Vivaldiの日本人COO様、なぜ今さらブラウザー業界に参入ですか!?
文●雨宮 徹 編集●飯島恵里子/ASCII.jp
2015年06月04日 09時00分
もはや「新規参入するメリットがどこにあるのか!?」というほど成熟した感のあるブラウザー業界。しかし今年1月、突如「Vivaldi」(ヴィヴァルディ)というブラウザーがデビューした。Vivaldiは、ブラウザー「Opera」(オペラ)を世に送り出したJón Stephenson von Tetzchner(ヨン・スティーブンソン・フォン・テッツナー)氏をはじめ、かつてOpera Softwareに参画していたスタッフが中心となって開発されている製品だ。
Vivaldiを開発するVivaldi Technologiesの共同創設者であり、COOを務める冨田龍起氏になぜこの時代にあえてブラウザー業界に参入するのか、また勝算がどこにあるのかを聞いた。
なおOperaは2013年リリースのバージョン15からレンダリングエンジンおよび開発方針が変わり、Webkitを採用した。そのため1000万人に上るコアなファンはいまだにバージョン12を使い続けているという特異な状況にあるブラウザーだ(バージョン13と14は欠番)。またOperaを開発するOpera Softwareの創業者でもあるテッツナー氏も、2011年に同社を去っている。
パワーユーザーを対象に利便性を徹底追求
──そもそもなぜブラウザー業界に参入したのでしょう。
Vivaldi Technologiesは私ともう一人、CEOをやっているテッツナーの二人で立ち上げた会社です。私もOpera Softwareに勤めていたのでテッツナーとは10数年来の付き合いなのですが、二人でビールを飲みながら、また一緒に「本当に自分たちが使いたいブラウザーを作ろう」という話になり、自然と創業してしまったというか……(笑)。
私の中でテッツナーの影響は大きくて、Opera時代もビジョナリーでもある彼がやりたいことをビジネス的に推し進めるのが私の役割だったんです。
──つまりOperaブラウザーを含めて、現在のブラウザーには満足していないのですね。
Vivaldiは、製品開発の思想とそれに伴う具体的な機能の面で、他のブラウザーとは大きく異なる点があります。それは、徹底してパワーユーザーを対象としており、インターネットのヘビーユーザーの利便性をいかに向上できるのかという点です。
「Safari」であれ「Chrome」であれ、昨今のブラウザーはユーザーインターフェースの簡素化が進み、みんなウェブページを表示するだけのシンプルなウィンドーになっている傾向があります。Operaもバージョン12まではユーザーにコントロールを与える、ユーザーがカスタマイズして自分の好きなようなユーザーエクスペリエンスを構築できるというコンセプトだったのですが、2013年のバージョン15以降変わってしまいました。
例えば、パワーユーザーの中には全てをキーボードで操作したいというニーズがあって、Vivaldiにはカスタマイズ可能なキーボードショートカットに加えて、「クイックコマンド」という機能もあります。これは、キーワード入力やカーソル操作でさまざまなコマンドを実行するものです。開いているタブやウィンドー、履歴、ブックマークなども検索対象になるので、表示ページの切り替えも簡単なキーボード操作だけで実現できます。まだテクニカルプレビュー版なので実装していませんが、製品版でここにマクロを登録できるようになれば、ヘビーユーザーはもっと自分に合った操作環境を構築できるでしょう。
一方で、ヘビーユーザーといえどもマウスだけで操作したいときもあります。そうしたニーズにも応えて、マウスジェスチャーも実装しています。もっとも現在は、まだMacのトラックパッド特有の操作には対応していないのですが……。
(次ページ「パワーユーザーが主体で、ライトユーザーは二の次?」へ続く)
──パワーユーザーが主体で開発すると、ライトユーザーは二の次になりませんか?
動作速度を含めて、ヘビーユーザーに向けて注力した点が結果的にライトユーザー向きになっていることは多々あると思います。
われわれがある機能を実装するときに、それは一般のユーザーには必要ないのではないかという視点はありません。パワーユーザーが必要だったら、その機能は実装しよう、と。ただ、ブラウザーを起動したときにボタンがいっぱいあって訳がわからないとパワーユーザーにとっても使い勝手は悪い。ユーザーインターフェースの作り込みという点には力を入れています。
そういえば、Vivaldiは表示ページによってユーザーインターフェースの色が変わるんですよね。例えばTwitterに行くと水色になります。これはウェブページのCSSからキーカラーを解析して色を変えているのですが、これが意外なところで結構ウケているんですよ。「コスモポリタン」のサイトに行くとピンクになるので、編集部の方がこれがいいと記事にしてくださって(笑)。
──Opera Softwareに在籍されていた時期と現在では、パワーユーザーが求めるモノに変化はありますか?
いやぁ、あまり変わっているとは思いませんね。もちろん外的要因による変化はあって、例えばデスクトップは4K、5Kと解像度が上がりディスプレーも大型化しています。そうしたニーズに応える必要はあると思います。パワーユーザーは最先端ハードウェアの導入率も高いので。
ウェブサイトの開発者はそんな大型モニターのことを考えて設計しているわけではないので、ユーザーエクスペリエンスを担うのはブラウザーの役割です。その点Vivaldiでは、ひとつのウィンドーにサイド・バイ・サイドやグリッドといった分割で、複数のウェブページを表示できます。大きなモニターを使っているときにはとても便利な機能でしょう。
──なるほど。Vivaldiがパワーユーザーのニーズに真摯に応えていることは理解できました。しかし、ちょっと使っただけでは伝わりにくい気がします。
今後はもっともっと積極的にコミュニケーションを図っていくつもりです。記者に対して積極的に説明する機会を設けるのはもちろんですが、WikiやFAQといったものもユーザーコミュニティーの方々の協力を仰いでもっと充実させていきたいと思います。
またもう1点、インストールしたときに「あ、またこれもChromeの亜流なのか」と見た目で思われるとそれ以上に進まないので、ビジュアルで個性を出すことにも気を遣っています。機能がたくさんあるからといってボタンを並べすぎるとビジュアル的に引かれてしまいますし、ボタンにはない機能の存在をにおわせるヒントをちりばめるデザインの作り込みも大切にしています。
(次ページ「目的をもって使う人にこそ、Vivaldiの価値が出る」へ続く)
──今後Vivaldiのユーザーが増え、ビジネスとして大きな存在になってもこの考えは変わりませんか?
株式公開以降にはいろいろなプレッシャーが生じて、そこからブレが出てきてしまうことがあります。Vivaldi Technologiesが大きくなったときもできればIPOをしないで、パワーユーザーに向けにVivaldiを開発して、自分たちが本当によいと思い、ユーザーから支持を受けられる製品を作り続けられる会社運営をできればいいなと思っています。
──Vivaldiという名前はやはり、バロック音楽を代表するアントニオ・ヴィヴァルディにちなんでいるのでしょうか。
名前を考えているときには、世界中どこに行ってもみんなが知っている名前にしようというコンセプトがあったんです。Vivaldiなら世界中で知名度がありますし、われわれがやろうとしている革新性という意味でもマッチしています。当時ヴィヴァルディの音楽は非常に革新的で、今のわれわれにとってはクラシック──それってなんかいいなぁ、と。結果1カ月以上いろいろ考えてテッツナーが見つけたVivaldiに落ち着いたのですが、僕が考えた名前は全く通りませんでしたねぇ(笑)。
目的をもって使う人にこそ、Vivaldiの価値が出る
何となくVivaldiをダウンロードして少し使ってみても、正直なところ、魅力がきちんと伝わるとは思えない。それは、Vivaldiがあくまでパワーユーザーの求めるカスタマイズ性を重視したブラウザーであって、何となく使うものではないからだ。例えばレンダリングが少し速いからといって、一般ユーサーがわざわざブラウザーを乗り換えたりするだろうか。
一方でブラウザーに対して「もっとこうだったらいいのに!!」という明確な欲求のある人は、Vivaldiに注目してもらいたい。まだテクニカルプレビュー版なので詰めが甘いところもあるが、Vivaldiの目指すところはそうしたニーズに応えたブラウザー作りにある。Vivaldiは使い込めば込むほど味の出る、まるでスルメのようなブラウザーなのだ。
Vivaldi COO, Co-founder 冨田 龍起氏
中部電力退社後、2001年にノルウェーのオスロでOpera Softwareに参画。経営メンバーとして、OperaのIPO、日本を含むアジア各国、北米での現地法人立ち上げやジョイントベンチャー設立、M&Aなどの業務に携わる。2014年、Vivaldiを共同創業者として立ち上げ、現在はCOOとして、戦略立案、パートナーシップ、マーケティング全般を担当。シリコンバレー在住。北海道大学経済学部卒業、UC Berkeley Haas School of Business MBA for Executive在籍。
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