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満漢全席を食らえ!JAWS DAYS 2019レポート 第14回

1年前のセッションを蔵出し コロナ禍の今だからこそ働き方を問え!

“いとみやび”な日本の働き方、私たちは、組織はどう変わっていくべきなのか?

2020年06月05日 11時40分更新

文● 青木由佳 写真●米田真治、平野文雄 編集●大谷イビサ

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国とか社会とか組織として、どう組織を変えていくか?

 一社員が発信することでマインドを変えていこう、というのは実際にはなかなか厳しい、と黒須さんは現実的な指摘。ポイントとしては、土台の変化をキーとすること。たとえばクラウド導入がそれだ。「土台の変化はボトムアップでもトップダウンでも効くやり方」と断言する。土台が変わると業務のやり方が変わり、文化が徐々にアジャストされる。。それが普通になっていき、企業文化が変わる。「そういった変化を目の当たりにしてきた」のが黒須さんのこの数年間の実感であり、みずほの中でもそういった兆候は見られるという。


 沢渡さんは「迅速なコラボレーションをしていく時代」に入ったと見ている。社外の人に自分の会社のことを好きになってもらい、協力してもらえるようになり、新しいサービスが生まれていく。このバリューサイクルを生み出せるかどうかが大きなポイントなのだという。「迅速なコラボレーションできる組織に変化することに反対する社長はいないはず。あのトヨタも、ソフトバンクとコラボする時代です」(沢渡さん)。また、「部門内や、マーケティングの部署などとのコラボレーションも大切」であり、「これができない会社は負ける」と沢渡さんは続ける。自分たちの本来価値は何なのか?組織の中で育成、学習が起こる仕組みを起こさなければ人も集まらない、

 成長実感も得られない、エンゲージメントも上がらない。それでは迅速なコラボレーションを実現するためにわれわれに必要なものは何だろうか。

クラウドの活用、快感の設計、自らの手で変える組織

 ここで技術的な課題や活用も踏まえて考えてみることにしよう。たとえば、自社でやっている商用サービスをスケーリングしたいとして、手動でのデプロイやサーバーの購入、回線の増設、相見積もりを取って……ということをしている間に、自社のスピードもブランドイメージも下がり、スケーリングするのも遅れてしまう。そこで働く人の、組織に対するエンゲージメントもどんどん下がって行ってしまうのである。

 そこでクラウドを使ってスケーリングすれば、本業にコミットできる。より新しいテクノロジーや、ベンダーの開拓に時間を割くことができ、そんな企業にはいい人材が集まり、従業員はいい働き方ができる。「10人のうち、4人面白いと言ってくれる人が出てきたら、そこから組織は変わります」(沢渡さん)。社内のファンを見つけていくことこそが、クラウド活用の第一歩なのだ。

 また、「快感を設計する」ことが大切だと黒須さんは言う。クラウドを使ったら自分たちの仕事が楽になった!という感覚は「快感」であり、結果を出したことでお互いに目線が上がっていく。この快感を設計していくことがポイントなのだ。何をやろうとしても、結局のところ帰るところは自分自身である。自分自身が変わらないと、何も変わらないのだ。「自分で少しずつ、変えていきましょう」そう話す黒須さんは実際に自らの手で組織を変えた経験を持つ。

 みずほ銀行の社内組織であるCCoEは、黒須さんが立ち上げた組織だ。クラウドを一緒にやろう、という社内のメンバーが集まっている。週2回行っている定例会は通算100回に到達する勢いだという。エンタープライズの規模の企業であれば、上長や責任者が代わったり、組織が変わったり、さまざまな変化がダイナミックに起こる。そんな中で、いつどこにいても存在し続けられる「バーチャル型」が、巨大組織である<みずほ>の中では良いと、黒須さんは考えたのだ。

 過去を振り返り、「昔はエンジニアでクラウドをやりたいと言うと変な人だと思われていた」が、そういった状況にするのではなく、寄り添いどころを作る、ということが大切」と語る。クラウド導入にあたり、CCoEを立ち上げた黒須さんは、クラウドをやっていることが恥ずかしくない世界を作ろうとして、それを実現させたのである。沢渡さんは「CCoEにいること、それが誉れ(ほまれ)」と雅な世界に誘い会場の笑いを誘った。

 あまり極端にスケールしない金融の世界の中では、オペレーション効率を上げることが重視され、新しいことをしない、そんな雰囲気が漂っていた。「でもそれではダメ」(黒須さん)で、新しいことを始めるのであれば有機的な組織が必要だと考える。その組織の中では「説得」よりも「納得」という考えのもと、所属メンバー全員が意思決定者として存在する。そんな組織にいて黒須さんは「日を追うごとにみずほが好きになってきている」と微笑んだ。トップダウンではなく、一緒に考えていく。CCoEの人間として、思考を巡らせる。CCoEはそういう組織だから、とインナーブランディングを行なっていくスタイルは、「古い組織ほどハマる」(黒須さん)のだ。

 また、<みずほ>には、「コクリエ」というテック特化型のコミュニティ:ERG(Employment Resouce Group)がある。IT好きの社員が、社内に埋もれてしまっているのでは?という仮説のもと、立ち上げたコミュニティだ。メンバー数は約700名。人事のお墨付きをもらっている「公認コミュニティ」である。定期的なテック吸収の場を設け、「テクノロジーで<みずほ>を変える。自分の殻をやぶろう」をテーマに活動している。

最強の自分で、仕事を科学せよ

 迅速なコラボレーションを阻止しているものはないか、見つけることが大切だと沢渡さんは言う。何をなくしたらいいのか、技術の力や仕組みでどう変化させたらいいのかを考えてみて欲しい、と訴える。社内にファンを作り相手に気づきを与え、そこから相手の世界観が変わったなら、組織の中で互いの相乗効果が出せるようになる。お互いのリスペクトはこうして生まれていく。「仕事を科学して、仕組みを良くする」。これが沢渡さんの提唱する、現場でできる第一歩だ。

 黒須さんは「イメージするのはつねに最強の自分」とアスリートさながらのエンジニア魂を見せた。それがお前の限界か、と自分に問い続ける黒須さんは、「最強の自分を心がけていると、Notesでも楽しい!」と会場を沸かせた。クラウドのように、「スケールする自分」をもう少しだけ心がけてみてくれたら、と参加者にエールを送った。

<あとがき>一年の前のセッションを振り返り、今

 2019年の2月に五反田で開催された「JAWS DAYS 2019」から約1年と3ヶ月。「働き方」をテーマにしたこのセッションの中で、黒須さんは「マインドの変革がどこかで起こる」と語っていた。その「どこか」はまさに今なのではないだろうか。コロナ禍というこの苦境の中で我々はどうやって、働くことを続けていくのか。

 「JAWS DAYS 2019」開催後、沢渡さんは書籍『仕事ごっこ ~その“あたりまえ"、いまどき必要ですか?』を上梓し、前時代的な仕事のやり方に警笛を鳴らし世の中の共感を得た。「セッション当日に初めて会った」とは思えない息の合った二人の登壇者と、この二人を引き合わせた一人のモデレータが予言した「NEXTな働き方」への挑戦は、これからも続いていくだろう。

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