DNAをプリントする リコーが2022年に向けて新たな挑戦

文●大河原克行、編集●ASCII.jp

2018年03月16日 09時00分

今回のことば

 「銀座4丁目交差点の三愛ドリームセンターは、リコーグループ創業者の市村清によって建てられた、当時の常識を超えた全面ガラス張りの円筒形ビル。挑戦することは、リコーのDNA。挑戦することで社員がイキイキする」(リコーの山下良則社長兼CEO)

リコーが、2022年度までの成長戦略を発表した。

2017年4月1日付けで、リコーの社長兼CEOに就任した山下良則氏は、2019年度を最終年度とする第19次中期経営計画に取り組んでおり、売上高2兆2000億円、営業利益1000億円を目指している。第1歩となる2017年度は成長実現のために、足腰を鍛え、実行力を磨く「再起動」のフェーズとしていた。

今回の新たな方針説明では、208年度および2019年度を、成長に舵を切り、全社一丸となって高い目標に挑戦する「挑戦」のフェーズと位置づけた。また、2022年度までを、持続的成長とさらなる発展を確実なものにする「飛躍」のフェーズとし、2022年度には、売上高2兆3000億円、営業利益1850億円、営業利益率8.0%、ROE9.0%以上、フリーキャッシュフローで2500億円を目指すという新たな目標を発表した。

同社は2007年度に過去最高となる営業利益1815億円を達成しており、2022年度の計画はこれを上回ることになる。

これから2年間の「挑戦」というフェーズでは、「強みに立脚した事業展開」、「オープンな経営スタイル」、「メリハリのついた成長投資」の3点に取り組む。

なかでも「強みに立脚した事業展開」では、140万社、440万台に達する顧客基盤やデバイス資産を活用。同社が持つプリンティング技術やキャプチャリング技術などを活かして、3つの成長戦略を描く。

これまでの常識を超える「機能する印刷」

ひとつめが、「成長戦略0」だ。

複合機などのオフィスプリンティングを中心したビジネスにおいて、デジタルマニュファクチュアリングを推進。新たな取り組みとして、これまでのリコーが追求してきた自前主義を排除し、他社との協業を強化。そして、複合機をクラウド連携により「つながるMFP」へと進化させ、業務フロー変革のキーデバイスに位置づけていくという。

2つめの「成長戦略1」は、商用印刷や作業印刷などにおいて、プリンティング技術の可能性を追求することになる。

ここでユニークなのは、紙へのプリント以外に、フィルム、布、建材、食品などの紙以外にもプリントする「表示する印刷」、さらにはプリンティング技術によって新たな価値創造に取り組む「機能する印刷」に取り組む姿勢をみせたことだ。

とくに、「機能する印刷」は、これまでのプリンティングの常識を超えるものになる。

リコーが持つ高分子材料設計やインク処方設計などの「材料設計技術」や、微粒化や微粒子分散などの「粒子化技術」といった材料に関する技術とともに、レーザー書き込みや粉体制御、成膜などの「電子写真プロセス」、インク吐出、吐出位置制御、均一造粒、積層技術などの「インクジェットプロセス」といったプロセスに関する技術を活用。

3Dプリンターによる3D造形だけに留まらず、二次電池の製造や、細胞チップ、ヒト組織モデル、吸引薬といったバイオ、医療分野などの新たな領域へも応用する考えだ。

一例が、バイオプリンティングである。

リコーのプリンティング技術を生かして、DNA標準プレートや薬効・毒性評価用モデルを支援。DNA標準プレートでは、細胞吐出用ヘッド、細胞の光学センシング、三次元積層プロセスというリコーの強みを生かすことで、正しい場所に、正しい数量のDNAを、生きたまま、安定して吐出することができ、DNA分子数を制御した参照標準品を提供することが可能になる。遺伝子組み換え検査や感染症検査などに利用でき、食品の安全を高められるという。リコーに技術を生かした新たな領域への挑戦となる。

Watson活用で会議の効率化を進める

3つめの「成長戦略2」は、オフィスサービスや産業ブロダクツ、Smart Vision、デジタルビジネスといった領域において、リコーならではの付加価値を乗せて、オフィスと現場をつないだ提案をすることになるという。

ここでは、「RICOH Smart Integration」と呼ぶ、新たなオープンプラットフォームを活用。MFPやIWB(インタラクティブホワイトボード)、UCS(ユニファイドコミュニケーションシステム)、360度カメラのTHETA、ステレオカメラなど、オフィスと現場をつなぐエッジデバイスを活用するとともに、業種に絞り込んだ約100本のアプリケーションを今年中に用意する。

また、IWBとAIの連携も進める。IBMのWatsonを活用し、会議音声のテキスト化や会議履歴のタイムライン表示、議論内容の字幕表示やリアルタイム翻訳、自動での議事録作成などに対応するという。

3つの成長戦略の取り組みにより、リコーは事業構造を大きく変化する。

オフィスプリンティングの売り上げ構成をあえて下げる

成長戦略0となるオフィスプリンティングの売り上げ構成比は、2016年度実績で53%を占めていたが、2022年度には39%とする一方、2016年度には12%だった成長戦略1の構成比を20%に拡大。成長戦略2は2016年度の24%を、2022年度には31%に拡大する。それに向けて、成長戦略1および成長戦略2では、2019年度までにそれぞれ1000億円のM&A投資をする考えも示した。

実は、2022年度までの成長戦略を発表したのは、2018年2月6日。この日は、リコーにとって、82回目の創立記念の日だった。「このタイミングに、新たな方針を発表できることを光栄に思っている」と語る山下社長兼CEOは、節目の日であったことも影響してか、方針説明とは直接関係がない一枚のスライドを盛り込んだ。

それは、東京・銀座の銀座4丁目交差点にある三愛ドリームセンターの写真が入ったスライドだった。

「三愛ドリームセンターは、リコーグループ創業者である市村清によって建てられたもの。商品をお見せするのに、人が動くのではなく、商品が動くようにするという発想をもとに、全面ガラス張りの円筒形ビルとした。当時の常識を超えた建物であり、建築屋泣かせのものであったが、そこに挑戦した。挑戦するのはリコーのDNA。挑戦することで社員がイキイキする」と、このスライドを投影しながら説明した。

2018年と2019年の2年間を、「挑戦」と位置づけるリコーにとって、三愛ドリームセンターは、同社が取り組んだ「挑戦」の原点のひとつもいえるわけだ。

そうした意味を込めて、山下社長兼CEOは、このスライドを表示したのだろう。リコーの復活に向けた「挑戦」が始まる。

■関連サイト

■関連記事