麻倉怜士推薦、絶対に失敗しないハイレゾ機器はこれだ

文●ASCII.jp、語り●麻倉怜士

2015年03月30日 09時00分

具体的な製品を見ていきましょう。私自身が使っている注目のUSB DACと、ネットワークプレーヤーをお教えします。

●KORG DAC-100

USB DACに関してはコルグの製品が素晴らしいと思います。「DAC-10」から始まっていまは「DAC-100」になっています。コルグはDSDの開拓者でもあり、非常に造詣が深いメーカーです。DSDの元は早稲田大学の山崎芳男教授が開発した1bit方式なのですが、その教え子がコルグに入り、電子楽器に1bitの音を入れようと考えたのがきっかけだそうです。

DSDの制作環境には編集ができないという問題があって、大規模な作品が作れない理由になっています。そんなDSDの世界でコルグは奮闘しています。Clarityといコルグが開発した録音処理をする機械があって、そこで培った造詣がとても深いのです。一昨年前に出たDAC-10は5.6MHzのDSDに対応する非常に少ない機種のひとつだったのですが、いい音でした。ワイドレンジで、音の芯がしっかりとしていて、力感があって、透明感がある。リニアPCMもDSDも情報量が多く、音楽的ボキャブラリーが多いDACです。

なぜこんな音が出せるのだろうと考えて、ふと思い当たったのは、コルグが音源を作る会社だからだという点です。電機メーカーの作る機器は、音の再現性という論理1点に絞られてしまいます。しかし、コルグは楽器を作り、そこにアーティストが加わり、音を発していく会社なのです。つまり音の入り口と出口の両方を知っている会社だから、作るDACも一味も二味も違ってくる。バスパワーでシンプルに使える。

●CHORD Hugo

次に紹介するのがCHORDの「Hugo」という製品です。価格は若干高めで25万円ぐらいです。ポータブルで使え、ヘッドホンアンプも兼ねたUSB DACです。この音は素晴らしいの一言ですね。据え置きのDACでもなかなかここまでの音は出ない。音楽の実体感がとても濃いのです。単にファイルを再生し、その情報をアナログに変えるだけではなく、なにか場の雰囲気の濃密さとか、音楽の思いの厚さとか、音楽的なボキャブラリーをより強く出す機器だなと。ファイルにはもともとそういう思いで演奏した楽曲が入っているのです。

表面的な音を出すだけではなく、音の背景にある思想とか、思いとか、熱意とか、こだわりまで再現してくれる気がします。CHORDはイギリスのオーディオ専門メーカーで、ハイエンドが強く、100万円近いDACも出しています。Hugoは初めてのポータブル機なんですが、これまでの伝統を活かし、彼らが作ってきた音のこだわりが入っています。

CHORDには天才的なアルゴリズム開発者がいて、HugoのDACも彼が書いたソフトウェアで動いています。一般的なUSB DACではバーブラウンやESS Technologyなど専業のメーカーが作ったチップを使い、その仕様に沿って設計をします。いわばありものを組み合わせているだけです。HugoではFPGAというプログラムを組んで動作を自在に変えられるLSIを使いはるかに高い性能のDACを作っています。これは実に稀有な例です。

聞いてみると、音のエネルギー感とか、音の粒立ちの細やかさとかそういうのがあり、どこのDACを聞いても得られないような感動が得られるな、と。バッテリー内蔵でヘッドホンアンプとしても使える機種ですが、しっかりとしたRCAの端子もついています。

●exaSound E22

もうひとつは2010年に設立されたカナダのexaSound Audio Designの「E22」という機種。これもちょっと高くて約40万円なのですが、抜群に音がいいですね。ひとつの売りはDSD 11.2MHzの再生が可能である点です。そして音の澄んだ感じというか、透明感がものすごいなと思います。

exaSoundは面白い会社で、DAC ICはESS Technologyの最上位品を使っていますが、ソフトはすべて自社開発なのです。ASIOのソフトウェアまで自社開発しているハードメーカーは珍しい。たいていのメーカーは外部のソフトウェア会社の製品をカスタマイズもしくはそのまま買っているのですが、インターフェースから自社で開発して良いものを届けようとしています。またUSB接続時のノイズを特別に低減する回路も入れています。その結果、音の出方が素晴らしいわけです。

●EXOGAL・Comet Computer DAC

続いて紹介するのはEXOGALの『Comet Computer DAC』という製品。2013年に設立された、アメリカのデジタルオーディオ機器メーカーEXOGALの第一弾製品です。要するに、音声データをデジタル信号からアナログ信号へと変換する製品ですが、ベテランエンジニアが手掛けると同じ音源でも細部の音のヒダまで感じられるような音質になるのです。雄大さと繊細さがうまくバランスした音楽性の高い音で、高級機らしい風格も聴けます。

●Olasonic NANO-UA1a

もう少し手軽な機種として、最近聞いて関心したのがOlasonicのNANOCOMPOシリーズ最新機種「NANO-UA1a」です。

中央の下側がNANO-UA1a。Mariageと呼ばれるスピーカーやCDプレーヤーをセットにしたシリーズも展開している。写真はそのセット。

アンプ付きでとても導入しやすい。後は小さいスピーカー1台とパソコンがあればいいだけです。PCMは192kHz、DSDも5.6MHzまで対応しています。音も透明感や立ち上がりなどなかなか良いです。USB DACとしても使えますが、ELACの「BS263」などしゃれたスピーカーを横に置いてとても音の良いシステムが作れるなと感じました。

●LINN Majik DSM

ネットワークプレーヤーのおすすめはやっぱりLINN製品ですね。

LINNは本当に音が素晴らしいんです。ラインアップは松竹梅で展開していて、一番高い300万円近辺のクラスが「Klimax」、100万円近辺に「Akurate」、50万円近辺に「Majik」というシリーズがあります。上位2つは高額ですが、最後の「Majik DSM」はプリメインアンプの機能も内蔵していて、意外にお得じゃないかと思います。

プリメインアンプに25万円、ネットワークプレーヤーに25万円と考えれば、納得もいきますし、もちろん高品質です。LINNのサウンドは音楽的な素養を感じさせるというか、MajikでもLINNの得意なハイエンド領域の香り、芳醇でありつつ清潔な音がします。これがLINNの良さです。

実はLINNのDSシリーズには3つの流れがあります。アンプなしの純粋なネットワークプレーヤーが「Majik DS」、アンプ内蔵モデルが「Majik DS-I」、そして現行の「Majik DSM」。DSMにはHDMI入力があって、HDMI経由の音も相当きれいに鳴ります。だからBlu-ray Discプレーヤーで再生した、Blu-ray Audioの音をHDMI経由で聞くこともできます。ということでおすすめは「Majik DSM」ですね。

●Marantz NA8005

もうひとつ、マランツの「NA8005」も音のいいネットワーク・プレーヤーです。マランツの第3弾ですね。

最初に「NA7005」という製品があり、これはイマイチだったんですが、その後30万円台の「NA-11S1」が出て音がものすごく良くなった。さらにUSB DACの機能もついている。パソコンでの再生とネットワーク再生の両刀使いなのです。USB・DACはLINNにはない機能です。またデジタル・アイソレーションシステムという、デジタルの入力信号に含まれるノイズ成分を減らす仕組みを徹底的に追求しています。これが相当に効いていまして、ベールが3枚ぐらい剥がれたような鮮烈さ、エネルギー感、シャープな切れ味が得られます。

NA8005はこのNA-11S1のノウハウを生かしつつ、価格も10万円台前半に抑えています。USB DAC+ネットワーク再生ができて、DSD5.6MHzにも対応する。国産の20万円クラスのアンプには実力派がそろっているので、これらの機器と組み合わせれば、アンプ20万円、スピーカー20万円、そしてこれ。合計50万円前後でトータルの音のバランスの取れたシステムを作ることができることになります。

●Sfortzart DSP05

ハイエンドのネットワーク・プレーヤーでDSDの音を聞きたいということであれば、スフォルツァートがお勧めです。上は数百万、下は数十万からあるブランドですが、一番下の「DSP05」が大推薦ですね。スフォルツァートは個人会社で、実家が本社。2階がアパートで、ここで安定収入を得ています(笑)。1階が会社で立派な秘書室もあるけど、研究開発、設計、組み立て、営業、販売、発送までぜんぶ一人でやっています。

こだわりのある人で、、音楽に対する情熱と技術力をうまくコンバインして、音楽が湧き出づるような音を作りたいと思うから、全て自分でやると。トータルでやらないと自分の音が出せないという見上げた心意気ですね。

LINNが出たすぐ後に研究開発を初めて。製品は3年ほど前から出ています。最初はセパレートタイプのネットワークトランスポートというものから入って、これにD/Aコンバーターを組み合わせた2ピースで出していたのですが、現在は一体型です。いずれにせよ、音の素晴らしさでは絶品クラスですね。

以上が私の推薦ですが、市場の動向としてはアンプそのものにネットワーク機能を持ったりUSB機能を持ったりするものが増えています。音源部分だけをファイル再生にして、アンプ以後はアナログでやる。そのほうが便利だからでしょうね。

たとえばAVアンプはもう、例外なく全部ネットワーク機能があって、DSDまで対応しています。ステレオのアナログアンプでもUSB DACを内蔵している機種が増えています。面白いのは、アンプとDACを組み合わせた音作りになっているので、音のよさが結構担保できている点です。しかも値段は2台買うよりも安い。東和電子(Olasonic)のナノコンポもそうですし、オンキヨーやパイオニアの新しいアンプにもDACが入っています。

注目のトレンドはバッファローが提供する高音質NAS

面白い動向を示しているのがNAS。ITを脱却しようという流れが結構来ています。IT機器であるNASをオーディオ用に使おうとすると、どこかに無理が出ると、NASメーカー自身が気付くんですよ。バッファローがそうで、問題点が2つあった。ひとつは「音質はどうなの」という問題。もうひとつが「現実的な操作性」。

結果、登場したのがオーディオ用NASなんです。NASではなく「デジタルミュージック・ライブラリー」と称していますが。マニアのニーズを徹底的に調査しています。まずは電源。NASは電源を切らないで使うものですが、オーディオであれば電源を切るのが普通ですよね。だから、電源が切れるNASにしてほしいという声に応えました。記録媒体も15万円ぐらいのローエンド機「DELA N1Z」はハードディスク。80万円のフラッグシップ機「DELA N1A」のほうはLINNのKlimax専用でSSD搭載なんですね。

SSDは回転しないので音がいいように思われがちですが、実はそのままでは音が悪いんです。そこで関連会社でオーディオ用のカスタムSSDを作って載せています。SSDは動作中バックグラウンドで読み込みや書き込み、半導体のリフレッシュなど様々な処理をしているのですが、これが原因で性能が急に落ちたり、動作が不安定になったりすることがあるそうです。こうした変動を少なくしたSSDを使っているんですね。

比べると普通のNASに比べてみて、音の解像感とか、伸びとかが断然違いますね。おかしな話で私もデジタルだから変わらないんじゃない?」と聞いてみたけれど、振動対策をきっちりやって、いいNASを使う、いいハードディスク使って、電源もしっかりやるという、オーディオの基本中の基本をやると、違いが凄く出る。

さらにUSB DACに出せる新バージョンも出ています。これまではUSB DACとの接続は必ずパソコンからやる必要があったんですが、この製品にはHDDが入っているので、その中にあるファイルをままUSB DACに送ればいいと。操作にはタブレットを使う。

このオーディオNASの可能性があるなと思ったのは、PCオーディオがパソコンがあるから難しいことです。パソコンがノイズ源になるのでその対策が大変なんです。直接つながるならその苦労が要らなくなる。PCオーディオとネットワークオーディオのいいところをまとめた感じなので、今後のハイレゾ再生のひとつの流れになるかもしれません。

もうひとつ面白い使い方は、CDプレーヤーとの接続です。最新のSACDプレーヤーにはデノンでもマランツでもヤマハでも、例外なくUSB DACの機能を持っているんですよ。CDプレーヤーだけでHDDに溜めたハイレゾライブラリーも、CDも両方聴くことができるんですね。

ハイレゾ音源自体も進化を続けている

イギリスのメリディアンオーディオが提案する、新ロスレスフォーマット「MQA」はハイレゾの進化の新しい局面です。MQAは「Master Quality Authenticated」の頭文字を取ったブランドで、「スタジオクオリティーサウンド」「利便性」「エンド・トゥー・エンド」などの意を持ちます。

すでにユニバーサル・ミュージック、ワーナー・ミュージックという欧米の二大メジャーがサポートを表明しています。MQA方式で音源ファイルをエンコード、通常のダウンロード、ストリーミングの伝送系に流すのです。購入するユーザー側としては、デコーダー付のDACが必要となります。専用デコーダーがなくとも、従来までのクオリティの音質は得られということです。わが国のハードメーカーではオンキヨー、配信企業ではe-onkyo musicがサポートを表明しています。オンキヨーはパイオニアと一体になったので、当然、パイオニアも参入するとみられます。

最近、聴覚メカニズムの研究が飛躍的に進んで、人間はどうやって音を聞き、その音がどういう信号になって脳内を伝わるかのメカニズムがわかってきたそうです。人間は20kHzまでしか聞こえないけれど、音の波形の細かい違いに関してはかなり精密に知覚できると分かった。時間軸解像度というのですが、人間はひじょうに細かい単位で波形のゆらぎを感知できるそうです。メリディアンオーディオの社長、ボブ・スチュワート氏は私にこう言いました。

「ここ10年で人が耳から聴いた音を、いかに電気信号に変換して脳が知覚するのかという聴覚メカニズムの研究が飛躍的に進歩しました。これまで分からなかったことが明白になってきました。その最大の知見は、時間軸上の認識解像度が人は圧倒的に高いということです。何と人は、約10マイクロ秒の音の到達時間の違いを知覚できるのです。これまで周波数特性やDレンジでハイレゾが論じられてきましたが、それを時間軸の観点に主眼を置くことで、革新的なハイレゾ音響が実現できるのです」

従来はサンプリングレートがどうかとか、量子化ビット数がどうかという世界だけで考えていたのだけど、もうひとつ新しい軸が加わったことになります。MQAの音はこれまで体験したことのないみずみずしさと密度感に溢れ、音楽的生命力がはちきれんばかりの勢いで、スピーカーから噴出します。いやスピーカーの存在を忘れ去るような濃密な音場になります。

ハイレゾとは、つまり「生々しい音楽体験」です。その質を上げる試みや努力は、これからも不断に続けられることでしょう。

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