。具体的には、数式をグラフで見せることで視覚的に理解できるように「MathGUIde」と呼ばれるアプリを開発していたとのこと。現在、筑波大学の情報科学類には計140台のMacが導入されており、学生がプログラミング学習などに使っているという。

 白石氏が教諭を務める桐が丘特別支援学校の生徒からの「数式を入力したい」というニーズに、櫻井氏が教授を務める情報科学類の学生が応えるカタチで開発が始まったそうだ。

フィードバックによる改良で進化した数式入力アプリ「iPolyFactor」

 具体的なアプリ開発の過程については、筑波大学 情報科学類の学生と特別支援学校の生徒が解説した。

筑波大学 情報科学類の三浦さん(写真中央右)と桐が丘特別支援学校の北熊さん(写真右) Apple Store, Ginza (c) Kensuke Tomuro

 筑波大学 情報科学類では、桐が丘特別支援学校とのアプリの共同開発「COINS-Project AID」や、筑波大学の公式アプリ「iTsukuba」などのモバイルアプリの開発、学内向けの勉強会などを実施しているとのこと。COINS-Project AIDでのアプリ開発は、桐が丘特別支援学校の生徒からのニーズや筑波大学の学生のひらめきを基にアプリを開発→桐が丘特別支援学校の生徒が開発したアプリを使って改善点をフィードバック→フィードバックを基にアプリを改善→App Storeで全世界に公開——という流れだそうだ。

 実例として紹介されたのは「iPolyFactor」という数式入力アプリ。生徒からの、ボタンが小さすぎたり、大きすぎたりして操作しづらいというフィードバックを受け、ボタンの大きさを可変にして使いやすい大きさに変えられるようにしたとのこと。左ききの生徒のために、操作部と表示部を入れ替えられる機能も追加。

生徒の要望から生まれた「Planner」

 次に紹介されたのは「Planner」と呼ばれるスケジュール管理アプリ。書字やスケジュール管理が苦手な生徒が、iPadを使うことでさまざまな問題を解決した興味深い事例だ。

 書字が苦手で時間がかかるため、これまでは母親に表の作成を依頼→学習が終わったら母親にマスを塗りつぶしてもらって終了したことを記録——というやり方でスケジュールを管理していたそうだ。こういった計画表がないと、勉強する教科が偏ってしまうので頭の中を整理するためには必要だが、できれば自分でスケジュールを管理したい。Plannerは、こういった生徒の要望の応えた。

 Plannerでは、スケジュールのタイトルや科目名や科目数を入力しておけば、科目ごとに進み具合を一覧で把握できる。シンプルなインターフェースだが、データ入力後のチェックが簡単なのが特徴だ。

 課題も残っている。生徒からは、文字をもっと簡単に入力する方法やと音声入力の機能向上という要望があった。

キー入力方法や音声認識などiOS側の課題も浮き彫りに

 この筑波大学の学生と特別支援学校の生徒のiPadアプリを共同開発するという取り組みについての感想は、別の生徒が登壇して解説。学生、生徒の双方のモチベーションアップにつながったそうだ。

 文字入力や音声認識機能については、特別支援学校の別の生徒からも熱い要望があった。まず、iPhoneをiPadのキーボードにできるようにしてほしいという要望。教諭の白石氏によると、ソフトウェアキーボードがiPadの画面の下に表示されてしまうと、自分の手や首の可動域ではその上に入力された文字が見えづらい、ボタンが押しにくいといった生徒がいるとのこと。iPadのソフトウェアキーボードよりも外付けキーボードのほうが文字入力は簡単だが、荷物が増えるというデメリットがある。この要望については、アクセシビリティ機能の1つとしてアップルに標準搭載してほしいところだ。

Apple Store, Ginza (c) Kensuke Tomuro

 次に、構音障がいがあるとiPadの音声認識やSiriに話かけても「すみません、うまく聞き取れませんでした。」と返されてしまうことを、自らの体験を交えて紹介。iPadに搭載されている音声認識機能では、構音障がい者の音声は正しく認識されないことが多い。こちらも、ビックデータを活用して話すスピードや発音のクセの解析能力を高めれば解決できる問題かもしれない。

共同プロジェクト発足から3年、アプリ開発の道に進む生徒も登場

 筑波大学の学生と特別支援学校の生徒とのiPadアプリ開発プロジェクトが始まって3年。学生も生徒も卒業や就職などで代替わりするため常に同じメンバーが活動しているわけではないが、プログラミングの仕事に就きたい学生や、障がい者が使いやすいアプリの開発を勉強したい生徒も出てきているそうだ。実際にこの3月で特別支援学校を卒業する生徒の中には、プログラミング勉強のために理系の大学に進学する人もいるという。

Apple Store, Ginza (c) Kensuke Tomuro

■関連サイト

■筑波大学 情報学群 情報科学類が開発したアプリ

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