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位置情報ビッグデータが解決する地域課題

滋賀県日野町、香川県高松市、愛知県岡崎市、先進自治体に聞く

交通・観光・政策……ビッグデータ活用から見える自治体DX最前線

文●森嶋良子 編集●北島幹雄/ ASCII STARTUP

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――ビッグデータ活用施策を進めていくうえで、重要だと考えていることは何でしょうか。

日野町 津田 目的解決に向かって関係者が一緒に動ける体制を作り、本当の意味でのパートナーシップを構築することが一番大事だと思っています。「官民共創」と呼んでいますが、外部企業やそのほか関係する団体、人々とパートナーシップを結び、推進協議会を立ちあげて進めています。

 プロジェクトを進める際には、最終的な目標や夢を事業者の皆さんと共有したうえで、同じ方向を向いて進んでいく必要があります。日野町では、誰もが行きたいところにマイカーに頼らずにも行くことができ、なおかつ行った先で用事以外にも楽しみを見出せるような街づくりを目指しています。公共交通は目的ではなく手段であり、手段を活性化させることで地域全体の活性化にもつなげたいという考えです。

 この大きな目標に向かって進んでいくわけですが、一度に最終目的までの計画を立てて進めるのではなく、出てきた結果に基づいて次の手を考えていくというアジャイル型で進めています。細かく軌道修正をしていくので、「思い」が共有できていないと目的に向かって進めていくことはできません。

 特に仲間を増やしていくことが重要で、外部企業のほかにも、商工会だったり観光協会、地元の公民館だったり、地域でそれぞれ活動されている方々、そういった方々をまきこみながら、みんなで解決していく必要があります。誰かが我慢や無理をするのではなくて、みんなが幸せになれる方法を考えたい。そのためにも夢をみんなで共有し、同じ方向を向いていることが大事だと考えています。

高松市 宮武 本市では、今回の国交省の実証実験以外にも、内閣府が公募を行ったスーパーシティ構想の提案を行っていますが、その準備段階で生まれ、大事にしている考えがあります。

 それは「ツール選択から入るのはやめよう」ということです。実は、スーパーシティの提案以前にスマートシティの推進に向け、プラットフォームを勧められて導入したものの、活かせなかったという苦い経験がありました。ツールの導入という手段が目的化してしまい、本来解決すべき目的を見失うということが行政機関においては往々にして起こりがちですので、チーム立ち上げの際にその考えが基本になったことは大きな進歩だと思います。

 今回も、ビッグデータがあるから何でもできるというのではなく、解決すべき課題が何なのか、そのために必要なものとしてビッグデータをどう使うかという手順でやっていかないと、よくある「手段が目的化する」パターンにはまってしまいます。分野横断的に施策を展開するうえでは、さまざまな行動に紐づく「移動」の最適化をするという取り組みが求められており、そのときにどうデータを使うのかという考え方を大事にしたいと思います。

 現在は、スーパーシティ準備チームからデジタル特命チームへと組織が変わりました。そこでは行政課題を横断的に捉えていくことを目指しています。そういった組織を作っていくことも、自治体の取り組みとしては攻めているところだと考えています。

岡崎市 鈴木 大きな視野でいうと、施策を立てて動いていくための原動力としてデータを使える社会が来るとよいと思っています。日本のまちづくりの現状は、「エビデンスベース」ではなく「エピソードベース」が主流であり、データによって物事が動いていないことが多いと感じています。

 例を挙げると、ある地域でタワーマンションができたことによって最寄り駅が大混雑しているという問題がありますが、その状況は「入場制限がかかるくらい混んでいる」というエピソードで語られます。エビデンスベースというのは、地域の住宅戸数や通勤者数、駅の利用者数の時間単位での変化などの数値データをもとに混雑状況を把握するということです。エビデンスベースで議論できる、エビデンスベースドポリシーメイキング(EBPM)を少しずつ実現していきたいという気持ちがあります。

 また、データの活用に関しては、アナリストによる一時的な分析をするだけではなく、現場に詳しい方にインタビューしたり議論に加わってもらったりしながら、アナリストが与えた気づきに価値を付加していくことを重要視しています。今回の実証実験で関係者にインタビューを実施するのもその考えに基づいたものです。今まで我々が取り得なかったデータに手が届き、その価値を社会に提案できるチャンスととらえています。

岡崎市 データ活用

――国に期待する点や、今後のデータ活用についての展望をお聞かせください。

日野町 津田 以前からも取り組みを進めてきたことではありますが、実証実験で取り組んだ内容を継続し、株式会社Agoopとの連携のもと、ビッグデータを活用しながら、公共交通再編の取り組みをしたいと思っています。今回の委託事業の出口として、今後、その成果を生かしていく取り組みに関しても、継続的にご支援いただきたいと思います。公共交通を活性化させようと思うと鉄道、バス、タクシー、これらを全部組み合わせていく必要があります。例えば、鉄道とバスの運賃の共通化や共通定期券の発行などがもっとやりやすくなるような実証実験の場をご提供いただければと思います

高松市 宮武 今回のように、自治体側が積極的に進めていく取り組みへの後押しや支援を、ぜひ今後も推し進めていただきたいと思います。その際には何でも支援するというのではなく、ぜひ事業の質の高さを国が評価して、支援していただくことを期待します。総合的に施策を展開していくうえで、法規制の見直しや財源などさまざまな課題がありますが、国から支援していただければ、推進力につながります。今回の取り組みを通して、柔軟なご対応をいただくことを期待したいと思います。

岡崎市 鈴木 ビッグデータの活用は、これまで人手に頼っていた大規模な集計・統計の代替になる可能性があると期待しています。国の統計調査の代わりに自治体で利用できる素材となりうるだろうと思います。

 役割分担として、マクロなデータは国で整理していただき、ミクロなデータを取得し解析するのは自治体自らがチャレンジすることになるのだと思います。自治体の動きを国でもキャッチしていただき、それが全国に波及していけば、各地の自治体でもデータ活用が進むと思います。岡崎市がデータ活用の取り組みの価値を高めていき、それが広く知られることで他の自治体でも進むように、情報発信の支援をいただきたいと感じています。もちろん、今回のような公募事業が発展的に続いていくことも期待しています。

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