東芝の“投石研修”――おもしろ新入社員研修その2 

文●

2008年04月23日 18時00分

(株)東芝は創業以来、白熱電球を始めとして冷蔵庫やワープロなど、数々の電気製品を生み出してきた国内有数の電機メーカーだ。企業の新入社員の約7割は、技術系の職種に就くという。今回は、このような“もの作り企業”が行なうユニークな新入社員研修にスポットを当てる。研修では、「カタパルト」という投石機を使うのだそうだが、どうしてそんな“レア”なものを利用するに至ったのだろうか。

研修に使用するカタパルト。中世ヨーロッパの戦争で使われたりしていたという

なんで投石機が、新人育成に役立つのか?

東芝の新人研修では、中世ヨーロッパで城攻めなどに使われたという「カタパルト」が利用されている。研修はこのカタパルトのミニチュア版(城攻めで使用されていたものは、当然かなり大きい)を使って1.8m先のターゲットにボールを落とすそうだ。この時の結果を記録し、より正確なポイントに落とすためにさまざまな改善策を講じるわけだが、ここにポイントがあるという。

「この研修は“もの作り”だけを意識した内容ではありません。チームやチーム間でカタパルトの作業をすることなどで、日々の仕事をより効率よく改善する力、多角的な視点で問題が起こったときに解決する力を身につけさせるためのものなのです」と、東芝イノベーション活動に伴う研修を行なう東芝シグマコンサルティング(株)取締役の赤田喜央さん。

東芝では、西田厚聰社長を筆頭にグループ全体で経営品質の向上を目指す「東芝イノベーション活動」が進められている。新入社員の研修については、従来2週間ほどで行なっていたものを昨年から1カ月に拡大。内容も座学中心のものからグループ討議を多く取り入れるなど、大きく変更されたという。厳しい国際競争にさらされるメーカーにあっては、画期的なアイデアを持つだけでなく、広い視点で周囲を見渡し、自分の力で改善することができる人材を育てることを重要視しているのだそうだ。

また、カタパルトを使用する研修の目的は、「DMAIC(ディマイク)」という問題解決のためのビジネス手法に触れさせることもあるという。DMAICとは、定義(Define)、測定(Measure)、分析(Analyze)、改善(Improve)、管理(Control)の5つの順を追って問題を改善し、経営活動の向上に役立てる手法のことだ。東芝では、このDMAIC手法をいかにして容易に深く学ばせるかを検討し、研修用の道具を色々と探して試してみたという。そしてたどりついたのが、このカタパルトだったのだ。

研修の現場は、学問的な議論が繰り広げられていたり、冗談が飛び交い和やかだったりとさまざま

実践! 新入社員たちの悪戦苦闘。 DMAIC手法を学ぶ

6人1組でさまざまな検証を行ない、1人10投、全60投する。少しでも多くのボールを正確なポイントに落とせるよう改善を繰り返す

アームと土台の隙間にガタつきがあるため、厚紙をはさんで調整。ゴムの支点であるピンを押さえているのは、無駄な振動を防ぐため

昨年から始まったこの研修。受けた新入社員たちも、楽しみながら臨んでいるという。彼らは、カタパルトを使って何度も投てきしながら前述のDMAIC手法などを学ぶわけだが、実際の悪戦苦闘ぶりを紹介しよう。

まず、「1.8m先にボールを落とす」という明確に定義された目標に対し、実験結果を測定する。そこから、ボールの落ちる位置がばらつく要因には、どんなものがあるのかデータをもとに分析していく。例えば、ボールを飛ばす際にゴムを引く距離、アームと土台をつなぐ部分の微妙なガタつきなども、ばらつく要因になり得る。また、木製のカタパルトには、一見どれも同じように見えて微妙な個体差があるので、ほかのグループの改善策を真似てみても、必ずしも自分たちのカタパルトで結果が好転させられるとは限らない。こうして、改善を繰り返して効果を検証し、最終的に目標の状態に至れば、今度はそれを維持するための管理を行なうのだそうだ。

世界初の製品を目指して

この研修は、新入社員たちがやがて働く配属先の上司たちからも非常に評判がいいそうだ。

「DMAIC手法を学ぶ研修は本来、入社5年ほどたった社員が、その時自分が手掛けている仕事を課題にして10日間かけて行なっているものです。その基本編を入社時に学んだ社員たちが日々どのように成長していくのか楽しみですね。また、彼らが5年後のDMAIC手法の研修、さらにはその先の将来、どれだけの成果を上げるかも興味深いところです」と赤田さん。

この研修を受けた社員たちが、何年か後に国産第一号や世界初となる製品を生み出すのかと思うと、確かに楽しみだ。

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