東大工学部で富野節が炸裂!ロボットの開発なんかやめましょう!

文●吉川大郎/アスキーネタ帳編集部

2008年06月17日 13時00分

“富野節”というのは、劇中のセリフ回しに適用される言葉であろうが、富野由悠季氏ご自身の語りが、梅雨時の土曜昼下がり、東大駒場キャンパスで炸裂した。

登壇した富野由悠季氏。ナマで展開される富野氏の話は、今我々が何に気づくべきで何を考えるべきなのか、その材料を示してくれた

6月15日、東京大学工学部にて、イベント「テクノドリームI:工学~それは夢を実現する体系」が開催された。これは、富野由悠季氏をゲストに迎え、東京大学下山勲教授(情報理工学系研究科長)と同じく東京大学の中須賀真一教授(工学系研究科・航空宇宙工学専攻/工学部・航空宇宙工学科)が鼎談を行なうというもの。後半には民間企業からの参加ということで、東洋エンジニアリングの内田正之氏、三洋電機の田端輝男氏が加わった。司会は工学部広報室の内田麻理香特任教員。

東京大学 中須賀真一教授

東京大学 下山勲教授

東洋エンジニアリングの内田正之氏

三洋電機の田端輝男氏

内田麻理香特任教員

テーマは工学の未来について。テクノドリームというイベント自体、“工学の夢を新たに描き直すイベント”と位置づけられている。富野氏がゲストということで、工学そのものの立ち位置から地球環境の話まで、大いに話題がふくらんだ。東大の教授陣もユニークな顔ぶれで、中須賀教授は手のひらサイズの人工衛星や人工知能研究で知られる人物。下山教授はITとRT(Robot Technology)を組み合わせたIRT研究機構の中心として、少子高齢化解決の産業基盤を作る拠点の運営に関わっている。民間企業のお二人も東大卒。エコやエネルギー開発の現状を紹介した。

教授陣や民間企業の方々のお話も興味深いものであったが、ここでは、富野氏の主なことばを紹介し、そのメッセージをお伝えしたい。主に工学部の学生向けに話された内容ではあるが、メッセージに込められた意義は、工学という科学の一ジャンルから発して広く普遍的なものとなっていて、おそらくは関係のない人はいないであろうものだった。キャッチーな言葉と、その言葉が導き出されてきた会話を、なるべく発言の雰囲気を感じていただけるよう再現した。会場の雰囲気を感じ取って頂ければ幸いである。

富野氏のことばその1 スペースコロニーは実現不可能?

「スペースコロニーのような構造では絶対に、1000年、2000年という単位で人が住める構造体にはなり得ない」

━━ガンダムシリーズを作っているときに、スペースコロニーを舞台にして劇を作る、つまりそこで暮らしている人を動かすということを仕事にしている。ということは、かなりリアルにシミュレーションしているというふうに、自分自身が理解できるようになりました。ガンダムを作り続けてきたために、そういう頭の構造になって来たのだと思います。━━

富野氏 10年くらい前です。「あ、スペースコロニーのような構造では絶対に、1000年、2000年という単位で人が住める構造体にはなり得ない」ということが分かりました。これが――現代の技術を持ってしてもという言い方もあるのですが――現代の最高の金属工学のようなものを利用して、お金をかけることも一切合切考えないで好きに作れると思っても、重力が1Gの円筒の筒があり、それが回って慣性重力という疑似重力を得る空間が、1000年、2000年持つのかと考えた時に、外壁の部分に宇宙線、放射能の遮蔽版まで作ることを想定して、その想定の部分で言えば外版で鉛を使わなければいけなくなってくるわけです。それも、恐ろしい話ですが、厚さが10メートルとか20メートルです。そういうものでも完璧に放射線を遮蔽出来ないかもしれない。できたとしても、基本的に慣性重力、疑似重力なのです。中が空洞のモノです。工学的に作れるモノなら作って見せてください。

 それを可能としなければいけないのは皆さんの世代です。我々の頭では、そんなモノ出来ないと思っています。そういうことから何を考えるかというと、地球という球体で、重力を、質量を保っている力を持てて、地球の表面がどの程度のスピードで移動しているかというと……音速の1.4倍ですか? 今我々の体が音速以上で移動しているのですって。(そのスピードを)感じていないだけのことで、十分感動するんです。海でもいいですし、山でもいい。シーン……としているところや水平線が見えているところの景色を、「作れるモノなら作ってみろ!」というのが地球だと思っています。

音速を超えた速度で我々が移動している物性の中で、シーンっていう空間を手に入れられるというものを、人工的に作れるモノならば作って見せてよ。つい1週間位前に、スペースステーションで日本の「きぼう」が稼動するようになって、“エアコンが静かだからそこで寝られるようになった”というのが、我々の技術なんです。

このようなことを想像していただけたら、つまり工学が進むべき事と、「いやあそんな事は、やっぱり工学的にはできないんだ」ということ、どちらに皆さんの感性を振るのかと言うことが一番大事な問題です。可能な部分はあると思っていますし、現実的に工学が進むべき道というのは現代の社会の中に山ほどあるのではないかと感じることができるようになりました。というのが、すみません、スペースコロニーの話をしていたのですが、こういう話になりました。

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富野氏のことば その2「ロボットの開発なんかやめましょう!」

「あんな上下動のする乗り物なんて、誰が乗るか! 気持ち悪くなるし、だいたい船酔いなんて言うレベルじゃない筈なのね」

━━IRTプロジェクトに関して話題を振られて━━

富野氏 「工学というものがあり得るんだよ」というお話をしろという事だったのですが、東京大学というような所でIRTというプロジェクトがあって、東京大学がその拠点になっているというのは、今回のお話をいただくまで本当に知らなかったのです。実際にホームページを覗いてみましたら、「少子高齢化社会と人を支える基礎技術の創出」という。斜め読みしかしていないのですが、基本的に、特にロボット工学というモノを、こういう風に役立てるのか。高齢化社会になっていく中で、若い人が少なくなっていく中で、「高齢者が死に切る間の看護くらいはロボットにやらせようぜ」というのが主旨なのですね。

これは本当にもっともな話で、年寄り同士が看病したってたかが知れていますし、僕自身がそういう風にして、女房の面倒を見るのが僕なのか、僕が先に見られるのかして、死んでいかなくちゃならない。そんな社会が、これから50年くらいモロに続きます。皆さんのような若い方にご迷惑をかけるわけにはいかないので、なんとかロボット化したなかで死んでいくように努力します(笑)。

そしてその時に、全部はマンパワーで対応できないからロボットの技術がいるというのは正しいのです。そういうことでロボットを開発してくれれば良いだけの話なのを「東京大学のIR拠点で、プロジェクトとして、ある。こういうテーマによって、ナントカ先生がこういう研究をしております」と言われると、全部分からなくなるのね。今みたいに言ってくれれば、少しは切実感を持って「あ、東京大学も偉いんだなあ、学生さんも含めて、みんなでがんばってくれよ」と言いたい。だけれどもなかなかそう言う気分に、今日までなれなかったんです。

ということはどういうことかというと、僕よりもずっと若い、現在の中学生、小学生レベルが「東京大学に行って勉強したい」と思えるのか! というお話に繋がるかというと、それは繋がらないだろうと。そして繋がらないだろうと思うときに、たとえば僕みたいな民間人はこういう言い方をするわけです「ロボットなんかやっているヤツはバカだよね」っていう言い方を僕はします。

どうして? だってさ、人間がやることを全部マネが出来るようなロボットを作るということは、“人間”という我々が、何にもしないで済むような道具を開発しているわけだから、我々は人間としての性能劣化をしてもいいんだよね! っていうことを社会的に認知してくれる工学が、世界中に広がるわけでしょう? それは「俺たちもう何もしなくていいわけだから」というような、思潮です。ひょっとしたら“思想”にまでなってしまうような概念を広げているだけなの「かも」しれないんですよ。僕はそう言います。ロボットだけ開発をしていて、人間が努力しなくても済むような社会を作っていくんだったらそんなロボットなんかいらないんだから、ロボットと共存する社会なんかダメなんだよ。人間だけが暮らしていかなくちゃいけないのに、今や、現在みたいなこういう環境 ―― まだロボットが一般生活に入ってきていないにも関わらず、日本人だって性能劣化を起こしているんじゃないの? という言い方をしちゃいます。

だから本来、我々人間自身が支えられている工学論というものをないがしろにして、要するに純然たる理学系の工学の部分でロボットを開発されるのは、それはとんでもない●●●●だろうという言い方をします。そしてたとえば僕がここで使った●●●●だろうという表現が、実を言うと放送禁止用語なんです。ということは「人間の頭=頭脳というものを、どういうところで使っているんですか? 我々は」ということになってくるのです。本来、技術、アート、工芸、作るもの、作るものによって享受するもの、表現されるものと、我々の感性と、我々の能力と、そいうものを享受して暮らしている我々というものがいったい、何のために技術を行使しているのだろうかということが、とてもアヤシくなってきます。

技術を使えば使うほど「●●●●が放送禁止用語なんだよ」と言うところでの技術論だけを開発してるようなことが、たとえばロボット工学に側面として見えているというのが、僕の感触としてあるんです。どうして僕がこのことをズバッと言えるかというと、人型のロボットに乗る子供を設定して動かして見たときに、あんなイヤな乗り物乗りたくないよと言うことが演出すればするほど分かってくるからですよ。あんな上下動のする乗り物なんて、誰が乗るか! 気持ち悪くなるし、だいたい船酔いなんて言うレベルじゃない筈なのね。となったら「四輪車のほうが絶対にいい」って言い切ります。だからロボットの開発なんかやめましょう!(教授陣、会場 大笑い)

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富野氏のことばその3 「35歳までは青少年」

悪いけれども青少年だよ。どうして? やっているキャリアやモノの考え方が絶対にそうだ。それは能力論ではないんです。精神論なんです。

━━中須賀教授の、工学部を狙う学生には、はんだごてなどを使ったモノ作りを是非とも経験してもらいたい。とはいえ、大学に入ってからはんだごてを握っても遅くはないという主旨の発言を受けて━━

富野氏 中須賀先生が結論めいたことを仰っています。その前に、高校生という立場の人にお話をしておきたいことが1つあります。モノを作る、特に「工学」という、モノを作る最前線に行きたいと思っている学生さん、生徒さんにお伝えしたいことがあるなあと。「子供の頃からモノを作ることを知らないと出来ないよ」と言うのは、僕の基本的な考えです。だけど、おそらく現在の中高生の方は、それほど精密にモノを作るということに邁進しているとは思えません。つまり秋葉原に週一で行っているか? という感じでは、かなり疑問があります。それからモノを作るということが実を言うと、秋葉原で部品を集めてきて作っている、組み立てているというのは、“モノ作り”という言い方ではないんです。もっと原理的なところでモノを作ってほしいという。店頭で売っているチップを組み合わせるという意味では、組み立てているだけだということを、まずはご承知置きいただきたい。「だったら俺はやっぱりその程度のことをやっていないから工学は無理だ」と思うことも止めていただきたいということです。

どうしてかと言いますと、これは若い人には本当に分かりにくいことかもしれないけれども、これは必死で分かってください。我々の世代で言えば、人生が60年の時代でした。60年まで生きたら、長生きをしたということで、“若い”という言われ方をしていませんでした。しかし最近の、この10年くらいは60代で死ぬと“若い”という印象がついて回っています。ということは、今は80代まで生きることは、かなり普通に思われています。このことは実を言うと、かなり大きな問題を含んでいます。何かというと、年齢に対しての考え方です。ここでまず先に結論を言います。「今の30は、一昔前の……10数年前の感覚で言うハタチなんです」という言い方を、今、我々60代が本当に実感しています。そして、10年くらい前から僕も20代を超えた人に対して「青少年」という呼びかけをするようになりました。

はじめは冗談でした。10年くらい前は。ここ数年は“実感”です。35才までを青少年と呼び切ります。現に、何人かの方から抗議も受けました。「何で富野さんって、俺に青少年て言った?」「だっておまえ35になっていないだろ」と。もうちゃんと子供もいるんですよ。だから怒りますよ当然。だけど悪いけれども青少年だよ。どうして? やっているキャリアやモノの考え方が絶対にそうだ。それは能力論ではないんです。精神論なんです。どういうことかということで、本当に皆さんにわかりにくい例を一つだけあげます。

今から65年くらい前の15才の少年が、たとえば陸軍幼年学校に入ったときには、この学校を卒業する2年後には軍に入る! 軍に入った瞬間にあるのは、もし戦地に引っ張られていったら翌年は死ぬかも知れない! 20まで生きられないかも知れないということを本気になって思ってっ! 勉強していたんですよ! 神風特攻隊で特攻した連中は全部一律18、19、20歳までっ! 20過ぎた奴は完全に大人になって逃げていた。そのメンタリティが持っている、つまり生きていることに対する切迫感というモノをあなた達30になった人達は持っている? (会場 静寂)

つまり我々はこの30~40年、皆さん方が生まれて育っている、今日までのこの20数年って、完全な天国なんです。精神的に、今みたいな言葉を、ばーんと正面から投げつけられて、「だからがんばんなさい、だから今は一生懸命勉強しましょう、いまは楽しいことはきちんとやっておきましょう」と言って育てられましたか? そんな人がいたら手を挙げてほしい。で、そういう風に育てられましたという人がいたら、それはウソ。どうしてかというと、皆さん方のお父さんお母さんは、そういう切迫感を持っていないわけだから、そういう育て方を、どんなに厳しい、アナタは東大に合格してもらわないと困りますよと言っている親であったにしても、その親は所詮、東大に受からせる事だけが目的なんです。生き死にの話は一切していない。そういうメンタリティの中で育ってきた皆さん方だから、東大に入ってはんだごてを始めても結構です。(笑い)(会場大笑い)

これからの15年くらい=35くらいまでは青少年なんだから、それまで技術論を本当に身につけたうえで社会に出て行って遅くないんですよ。そうするとそこにあるのは、いいですか? 技術論だけではない、もう一つ大きなモノを身につけなければいけないんです。それはいったいなんなのか。後期高齢者うんたらかんたらというような、文言を発明してしまう文化系の人間もそうなんです。つまり、実社会の人々に対して、我(われ)は何をしなければいけないか? というもう一つの、本来スキルを切磋琢磨した上で技術を投下していくというセンスを持たなければいけない。

だから、工学をやるというのはどういうことかというと、社会というシステムに対して、我の手に入れたる技術をどのように投下して、どのようにして人々が安心して、地球の人類の総人口を100億から30億に減らすかという工学を達成するという目標を、今、皆さん方は否が応でも突きつけられているんです。が、そういう問題を工学の問題として、認識論として突きつけられているということを認識していられる工学者とか、政治家とか経済人がどれだけいるかと言ったら、おそらく僕はいないと思っているんです。どうしてかというと、日本の国家にはすごいすごい大臣がいるんです。少子化対策担当大臣がいて、産めよ増やせよと言っているんです。それからもっとイヤなこと言っちゃう! 人類が増えてもしょうがないのに禁煙を一生懸命奨励して! おまえらさあ! 人口もっと増えていいのかよ! 何考えているんだって思いません? だから僕はこの瞬間にももう、なんだかタバコ、急に吸いたくなっちゃった。(会場 大笑い)

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富野氏のことばその4 「システム工学があるとすると“循環工学”なんだよ」

永久機関論なんていうのがナンセンスというのは承知です。承知のうえで、「それをやってみせるよ」という工学に行かなくちゃいけない。というときに、政治経済論も含めた、つまり「循環させるところにどう行くか」と考えていくべきかと。

━━司会の工学部 内田麻理香特任教員に、「打ち合わせの際に右肩上がり論についてお話がありました」と話題を振られて━━

富野氏 「ノーベル賞の対象になる研究」という問題が、俗に言う新発明、新発見に比重がかかっていたという風に、すごく雑な理解をしています。ところが、だからといってノーベル平和賞みたいな、とんでもなく訳の分からないものもあるわけで、賞に値するかどうかも疑問なわけです。“ノーベル賞”という価値論が、本来そんなにステータスを持ったものなのかということも考えないといけないのに、いけない・の・に! 今回のこと(対談)がありまして、たとえば東大生になってくる……特に理工科系の学生さん達の性質というモノを教えていただいて、正直ビックリしています。

ほとんどの大学院生がノーベル賞を取るつもりで研究をなさっているようです。が、今言ったとおりです。ノーベル賞って、中世期的な規範に則った賞でしかないのではないか、人類、文明というモノを、発達するもの=右肩上がり論=人類はずーっとニュータイプになっていくぞっていう思想であったのではないかと。その右肩上がり論とはどういうことかというと、無限論なんですよ。果てしなく上昇するという観念です。

だけどそれは、果たしてそうなのだろうか? ということは……つまり石油の埋蔵量の問題を心配されるようになった頃が1960年代半ばだったと思います。その頃から考えれば当然なんですが、エネルギー有限論というよりも、地球有限論というものがあって、「本来有限の地球の中で我々は1万年も2万年も、ひょっとしたら10億年くらいは生きていたいんだよね」と言うのは、本来動物の欲望なのではないか、という風に照らしあわせて考えたときに、「資本主義も社会主義も含めてなんですけれども、人間の経済的、行為自体が、地球に対しての悪であるんだから」という論理はなぜこうも……なぜこうも定着しないでエネルギー消費論というところに行っていて。なおかつ消費者対策をしているんだというのは、なんなんだという風に考えていたときに、一見、これは文明論であるから、文化系の人が考えて良いようなことなんですが、実は地球というシステムで考えていったときに完璧にシステム論に乗っかっているはずなんですよ。

ですから僕は、システム工学という言葉を何十年か前に初めて聞いたときに、システム工学というのは、そういうシステムをどのように永久に運用していくための、永久機関論まで目指している工学かと思っていたのですが、「えー」って、目の前のことを一生懸命やることなのねって。だったらそれは、みんなで死んでいくぞ、効率よく死んでいくための技術を高めているだけではないかと思っていた。何を言いたいかというと、だからこれから目指すべき事は、今みたいな論法だけでいったら、「ホントにみんな死んじゃえ」って話なんです。だけど、つい数年前まではそうやってお勉強が出来る人に噛みついているだけの富野さんだったんだけど(会場笑い)、年取ったんで少しは勉強した(笑)。

勉強して、ほんとうに、目指すべき、つまりシステム工学があるとするとどういうことかというと、「循環工学」なんだよね。永久機関論なんていうのがナンセンスというのは承知です。承知のうえで、それをやってみせるよ、という工学というところに行かなくちゃいけないというときに、政治経済論も含めた、つまり循環させるというところにどう行くかと考えていくべきかと。そういう視点で考えたときに、単純に工学の問題で済まない部分があるわけだから、工学者がいつまでも(教授陣の方向を向いて)「私たちは宣伝がヘタな技術屋だからね」っていう先生だけを野放しにしていくようなことはいけない!(教授陣・会場大笑い)

でもこの先生に関してだけは「偉い」って言わなくちゃいけないんだよ。だってこういう事を言う人をそばに置いておいて笑っていられるんだもん。ホントの硬派の技術者は「なにソレ」って言って、だいたいこんなところに出てこないんだからね。だから先生は偉い。だから、こういうところを切り口にして、工学論だけではないんです。システム……つまり、今そういうことで言うと、「金融工学」という言葉だってあるのは皆さんご存じですよね? 金融工学という言葉だってあるのは皆さんご存じですよね!? 金融工学という言葉だってあるのは皆さんご存じですよね!! ……っていう、工学で金融をいじっている奴がなんでサブプライム問題を出すんだって言うときに、「どこに工学があるんだ」ということも考えなくちゃいけないところまで、広げていただきたいということです。

そう考えていったときに工学という問題を中世までのレベルで考えている、ただ機械的な科学技術を達成……もっと高度に達成させる、つまりその「高度」というのをどこに目指すべきなのかという視点は、間違いなく旧世代には出来ないわけだから、ニュータイプである諸君が感じてもらわないと困るというのが、オールドタイプの逃げ口です。(笑い)

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富野氏のことばその5 「GoogleとYahoo!が合併しようが提携しようが、オマエらさっ」

「ネットの電力、いつまで保証してくれているか、信じているの?」っていうのが、僕はとっても不思議ね。かなり目出度いなって。だけど、GoogleとYahoo!をやめてほしくない。やめてほしくないようなシステムを作るというところに、本当に我々の感覚論とか認識論がポンと飛ばなければいけない

━━中須賀教授が、富野氏の戦中の少年の話に触れて、実はよく考えたら我々もそれだけの切迫感を持たなければいけない。今のまま放っておくと、何十年後には地球というシステムは崩壊する。もっと本当は我々危機感を持たなければいけない、と発言したことを受け━━

富野氏 エネルギー、食糧問題、向こう三軒両隣の数の多さ。我(われ)というのも入っている。どう考えても、石油の値上がりを見ても分かるとおり、3年後の暮らし、見えていないんだよ。ほとんど。なのに日本国家はあるところに輸入米を120万トンも備蓄していたりするのです。それでどこか食糧危機を言っていたりするんです。で、これは何? ということを、もっとトータルに考えていく感度を持たないといけない。その感度を持てば僕は、人類が絶滅するのが、100年くらいの単位で先延ばしすることが出来るだろうけれども、現段階の政治経済人というのは、とてもじゃないけれども……。

たとえばGoogleとYahoo!が合併しようが提携しようが「オマエらさ」って。「ネットの電力、いつまで保証してくれているか、信じているの?」っていうのが、僕はとっても不思議ね。かなり目出たいなって。だけど、GoogleとYahoo!をやめてほしくない。やめてほしくないようなシステムを作るというところに、本当に我々の感覚論とか認識論がポンと飛ばなければいけないのが、まず飛んでいなくって、経済ニュースだけに落ちているという現状というのは、“いかがなものか”じゃなくて、この思考だけで考えるとホントにね……。

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富野氏のことばその6 「宗教と経済と政治論を一切出さずにシステムをコントロールしなくちゃならない」

人類が地球という有限に狭いところで何をしているかという行為が、ある部分工学という名の下でコントロールしなくちゃいけないところまで来ているのではないかなと思っています。

━━下山教授が、少子高齢化、二酸化炭素排出問題という課題の先頭を走っている点に触れ、それを日本が解決して世界に発信できるのであれば、尊敬される。ネガティブに考えるのではなくて、課題をどうやって解決していくのかを考えるべきとの発言に対して━━

富野氏 日本人に絶対に、確定的に持っていただきたいことがあるんです。東京の街中を見ても分かるとおりで「西洋文化がこんなに入り込んでいるアジアの文化圏はないんだよ」ということ。これだけきれいにリファインして、咀嚼している民族も、そうそうないんだよということを、もっと自覚的に思っていただきたい。どういう事かというと、かなり本能的に、少なくとも仏教とキリスト文化圏の倫理観も含めて、システム間も含めて、“神”という一神教、“仏様と神々”という多神教の全部のことをかなりどぼっと我々は理解するというか飲み込んでいる人々なんです。これにあと、実を言うと、皆さん勉強していただいて、イスラムのある部分も飲み込んでいただきたいんですよね。どうしてかというと、世界の1/3くらいはイスラム教なわけですから。

彼らすべてに関して受容できるようなシステム、技術をやっぱり投下していかなくちゃいけない時代に来ているわけです。そういうふうに思っていたときに、まさに日本列島に今日まで生かされている我々というのは絶対希有な……民族とは言いません。希有な“人々”なんです。民族ではありません。列島に住んでいる希有な人々なんだから、それをもってすれば絶対に今後の地球を延命する技術論というのは、打ち出していけると思っています。まだまだ、今日まで、たとえば宇宙開発事業がアメリカ主導になってしまっていると言うことは、所詮一神教の部分とたまたまアメリカという国家の持っている資本力が高かっただけの話です。

だけれども、これは本当に、つい最近初めて知ったばかりなんですけれども、“北アメリカ合衆国”に住んでいる白人種ほど保守的な人種もいないということも、教えてもらいました。アメリカ国民でパスポートを持っている人口というのは30%くらいで、自分の州から外に出たことのない人が80%くらいの国だっていうくらい保守的な国なんです、と言うことを、ご存じでしたか? だから、それがそういう基盤を持った人の国家が、世界の警察を言っているということも、だいたい基本的に地球を使いこなしていくというセンスを持っていると思います? これも僕はこういう場でお話したくなっているくらいに、人類が地球という有限に狭いところで何をしているかという行為が、ある部分工学という名の下でコントロールしなくちゃいけないところまで来ているのではないかなと思っています。宗教と経済と政治論を一切出さずにシステムをコントロールしなくちゃならないというところまで来ているんじゃないかなと感じています。

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富野氏のことばその7 「“循環工学”という言い方を創出するべきではないか」

━━中須賀教授のシステム論で大事なのは、ローカルで見ないこと。地球を一つの閉鎖環境として考えたときに、もしかしたらさらに大きなシステムで考えたときに、解が見つかるかもしれない。それは宇宙というシステム、であるとの発言に応えて━━

富野氏 その時の切り口。「宇宙から考えろ」と言うからわかりにくくなるんで、だって、太陽光発電ひとつ考えたときに、太陽を視界に入れていなければどうしようもない。地球の放熱をすると考えたときに、真空の宇宙があるから放熱論があるのであって、地球単体で放熱論ってありえないよという、それだけのことなんです。そういう風に考えていけば、宇宙旅行好きだった僕なんかが言うと、やっぱり火星くらいまでの軌道上の宇宙空間というものを人類の生活圏として考える必要がある。それで逆算するなり……つまり火星くらいから地球を見下ろすくらいにして、あの青い地球という惑星をあと10億年使い続けるという視点は徹底的に大事なことなんじゃないかなと。

渋谷にもげっそりしていて、僕がギレンだったら、コイツらやっちゃう! 立てよ国民という感じで(会場大笑い)。で、国民というのもどうか。国民をアメリカ合衆国、日本、ミャンマーを国民と置くのか、それで「こっちが正義でこっちが正義じゃない」ということは本来ないはずなんですが、我々はそういう言葉の使い方をしていたんです。共産主義国家の核兵器は善で、資本主義国家のは悪だというレトリックを平気で使う時代がありました。そうすると、そういうこと、そういう手腕ってタチ悪いでしょう? それが成立するのが政治なわけですから、そういうところに少しでもフックがかかってしまうようでは、コントロールが不可能になってくるかもしれないところまで我々は今、知識、知の行使、言葉の行使というものを気を付けなければいけないところに来ていると。そうなったときに、工学という極めて「リアル」……じゃないな、客観的視点を持って攻めていくという言葉遣いを獲得しなくてはいけないのかなと思っています。

そうすると、有限の地球を永遠に使っていくぞと言うための工学論という、“循環工学”という言い方、本当は地球工学で良いんですけれどもね、というものを、目指すべきでははいか、創出するべきではないか。それはなにも地球工学という言い方でなくても、それがもっと一般的に親和性を持った表現が手に入ればいいなと思っているし、そういう言葉遣いを間違いなく投下していかなければいけない時代が来ているのではないかというのが、僕の感触です。それはおそらく僕自身の世代では創出することが出来ないと思います。皆さん方の時代でなんとかがんばっていただいて、未来を見させていただきたいなと思います。

年寄りの視点としての未来とはこういう事です。自分がもう死んでもいいと思い始める年齢に入ってきたときに、死んでもいいなと思えるときの、具体的な形があります。我を継承してくれる次の我があるということが実感できると死んでもいいなと思います。そうではなくて死ねといわれるのはとても辛い。これを別の優しい言い方をすると、子供が出来れば死ねる。孫が出来れば死ねるという言い方もできるのですが、それはさっき言ったとおりです。これを工学に高めたいなと思うわけです。

古いレトリックを言います。何で人類は戦争を続けているのだろうか。「人類史は戦争史だ」と平気で言い切れるようなことを、平気でしているんだろうか、という言い方があります。が! これだけの人口がネットを使っている電気消費量って、ある時の戦争の熱量とどっちが高いかと言うときに、実を言うと、今のIT社会の持っているエネルギー消費量というのが、ひょっとしたら戦争に匹敵するのではないかという、とっても怖い話があります。これを突破してください。

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富野氏のことばその8 「諸君の活力に期待するところであります。ジー(ク)……」

━━最後にシメの言葉をと促されて━━

富野氏 国際性を身につけろと言う意義、ハリウッド映画はなぜグローバルスタンダードになり得たのかというと、重要なのは、いろんな民族が1つの場に集まって作らざるをえなかった映画産業という構造があったと思っています。そうすると、言葉は通じないんだけれども、共通のテーマ、共通の物語、分かるような物語構造を作らなくてはいけなかったという研鑽があったと思っています。グローバルスタンダードというのはつまり、一つの民族の一つの趣味の、“オマエ”程度の趣味の、という押し付けだけでは絶対に獲得できるモノではない。

技術なりアートなり、あらゆる表現というものは、多くの人に享受されてこそ表現であるならば、基本的にいろいろな民族の、ミックスカルチャーの上に立ったグローバルスタンダードを確立していかなければならない。すると日本は、少なくとも明治以来文化を概念的には列島の上にきちんと併存させることができた国家なんです。そしてその国家を支えてきた我々が、その歴史的な融合論を持ったうえで、21世紀後の、つまり循環系に対応していくグローバルスタンダードの技術なりアートを提供していくことが出来るのではないかと思っています。そういう意味では、諸君の活力に期待するところであります。ジー(ク)……。(会場大拍手)

●富野由悠季氏と東大がコラボ企画を!

本対談中、東大教授陣から富野氏に対し、将来の地球や日本がどうなるか、映像メディアを駆使して発信してくようなコラボレーションプロジェクトをしたいと持ちかけられた。事前打ち合わせにはなかった申し出に対して、富野氏は「身に余るご提案でびっくりしている」としながらも、快諾した。「僕にそれに対応できる能力があるとは思えないのですけれども、本当に面白がっちゃう人なので、こんな僕でもよろしければ、というのは、外交辞令でも謙遜でもありません。お手伝いさせていただければ嬉しく思います」(富野氏)。詳細はこれからなのだろうが、今回の対談は工学というよりも科学の立ち位置、日本と世界の関わりなど、今後の世界のあり方を問うテーマばかりだっただけに、コラボレーションプロジェクトの成果に期待したい。

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