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米TwilioとKDDIウェブが提携、日本展開の狙いを聞く

2012年11月01日 10時01分更新

文●小橋川誠己/Web Professional編集部

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 電話やSMSの機能をWeb APIとして開発者向けに提供するスタートアップ企業・米Twilio(トゥイリオ)と(関連記事)、CPIブランドでホスティングサービスを展開するKDDIウェブコミュニケーションズが、10月31日、業務提携を発表した。Twilioのサービスは来春から国内向けに正式に開始され、KDDIウェブが独占販売する契約だ。

 Web Professional編集部は両社の提携に先立ち、10月中旬、米TwilioのCEOであるジェフ・ローソンCEOにインタビューする機会を得た。Twilioの現状と日本市場での展開について話を聞いた。

米TwilioのCEO ジェフ・ローソン氏。Twilio Conference 2012の会場にて

米TwilioのCEO ジェフ・ローソン氏。Twilio Conference 2012の会場にて

AWSをお手本に電話をクラウド化

――電話やSMSをAPIとして提供するTwilioのアイデアはどこから生まれたのか?

 Twilioの創業以前、私はAmazon Web Services(AWS)で働いていた経験がある。AWSはハードウェアをクラウドAPIとして提供するサービスだ。TwilioではAWSと同じようなことを、コミュニケーションの分野でもやろうと考えて始めた企業だ。

 実はTwilioを創業する以前から、ユーザーとコミュニケーションできるアプリを作りたいと考えていた。だが、当時の私たちには通信に対する知識や技術が足りず、実現できなかった。通信業界は伝統的にハードウェアが中心で、ソフトウェアを提供するという考え方は異次元のものだ。コミュニケーションアプリを作ろうにも、インフラ部分を簡単に実装できるソフトは存在しなかった。

 そこでTwilioでは、ハードウェアを一切意識することなく、Web APIを使ってソフトでコミュニケーションサービスを構築できるようにした。アプリ開発者はクリエイティビティに集中してアプリを開発できるわけだ。

――Twilioの現状について教えてほしい。

 Twilioは4年前に創業した会社だが、すでに15万人の開発者がユーザーとして参加している。ProgrammableWebのデータでは、GoogleマップやTwitter、Facebookなどに続いて7番目に使われているWeb APIになっている。

 開発者はTwilioを使って、BtoB、BtoCを問わず、次世代のコミュニケーションアプリを開発している。たとえば、コールセンターの機能をiPadアプリとして開発した会社や、パーキングメーターの料金が上がる前に電話で知らせるアプリを作った会社がある。

――Skypeのようなアプリを提供せず、APIにフォーカスしたのはなぜか?

 私たちがたった1つのVoIPアプリを作るよりも、開発者が使えるプラットフォームを作ったほうが、世界中の開発者のクリエイティビティを活性化できると考えたからだ。

iPhoneアプリ「Verbalizeit」。言語を選択すると通訳を交えたカンファレンスコールになり、リアルタイムで会話を楽しめる

iPhoneアプリ「Verbalizeit」。言語を選択すると通訳を交えたカンファレンスコールになり、リアルタイムで会話を楽しめる

 1つおもしろい例がある。「Verbalizeit」というiPhoneアプリだ。自分と相手の話す言語を選択すると、選択した言語を話せる人をクラウドで探してくれる。自分と通訳、それに相手をカンファレンスコールでつなぎ、リアルタイムで通訳してくれるボイスアプリだ。非常にユニークなアプリだが、これはあくまでも1つの例にすぎない。ほかにも何千というアプリがTwilioによって作られている。

 もう1つ、エンタープライズの事例として「Hulu」がある。HuluはTwilioでコールセンターを構築している。当初は機材を購入して作ろうと考えていたが、通信機器メーカーの機材を購入すると50万ドルはかかる見積もりだった。ところがTwilioなら初期費用もほとんどかからず、2週間でできてしまった。ハードウェアを買う必要がないので、Huluが日本に進出ときもそのまま利用できた。

――さまざまな可能性があるとはいえ、メールをはじめとする他のコミュニケーションツールの普及で音声通話は減少傾向にある。なぜ、いまあえて音声通話なのか?

 確かに、相手と1対1で話をするだけの単純な「電話」は世界中で減少していくだろう。一方で、ビジネスの世界では、お客様と直接つながることでよりよい顧客体験を提供できる。それが企業の競争力アップにもつながる。

 私たちが注目しているのは、Salesforce.comのようなCRMやECサイトと電話を統合する、「スマートコミュニケーション」だ。たとえば、顧客の電話を自動的に地域の担当者につなぐ、過去の問い合わせ履歴を自動的に表示する、といったスマートな体験は顧客をハッピーにするものだ。

 エンタープライズの通信機器市場は2500億ドルもの規模がある。音声通話全体が減っていくとしても、スマートコミュニケーションはこれから増えていくはずだ。

国内市場を熟知したKDDIウェブの販売力に期待

――KDDIウェブコミュニケーションズと提携して日本でもサービスを提供する。狙いは?

 これまでは米国の開発者向けに提供してきたが、2011年11月には英国でもサービスを開始した。2012年初頭にはヨーロッパの17カ国でも開始し、現在では40カ国でTwilioを提供している。

 グローバル展開の理由は2つある。1つは、Twilioを使っている開発者の顧客基盤が世界中に広がっていること、もう1つは、Twilioを使ってアプリやサービスを構築する開発者も世界中に広がっていることだ。

 日本にもたくさんのアプリ開発者がおり、エンタープライズの顧客も多い。非常に魅力的な市場だが、日本での展開にあたっては強力なパートナーが必要だと考えた。KDDIウェブは、Twilioと似たコンセプトのサービス「boundio」(関連記事)を提供しており、Twilioを使った可能性を一緒に考えられる企業だ。Twilioが狙う中小企業から大企業まで、ターゲットも一致している。

――国内での両社の役割分担について教えてほしい。

 KDDIウェブは日本市場を熟知したエキスパートであり、Twilioは多くの開発者を抱える実績あるプラットフォームを運用している。詳細は来春の正式サービスへ向けて両社で準備を進めているところだが、KDDIウェブが販売とマーケティングについて担い、Twilioはプラットフォームの運用を担当する計画だ。また、TwilioのプラットフォームはKDDIウェブの親会社であるKDDIのネットワークに接続される予定となっている。

――最後に、日本の開発者にメッセージがあれば。

 みなさんが作るアプリを見られるのを待ちきれないほど楽しみにしている。ぜひTwilioのプラットフォームに参加してほしい。

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