10nmプロセスの遅延でWiskey LakeとCascade Lakeが浮上 インテル CPUロードマップ

文●大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

2018年04月09日 12時00分

インテルは北京で4月3日(現地時間)に発表会を開催し、28製品もの第8世代Core i/Core-Xを新たに発表した。

インテルが北京で開催した発表会の中継より。詳細はジサトライッペイ氏によるレポートで詳しく解説している

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もっとも発表会そのものもデスクトップよりモバイルに焦点を当てたものになっており、Optane SSD絡みで少しだけデスクトップは出てきたものの、メインはモバイル初の6コアCore i7や、さらにAlienwareのモバイルCore i9搭載ノートなども発表会では示された。

FFXIVベンチマークでロード時間を比較したもの。インテルのTCL NAND SSDとの比較で7秒高速となっている

モバイル初の6コアCore i7。モノがなにかは不明だが、おそらくは「Core i7-8850H」あたりであろう

AlienwareのモバイルCore i9搭載ノート。さすがにTDP 45Wとあってか、薄型ノートでは収まりきらなかったようだ

それはともかくとして、今回追加された28製品のうち、モバイル向けは11製品で、残り17製品はすべてデスクトップ向けとなっている。ということで、そのデスクトップ製品について解説しよう。

第8世代Coreシリーズに
Pentium GoldとCeleronが追加

まずCore i7に関してはTDP 35Wの「Core i7-8700T」のみが追加になった。Turbo時は最大4GHzまで行くが、定格は2.4GHz。ちなみにConfigurable TDPで1.9GHzまで落とすと25Wまで下がる。さすがに6コアともなると、「Core i7-7700T」(4コア/8スレッド、定格 2.9GHz/Turbo 3.8GHz)より定格が下がるのはどうしようもないが、そこはTurbo時の周波数を上げることでカバーという感じだ。

デスクトップ版第8世代Coreプロセッサーの追加ラインナップ

一方Core i5については8500/8600に加えて8400T/8500T/8600Tがラインナップされた。TなしモデルはTDP 65W、Tモデルは35Wでここはそれほどおかしなところはない。

その下のCore i3は8100T/8300/8300Tがラインナップされるが、やはり8100Tのみ3次キャッシュが6MB、というのは8100/8350Kのときと同じで、意図的に8100のみ3次キャッシュの容量を2MB減らしているのは間違いない。ちなみに「Core i3-8300」のみ、TDPが62Wという中途半端な数字になっている。

さて、今回新規に追加されたのが、Pentium GoldとCeleronである。Pentium GoldはG5400/G5400T/G5500/G5500T/G5600の5製品。2コア/4スレッドという、第7世代までのCore i3のスペックがここに降りてきた形になる。

当然ながらTurbo Boostは無効であり、また動作周波数も最大で3.9GHzどまりとなっており、微妙にオーバーラップしつつもCore i3-7100/7300/7350Kよりはやや低い程度の性能に抑えている感じだ。もっとも価格はG5500で82ドル、G5600で93ドルとお手頃価格に抑えられており、一番安いCore i3-7100でも117ドルだったCore i3-7xxxよりもお値打ち感は高い。

このPentium GoldはRyzen APUのローエンド(99ドルのRyzen 3 2200G)が競合であって、「Ryzen 3 2200Gでもまだ高い」というユーザーを抱え込むための方策と思われる。実際これ以下の価格ではAMDはBrisdol RidgeのAMD A12やAMD A10しかラインナップがなく、これらに比べるとずっと競争力があるのは間違いない。ボリュームマーケットのシェアは渡さないという強いインテルの意思が感じられる構成になっている。

ローエンドがCeleron G4900/G4900T/G4920の3製品である。こちらはハイパースレッディングも無効で、動作周波数がCeleron G3xxxxより若干引き上げられた程度にとどまり、価格もG4900で42ドル、G4920で54ドルと据え置き状態である。

強いて言えば、Celeron G3950はTDPが51Wに抑えられていたのに、Celeron G4920では54Wに引き上げられているのは、やはり14nm++プロセスによる消費電力増が効いているものと思われる。

日本でも4月3日に発売された第8世代Core iプロセッサーの新モデル

2016年~2018年のインテルCPUのロードマップ

10nmプロセスの遅れで変更に次ぐ変更の
プロセッサーロードマップ

問題はここからの話である。なんかもうロードマップが延々と変わっているので筆者も混乱気味である。そこで整理も兼ねてアーキテクチャーの変遷をまとめてみた。下図は昨年8月頃のアーキテクチャーロードマップである。

2017年8月頃のアーキテクチャーロードマップ

Kaby LakeとCoffee Lakeの関係は連載420回で書いたが、いずれにしてもこの時点ではCannon Lakeが10nmプロセスの遅れもあって後退していることを受けて、中継ぎとして投入された形だ。ただ単にKaby Lake Refreshではなく、プロセス変更(14nm+→14nm++)とコア数増加(4→6)という新機能も入ったことで、一応新製品としての面目は立った形になる。ここまではいい。問題はここからだ。

10nmはこの後も順調に遅れている。基本的なところで「ハイパースケーリングがやっぱり無理だった」という話である。具体的には、まずMetal Pitch。インテルの10nmでは36nmにするとしているが、これはTSMCの7nm相当以下である。

Metal Pitchは、トランジスタと同じ層に形成する配線の間隔だ

TSMCなどはこの36nmをEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外線)を使って露光することで実現する計画で、EUVそのものの問題はいろいろあるものの、36nmの実現性そのものはわりと堅いのに対し、インテルはこれをArF+液浸のQuad Patterning(SAQP)でやろうとしており、これは困難ではないかと見られていたのだが、やっぱり困難でしたという話である。

もう1つがContact Over Active Gate。連載419回の説明でも「実用化にあたっては、特に信頼性の問題が大きく、これまでなかなか実用化にこぎつけなかった。」と書いたが、やっぱり困難なことに変わりはなく、いろいろ問題が出まくっているらしい。

トランジスタの外にContactを設ける必要がない分、面積を10%ほど削減できるのは理にかなっている

この対策としてインテルはEUVを前倒しして10nm世代にも持ち込むという話も出ているが、EUVそのものの実用稼動は2019年以降になるため、当面はArF+液浸のSAQPでやるしかない。

ここまで遅れてるなら、もうGate Pitchを40nmくらいまで広げた中間ノードを新たに作って、そこにあわせて物理層の再設計をしたほうが早く製品が出てくるのではないかと思いたくなるが、もちろんその再設計のコストはシャレにならないわけで、今のところそうした方策が採られる気配はない。ということは、当面どうしようもない。このままでは、2018年内に10nmプロセスを利用した量産品はほとんど出てこないだろう。

これをうけて、まずKaby Lake Refreshの後継で、Kaby Lake Refresh Refreshとも言うべきWiskey Lakeが昨年末に急遽沸いてきた。

Wiskey Lakeがアーキテクチャーロードマップに浮上

これは本当にCannon Lakeが登場するまでの中継ぎであって、最大でも4コア構成になるようだ。モバイル向けということでCoffeeLakeほどには最大動作周波数を引き上げる必要はなく、むしろ15Wや35Wの枠の中でどれだけ動作周波数を上げられるか、という類の製品なのでプロセスも14nm++ではなく14nm+のようだ。

もう本当にKaby Lake Refresh Refreshという感じである。厳密に言うと後述する新機能が追加されるとはいえ、Kaby Lake RefreshおよびCannon Lake Refreshとのプラットフォーム互換性(これはOEMベンダー向けという意味での互換性であって、そもそもパッケージもLGA 1151ではないBGAタイプなので、抜いて差し替えられるという意味ではない)には配慮されているようで、そういう意味でも本当に中継ぎである。

2016年~2018年のインテルCPUのロードマップ

コード名一覧に存在しない
Cascade Lake

もう1つ沸いたのがCascade Lakeである。Cascade Lakeは連載443回で説明したが、この時点では正体が不明だった。ところが、3月15日にインテルがSpectre/Meltdownの対策に関するリリースを出しており、この中で“These changes will begin with our next-generation Intel Xeon Scalable processors (code-named Cascade Lake) as well as 8th Generation Intel Core processors expected to ship in the second half of 2018.”(こうした対応は、Cascade Lakeと呼ばれる次のXeon Scalable Processorと、今年後半に出荷される第8世代Core iプロセッサで実装される)という形でCascade Lakeの存在が確認された。

この3月15日のリリースは、Spectre/Meltdownの脆弱性に対し、ファームウェアのアップデートとは別に、新たに“Protective walls”(保護障壁)の仕組みを提供するというもので、Cascade LakeはSkylake-SPにこのProtective wallsの機能を追加するのが主目的と考えられる。

そもそもSpectre/Meltdownは連載440回でも説明したように、2017年の比較的早い時期に発見され、インテルを含むベンダーに伝えられていた。インテルは当然これを十分に検討し、対策する時間があったわけで、結果として性能面でのペナルティーが出ないようなProtective wallsの機能追加がサーバー向けには必須という決断が下されるのは当然だろうし、これを2017年の段階で盛り込んだのは不思議ではない。

相変わらず、インテルのコード名一覧には存在しないのだが、インテルの公式発表に出ている以上、Cascade Lakeが存在するのはすでに疑いの余地はない。

Cannon Lake-Sをスキップして
Ice Lake-Sが出る可能性

さて、問題はそのインテルの公式発表の「今年後半に出荷される第8世代Core iプロセッサー」の部分だ。モバイル向けに関しては、おそらくはWiskey Lakeにその機能が搭載されると見られており、これで対応できる(Wiskey Lakeも今年後半に投入される見込みだ)。

問題はデスクトップと、それこそ今回発表されたCoffee LakeベースのCore i7やCore i9である。こちらは今まではCannon Lake Sというコード名の製品が予定されており(現時点でも公式には残っている)、本来ならばこれが2018年後半に出て解決という話だったのだが、現状Cannon Lake-Sは早くて2019年という話で、もうCannon Lake-Sは飛ばしてIce Lake-Sに行こうという話になり始めているらしい。

そうなると、Coffee LakeとIce Lakeの間を埋める存在がなにかしら必要になる。Protective wallsの話がなければ、それこそCoffee Lakeのまま1年以上引っ張ることも不思議ではない。Optane SSDを組み合わせた「Core i+」というブランドは、実際Coffee Lakeの延命のために立ち上げたのではないかとすら思ったのだが、ただしこれだとCEOのKrzanich氏の公約をのっけからぶっちぎることになってしまう。

第8世代Coreプロセッサー(Coffee Lake-S)にキャッシュ専用のSSD「Optane Memory」を付属させた「Core i+」シリーズ

となると、Coffee Lake Refresh的ななにかがあるのか、あるいはそれこそCascade Lake-SPのコア部をデスクトップ/ハイエンドモバイルに持ってくるつもりなのかが現状はっきりしていない。

したがって下図ではCascade Lakeのみ破線で囲ってある。このあたり、COMPUTEXあたりでもう少し状況が見えてくるといいのだが。

現状のアーキテクチャーロードマップ

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