劇場版とある魔術の禁書目録の舞台・エンデュミオンとは
文●林 佑樹
2013年03月15日 17時00分
何かと黒子黒子といろんな記事内にネタを多大に盛り込んできた長年の努力がついに実り、「劇場版 とある魔術の禁書目録 ―エンデュミオンの奇蹟―」の記事を担当することになったのである。
この打診を受けたときは、「やたーインデックスたんのブックエンドになったり、美琴おねえさまにビリビリされたり!」であったが、なんで筆者は見慣れない建物のロビーにいるのだろうか。
そう思いつつ「劇場版 とある魔術の禁書目録 ―エンデュミオンの奇蹟―」の前日譚でもあるPSP「とある魔術と科学の群奏活劇」をプレイしながら待っていた。
到着した編集氏は開口一番、「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」。続いて「林さん、科学大好きだし、劇中に登場するエンデュミオン、つまり宇宙エレベーターについて宇宙エレベーター協会にお話を聞いてください」であった。
宇宙エレベーター協会会長さま、
エンデュミオンは東京に建設できるんですの?
さて、「劇場版 とある魔術の禁書目録 ―エンデュミオンの奇蹟―」は、オリジナルシナリオ。そのキービジュアルの背景に注目だ。なにやら天高くそびえる物体がある。そう、それが副題である「エンデュミオン」、宇宙エレベーターだ。本作はエンデュミオンを舞台に魔術サイドと科学サイドの激闘が繰り広げられる。
PSP「とある魔術と科学の群奏活劇」から続くお話でもあり、イイ感じの群像劇が楽しい。エンデュミオンについては、初春飾利が劇中の各所で解説(とても興奮しながら)してくれるが……具体的な解説はあまりない。またASCII.jpでは何度も宇宙エレベーターを取材してきたが、まだ知名度は低いものだ。
そこで今回は、一般社団法人宇宙エレベーター協会の大野修一会長に直撃インタビュー。首都圏のど真ん中に宇宙エレベーターを建造できるのか、丸3年の建設期間は妥当なのか、中継ステーションまで最低1日で到着するクライマーの速度はあり得るのかなど、劇中の描写を大野会長にじっくりと解説していただいた。多少でも劇場版鑑賞のときの豆知識になれば幸いだ。
宇宙エレベーター「エンデュミオン」とは?
エンデュミオンは、スペースプレーン「オリンポス」のスペースデブリ事故をきっかけに建造が開始された、学園都市郊外にある宇宙エレベーター。テザー方式を採用しているようだ。
丸3年で建設され、劇中のセリフなどからの情報を元にすると、最低17基の大質量運搬クライマーは約1日で中継ステーションに到着する性能で、1基のクライマーで百数十人を運べるとされている。
また緊急用と思われる小型クライマー「リニアシャトル」も存在。こちらは安全装置を解除した状態で垂直上昇しているため、セーフティーが働いた状態では大型クライマーと同様の速度で動作するものだと思われる。
なお劇中では小型クライマーの射出シーンがあり、搭乗者が与圧服であるのは、上記の安全装置を解除しているからだろう。
さて、下のカットを見てみよう。塔のように見える物体が宇宙エレベーターの地上施設だ。クライマー1基に百数十人という可搬性能なので、根元はそれに見合った大型のターミナル構造になっている。ある一定ラインまで高度に合わせて細くなり、以降は中継ステーションまで均一の太さの柱が続くというわけだ。
また塔の柱や周辺の大半が太陽光発電ガラスで覆われており、そこから駆動電源を確保しているようだ。宇宙ステーション側にも同様に太陽光発電パネルがチラっと映る描写があったので、同様に太陽光エネルギー+αで施設を維持しているのだろう。
なお、太陽光発電ガラスはすでにシャープが“シースルー太陽電池モジュール”を発売しており、けっこう身近な技術だ。
宇宙エレベーターの構造を教えてほしいですの!
大野 「縦に長い静止衛星と考えてください。
厳密には動いていますが、地球の自転と同じ速度になる赤道上高度約3万5786kmにあるため、観測点からは静止した状態に見えるんです。気象衛星などと同様ですね。
宇宙エレベーターを建造する場合、まず静止衛星からテザーを垂らすのがいいだろうと言われています。
そうするとテザーが地上に向かって降りた分、衛星も重力で落ちていくんですね。そこで、その反対(宇宙側)にも同じ分だけ重さを加えてバランスを取ります」
下の図の通り、うんと長い静止衛星というわけですね。
YouTubeにも宇宙エレベーターのイメージビデオが宇宙エレベーター協会により投稿されている。動画では、テザーの描写に加えて、クライマーの推進力はレーザーになっている。
―― テザーって何なのでしょうか、会長さま?
大野 「紐みたいなものですね。カーボンナノチューブ……CNTって略すとかっこいいんですけど、現状ではCNT製テザーを垂らすのがいいとされています。そのテザー自体がケーブルになるので、そこをエレベーターみたいなカゴ(クライマー)で昇降して人や荷物を運搬するというのが宇宙エレベーターです」
―― CNT製テザーはすごく太いってことなんですの?
大野 「逆ですね。すごく細くて薄いものを想定しています。CNTも数千キロ垂らすと自重で切れてしまうと言われているのですが、そこはテーパー構造を用いることで解決可能と目されています。
テーパー構造とは真ん中を太く、言うなれば東京タワーを2つ、根元部分で合体させたような形で、宇宙エレベーター用のテザーに適用すると、巨大な縦長の菱形を想像していただければと。まあ、あまりにも長いのでパッと見は直線ですが。
NASAが提案しているものは、新聞紙と同じくらいの厚さで、幅が3フィート(1m弱)、そして長さが約10万kmのテザーです。この場合、最も厚いところでも数mmです。これで20t程度のクライマー(カゴ)が登れるだろうと言われています。というわけで、単なる長い紐のまま破綻しないとなると、共有結合を超えた技術がないと難しいですね」
劇中ではスペースプレーンの事故を機に建造されましたが
そもそもスペースプレーンよりも安全な乗り物なんですの?
大野 「軌道速度を出す必要がないので、そのための爆発的な加速や減速が不要ということもあり、より安全ですね」
―― デブリにぶつかる可能性も少ないんですの?
大野 「デブリがヒットする可能性はありますが、このあたりは建造時の状況次第ですね。どちらかというと、デブリが当たる、その当たったときの修理時間と宇宙エレベーターの運用時間の割合によるでしょう。9割修理で1割運転では実用的じゃありません。
しかし、新幹線でさえ毎日のように点検作業時間があることを考えれば、その比率によってはデブリが当たることを前提とした建造も妥当と思われます。そもそも軌道ステーションなどは数km単位で移動できることを前提としていますので、事前にデブリの軌道が判明すれば自ら動くことで回避できるでしょう」
エンデュミオンは東京に建造できるんですの?
大野 「アニメの学園都市のイメージモデルは西東京と聞きました。たとえば建設地を立川市役所と仮定すると、その場所は北緯35度41分27秒。宇宙エレベーターは赤道上に作るのが最善とされていますが、南北30度あたりまでは大丈夫とも言われています。
ただ赤道から外れている場合、赤道に向かって、地上を這うようにテザーが伸びていき、赤道に近づくにつれて上に登っていく形状になるので、東京周辺ではテザーは直立しないのです。
某ロボットアニメに登場する某粒子的な、現在の科学を超越したものが見つからない限り、エンデュミオンは劇中のように学園都市内で直立しません。たとえば、高度に合わせて密度が変化する物質が見つかっているとか……」
丸3年で建造できるものなんですの?
大野 「NASAの2003年のレポートによれば数年、大林組のプランですと18年かかります。キーは必要な資材をどれだけ事前に静止軌道にまで運べるか。宇宙ステーションからテザーを垂らすので、まずはステーションが必要になります。
NASAと大林組のプランでは現在のロケット技術が前提なので、原作通り、学園都市に数十年先の技術力があり、大質量を静止軌道まで運べるのであれば工期はもっと短くなるはずです。ただ、クライマーが最低17基となると、私だったら、工期にゼロを1つ足しますね」
建設の総工費はおいくらになるんですの?
大野 「大林組のプランですと10兆円。これは100トン程度のクライマーが1基の場合なので、単純にクライマーが17基あるとすれば170兆円になりますね。
もはや一国で作る規模ではなく、CERN(スイスに建設された素粒子物理学研究所。全周27kmの円形加速器がある)のように世界各国が費用を出す形になる……そうでもしないと建造できないレベルのものです」
宇宙エレベーター協会とは?
文字通り、宇宙エレベーター実現に向けて動く組織で2008年に結成。JAXA関係者から重工メーカー技術者などが個人単位で参加している。
宇宙エレベーターの周知や会議などを盛んに行なっているほか、2009年からは宇宙エレベーター技術競技会も開催している。これはバルーンから吊り下げられたテザーを小型クライマーで昇降するもので、昨年の国内大会では対地高度約700mが記録された。同競技会はクライマーの技術確立のために開かれており、主に国内外の大学研究室が参加している。
TVシリーズスタッフが再集結!
原作者全面協力の完全オリジナルストーリー
「劇場版 とある魔術の禁書目録 ―エンデュミオンの奇蹟―」は、原作者全面協力体制で贈る完全オリジナルストーリー。
ストーリー詳細はもちろんのこと、軌道エレベーターのコンセプトをはじめとした学園都市や魔術サイドの新設定、それに伴うキャラやシーンのサンプルテキストなど、鎌池和馬氏自らが原稿を書き下ろしている。
監督は錦織博氏、アニメ制作はJ.C.STAFFと、TVシリーズのスタッフ陣が再集結。
さらに劇場版では、脚本に「アクセル・ワールド」「マクロスF」の吉野弘幸氏を起用している。
■あらすじ
学園都市製宇宙エレベーター「エンデュミオン」。
その完成を目前に控えたある日、上条とインデックスは無能力(レベル0)の少女・鳴護アリサと出会う。路上ライブで素晴らしい歌声を披露していた彼女を意気投合し、放課後を楽しんでいたところ、アリサにオーディション合格の知らせが舞い込む。エンデュミオン開通キャンペーンのイメージソングに、彼女の曲が大抜擢されたのだ。そんな幸せもつかの間、魔術師を引き連れたステイルが突如襲いかかってくる。ターゲットは、アリサ。なぜ科学サイドの人間である彼女が魔術サイドに狙われるのか? 魔術サイドの強襲を受け、学園都市側は女リーダー・シャットアウラ率いる秩序維持部隊「黒鴉部隊(くろからすぶたい)」を展開する。上条とインデックス、そしてアリサを取り巻く状況が混迷を極める中、ステイルは、こういった。
「そこの彼女は、魔術サイドと科学サイドの間で戦争を引き起こしかねない」
と――。
科学と魔術、そして、歌と奇蹟が交差するとき、「エンデュミオン」を舞台に物語がはじまる――!
次回もエンデュミオンの謎に迫るですの!
エンデュミオンから中継ステーションまで1日で着くのか? クライマーがリニアで登ることは可能か? 中継ステーションで2000人規模のライブはできるのか? など、次回も引き続き宇宙エレベーター協会の大野修一会長に教えてもらうですの。
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